コスト60%削減、キャンセル落ち顧客の再注文率70%超に成功したTシャツECの取り組みとは?ネッ担アワード2024「フロンティア賞<BtoC部門>」の後藤代表に直撃
ネットショップ担当者フォーラムが2024年秋に開催した「第2回ネットショップ担当者アワード」で「フロンティア賞<BtoC部門>」を受賞したTshirt.stの後藤鉄兵氏は、キャンセルしたユーザーへ再購入を促す「キャンセルリカバリー」の実践、バックヤードのシステム化による改善などで、コストの60%削減、“キャンセル落ち”したユーザーの7割以上が再購入するなど、独自の取り組みで成果をあげている。そんな後藤氏にアワードの選考委員を務めた大西理氏が、受賞を振り返るインタビューを実施した。

株式会社リターンズ 代表取締役
2024年ネットショップ担当者アワード「フロンティア賞<BtoC部門>」受賞
後藤鉄兵氏

「ネットショップ担当者アワード」選考委員
大西 理 氏
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「フロンティア賞<BtoC部門>」受賞を振り返って
大西理氏(以下、大西氏):後藤さんは運営するTシャツ専門のECサイト「Tshirt.st」において独自の取り組みに挑戦し、実績をあげている。ユーザーに対する再購入を促す新たなマーケティング「キャンセルリカバリー」の実践、バックヤードのシステム化による改善が「フロンティア賞<BtoC部門>」の受賞のポイントになった。改めて受賞の感想を聞きたい。
後藤鉄兵氏(以下、後藤氏):あまりメディアで取り上げられたことはなかったので、率直に嬉しい。ECのジャンルでも、個人の取り組みにフォーカスし表彰するアワードがあったのか、という驚きもある。

大西氏:受賞の影響はどうだったか。
後藤氏:社外では大きな影響があった。社外のイベントに「講師として登壇してほしい」という相談が増え、昔から知り合いの事業者からも連絡が来るように。大手ECサイト構築サービスが主催するイベントにも招かれた。2025年11月の受賞後、数か月でEC関係の知り合いが急増した。アパレルEC界隈の集まりに誘われると、良い情報交換の場になるので自分にとってプラスになっている。
大西氏:後藤さんはTshirt.stの代表取締役であると同時に、EC事業者向けに商品購入後の買い物体験向上を支援するサービス「リターンズ」を提供するリターンズの代表取締役も務めている。
後藤氏:リターンズでは、Tshirt.stで培った自社のノウハウを外販している。EC事業者の運営にも役立ちたいという思いだ。自動キャンセル対応などによる、ECサイトでキャンセルしたユーザーを再購入につなげるためのサービスを提供している。

バックヤード改善のコツ
大西氏:EC事業者にとってバックヤードの改善は大きな意義だ。改善の一歩目として、どのように着手すべきか教えて欲しい。
後藤氏:バックヤードの改善は、いきなり大きな成果を求めず段階的に進めるのが重要だ。基幹システムを丸ごと変えるというのはリスクもコストも大きいからだ。「リターンズ」事業でも、小さな成果を積み重ねて長期的に大きな効果を得ることをめざしている。
約7割が再購入するTshirt.stの舞台裏
大西氏:バックヤードの改善の結果、Tshirt.stでは注文キャンセルした顧客の約7割が再購入している。
後藤氏:これが小さな成果に目を向けた結果だ。以前、約500社の事業者を調査したところ、平均で5%近くの注文がキャンセルになっていた。これは1000件の注文のうち50件ということ。EC事業者には、この穴をふさぐ――つまり「キャンセル落ち」をリカバリーするほうが、売り上げを純増させるより簡単だと提唱したい。
多くのECサイトでは、適切なキャンセルと返品の対応ができていないと感じる。顧客にとっては、問い合わせフォームからの連絡しかキャンセルの手段がなく、そのうちに発送、到着してしまう。
このとき、顧客が返品手続きに進んだとする。事業者にとって、返品にかかる運賃は見過ごせるものではない。その運賃をユーザーとECのどちらが負担するかという交渉は、非常に疲弊する。このように、キャンセルが迅速にできないために不要なコストがかかる。
大西氏:その通りだ。キャンセルや返品の窓口をはっきりさせることで、ECの使いやすさを向上させ、不要な返品を抑止する効果も期待できる。
後藤氏:ECの運営に当たっては、まずそういった部分にメスを入れるべきだと声を上げていきたい。売り上げを伸ばすことが容易ではない今の時代の流れからも、こうした小さな積み上げによる改善は重要だ。
個人にフォーカスする「ネッ担アワード」の意義
大西氏:後藤さんはEC業界をプレーヤーとベンダー両方の立場で見ることができる、貴重なロールモデルの一人だ。「ネッ担アワード」はEC業界で活躍する人材に光を当て、業界を盛り上げることを目的に開催している。受賞者としてアワードをどのようにとらえているか。
後藤氏:人にフォーカスするのが素晴らしい。人に焦点を当てることで、大手企業だけでなく、中小規模の企業に勤めるEC担当者も公平に評価できる。現場の人間が評価されてモチベーション向上につながる――そんなアワードであり続けてほしい。

大西氏:EC事業者とベンダー、両方の役目を果たしたり、どちらも経験したことがあるというECパーソンは今後増えるはずだ。最後に、後進に向けてのアドバイスをお願いしたい。
後藤氏:うまくいっていることを再活用してほしい。たとえば私たちのように、「自社でうまくできているノウハウやアイデアを外販する」といった事例が業界全体にもっと広がっていったら嬉しい。新たな切り口の売り上げになるし、業界全体のボトムアップにもつながる。
きっとこれを読んでいる事業者の方の周囲にも、眠っている知見がたくさんあるはず。ぜひそれらを共有して業績を上げていってほしい。
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