実店舗の拡大と削減、戦略の違いは売上にどう影響する? 全社+ECの売上増、総売上減もEC化率上昇の米大手小売企業の実例
米国のホームセンター市場は大手のHome Depot(ホームデポ)とLowe's(ロウズ)の2社がシェアを席巻しています。著しい成長を遂げていますが、近年の戦略はそれぞれ異なっています。Lowe'sがオムニチャネル戦略と店舗の最適化で成果を上げている一方、Home Depotは店舗網の拡大、ブランド認知の向上、効率的な運営により市場での優位性を保っています。Home DepotとLowe'sの戦略の違いを解説します。
ホームセンターカテゴリーで圧倒的なシェアを誇るHome Depot、Lowe's
米国の小売業界で知名度の高いHome DepotとLowe'sは、北米小売事業者の年間EC売上高を調べた「北米EC事業 トップ1000社」(『Digital Commerce 360』発行)で、Home Depotは4位、Lowe'sは11位にランクインしています。大きな成長を続けている2社ですが、ECの拡大やデジタル施策などでは戦略の違いがあります。
ホームセンターのカテゴリーは、オンライン通販で大きな市場であり、『Digital Commerce 360』のデータベース「北米EC事業トップ 2000社」にランクインした企業は、全世界で年間500億ドル以上のオンライン売上を計上しています。
Home Depot、Lowe's、Menards、Ace Hardwareといった大手企業など135社がこの成長分野で活躍、ホームセンターカテゴリーは大幅な成長を遂げています。EC売上高はコロナ禍前(2019年)の240億ドルから、2024年末には543億ドルに急増すると予測されています。
Home DepotとLowe'sは過去5年間、ハードウェア&ホームセンターカテゴリーのオンライン売上高の60%以上のシェアを獲得。Home Depotは約43%の安定した市場シェアを維持し、Lowe'sのシェアは2019年の17%から2024年には21%に拡大しています。
このカテゴリーをさらに掘り下げていくと、「一般家庭用品」のサブカテゴリーでトップ2000社にランクインしているオンライン通販事業者は14社。Home DepotとLowe'sの2社は、2024年末までにこのサブカテゴリーで90.8%の市場シェアを獲得すると予測されており、2社合計で市場の85.3%を占めていた2019年から5.5ポイント上昇する見通しです。
過去5年間におけるEC売上の成長率はHome Depotが21.5%増、Lowe'sは23.1%増
EC売上と全社売上を比較すると、Home Depotは両カテゴリーでLowe'sを大きく上回っています。
2020年から2023年にかけて、Home Depotは大幅な成長を遂げ、全社売上高は1321億ドルから1527億ドルに拡大。一方、Lowe'sの全社売上高は896億ドルから864億ドルに減少しています。その結果、Home Depotの市場シェアは2023年には60%から64%に増加。この成長により、業界におけるHome Depotの地位はさらに大きくなりました。
Home Depotは2024年末までにEC売上236億ドルを突破する勢いで、11位のLowe'sは113億ドルに達すると予測されています。
2社はEC売上を大きく伸ばしており、過去5年間(2024年を含まない)のCAGR (年平均成長率)はHome Depotが21.5%、Lowe'sはそれを上回る23.1%を記録。Home Depotは市場シェアが大きいため、金額ベースではLowe'sを引き離してリードを維持している状況です。
2017年以降、Home DepotとLowe'sのEC売上高の差額は37億ドルから拡大し、2024年末までに123億ドルになると予測されています。過去7年間のうち5年の間を見るとLowe'sは成長率が大きく、2020年にはHome Depotの86%に対し、Lowe's は111%と顕著な伸びを示しました。
異なる戦略で生じた売り上げなどの差
過去7年間で、Home DepotとLowe'sはEC化率を大幅に向上させています。Home Depotは2020年までにEC化率は14.4%に拡大。Lowe'sはまだその数値に達していませんが、EC化率はHome Depotに迫っています。
2017年時点では、Home DepotとLowe'sの合計店舗数の差はわずか132店舗。しかし、現在ではHome Depotの方が594店舗多く営業しており、大きな差が生じています。この過去7年間、2社は店舗運営に関して異なる戦略を採用。この違いが実店舗数の差異に影響しています。Home Depotが56店舗を新設して実店舗を拡大したのに対し、Lowe'sは406店舗を閉店したのです。
意外なことに、Home Depotの店舗拡大はオンライン事業にプラスの影響を与えています。Home Depotの実店舗である1店舗あたりのEC売上は約1010万ドル。Lowe'sの同約650万ドルを大きく上回っています。
一方、Lowe'sは店舗数を減らしたにもかかわらず、ECでは大幅に成長。EC売上高は2017年の31億ドルから2024年には113億ドル、全社売上高は2017年の686億ドルから2024年には830億ドルに増加すると予測されています。とはいえ、Home Depotの2017年から2024にかけての総売上高の増収額は563億ドルで、Lowe'sの同144億ドルを大きく上回っています。
さらに深く掘り下げてみると、別のストーリーが見えてきます。1店舗あたりのEC売上高を5年間のCAGRベースで比較するとLowe'sは26.5%、Home Depotの21.0%を上回ります。これはLowe'sのマービン・エリソン最高経営責任者(CEO)が強調しているように、Lowe'sがオムニチャネル戦略と店舗の最適化に注力していることが、店舗数の削減にもかかわらずEC売上をアップさせている理由です。
Home Depotは店舗ネットワークとブランド認知、Lowe'sはEコマースとオムニチャネルを強化
Home Depotの広範な店舗網と強力なブランド認知は、市場をけん引する企業としての地位を確固たるものにしています。盤石なEC事業と相まって、Home DepotはいまだLowe'sに対して大きな優位性を保っています。
一方、Lowe'sはより効率的な経営戦略を採用し、不採算店舗を次々と閉鎖。ECとオムニチャネル戦略に多額の投資を実施してきました。この戦略は目覚ましい成果を上げており、Lowe'sはEC売上高で力強い伸びを示し、全体的な業績も改善しています。
しかし、Home Depotは、規模の大きさ、高いブランド評価、効率的な運営により、引き続き競争力と競争優位性を保っています。業界の進化に伴い、Home DepotとLowe'sは、市場での揺るぎない地位を維持するために、消費者の好みの変化や技術の進歩にさらに適応していく必要があるでしょう。