松原 沙甫[執筆] 11/14 7:00

アメやグミなどを製造販売している菓子メーカーであるカンロの武井優氏(マーケティング本部 デジタルマーケティングチームリーダー)は、自社ECサイト「Kanro POCKeT(カンロポケット)」の運営を管掌し、コロナ禍を契機とした自社ECの販路強化に成功している。武井氏に、前期比40~50%増で推移してきたメーカーD2Cならではの取り組みや工夫を聞いた。

カンロ株式会社 マーケティング本部 デジタルマーケティングチームリーダー 武井 優 氏
カンロ株式会社 マーケティング本部 デジタルマーケティングチームリーダー 武井 優 氏
2010年、カンロに入社。情報システム、マーケティング、EC、広報を経験するなかで、各デジタル領域を担当。2021年にデジタルマーケティングを推進する全社プロジェクトのリーダーを務めたのち、デジタルコマース事業にて戦略立案・EC商品の開発・サイト運用を経験。現在は、デジタルマーケティング業務全般を担当するチームのマネジメントを管掌している。

EC売上40~50%増に成功したサイト改善&商品開発

コロナ禍でEC販路に注力

――自社EC事業の変遷と、「Kanro POCKeT」の特長を教えてほしい。

カンロ 武井氏(以下、武井氏):カンロの販売チャネルは従前、卸売りと直営店だった。コロナ禍で直営店の休業などにより客足が落ち込んだとき、ECの需要・利用が高まり、ECチャネルを開設し、大きく成長した。

私自身、育休から復帰してすぐにデジタルマーケティングのプロジェクトリーダーに任命された。2021年度~2023年度のEC売上の伸長率は前年比40~50%増で推移。2024年度も堅調に伸びている

カンロの自社EC売上は2021年頃から堅調に推移している
カンロの自社EC売上は2021年頃から堅調に推移している

EC売上高は、直営店を展開している「ヒトツブカンロ」商品の構成比が高くなっている。

「ヒトツブカンロ」の一例
「ヒトツブカンロ」の一例

ECのGMV(流通総額)が急成長している要因は、「ヒトツブカンロ」と連動して単価1万円ほどのシーズンギフトをECで専売し、ヒットにつながったことが大きい。2024年夏は8000円、1万円(いずれも税込)の2パターンのギフトセットを数量限定で用意したが、どちらも好評で、発売後30分以内に完売した。

「ヒトツブカンロ」のシーズンギフトの一例
「ヒトツブカンロ」のシーズンギフトの一例

――自身の役割、担当業務を教えてほしい。

武井氏:EC業務全般を管掌しており、D2Cのメーカー直販ECをリードしてきた。いわゆる売上管理、顧客コミュニケーションの整備、チャットボットやAIを使ったEC機能の開発、顧客行動の分析、SNS運用、会員アンケートを用いた顧客の声のヒアリングなどだ。

デジタルマーケティングチームの発足当初、推進するべきプロジェクトとしてコンタクトセンターの整備が真っ先に上がっていた。FAQ(よくある質問)の充実や、チャットボットを利用して整備してきた。

――近年の自社ECを振り返って、変化を教えてほしい。

武井氏:コロナ禍前から現在までを振り返ると、社内でDX化が大きく進んだ。ユーザーからの問い合わせはチャットボットがかなり増えた。電話は高齢の方が多いが、若年層からの問い合わせ件数の増加がチャットボット利用増加につながっている

顧客からの問い合わせや動向をもとに、カスタマーセンターから社内へのフィードバックも行っている。フィードバックを踏まえて、たとえば、顧客がより問い合わせしやすいサイトUI・UXの改善に生かしている。

「体験価値」を売りにした高単価商品に挑戦

――EC事業における自身のチャレンジを教えてほしい。

武井氏単なるアメやグミではなく「体験価値そのものを売る」という商品開発・販売にチャレンジしている。

自分は2023年まで、ECの商品開発に携わる部署と、マーケティング、機能開発の部署を兼任していた。「すでに一般流通している商品はECで売りにくい」という課題があったので、EC専用の商品が必要だと思っていた

単価の低いアメやグミを主力商品としてECで販売することは、一般的には粗利の確保に追われ、大幅な利益アップは難しい

しかし、そういった既存概念に捉われないチャレンジがECチャネルだからこそできるのではないかと考えた。たとえば、アメやグミに食品以上の価値を上乗せして販売することで、販売価格を従来品よりも引き上げることができる。

税込2000円、内容量100グラムから販売している「ホシフリラムネBOXセット」は、その取り組みの1つ。ラムネとしてはチャレンジングな値付けをした。ラムネをパウチに入れて届け、同梱の瓶に顧客が入れる。ラムネを星に見立て、夜空を彷彿とさせるようなデザインの瓶のなかに「星が降る」ようなイメージを押し出してブランディングしている。

「ホシフリラムネ」シリーズは、「ラムネを売る」というよりは、「ストーリーと体験を売る」という感覚。だからこそ、この価格に設定した。

ストーリー性のあるブランディングで、世界観や体験を売りにしている「ホシフリラムネ」シリーズ。販売はEC限定
ストーリー性のあるブランディングで、世界観や体験を売りにしている「ホシフリラムネ」シリーズ。販売はEC限定

同様に、「シークラゲグミ」という商品も、「ホシフリラムネ」同様に、体験価値そのものを売る商品で、単なるグミとは思っていない。クラゲをグミで表現し、まるで海のようなパッケージに「閉じ込めて」いる。価格は1500円(税込)で、内容量は99グラム。

「シークラゲグミ」のパッケージと、封入しているグミ。こちらも販売はEC限定
「シークラゲグミ」のパッケージと、封入しているグミ。こちらも販売はEC限定

アメやグミが持つ視覚的な良さはカラフルであること。商品開発やブランドストーリー構築にあたっては、世界観に合うカラーリングを施せることも一役買っている。

「ホシフリラムネ」も「シークラゲグミ」もECのみで販売。いずれも引き合いは高まっており、販売は成功している

――課題に感じていることは。

武井氏:EC専売商品は、リピート購入やLTVの引き上げにまだ課題があり、社内で議論しているところだ。たとえばヒトツブカンロの人気商品「グミッツェル」とヒトツブカンロの他の商品の詰め合わせを毎月届ける定期便を展開しており、サブスクの利用増加につながってきた

商品だけでなくカンロそのもののファンを増やす

――メーカーECならではの強みや、今後の意気込みを教えてほしい。

武井氏:常設の直営店があるので、オンラインとオフラインの販路で連携しやすい。現在のEC専売商品を、いずれは一般流通にもつなげていきたいという狙いがあるので、商品だけでなくカンロそのものを好きになってもらうことを意識している。

常設の直営店「ヒトツブカンロ グランスタ東京店」「ヒトツブカンロ原宿店」(原宿店は2024年4月に開店)
常設の直営店「ヒトツブカンロ グランスタ東京店」「ヒトツブカンロ原宿店」(原宿店は2024年4月に開店)

たとえば、「『ピュレグミ』が好きで頻繁に購入するが、カンロの商品だと知らなかった」という人もいる。ファンであることに自覚がないまま、カンロの商品を購入している人は多い。ECサイトで「カンロではこういった商品を展開している」という認知も広げていきたい。自社商品が市場に多く流通しているという、メーカーならではの強みも生かせる。

他社商品ではなく、カンロを選んでもらうためにはファン化が必要だ。ECの会員登録、リピート購入の促進など、さらなるファン化・リピーター化を促していく。会員顧客は会社の資産、財産であり、成長のためには欠かせない。現在は、メルマガ会員も含めて約20万人の会員数となっている。

2025年は、クローズドなファンコミュニティを作り、コアなユーザーの声をヒアリングする機会を設ける予定だ。

◇◇◇

この連載では、通販・EC業界の発展に貢献する「人」を顕彰する「ネットショップ担当者アワード」(2024年11月20日に第2回授賞式)受賞者にインタビューを実施しています。本記事でとりあげた武井氏がどのような賞を受賞するかは授賞式当日に発表します。授賞式にぜひご参加ください! 参加無料・事前登録制にて、あなたのお申し込みをお待ちしています。

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