通販新聞[転載元] 4/1 7:30

ジェイドグループ(旧ロコンド)は、3月上旬までに33億2600万円を投じてNTTドコモと伊藤忠商事からマガシークの全株式のうち78%を取得して子会社化した。これにより、ジェイドグループの取扱高は約300億円から600億円規模に倍増。2018年に掲げたファッションEC専業モールでの“圧倒的な2位”のポジションを得るとともに、ドコモおよび伊藤忠とパートナーシップを開始したことで、「集客面と品ぞろえで強力なバックアップ体制を構築した」と語る田中裕輔社長(写真)に、M&Aの背景や今後の展開などを聞いた。

ジェイドグループ 田中裕輔社長
ジェイドグループ 田中裕輔社長

過去最高額のM&A。ECモール1位をめざす土壌づくり

――33億円強を投じてマガシークを買収した。

これまでのM&Aは3~5億円規模の案件が多かったので、過去最高額なのはもちろん、ケタが違う。リーボックの日本における販売権・ライセンスを取得した金額は開示していないが、それよりも大きい。

――ファッションEC専業モールで競合だったマガシークを買収したことは意義深い。

それは間違いない。規模に関しても、競合が乱立しているなかで、以前から発信しているように、「圧倒的な2位」にならないと継続的な成長は非常に難しいと思っていた。マガシークのECモール事業は厳しい状況にあったし、当社も順風満帆とは言えなかったので、規模の観点からも非常に意義深いことだと思う。

さらに、マガシークが最大化できなかった、NTTドコモさん、伊藤忠商事さんとのパートナーシップについても、当社が参画することで圧倒的な2位に満足することなく、1位をめざすための完璧なパートナーシップだ。

――どういうことか。

マガシークは、主に「マガシーク」サイトと、ドコモさんの「d fashion」を運営するECモール事業と、ブランドの自社EC構築運営事業のふたつが主力だ。ECモール事業ではドコモさんから集客面で力強い支援を得ている。

NTTドコモが運営するECサイト「d fashion」(画像はサイトから編集部がキャプチャ)
NTTドコモが運営するECサイト「d fashion」(画像はサイトから編集部がキャプチャ)
 「d fashion」運営における各社の役割と株式保有割合
「d fashion」運営における各社の役割と株式保有割合

一方のブランド自社EC構築では、「FILA(フィラ)」や「レリアン」「レスポートサック」など伊藤忠さんが国内ライセンスを取得したり、子会社として運営したりしているブランドと同じグループとして対話ができるという利点がある。

「FIRA」の公式ECサイト(画像はサイトから編集部がキャプチャ)
「FIRA」の公式ECサイト(画像はサイトから編集部がキャプチャ)

つまり、日本最大級の携帯電話会社が集客を、日本のファッション業界をけん引する総合商社が品ぞろえを支援するという、ECモール事業にとってこれ以上ないバックアップ体制となる。

過去に業務提携するも頓挫。グループとしての統合に舵切り

――そのマガシークとは2018年に業務提携し、在庫連携する形で「ロコンド」と「マガシーク」の相互出店を試した。

ちょうどファッションECにおける「圧倒的な2位」をめざすと発表した時期だったが、「ゾゾタウン」との差は開く一方で、同じく2位争いをしていたマガシークと業務提携した。

ただ、当時はさまざまな制約があり、提携したものの、うまくいかなかった。具体的には、相互出店といっても在庫共有するのは倉庫在庫だけで、予約商品や取り寄せ品は対象外だったし、タイムセールやクーポンなどの相互プロモーションは実施しなかった。また、ユーザーが「ロコンド」と「マガシーク」の商品を同時に購入することもできなかった

フットインザドアの形で第一歩は踏み出せたものの、そこからあまり進展がなかった。結局、中途半端な業務提携ではダメで、グループとして統合しなければ意味がないと感じた。

――その後、ゾゾは2019年11月に当時のヤフー(編注:現LINEヤフー)と資本業務提携して同社の連結子会社となり、ソフトバンクグループ入りした。

ゾゾさんがソフトバンクさんと組んだので、正直に言って当社は完全独立でどこまでいけるのか悶々(もんもん)としていた時期もあったが、そういう悩みはなるべく顔に出さずにユーチューブチャンネルでのコラボやプロモーションを強化したりしていた(笑)。

ただ、完全独立型で勝ち残る難しさも感じていたので、今回、共同パートナーという形になるが、ドコモさん、伊藤忠さんと組めたのは良かった。

「ロコンド」「マガシーク」の運営方針

――これまで、さまざまファッションECを買収してきたが、マガシークは規模もユーザー数も多い。サイトは残していくのか。

これまで通り、「マガシーク」サイトとして運営するつもりだ。19年に「モバコレ」を買収したときは、会員もサイトも「ロコンド」に吸収したが、サイトが違うことで離脱する顧客が出てしまったのは反省点だ。そこで、2020年以降に買収した「ファッションウォーカー」や「スポーツウェブショッパーズ」「waja」、直近の「ブランデリ」とすべて残している。

在庫統合で品ぞろえ1.7倍見込む

――「ロコンド」と「マガシーク」の品ぞろえについては。

これまでのM&Aでもシステムと物流を統合してきた。「マガシーク」も同様で、システムと物流を統合して初めて品ぞろえの統一が図れる。同じファッションECであっても「ロコンド」と「マガシーク」が取り扱う商品の重複率は3割前後と見ていて、両社の在庫データベースを共通化することで、どちらも品ぞろえを現状の1.7倍程度に広げられる。このシナジー効果は大きい。

――物流・ITインフラの統合にかかる時間は。

これまでのM&Aはそこまで大規模ではなかったので1か月~3か月で完了していたが、今回は範囲も広いし、「d fashion」はドコモさんのシステム規約の関係もあるので、1年かけてていねいに統合していくことになる。

細かく言うと、ECモール事業の物流・ITの統合は半年後がメドになる。一方、ブランド自社EC構築の事業については各ブランドとのすり合わせなどに時間が必要なので、さらに半年くらいかかると思う。

――来年3月から新たに倉庫を借りる。

マガシークの在庫を当社物流センターの「ロコポート」に移管することで、空いているスペースが埋まってしまうので、今後の成長に向け、千葉県八千代市内の既存倉庫から歩いて2~3分の場所にある倉庫を借りる。「ロコポート」は延床面積が約11万5500平方メートルで、新倉庫はその3分の1程度の約3万5500平方メートルとなる。

――「ロコンド」と「マガシーク」で品ぞろえが統一された後、両サイトはどこで差別化するのか。

両サイトを無理に差別化しようとは思っていない。ただ、サイトによってユーザーが求めているものが違うので、たとえば「ロコンド」では靴を前面に出すし、「マガシーク」ではアパレルを前面に出す。靴は正方形の画像を使うが、アパレルは縦長の画像を使うなど、主力の商品カテゴリーでUIも変わってくる。品ぞろえは統合して販売できる商品を大幅に増やしながら、見せ方は両サイトの特性に合わせる

「ロコンド」ECサイト(画像はサイトから編集部がキャプチャ)
「ロコンド」ECサイト(画像はサイトから編集部がキャプチャ)
「マガシーク」ECサイト(画像はサイトから編集部がキャプチャ)
「マガシーク」ECサイト(画像はサイトから編集部がキャプチャ)

経営体制はマガシークとの二人三脚

――マガシーク社の経営体制はどうなるのか。

3月1日付で井上直也社長は取締役社長兼COOに、私は代表取締役会長兼CEOとなった。マガシーク社は会社として残るし、ジェイドグループのオフィスとは少し離れている。また、これまでのM&Aよりも規模が大きく、トップダウンで何でもできるかというと難しいので、井上社長ともよく話し合い、二人三脚で成長をめざそうということになった

――「マガシーク」が苦戦している状況をどう見ている。

王者の「ゾゾタウン」と比べると、「ロコンド」は靴がメインのため少し市場が離れている。「マガシーク」は百貨店系ブランドに強く、「ゾゾタウン」とは中心顧客の年齢層が異なるものの、市場の近さが影響しているのではないか。

「ゾゾタウン」の強さは、UIやテクノロジーというよりも、やはり品ぞろえの豊富さだと思う。そういう意味では、「マガシーク」が強い30~40代女性向けの品ぞろえを拡充することが大事で、ジェイドグループに入ったことで、その補完ができる

伊藤忠との関係性強化

――伊藤忠とはリーボックを共同運営している。

2022年にリーボックの日本事業を継承し、当社66%、伊藤忠さん34%でRBKJ社を共同運営している。伊藤忠さんは当初、半信半疑の気持ちで当社を見ていたと思うが、RBKJ社の成功は大きく、一定の信頼を得られたと感じている。マガシークも成長させることで、もっと伊藤忠さんとのパイプを強固にしたい

ロコンドが「Reebok」販売権を取得、伊藤忠との合弁会社を通じて「Reebok」ブランドを独占販売

現在、Reebok日本事業を展開しているアディダスジャパンから、国内事業をロコンドと伊藤忠商事の合弁会社が承継する
瀧川 正実2022/5/13 9:001110

――自社開発の物流・ITシステムには自信がある。

当社の物流とIT基盤は唯一無二の最高品質だと自負している。多くのPMI(買収後の統合)を経験して物流とIT基盤をバージョンアップしてきたが、実店舗も卸もECも展開しているリーボックのPMIによって、あらゆる事業に対応できる物流・ITインフラに磨き上げることができた。OMOのシステムとしても日本で一番進んでいると思う。

M&Aで組織内部の強みも醸成

――これまで多くのM&Aを実施してきたが、規模の拡大以外で得たことは。

たとえば、「マンゴ」の国内独占契約については、当社がブランドをM&Aすることで、他のブランドが離れてしまうといった懸念もあったが、思っていたようなマイナス材料はなかったし、ECモールのM&Aについては「モバコレ」のサイト統合で離脱を招いた反省を生かし、「ファッションウォーカー」以降は買収したサイトを継続する形で成長につなげている

最初のM&Aから5年くらいかけて、買収後に実施する物流とシステム統合のパッケージができたので、私がいなくても社内に蓄積された経験とノウハウで担当者がジェイドグループのインフラにリプレイスしていて、当社の武器になっている。

全社員面談で適材適所へ。新たな組織図を設計

――M&Aに伴う人員増の部分は。

人員の再配置で組織力を高めるのに役立てている。M&Aを実行した企業の全社員と面談をし、スタッフごとのスキルや意向を正しく理解するように努め、それらを踏まえて新たなグループ組織図を設計する。

たとえば「モバコレ」をM&Aしたときは、商品担当者が多くなったので、各社員との面談結果を反映させ、出店ショップのサポート担当としてSAT(ショップアシスタントチーム)という部署を新設した。

従来は商品担当者が仕入れや分析、運営サポートも行っていたため、ショップへのサポートが手薄になっていた。この問題をSATの新設で解決した。

また、個人面談の中でショップの運営サポートがしたいという数人の意見を吸い上げることができ、いまもSATのリーダーや副リーダーはモバコレ出身者が務めている。企業によって強いスキルが異なるので、数多くのM&Aを実行し、ジェイドグループの組織力が高まったと感じる。

めざすは取扱高1000億

――今後は取扱高1000億円をめざす。

ブランド事業では、リーボックはまだまだ伸びしろがある。リーボックの国内事業を継承したときの実店舗は少なかったので、リアルを強化することで実店舗売り上げが伸びるだけでなく、ブランドの認知度を高められる。また、リーボック事業で卸や実店舗の運営ノウハウがグループに蓄積されたので、ほかのブランドをM&Aするというストーリーが描きやすくなった。

「リーボック」のECサイト(画像はサイトから編集部がキャプチャ))
「リーボック」のECサイト(画像はサイトから編集部がキャプチャ))

ECモール事業ではマガシークの買収で両社の品ぞろえを大幅に拡充することができるし、ブランド自社EC構築でも、伊藤忠さんとの協力関係も含めてまだまだ伸ばせるので、取扱高1000億円の達成はより具体的になってきた

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