Q&Aでわかる改正特商法。通販(D2C)事業者向けに改正のポイントを解説!
特定商取引法は過去に何度も改正されてきたが、6月1日施行の改正特商法はは非常に細かい規定が新設されており、通販(D2C)業界への影響があまりにも大きい。そのため、通販(D2C)関係者は「知らない」では済まされない内容となっている。たとえ誠実な商売をしていたとしても、6月1日までに改正特定商取引法への対応をしていないと、気づかないうちに違法となってしまい、罰則を科されるおそれがある。
そこで、消費者庁が実施した「令和3年特定商取引法・預託法等改正に係る令和4年6月1日施行に向けた事業者説明会」から、単品通販(D2C)事業者に影響する「通信販売に関する規定の新設」についてわかりやすく解説する。
背景に詐欺的な定期購入商法の被害
そもそも、今回の特定商取引法改正は、詐欺的な定期購入商法による消費者被害が続出し、社会問題となったことが背景にある。
詐欺的な定期購入商法の手口として、「『初回無料』あるいは『お試し』とうたっていながら、実際には定期購入契約になっていた」「『いつでも解約可能』と表示してあるのに、実際には解約に関する細かい条件があった」などのパターンがある。
このような場合、「初回無料」を強調しておきながら、定期購入であることや解約に関する条件などは非常に小さな文字で表示されていたり、離れた場所に表示されていたりして、消費者が容易に定期購入であることを認識できないようになっているのが特徴だ。実際に、定期購入に関する相談件数は増え続けており、2015年には4000件あまりだったものが、2020年には6万件近くにまで急増している!
詐欺的な定期購入商法に対して、これまではガイドラインと行政処分のみで直接的な罰則規定はなかったが、今回の特定商取引法改正によって、通信販売における広告表示の義務規定および誇大広告の禁止規定が強化されることになった。さらに、消費者を誤認させるような表示によって行われた申し込みに対して、消費者の取消権を認めることも新たに規定されている。
通販(D2C)事業者から見た改正特商法のポイント
今回の特定商取引法改正は、詐欺的な定期購入商法の被害防止を念頭に置いたものだが、改正特定商取引法の規制対象は定期購入契約だけではなく、単発の売買契約も規制の対象となることに注意してほしい。消費者庁の説明会を視聴した通販(D2C)関係者から驚きの声が上がっていたほど、今回の特定商取引法改正が業界に与える影響は非常に大きい。
今回の特定商取引法改正について、通販(D2C)事業者に影響を与える内容に絞って以下の通りポイントをまとめた。通販(D2C)事業者に直接関係する部分だけでもさまざまな規定が追加されており、かつ規定の内容が非常に細かいことがわかるだろう。
1. 広告表示義務に「申込期間の定め」を追加(法第11条第4号)
今回の改正によって、「申込期間の定め」がある場合は、広告においてもその旨と具体的な期間を表示しなければならないことになった。なお、ここでいう「申込期間の定め」とは、一定期間を過ぎると商品購入自体ができなくなる場合を指しており、一定期間だけ値引きをするといった場合は該当しない。
2. 最終確認画面に、以下の項目を記載する義務を新設(法第12条の6 第1項)
「インターネット通販において、消費者がその画面内に設けられている申込ボタンなどをクリックすることにより契約の申し込みが完了することとなる画面」(いわゆる「最終確認画面」)においては以下の項目を表示することが義務づけられる。
①分量(数量・回数・期間など)
②販売価格・送料
※個々の商品の販売価格だけでなく、複数の商品を購入した場合や送料がかかる場合は、それらも含めた支払総額を表示
③支払時期および支払方法
※銀行やコンビニで振込手続きを行う必要がある場合には、前払い・後払いのいずれであるかに加え、支払期限も明記する
④引渡時期
※発送日や発送日の見込み、あるいは配送日時が指定されている場合はその日時を表示する
⑤申込期間の定めがある場合、その旨と内容(あるとき)
※一定期間を過ぎると商品の購入そのものができなくなる場合のみ
⑥申し込みの撤回・解除に関する事項(あるとき)
※申し込みの撤回や契約解除について、条件・方法・効果などを表示
上記の項目のうち1つでも最終確認画面に表示しないと違反となってしまうだけでなく、不実の表示(事実と異なる表示)をした場合にも違反となってしまう。違反者は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処される(併科あり)ほか、違反を行ったのが法人の従業員であった場合、その法人に対して1億円以下の罰金が科せられる。
また、法第12条の6はネット通販(D2C)だけでなく、カタログ・チラシなどを利用したオフラインの通販(D2C)も適用の対象となっており、オフライン通販(D2C)の場合は申込書面(申込用はがき、申込用紙など)が最終確認画面にあたる。
3.情報の送信が契約の申し込みとなることについて人を誤認させるような表示、最終確認画面で人を誤認させるような表示の禁止(法第12条の6 第2項)
本項は、以下の2つのパターンの表示を禁止するものだ。
- 書面の送付やオンラインの情報送信が有償の契約の申し込みとなることを消費者が明確に認識できないような表示
- 通信販売(D2C)における申込書面や申込画面において、表示事項を表示しており、それが不実の表示ではないものの、その意味するところを誤認させるような表示
新法12条の6第2項の規定に違反して、人を誤認させるような表示をした場合、違反者には100万円以下の罰金が科される。
4. 最終確認画面で人を誤認させるような表示があった場合の取消権の付与(法第15条の4)
法第12 条の6に違反する表示によって消費者が誤認し、その結果として申し込みの意思表示をした場合、消費者は申し込みの意思表示を取り消すことができることが規定された。消費者は以下の場合に申し込みの取消しが可能となる。
- 不実の表示:事実と異なる表示によって、その表示が事実であると誤認した場合
- 表示をしない:表示されていない事項が存在しないと誤認した場合
- 申し込みに関して誤認させるような表示:書面の送付・情報の送信が申し込みにならないと誤認した場合
- 表示事項について誤認させるような表示:表示事項(分量、価格など)について誤認した場合
5. 通信販売における契約解除への妨害行為の禁止(改正法13条の2)
すべての通信販売において、通販(D2C)事業者が契約の申し込みの撤回・解除を妨げるために、以下の行為を行うことを禁止している。
- 申し込みの撤回・解除に関する事項について不実のことを告げる行為
(例)事実に反して「残りの分の代金を支払わなければ解約はできない」と告げる - 契約の締結を必要とする事情に関する事項について不実のことを告げる行為
(例)事実に反して「今、使用を中止すると逆効果になる」と告げる
この改正法13条の2に違反して、不実の告知をした者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処され(併科あり)、違反を行ったのが法人の従業員であった場合は、その法人に対して1億円以下の罰金が科せられることになっている。
Q&Aで改正特定商取引法に関する疑問を解決!
通販(D2C)事業者から見た改正特商法のポイントを一通り紹介したが、法律用語は一般の人には理解しにくいので、「具体的にどのような表示が違反になるのか」「具体的にどのような表示をすればいいか」わからないという人も多いはずだ。通販(D2C)事業者から見た改正特商法のポイントについて、わかりにくい点をより具体的にQ&A形式で解説する。
【Q1】「書面の送付やオンラインの情報送信が有償の契約の申し込みとなることを消費者が明確に認識できないような表示」とは?
例えば、申込はがきで「無料プレゼント」などの文言を強調し、そのはがきが有償契約の申し込みのためのものであることがわかりにくいような場合は、それに該当するおそれがある。
また、ネット通販の申し込み画面において、「送信する」「次へ」といったボタンしかなく、画面上の他の部分でも「申し込み」であることがわかるような表示がない場合、そのボタンをクリックすれば何らかの情報が送信されることはわかっても、そのボタンを押すことが売買契約などの申し込みになるとは認識しにくい。このような場合も、「書面の送付やオンラインの情報送信が有償の契約の申し込みとなることを消費者が明確に認識できないような表示」に該当する可能性がある。
【Q2】「最終確認画面で人を誤認させるような表示」とは?
最終確認画面において、たとえ法律で定められた事項を表示しており、それが事実と異なる内容ではなかったとしても、表示の位置やサイズによって、表示事項が明確に認識できない場合は「最終確認画面で人を誤認させるような表示」にあたる可能性がある。
消費者庁は、「『人を誤認させるような表示』に該当するかどうかは、その表示事項の表示それ自体並びにこれらが記載されている表示の位置、形式、大きさ及び色調などを総合的に考慮して判断される」としており、一律に基準が設けられているわけではない。
例えば、改正特定商取引法で定められた事項を正しく表示していても、その表示が最終確認画面の注文確定ボタンの下に離れて置かれているために、消費者がほかの表示事項と合わせて確認することができない場合などは「最終確認画面で人を誤認させるような表示」に該当するおそれがあるとしている。
また、「特定の文言等の表示のみからではなく、ほかの表示と組み合わせて見た表示の内容全体から消費者が受ける印象・認識により総合的に判断し、消費者が誤認するような表示方法であれば、『人を誤認させるような表示』に該当する可能性がある」とされている。
具体的には、定期購入契約において、初回の分量や価格を強調して表示し、2回目以降の条件をそれに比べて小さな文字で表示する、あるいは離れた位置に表示するなどして、引渡時期や分量などの表示が定期購入契約ではないと誤認させるような場合には「人を誤認させるような表示」に該当するおそれがあるという。
さらに、「お試し」や「トライアル」といった言葉からは、定期購入契約であると容易に認識できないため、定期購入契約においてこうした表現を強調した場合には、「人を誤認させるような表示」にあたる可能性がある。同様に、「いつでも解約可能」などと強調して表示しているにもかかわらず、実際には解約条件などが設けられている場合も、該当のおそれがある。
【Q3】最終確認画面ですべての事項を表示しきれない場合は?
原則として、改正特定商取引法で定められた表示事項は、「消費者が最終確認画面上で一覧できるよう網羅的に表示することが望ましい」とされている。
しかし、商品ごとに販売条件などが異なるなど、表示事項に関するすべての説明を最終確認画面上に表示するとかえって消費者にわかりづらくなる場合には、消費者が明確に認識できることを前提として、「最終確認画面にリンクを設置し、消費者がリンク先のページで当該表示事項を確認できるようにしておく」「最終確認画面上にクリックにより表示される別ウィンドウなどを設置してそこで詳細を表示する」といった対応をとってもよいことになっている。
とはいえ、消費者庁は「インターネット通販における最終確認画面については、購入する商品の支払総額を計算して表示するなど、消費者の入力内容に応じて表示内容を出力することが可能であり、また、画面のスクロールが可能であるため、はがきなどの書面に比してスペース上の制約は少ないことから、原則として表示事項を網羅的に表示することが望ましい」(消費者庁「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」より)としており、表示事項のすべてをリンク先の参照ページで表示するといった対応をしてしまうと、表示義務を果たしていると認められない可能性が高い。
リンクやポップアップで表示事項を確認できるようにする場合は、「キャンセルポリシーについては『キャンセルおよび返品について』をご確認ください」のように、特定の項目だけを別ページで表示するなど、合理的な範囲にとどめておくべきだろう。
ただし、消費者が通常想定しないような解約方法の限定がある場合(電話をしたうえでさらにメッセージアプリを操作するなど)、解約受付を特定の時間帯に限定するといった消費者にとっての不都合・不利益がある場合などは、「リンク表示等にゆだねるのではなく、最終確認画面において明確に表示が必要」とされているので、注意してほしい。
【Q4】定期購入契約の場合、最終確認画面にどのように表示するべき?
改正特定商取引法において、定期購入契約の場合は、「各回の代金(初回と2回目以降の代金が異なる場合、各金額を表記)」「消費者が支払うこととなる代金の総額」「割引価格から通常価格への移行時期や金額」などを、明確に表示しなければならないことになっている。
さらに、各回に引き渡す商品の数量などに加え、契約期間全体を通じて引き渡される商品の総分量を把握できるようにするため、引渡しの回数も記載しなければならない。3か月の定期購入契約であるにもかかわらず、1か月分の分量しか表示していない場合は違反となり、初回と2回目以降の商品の分量が異なる場合には、各回の分量も明記する必要がある。
ただし、定期購入契約が無期限の場合は、あらかじめ契約期間全体を通じた分量や支払額がわからないという問題がある。この場合は、無期限の契約である旨を明確に表示したうえで、「1年間の総分量」「1年間の支払額」など一定期間を区切った分量や支払額を目安として表示することが望ましいとされている。
また、定期購入契約の場合は、以下の解約に関する条件なども表示しておかなければならない。
- 解約の申し出に期限がある場合には、その申し出の期限。解約時に違約金その他消費者にとって不利益が生じる契約内容である場合には、その旨および内容
- 解約方法を特定の手段に限定する場合、その内容
- 解約方法として電話による連絡を受け付けることとしている場合には、確実につながる電話番号
【Q5】タイムセールも「申込期間の定め」表示の対象になる?
改正特定商取引法でいう「申込期間の定め」というのは、「一定期間を経過すると消費者が商品自体を購入できなくなる場合」が該当する。したがって、一定期間の購入に対して値引きをする、付与ポイントを増量する、送料を無料にするといった、「その期間に購入すると有利な条件で購入できるが、その期間を過ぎても商品自体の購入はできるタイムセール」の場合は、「申込期間の定め」には当てはまらない。
もし「申込期間の定め」に該当する(一定期間を過ぎると商品購入自体ができなくなる)場合は、「今だけ」といった表示では不十分で、具体的な期間を明記する必要がある。具体的な期間の表示方法として、「商品名に併記する方法」「バナー表示を置く方法」「リンク先や参照ページ、ポップアップなどで表示される画面等に詳細を記載する方法」などがある。
【Q6】「お試し」「トライアル」「いつでも解約可能」という表現は今後一切使えない?
「お試し」「トライアル」「いつでも解約可能」といった表現を禁止しているのは、あくまでも誤解を招く場合のみであり、実際に1回試すだけの契約や、消費者にとって不利益なしにいつでも解約できる場合には、禁止されていない。つまり、「お試し」「トライアル」「いつでも解約可能」といった表現が事実であれば、改正特定商取引法施行後も、引き続き使うことができる。
このように、さまざまな細かい新規定が盛り込まれた改正特定商取引法は、通販(D2C)事業者に与えるインパクトが非常に大きい! 法改正への対応が遅れ、意図せず違法となってしまわないよう、通販(D2C)事業者には、1日も早い対応が求められている。