「ZOZOTOWN」の今――“ZOZO離れ”報道では見えない課題や強みを通販専門紙が解説
ゾゾは、プライベートブランド(PB)「ゾゾ」のつまずきなどを理由に2019年3月期は初の減益を見込むなど苦戦している。一方で基幹のゾゾタウン事業は、採寸用スーツの方針転換による波及効果の期待薄を除けば好調を維持している。PB展開に隠れて若干見えづらかったゾゾタウン事業の現状と、一部のブランドから三行半を突き付けられる原因となった有料会員サービス「ゾゾアリガトーメンバーシップ」の方向性を探ることで、改めてゾゾの強みや課題が見えてきそうだ。
若年層開拓し売場が活性化
ゾゾタウン事業の商品取扱高は、直近3年間を見ると2016年3月期が1461億円(前年比31.2%増)、17年3月期が2050億円(同40.3%増)、18年3月期が2629億円(同28.3%増)で、3カ年平均の成長率は約33%と大きく伸ばしてきた。
この間、同社では幅広いジャンルの新規ショップを誘致したことや、対象ブランドの商品が数千円引きで買えるブランドクーポンの実施、16年11月に始めた最大2カ月後の支払いが可能な「ツケ払い」サービスなどが事業拡大に貢献。また、古着を扱うゾゾユーズドの成長も取扱高の底上げに一役買った。
今期もゾゾタウン事業の取扱高は25.5%増の3300億円を目標とし、新規ショップ増やブランドクーポンの効率運用、新たに始めたセールイベントや有料会員サービス「ゾゾアリガトーメンバーシップ」による押し上げ効果を見込む。
新規ショップについては、年間150ショップの誘致を計画していたが、第3四半期までに約170ショップが新たに出店。通期ではショップ数が1300程度まで伸びそうな勢いだ。
同社ではユーザーニーズに合わせて新規ショップの誘致を進めているが、とくに「ツケ払い」サービスの導入で若年層の開拓に成功。アクティブ会員の平均年齢は33.2歳だが、年齢分布では20歳前後の層がピークとなり、これまで同社の成長をけん引してきた大手セレクトショップなどを好む年代だけでなく、若年層が「ゾゾタウン」の活性化に寄与している。
当該層は実店舗で商品を見なくてもネットで上手に買い物を楽しむユーザーが多く、こうした動きに合わせて品ぞろえも変化。「楽天市場」などの総合ECモールを主戦場にしてきたEC発の低価格ブランドが増え、平均商品単価は下落傾向が続いてきた。
ただ、顧客年齢層が偏りがちなファッションECモールにおいて、「ゾゾタウン」は何年も前からサイトを利用する30~40代を中心とした優良顧客に加え、EC発ブランドが目当ての若い層が新規流入。年代に合わせた買い物ができる売り場として機能している。
今後も幅広い層に向けた全方位的な品ぞろえを目指すのに加え、靴やバッグ、アクセサリー、インテリア、コスメといった専門カテゴリーの営業チームも立ち上げており、ファッションと親和性の高い領域をカバーするECモールとして存在感を高めたい意向だ。
セールイベントを春と夏に実施
同社は出店ブランドが打てるプロモーションなどの手数を増やしている。これまで取扱高拡大に貢献してきたブランドクーポンも昨年から出し方を変更。従来は1日に1種類のクーポンだけで、利用できるのも1回だけだったが、1日に発行するクーポンの種類を増やし、割引額の異なるクーポンであれば1日に複数枚使えるようにした。
エントリーするブランドにとってもスケジュールや回数の縛りがなくなり、正価品の初速やセール品の消化率向上など、販売戦略に合わせて活用できるようになった。
また、今期は新しいセールイベント「ゾゾウィーク」を開催し、取扱高を押し上げている。これまでは、アパレル店頭のセール期に合わせて冬と夏に大型セールを実施してきたが、グローバルでは中国の独身の日や米国のブラックフライデーなどが一大商戦となっていることもあり、ファッションの実売期に当たる5月と11月にセールイベントを実施した。
「ゾゾウィーク」はツイッターによるキャンペーンや1時間ごとに目玉商品を投入する企画も行うなどイベント色を出したほか、事前にティザーを上げて新規ユーザーの取り込みを図ったことで、新たな売り上げの山が作れたという。
一方、昨年秋には広告事業をスタートした。広告メニューのひとつ「ゾゾアド」は検索系広告で、「ゾゾタウン」内の検索窓で例えば「ニット」などと検索すると、対象商品が一覧表示されるが、一番上と真ん中、一番下の部分にPR商品が表示される。
取り扱い商品の多い「ゾゾタウン」で他社商材に埋もれず商品をPRでき、しかもユーザーの検索に合わせて表示されることから費用対効果は高いとしており、正価品の販売が伸びるケースも出てきているようだ。
正価品の販売比率向上に向けては欠品対策を重視する。売り上げ上位品番や入荷後すぐの商品などを対象とした欠品率をKPIに設定。欠品しそうな商品のアラート機能などを活用してブランドとのコミュニケーションを高めることで正価販売比率が上がってきているようで、結果的に客単価も下げ止まりの傾向にあるという。
価格表示を変更ゾゾ離れ収束か
昨年12月に始めた有料会員サービス「ゾゾアリガトーメンバーシップ」も新たな成長のけん引役に見込むが、同サービスを巡っては一部のショップが退店するなどの副作用も出ている。
「ゾゾアリガトー」は年額3000円か月額500円を支払うと「ゾゾタウン」での購入金額がゾゾの負担で常時10%割引となり、ユーザーは割引額の一部か全額を購入者の判断で寄付できる仕組みで、10%割引をフックにした集客力強化と、寄付という社会貢献を両立するサービスだ。
ところが、常時10%割引のインパクトは大きく、事前の説明が不十分だったこともあり、ブランド価値の低下を嫌う一部のアパレル企業が「ゾゾタウン」からの退店を決めた。同社によると、1月31日時点で販売を見送っているショップは全体の3.3%に当たる42ショップで、昨年の商品取扱高ベースでは1.1%であることから、業績に与える影響は少ないと見ている。ただ、ショップから届いている声の大半が「割引表示は何とかならないのか」という内容であるため、2月26日から割引価格の表示パターンをショップが選べるようにした。
デザイナーズブランドや海外ブランドなど常時値引きに反発するショップもあって各種メディアの“ゾゾ離れ”報道が続いているが、一方で有力アパレルの首脳陣の中には、消費者とのタッチポイントとして「ゾゾタウン」の必要性を強調する発言が出始めるなど、“大人の対応”をする企業が多い印象だ。
とは言え、一連の騒動を受けてリスク分散の必要性を感じた企業は多いはずで、自社ECの強化や他のECモール活用など、“ゾゾ依存”からの脱却に舵を切るショップは増えそうで、同社はこれまで以上に各ショップとの意思疎通を図る必要がある。
全方位型の品ぞろえを目指す中で一定数のショップが欠けるのはマイナスでしかなく、ゾゾの営業部門には「参加するかしないかの権限はないのか」というショップの声も届いていることから、サービス内容のチューニングは検討課題という。
今後も、“いつでも全商品10%引き”というサービスの分かりやすさを継続するのか、同社の有料会員サービスのあり方に注目が集まるが、ゾゾタウン事業は成長を支える屋台骨であるだけに、慎重な判断が求められそうだ。
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