アリババの「AI+ロボット」はEC業務をどう変える?[人工知能活用が進む中国ECの今]
中国のEC業界では今、プロモーションやバックオフィスなどの業務で、人工知能(AI)の活用が進んでいます。1日で約2.8兆円もの流通額を記録したAlibaba(アリババ)グループの2017年「ダブル11」では、爆発的な注文に対し、AIなどが対応して業務の効率化やコスト増を抑制する取り組みも始まっています。中国内でEC業務をサポートしているトランスコスモスチャイナの事例などを踏まえ、中国EC業界におけるAI活用の今をお伝えします。
Alibaba店で始まったAI活用の受注と問い合わせ対応、粗利率向上にも貢献
アリババは2015年7月、ECサービス、ショッピングガイド、タスクアシスタントなどを備えたAIパーソナルアシスタント「Ali Xiaomi」を独自開発し、サービスをリリース。2016年7月には、ECサイト運営企業向けのAIロボット「店小蜜(デンシャオミー)」プロジェクトを立ち上げました。
「デンシャオミー」を利用するECサイトでは、人間のオペレーターが退勤した後、「デンシャオミー」が顧客の注文や問い合わせ、チャットなどに自動で対応します。夜間におけるECサイト内での滞留時間の増加、サイト離脱の抑制といった効果をあげ、商品の購買を促進しています。
また、「デンシャオミー」はチャット対応する人間のオペレーターが忙しいときは、率先して顧客対応を行うのです。「デンシャオミー」によって、ECサイトで利用されているチャットツール「阿里旺旺(アリワンワン)」を通じた返答の待ち時間を大幅に短縮。シームレスな顧客対応を行い、100%の返答率を実現しています。
「デンシャオミー」は2017年3月29日に正式リリース。4月15日には、「淘宝網(Taobao)」と「Tmall(天猫)」に出店するすべての販売店(出店企業)向けに無料提供されました。こうした状況を受け、20以上のブランドの「Tmall」出店・店舗運営を支援していたトランスコスモスチャイナにとって、「デンシャオミー」の研究は喫緊の課題となったのです。
2017年4月初旬、トランスコスモスチャイナは「デンシャオミー」に関するプロジェクトチームを発足。アリババの「デンシャオミー」開発部門、運営部門と積極的にコミュニケーションを取り、関連知識を半年間かけて学習。試験運用、データ分析、テストの繰り返しを経て、8人の「デンシャオミー」トレーニングエンジニアを育てました。
プロジェクトチーム発足後の約半年後、2017年の「ダブル11」を迎えることになりました。そして、「デンシャオミー」の活用で早速、効果をあげることに成功したのです。ご存知の通り、アリババの「ダブル11」(2017年)の取引高は1682億元で、過去最高の記録を更新。たった11秒でTmallにおける取引額は1億元を突破し、28秒で10億元、3分01秒で100億元を超える盛況ぶりでした。
「ダブル11」当日の問い合わせ件数は通常日比で10~20倍に膨れあがったものの、ほとんどの取引を最初の1~2時間以内に完了することができました。大幅な受注増加だったのです、通常日のように取引を処理できたのです。なお、取引内容は、商品に関する問い合わせ、決済など各種問い合わせ、受注、決済などが含まれます。
通常、「ダブル11」開催の6か月前に大量のオペレーターを用意しなければ、当日の大幅な取引増に対応できません。当時、消費者からの質問に答え商品販売を促進するカスタマーサービス担当者(プリセールス担当者)は、カスタマーサービス担当全体の約70%を占めていました。2017年、トランスコスモスチャイナのECプロジェクトに携わったクライアントの7割は「デンシャオミー」技術を利用し、「デンシャオミー」の導入によって、カスタマーサービス担当全体の約50%にとどまる割合のプリセールス担当者で対応することができました。
なお、取引に対応するオペレーターの人数は2016年比で40%以上減に成功しながら、寄せられた問い合わせに対しては95%の確率で解決できました。回答へのクオリティ向上はもちろん、オペレーターの募集時間、募集コスト、トレーニング時間、トレーニングコスト、人件費といった節約にもつながり、2016年比で7%以上も売上総利益率が増加しました。
AIが新たな仕事を創出、キャリアアップの道も
トランスコスモスチャイナは2018年、「デンシャオミー」のサービス向上を目的に、アリババとの提携を強化しました。より多くの「店小蜜(デンシャオミー)」トレーニングエンジニアを育成し、従業員により多くの学習と変革のチャンスを提供するためです。
社内事例をご紹介しましょう。オペレーターの管理担当者として2016年に入社した「Aさん」は、2017年の「デンシャオミー」導入をきっかけに、キャリアアップの転機を迎えました。カスタマーサービスに関する知識を備え、勤勉な「Aさん」はすぐに「デンシャオミー」トレーニングエンジニアのリーダーになりました。このような昇格の機会ができたのも、「デンシャオミー」の導入があってこそなのです。
現在、「Aさん」による指導の下、「デンシャオミー」を使った顧客対応における問題解決率、サービス効率が大幅に向上しました。
中国における人工知能の今
米カリフォルニア大学バークレー校の電気工学およびコンピュータサイエンス学部の教授で、人工知能研究家のスチュアート・ラッセル氏は、「2018年中国(上海)第6回国際技術輸出入交易会(CHINA <SHANGHAI>INTERNATIONAL TECHNOLOGY FAIR)」でのスピーチで次のように強調しました。
人工知能の活用とは、ロボットを正しく行動させ、その価値を最適化することだ。データと知識は公的資源でなければならない。これは全人類の基本的権益であり、人間の知能を上回るAIはまだまだ実現していない。
2018年の「中国(上海)国際技術輸出入交易会」では、人工知能とAIロボットの専属ブースが設置されました。音声対話、スマート医療、自動運転、AIサービスロボットなどを活用した多様なシーンは、国内外の多くの事業者の関心を集めました。想像以上のスピードでAIが私たちの生活に浸透していくことが実感できたのです。
中国の3大インターネット企業BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)、国外のGoogle、IBM、Microsoft、Facebook、Amazonなどの大手企業はAIロボットの開発に巨額の研究費を投じ、先行者利益を獲得しようとしています。
Baiduが独自開発したAIロボット「小度(Xiaodu)」を例に説明しましょう。「小度(Xiaodu)」はBaiduの自然言語処理部門で誕生し、2014年9月16日に江蘇衛視のテレビ番組「芝麻開門(Raid the cage)」でデビューしました。Baiduの強力な人工知能に関する技術をベースに、自然言語処理、対話システム、音声ビジュアル技術を搭載。ユーザーとの円滑なコミュニケーションを提供しています。
3年以上の期間を経て、2018年2月8日にCCTV(中国の国営放送のテレビ局)主催の催し「Chinese Spring Festival Gala Online」に登場し、司会者と「飛花令」(中国の詩歌にちなむゲーム。負けた者は罰として酒を飲まなければならない)を楽しみ、Baiduの強力な人工知能技術を披露。そして、中国の伝統文化もPRしたのです。
「小度(Xiaodu)」は、ヒアリング、会話、移動が可能です。技術の発展に伴い応用できる分野やシーンは拡大し、車の中、家の中、公共場所で、さまざまな情報を検索することもできるようになりました。
一方、インテリジェントハードウェア(情報収集・処理と接続機能を有し、インテリセンス、インタラクティブ、ビックデータサービスなどの機能を備えたインターネットの端末デバイス製品)の機能性およびビジネス運用能力も大幅に向上しました。その活用例が顔認識技術です。
広州で開催された2017年フォーチュン・グローバル・フォーラムにおいて、Tencentの取締役会長兼CEO馬化騰(Ma Huateng)氏は「私たちの顔認識技術は、データ解析に基づいて、人が老いた時の様子、たとえば5年後、10年後の様子を推測できますので、行方不明になった子供を探すことにも大変役立ちました」という事例を発表しています。
顔認識は、簡単に言うと、アルゴリズムにより顔の構造情報を取得し、識別された対象者の年齢、肌色、性別、表情等の特徴を判断すること。顔認識技術は主に1
1の顔マッチングと、1 Nの顔検索に用いられています。中国で広まっているニューリテールは、小売業界自身の「産業革命」であり、小売業全体に大きな影響を与えると考えられます。人工知能は従業員の効率を大幅に高め、新しい雇用機会をもたらすと同時に、消費者によりよい体験を提供し、企業に大きな競争力をもたらします。
現在、トランスコスモスチャイナは「618」イベントの準備に取り組んでおり、「ダブル11」、「ダブル12」など大規模なECイベントにおいて、人工知能が業績向上に貢献してくれると期待しています。
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