中国でネット通販発のオンラインブランド企業が急成長している理由は?
中国経済・インフラの急速な成長に伴い、淘宝(Taobao)、京東(JD.com)、拼多多(PDD)、唯品会(VIP)などのECプラットフォームはハイスピードでの発展を実現し、ネット通販利用者を増やしています。ECが広く普及するなかで、ブランド立ち上げ時からECでの販売活動を重視し、ECを中心に市場での認知を高め、Webマーケティングや口コミ評価を利用して人気を集めているブランドが急増しています。
アパレル業界を代表するオンラインブランド「韓都衣舎(HSTYLE)」
2006年設立の韓都衣舎(HSTYLE)は当初、「Taobao」に登録したネットショップの一店舗に過ぎず、韓国婦人服の代理購入のサービスを提供していました。しかし、現在は中国で流行している韓国のデザインを参考に、生産面は他社企業と提携しながら自社ブランドを展開するDtoC企業。毎日100件以上の新着情報を更新し、「Tmall」アパレル部門のトップ企業の1社となりました。
2012年から2016年までの5年間は、中国EC市場の爆発的な成長期。それを支えたのは新社会人などの若者たちで、彼らはネットショッピングを愛し、EC市場のエヴァンジェリストとなりました。当時、韓国のドラマやアイドルグループが中国で大流行。「HSTYLE」は韓国のファストファッションに着目し、低価格を武器に多くの若者を取り込みました。
2014年から2015年まで、HSTYLEは韓国の全智賢(チョン・ジヒョン)、安宰賢(アン・ジェヒョン)、朴信恵(パク・シネ)、池昌旭(チ・チャンウク)などの芸能人と相次いでイメージキャラクターの契約を結び、国際的スターのイメージキャラクターが一番多いオンラインブランドとなりました。
人気スターがイメージキャラクターを担うことで、ブランドイメージを向上。「Tmall」」の膨大なトラフィック、ジュ・ファ・スァン(モール内販促広告の一種)などのキャンペーン活動を最大限に活用し、店舗の売上拡大を実現させました。
「HSTYLE」は「Tmall」の「ダブル11」(独身の日)イベントで、レディースアパレル部門の売上総額で2012年から2017年までの6年間連続でトップ5入り。2014年には、通年および「ダブル11」と「ダブル12」において売上総額で1位を獲得し、「三冠王」となりました。
2014年の「Tmall」内での年間売上高は15億人民元(1元-16円で換算すると約240億円)に達し、「Tmall」歴代の売上記録を更新。2016年7月には店舗のフォロワー数が1,000万人を超え、さらに2017年10月11日には店舗ファンコレクション数を1,500万人に増やし、再び「Tmall」の記録を更新しました。
小さなネット通販企業だった「HSTYLE」は現在、70以上のブランドを持つオンライン発の自社ブランドグループに成長し、レディースファッションに限らず、メンズファッションや子供服、アウトドアウェアと取扱カテゴリーを広げているのです。
オンラインブランドの「偉業」――スナック食品ブランド「Three Squirrels」
「HSTYLE」がネット発の自社ブランドの「先駆者」であれば、「Three Squirrels」は「偉業」を成し遂げたと言えるのではないでしょうか。
2012年に誕生した「Three Squirrels」は、中国初の食品ECの専業企業です。創業時はたったの5人。わずか6年間で、年間売上総額は70億人民元(1元16円で換算すると日本円では約1120億円)を超すスナック・ナッツ業界の人気オンラインブランドに成長しました。当然、優れた商品を販売しているという点が評価されていますが、「Three Squirrels」の成功には2つのポイントがあります。
1つは、明確なブランドIP(中国で最近流行している言葉で、インターネットプロトコルが由来。単一プラットフォームに縛られず、さまざまなルートから流入を得られるコンテンツのことで、ブランドIPはブランド自体が強力なコンテンツであることを意味します)。2つ目はターゲットのニーズをしっかりと把握し消費者の体験を重視した施策を実行していることです。
明確なブランドIPを構築
「Three Squirrels」。商品は自社で生産せず、工場に生産加工を外注、インターネットを通じて直接消費者に販売しているDtoC企業です。3匹の可愛いリスのブランドIPを構築し、独自のリス文化をお菓子産業チェーンで築きました。
消費者体験を重視
「Three Squirrels」は創業当初から、サービス理念を「消費者の体験を重視し、消費者の期待を超えるサービスを提供すること」としています。たとえば、消費者が食べやすいように、ナッツギフトボックスにウェットティッシュやゴミ袋、袋をとじるためのピンなども付けています。また、オンラインのカスタマーサービスでも可愛いリスをイメージするため、消費者を「主人」と呼んでいます。
「Three Squirrels」は2012年6月19日に「Tmall」店をプレオープン。65日目となる2012年8月には、「Tmall」のナッツ類部門の売上高第1位に躍り出ました。そして「ダブル11」の売上高は766万人民元を記録し、「Tmall」食品分野の販売ランキングでNO.1を獲得しました。
2013年の「ダブル11」では、売上総額は3562万人民元、その年のオンライン売上高は3億2,600万人民元を突破しました。「ダブル11」の1日の売上総額は、2014年に1億900万元、2015年は2億6600万元、2016年は5億800万元と驚異的なスピードで成長。2018年まで「Tmall」の「ダブル11」スナック・ナッツ人気ランキング首位を他社に譲っていません。
急成長した企業の秘訣まとめ
「HSTYLE」は若者心理を捉え、ターゲットとマッチする人気スターをブランドのイメージキャラクターに活用。注目度と話題を増やし、ブランドイメージを高めました。「Three Squirrels」はスナック好きな若者の心をつかみ、かわいいリスのキャラクターをブランドのイメージキャラクターにすることによって、消費者に受け入れやすい環境を整えました。
2社は明確なマーケティングポジショニング、ターゲットのニーズに応じた商品とサービスの提供を行ったことで、急成長を遂げたわけです。
成長しているブランドが実践しているマーケティング手法
流行のマーケティング施策① 「种草」
従来のメディアと比べ、SNSは情報伝達のハードルが低く、費用も安いのが特徴。成長しているブランドはSNSを活用し、プロモーションやマーケティング活動を実施しながら、販売につなげています。
昨今、中国で流行っているのが「种草」と「ライブ動画配信の通販サービス」です。
「种草」は若者を中心に使われているネット用語で、直訳すると「種まき」。「他の人に商品を紹介することで、その商品に対して他者の購買意欲を沸かせる行動」を意味しています。現在、Webマーケティングでは、「种草」を使った文章をSNS機能のあるECプラットフォームに投稿する施策が一般的になっています。
「种草」は主に3種類の文章形態に分けられます。
- 知識系:商品の機能とメリットを紹介し、商品情報を細かく提供することで、消費者の購買意欲を高める
- 体験系:実際に使用した体験を記入し、商品の使用効果を伝える
- 感想系:良くも悪くも個人的な感想を述べる投稿。ブロガーが自発的に投稿し、商品の機能、効果、使用体験は重点的に紹介しない
知識系の文章は、商品の良さをより伝えることができるが、広告だと疑われやすいのがデメリット。「种草」を実施する際、異なる時間に多様な文章を選んで発信することが効果的と考えられています
1億5000万人のユーザーを抱える「小紅書」(RED)は、ショッピング体験をシェアできるプラットフォーム。現在、90後(1990年以降に生まれた世代)と95後(1995年以降に生まれた世代)の若者たちに広く愛用されているこのプラットフォームでは、「种草」を使った投稿が頻繁に行われています。
流行のマーケティング施策②「ライブ動画配信」
「Tmall」がコンテンツマーケティング施策を推進したため、ここ数年で「ライブ動画配信」は多くのブランドが使うマーケティング手段の1つとなりました。「Tmall」「Taobao」もライブ動画配信機能を導入。「ライブ動画配信」は、慣れ親しんでいる「テレビショッピング」に似ており、加えて、時間や場所に左右されずに見ることができるので、「テレビショッピング」よりも人々の生活に密着しています。
言葉遣いの工夫、ユーモアな演出で、見る人も楽しくコンテンツを理解できるのが「ライブ動画配信」の大きな価値。「ライブ動画配信」にKOLを用いることで、商品の詳細な紹介、その人自身の影響力を活用し、多くの消費者の購買意欲を高め、売上向上につなげることができます。
トランスコスモスチャイナは2018年の「ダブル11」にKOLを招き、「ライブ動画生放送」を活用してAEON天猫国際旗艦店の商品を紹介しました。店舗の人気商品を1つ選び、尺は5~10分程度。ライブ配信中、商品のクリック数は3,056回、注文数は102オーダーに達しました。わずか10分間の商品紹介で、KOL個人の影響力から102件のオーダーを獲得。高い効果を得ることができました。
オンラインブランドのボトルネックを乗り越える
成功しているオンラインブランドは、消費者との接点を広げて増やし、ニーズを把握。その上で、求められているサービス・商品を把握し提供しています。
そして、サービスや商品だけでなく、ブランド自体の個性を際立たせ、ブランドのファン・ポジションを確立。Webマーケティングの利点であるデータの分析、PDCAの高速回転で安定した成長を実現しています。
もちろん、オンラインブランドの発展は順風満帆ばかりではありません。商品開発・設計を自社で行い製品をOEM生産している一部のオンラインブランドは、高いイノベーションとサプライチェーンの管理能力が強く求められるため、小さなミスから、商品問題による企業危機を引き起こす恐れもあります。
また、EC市場がブルーオーシャンからレッドオーシャンに変わっている中で、オンラインブランドも競争が激化する事は容易に想像できます。またここ数年はオンラインとオフラインの融合も増えてきています。オンラインブランドはオンラインだけでいいのか?多くのブランドで議論が続いています。
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