E-Commerce Magazine 2022/4/11 8:00

特定商取引法が改正され、インターネット通販の新しい表示ルールが2022年6月1日に導入されます。ECサイトなどの申し込み確定の直前画面に詳細な注文内容を表示する義務が追加されるほか、契約申し込みの手順などについて消費者を誤認させる表示が禁止されるなど、すべてのEC事業者に影響する規制です。

この記事では、EC事業者に特に影響が大きい改正点と、求められる対応、違反した場合の罰則などについて解説します。

本稿は、消費者庁が公表した法律の新旧対照表条文・ガイドライン・説明会資料などをもとに構成しています。内容の正確性には細心の注意を払っていますが、改正法に対応する際は、必ずご自身でガイドラインなどをご確認ください

ECサイトに影響が大きい4つの規制

インターネット通販や通信販売などに関する新たな規制を盛り込んだ「改正特定商取引法」が2022年6月1日に施行されます。EC事業者にとって特に影響が大きい変更点は次の4つです。

【EC事業者に特に影響が大きい変更点】

  1. 申し込み直前の画面に注文内容を表示
  2. 注文内容や契約の申し込み手続きに関して、消費者を誤認させる表示の禁止
  3. 申し込みの撤回や解約をさまたげる不実告知(嘘)の禁止
  4. 消費者による注文の取消権を新設

こうした規制が導入された背景には、定期購入やサブスクリプション契約における消費者トラブルが増えていることがあります。ECサイトに「初回無料」とだけ表示して定期購入ではないと消費者に誤認させ、実際は購入回数に縛りがあって高額な代金を支払わせるような、詐欺的な定期購入商法から消費者を守るための対策だと考えられます。

ただし、定期購入やサブスクリプション以外のECにも同様の規制がかかるため、すべてのEC事業者が改正法に対応しなくてはいけません。それぞれのポイントを解説します。

①申し込み直前の画面に注文内容を表示(改正特商法 第12条6)

ECサイトにおける契約申し込みの直前の画面(以下「最終確認画面」)に、商品の分量や販売価格、支払い時期・支払い方法、引き渡し時期、申し込み期間、申し込みの撤回・解除に関する事項をわかりやすく表示することが義務付けられます。

フューチャーショップ futureshop 改正特商法 最終確認画面に表示する必要がある
最終確認画面に表示し、消費者が簡単に確認できるようにする必要がある(出典:消費者庁 事業者向けチラシ「貴社カートシステムでの改正法への対応について」をもとにフューチャーショップが作成)

①分量

商品の数量・購入回数・購入期間を表示することが必要です。定期購入契約の場合は「各回の分量」と「総分量」を表示する必要があります。サブスクリプションでは提供期間を表示し、期間内に利用可能な回数制限がある場合にはその記載も必要です。

定期購入やサブスクリプションが無期限や自動更新の場合は、その旨を表示した上で、一定期間を区切った分量を目安として表示することが望ましいとされています。

②販売価格

消費者が複数の商品をまとめて購入した場合、個々の商品の販売価格(送料を含む)だけでなく、支払総額も表示する必要があります

定期購入契約の場合は「各回の代金」と「代金の総額」を表示することが必要です。期限を設けていない定期購入などの場合、一定期間を区切った支払額を目安として表示することが望ましいとされています。

また、当初は無償で、一定期間後に有償に自動で移行するサブスクリプションでは、移行時期と支払う金額を表示する必要があります。

③支払い時期・支払い方法

代金の支払い時期や、支払い方法を表示する必要があります。定期購入契約の場合は初回の支払い時期だけでなく、「各回の代金の支払い時期」を表示することが必要です。

④引渡し時期

定期購入の場合には、初回に商品を引き渡す時期だけでなく、「各回の引渡し時期」も記載する必要があります。

⑤申し込み期間

商品の申し込み期間が設定されている場合(一定期間を経過すると商品を購入できなくなる場合)には、その期間を記載する必要があります。期間限定商品の販売や、購入期限のカウントダウンを行う場合などが想定されます。

ただし、個数限定販売のように期間を明確に区切っていない場合や、期間限定でサービス(ポイント還元・送料無料・割引など)を提供する場合は対象外です。

⑥申し込みの撤回・解除に関する事項

商品購入の申し込みの撤回や解除について、条件・方法・効果などを表示する必要があります。具体的には、返品や解約の連絡方法、連絡先、解約の条件などについて、顧客に見えやすい位置に表示することが必要です。電話で解約を受け付ける場合には、確実につながる電話番号を記載しておく必要があります。

特に、以下のように解約方法を限定する場合には、明確に表示する必要があるとの見解を消費者庁は示しています。

  • 消費者が想定しないような解約方法に限定する場合(電話した上でメッセージアプリを操作し、追加の個人情報を提出するなど)
  • 解約受付を特定の時間帯に限定する場合
  • 申し込みを行った消費者が容易に解約できると考えられる手段で、解約の連絡を受け付けない場合

なお、解約方法に制約があることをECサイトの最終確認画面に表示したとしても、その制約が必ずしも法的に有効であるとは限りません。消費者の権利を不当に制限するような条項は、消費者契約法などによって無効とされる場合があるためです。消費者に不利益が発生することがないように解約条件を設定することが必要です。

注文確認画面の表示例(例外的にリンクも可能)

上記6項目は、原則としてすべての内容を最終確認画面に表示することが望ましいとされています。ただし、ECサイトの画面のスペースに限りがある場合などには、消費者が明確に認識できることを前提として、一部の情報については記載箇所(またはページ)のリンクを最終確認画面に貼り、消費者が参照できるようにするといった対応も可能です。

表示方法の詳細については、消費者庁が公表している「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」をご確認ください。

②注文内容や契約申し込み手続きに関して、消費者を誤認させる表示の禁止(改正特商法 第12条6-2)

ECサイト最終確認画面に表示した注文内容や、契約申し込みの手続きに関して、消費者を誤認させる表示も禁止されます。

たとえば、継続期間に縛りがある定期購入であるにもかかわらず、最終確認画面に「お試し」や「トライアル」といった文言を強調して表示し、あたかも定期購入ではないかのように消費者を誤認させる行為は違法と認定される恐れがあります

また、注文手続きの過程で「送信する」「次へ」「サプリメントお届けコースに参加する」といったボタンを設置し、そのボタンを押すと申し込みが完了する仕組みにするなど、購入手続きが完了することを消費者が容易に想像できないような(消費者を誤認させる)表示も禁止されます。

なお、消費者庁によると、表示が合法か違法かの基準は表示内容そのものだけで判断するのではなく、表示の位置や形式、大きさ、色調などを考慮し、表示内容全体から消費者が受ける印象や認識によって総合的に判断するとしています。

法律で定められた項目をECサイトに記載すれば良いということではなく、消費者が契約内容を理解できるように表示することが必要です。

③申し込みの撤回・解約をさまたげる不実告知(嘘)の禁止(改正特商法 第13条2)

消費者が購入申し込みの撤回や、定期購入の解約などを申し出た際に、その撤回・解約をさまたげるために、事業者が事実と異なることを告げる行為も禁止されます。

たとえば、解約を申し出た顧客に対して「定期購入契約になっているので残りの分の代金を支払わなければ解約できない」と嘘を言ったり、事実に反して「その商品は、いま使用を中止すると逆効果になる」と説明したりすることは禁止です。電話だけでなくメールも規制の対象となります。

④消費者による注文の「取消権」を新設(改正特商法 第15条4)

ECサイトの最終確認画面に表示した注文内容(改正特商法 第12条6で定められた6項目)が事実と異なったり、必要な内容が表示されていなかったりしたために、消費者が内容を正しく理解せずに(内容を誤認して)注文を申し込んだ場合、消費者はその契約を取り消すことが可能になります

また、契約申し込みの方法や、注文内容の表示について消費者を誤認させるような表示があり、消費者が契約内容を正しく理解せずに(内容を誤認して)申し込んだ場合にも契約を取り消すことが可能です。

違反した場合のペナルティー(行政処分・罰則)

ECサイトに導入された規制(改正特商法第12条6、改正特商法 第13条2)に違反した場合、行政処分(行政から事業者に対する業務改善指示や業務停止命令)や罰則(懲役や罰金)の対象となります。

たとえば、ECサイトの最終確認画面に必要な項目(改正特商法第12条6第1項で定められた内容)を表示しなかったり、事実と異なる表示をしたりした場合の罰則は、法人は1億円以下の罰金です。

EC事業者に求められる対応は? サイト改修が必要になる場合も

改正特商法が施行される2022年6月1日以降、EC事業者は新たな表示ルールなどを遵守する必要があります。多くのEC事業者は、ECサイトの最終確認画面の表示内容について修正や追加が必要になるのではないでしょうか。その上で、注文内容に関する表示や、契約申し込みの手順などに関して、消費者を誤認させる表示・表現がないか十分に確認することが必要です。

現在使用しているECサイトの最終確認画面に適切な表示内容を盛り込めない場合には、画面のレイアウトそのものを変更するか、法律で許される範囲内で、必要事項を記載した箇所(ページ)へのリンクを配置するといった対応が必要になります

ECサイトを社内エンジニアが構築している場合には、改正特商法の施行までに改修作業を指示しましょう。ECパッケージを使用しているEC事業者は、改修についてパッケージベンダーに相談してください。

クラウド型のECプラットフォームを利用している場合、プラットフォームそのものの改修が発生する可能性もあります。また、利用者側(店舗側)でも表示の変更や設定変更などが必要になると想定されます。プラットフォーム事業者の対応方針やバージョンアップの予定などについて必ず確認してください。

この記事はフューチャーショップのオウンドメディア『E-Commerce Magazine』の記事を、ネットショップ担当者フォーラム用に再編集したものです。

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