ベルーナ安野社長が語る事業再編&成長戦略。売上高2900億円をめざす「専門通販のグロース」「紙とECの融合」とは?
ベルーナでは、不動産やホテルの「プロパティ・ホテル事業」と、化粧品・健康食品事業やグルメ事業、ナース関連事業などの「専門通販事業」に関して、収益性拡大をめざす「グロース領域」に分類。一方で、主力の「アパレル・雑貨事業」のほか、「呉服関連事業」などは、収益性の効率化を第一とした「サステナブル領域」とした。カタログやチラシなど、紙を使った通販の社内における位置づけが大きく変わるわけだ。再編の狙いはどこにあるのか。
ホテルと通販事業で利益追求
「『社会価値』寄りの事業を『サステナブル領域』とし、『経済価値』に寄った事業を『グロース領域』と区分けることにした」。6月7日の決算説明会で、同社の安野雄一朗取締役専務執行役員はこう宣言した。
カタログやチラシなど、紙を使った通販事業については「売り上げ規模は国内ではトップだが、高齢化・過疎化を支える消費インフラといえる」(安野取締役)。そのため、継続性と収益効率の最大化を主眼に、安定した収益を上げられる事業としていく方針だ。
一方で、プロパティ・ホテル事業と専門通販事業という、営業利益率の高い2事業については、規模拡大とともに利益を追求していく。
アパレル・雑貨は前期比29億円の減益
アパレル・雑貨事業の2024年3月期業績は、売上高が前期比15.9%減の742億5100万円、セグメント損益は29億9200万円の赤字と不振だった。安野清社長は「用紙代と印刷費の上昇、さらには急激な円安による仕入れ価格上昇の影響を受けた。一方で最終価格への転嫁は難度が高い。結局のところ、値上げを我慢したアパレル小売り企業が勝っているわけで、そういう意味では、構造的に収益が上がらない事業になってしまっている」と渋面を作る。
今後は売上よりも利益重視にシフト
不調の理由は、商品値上げに伴うレスポンス率の低下だ。カタログ発行部数も前年から約20%減らしている。「当社だけではなく、紙媒体を中心とした通販企業はどこも厳しい。『それならネット通販に注力すればいい』という声もあるが、ネット専業は余分な人員を抱えずにローコストオペレーションを行っている。歴史のある総合通販企業はそういうわけにはいかない。紙の延長線上で商売をしたら失敗する」(安野社長)
今後は売り上げ拡大ではなく、利益を重視した施策を展開する。印刷用紙や印刷費の高騰、急激な円安に対応した取り組みを進めているほか、マーケティング面では顧客リストの収集・活用・掘り起こしなどを見直しており、結果が出はじめているという。
紙とネットの相乗効果を持ち味に成長めざす
ただ、用紙代は今後も値上がりを続ける可能性は高く、そうなれば「紙を使ったビジネス」自体が成り立たなくなる恐れもある。安野社長は「紙とネットの融合に可能性を見出したい。紙とネットの間にどれだけシナジー効果を生み出すか、これを模索するしか道はないだろう」と話す。
具体的には、どういった形を想定しているのか。「ネット通販のみで勝ち抜くのは難しいが、『カタログを見てネットで注文する』といった、紙とネットで相乗効果を生み出すようなビジネスモデルがベルーナの持ち味でもある」(安野社長)
かつて安野社長は「総合通販各社がカタログ通販を縮小するなかで、残存者利益を取りに行きたい」と公言していた。「振り返ってみると、(取れる余地は)ほとんど無かった」と苦笑いする安野社長だが、「それでも中高年層を中心にカタログファンがいるのは確かだし、社会的な意義も踏まえて期待に応えていきたい。そのためにも黒字にしなければいけない」と気を引き締める。
専門通販は成長事業として加速
同社が展開するさまざまな通販のなかでも、成長事業と位置づけられたのが、化粧品や健康食品、グルメといった「専門通販事業」だ。
化粧品事業に関しては、海外市場の開拓を推進。現在は台湾・香港・シンガポール・マレーシアで展開しているが、中国・ベトナム・タイへ進出することで売り上げを拡大する。国内については卸販売を拡充する。
成長が続いてきたグルメ通販については、前期売上高は微増にとどまった。安野社長は「競合と比較してLTVが弱いが、逆に言えば伸びしろでもある。ブランディングとCRMの両輪を強化することで成長を実現したい」とプランを明かす。
製造小売業の強化を継続
もう一つは製造小売業の強化だ。同社は昨年6月、谷櫻酒造(山梨県北杜市)の全株式を取得し子会社化した。「酒蔵は非常に面白いが、大々的に展開するには製造能力の問題もある。今後は海外への輸出も考慮し、もう1社くらい買収してもいいかもしれない」(安野社長)。さらには、減塩など昨今の健康志向に合致した総菜のラインアップを拡充、ニーズを取り込むことで再び成長軌道に乗せる。
ワイン通販は、急激な円安の影響を受けているものの、今後は高級ワインのラインアップを強化。現在、高級ワインの売上高は3億円程度だが、これを10億円まで増やす狙いだ。
早期に黒字が出る体制作りが急務
コロナ禍以降のインバウンド需要を取り込み急拡大しているホテル事業と、専門通販の両輪で、前期営業利益97億円を、将来的に200~300億円規模まで増やすというベルーナ。安野社長は「外部環境に左右される部分はあるが、ベストは売上高2900億円、営業利益300億円。普通のシナリオでは売上高2500億円、営業利益200億円というイメージだ」と目標を語る。ただ、そのためにもまずは「紙とネットの融合」モデルを確立し、早期に黒字が出る体制へと変えていく必要がある。
もう一つ、成長領域と位置づける専門通販についても、2025年3月期第1四半期の売上高は、前期比4.8%減になるなど、まだ成長軌道には乗っていないのが実情。
化粧品通販のオージオ、健康食品通販のリフレについては、両社合算で200億円(前期は147億円)という目標を立てているものの、4~6月は2桁減収だった。特に、リフレはここ数年減収が続いていることもあり、テコ入れが必要になりそうだ。
安野社長が語る前期振り返り&成長戦略
通販事業、値上げはしたいが我慢
――前期を振り返って。
アパレル・雑貨事業における総合通販事業については、コロナ禍が終わったことで、消費者の通販での購入ハードルが高くなった上に、用紙代・印刷費の値上がり、急激な円安による仕入れ価格の上昇という逆風があった。
一方で、商品価格への転嫁は顧客の抵抗があるので、難度が高い。結局のところ値上げを我慢したアパレル小売りが勝っている。値上げを我慢する商品と、値上げをする商品の比率が問題なわけで、恐らく我慢すべき商品が6~7割、値上げする商品が2~3割が正解ではないか。ただ、こうなると構造的に赤字体質となってしまう。
原価が上がっているので、本当は全商品値上げしなければいけないが、ある程度は我慢しなければいけない。他社が1000円で売っているものを1100円で売ったら買ってくれない。結局のところ、消費者の所得が増えていないのが全てだろう。
値上げをしたいのはやまやまだが、値上げするとレスポンスが落ちてしまう。また、結局のところ売れるのも値上げを我慢した商品だ。とにかく、できるだけ我慢して値上げをすべきではないというのが教訓だ。
ホテル事業は好調
――ホテルを中心としたプロパティ事業は好調だった。
ホテル関係はインバウンドの関係で、東京・京都・北海道が非常に好調だった。ホテル関係は、総合通販と違って値上げできる点が大きい。他の事業については、おおむね横ばいなので、不調の総合通販と好調のホテル事業ということになる。
通販はカタログ発行部数2割減。「非常に厳しい状況」
――紙を中心とした通販事業は思った以上に悪かったということか。
総合通販だけでも 29億円ほどの赤字となったわけだが、結局レスポンスが悪化したことが全てだろう。通販は広告宣伝費がコントロールできればもうかるし、できなければ赤字が出る。カタログの発行部数が2割減なので、どうしても効率が悪化してしまうわけで、非常に厳しい状況だ。稼働顧客数が減っているのと同時に、用紙代・印刷費の上昇で思うようにカタログが出せなくなっている。
――用紙代の値上がりでネット通販の比重は高まっているのか。
「紙が値上がりするならネット通販に注力すればいい」という声が出てくるわけだが、ネット専業は余分な人員を抱えずにローコストオペレーションを行っている。
しかし、カタログを作っているような通販企業は、どうしても人員が必要になってくる。紙の延長線上で商売をしたら失敗するというのは、競合他社の例をみればわかる。ネット通販で成功するなら、ゼロからスタートし、少数精鋭で熱量をもって取り組まなければいけないのではないか、ということに2年ほど前に気づいた。
――紙に関しては輸入紙を使うという手もあるが。
1ドル110円くらいなら考えるが、150円では難しい。
――紙や印刷代は今後も値上がりする可能性は高いが、そうなると紙を使ったビジネス自体をどうするか、という話も出てくるのでは。
紙とネットの融合でシナジー効果を生み出せるかどうか。この道を模索するしかない。20年先にどうなるかは分からないが、確立きればしばらくは大丈夫だろう。ただ、ECはプラットフォーマーこそ儲かっているが、出店者はなかなか難しい。3分の1はもうけが出ていても、3分の1はカツカツで、残り3分の1は赤字という印象。
――製品の原価もかなり上がっている。
為替の関係で非常に厳しい。たとえばワインはユーロ高が響いている。以前は1ユーロ130円くらいだったが、今は160円。ただ、それでも値上げすると競合に流れてしまうので上げることができない。つまり、皆がもうからない構造になっているわけで、為替予約で取引をするしかない。前期はワインだけで為替差益が7億円ほど出ている。
顧客リストの活用で通販ビジネスを再構築
――総合通販では、顧客リストの再構築を図っているとのことだが。
通販会社はリストの収集・活用・掘り起こしの循環で売り上げと利益を作れるかどうかが大事だが、そこのバランスが崩れているわけだ。今の時代に合わせる形で、商品・カタログのビジュアル・コピーも含めて再構築していかなければいけない。
ただ、紙の通販ビジネスはプレイヤーが減り、供給が減っている割には当社のレスポンス率は上がっていない。もう少し、時代に合う形で再構築することで「サンセット」から「サンライズ」へと持っていきたい。
――紙を中心としたビジネスの売り上げ規模はどの程度を見込んでいるのか。
とにかく、無理をしないことが大事。キャッシュフローを意識して無理やり売り上げを作るようになったらおしまいで、当社のように損益を意識しているうちは健全経営ができる。前期のアパレル・雑貨事業売上高は約740億円だが、近い将来のイメージとしては600~700億円程度で、全社売上高の構成比としては3割くらいになるのではないか。
ただ、このくらいの規模を保たないと、通販のシステムを支えることができない。リストの収集・活用・掘り起こしを再構築することで、あわよくば売り上げを伸ばしていきたい。
ネットとの融合、一部テスト販売ではレスポンス率アップ
――MDやカタログの見せ方などはどう変えていくのか。
商品力・ビジュアル・コピーを含めて、どう表現するか、どうやってネットを絡ませていくか。テスト販売では一部レスポンス率が上がっている取り組みもあるので、成功事例を増やしていきたい。
EC売上高は8%減の146億円
――総合通販事業のEC売上高に関しては。
前期比8%減の146億円だった。値上げの影響は非常に大きい。ただ、そこは当初から織り込み済みなので、ブランディングやパーソナライズ強化を図った。
ブランディングについては、各ブランドの「らしさ」を強調するサイトの作りを意識した。パーソナライズについては、顧客の属性に応じて打ち出すブランドや商品を変えるようにしたり、メールマガジンもシナリオ配信を活用した。今期は、前期取り組んだブランディング強化を土台に、単品訴求を強めている。
具体的には、各ブランドにおける戦略商品、つまり「特S商品」を全面に打ち出す形として、ブランドの差別化と商品力の掛け算が功を奏し、足元ではEC売り上げがプラスで推移している。
――ブランドの「らしさ」とは。
どういう顧客にどういった価値提供をしていくか、つまりターゲットを明確にして、ビジュアルやコピーとして打ち出していくようにした。また、これまで掲載する商品情報も少なかったが、拡充している。
――ブランディングやパーソナライズの成果は。
足元では、単品訴求と相まって売り上げも前年同期比10%増で推移している。特S商品については、ネットだけではなく、カタログと店舗、マス媒体でも全面的に打ち出し、販促を集中させている。在庫もしっかりと積んで、売り切れがないようにしている。
――「吉見ロジスティクスセンター」を増築した成果も出ている。
特定の商品がたくさん売れると、自動的に商品を補充する仕組みが効果を発揮するので、省力化が進んだのは非常に大きい。
SNS活用は勝ちパターンを模索中
――インフルエンサーやSNSの活用を進めている。
成果が出るまでは至っていないのが現状だ。チャレンジは続けていくつもりなので、テストを続けながら勝ちパターンを作りたい。
――考えられる勝ちパターンは。
「LINE」の有効活用はできているのだが、インフルエンサーマーケティングについては試行錯誤している段階だ。
――ネット広告の出稿に関しては。
レスポンス向上を優先しながら出稿している。アフィリエイトはほぼやっておらず、ソーシャル広告と検索広告が中心。ただ、検索広告の単価も年々上昇しているので、それ以外から顧客を取るべくチャレンジしている。
今期については、アプリを武器にできないかと考えている。プッシュ通知などを活用し、自然に顧客が通販サイトに来訪する導線が作れれば、広告を使わず売り上げにつなげることができる。
――まずアプリをインストールしてもらう必要があるが、導線は。
ソーシャル広告やアパレル店舗から誘導している。
――リュリュモールは流通額が前期比17%減だった。今後のサービス継続については。
新規の獲得が依然として苦戦している。「オフィスカジュアル」という方向性はぶらさず、なんとか採算を合わせていきたい。
――紙とECの融合に関して、もう少し具体的に。
ネット通販のみで勝ち抜くのは難しい。紙とネットは異質なものだと考えているが、「カタログを見てネットで注文する」といった、紙とネットで相乗効果を生み出すようなビジネスモデルが当社の持ち味でもある。
当社の顧客は比較的年齢層が高いこともあり、力を発揮できるのではないか。また、カタログファンのニーズにも応えていきたい。
――かつて安野社長は「総合通販各社がカタログ通販を縮小するなかで、残存者利益を取りに行きたい」と公言していた。
実際にはほとんど無かった。ただ、少しはあると思うので、頑張りたい。そのためにも利益を出さないといけない。今期も茨の道だが、来期にはなんとか黒字にしたい。
専門通販は店舗販売を強化。化粧品は3億円目標
――専門通販事業については収益性拡大をめざす「グロース領域」と位置づけた。
ガンガン攻めて売り上げを伸ばしていきたい。化粧品に関しては、ベトナムなど東南アジア市場は面白いと思っている。海外売り上げは店舗への卸が40%程度だが、日本国内においても店舗販売を強化していきたい。ドラッグストアやドン・キホーテへの卸など、今期の国内における化粧品の店舗販売は3億円程度をめざす。
――化粧品通販のオージオでは、以前タレントを使った販促を展開していたが、今後行う予定はあるのか。
今のところやるつもりはない。結局販促はコストに見合う成果が出るかどうかということが重要だ。
健食通販は200億円めざす
――健康食品通販のリフレは苦戦が続いている。
今は「サンセット」だが復活させたい。化粧品・健康食品合算で前期は147億円売っているので、これを200億円にするのが目標だ。
――小林製薬の「紅麹サプリ」問題の影響は。
一定数キャンセルが出たので、影響は出ている。
グルメは健康志向のラインアップを拡充
――このところ成長が続いていたグルメ事業に関しては、前期売上高は微増にとどまった。
競合と比較するとLTVが低いのが弱点だが、逆に言えば伸びしろでもある。ブランディングとCRMの両輪を強化することで成長を実現したい。また、昨年6月に谷櫻酒造を子会社化しているが、製造小売業を強化していきたい。
さらに、減塩など昨今の健康志向に合致した総菜のラインアップを拡充する。前期のグルメ事業の売上高は324億円だが、売上高500億円をめざして「暴走運転」していきたい。
――LTVが低いのはなぜか。
やはりブランディングの問題だろう。知名度を上げるためにインフォマーシャルを強化していきたい。また、昨年システムを刷新したので、ポイント付与などCRM強化の効果も出てくるだろう。
――買収した酒蔵は順調なのか。
酒蔵は非常に面白いが、大々的に展開するには製造能力の問題もある。今後は海外への輸出も考慮し、もう1社くらい買収してもいいかもしれない。
――その他、今後のM&A戦略については。
1つはロマンを感じられるかどうか、もう1つは既存事業とのシナジー効果。いかに収益増に貢献できるかということになるだろう。
めざす業績目標は売上高2900億円
――今後の業績目標については。
外部環境に左右される部分はあるが、ベストは売上高2900億円、営業利益300億円。普通のシナリオでは売上高2500億円、営業利益200億円というイメージだ。プロパティ事業と専門通販事業、さらにはソリューション事業と呉服関連事業で利益を稼ぎたい。
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