品ぞろえ拡充、自社ECと直営店の会員データ一元化、詳細な商品説明――EC売上年間成長率40%のミレーに学ぶオムニチャネル成功のポイント
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オムニチャネルを行うには、システム開発に莫大な費用と時間がかかる――。そんな定説をくつがえし、SaaS型プラットフォームを活用することでシステム開発のコストや開発期間を抑え、オムニチャネルで成果を上げている企業があります。フランス発祥のアウトドアブランド「MILLET(ミレー)」を展開しているミレー・マウンテン・グループ・ジャパンです。
2017年11月にEC事業を開始した同社は、EC売上高の年間成長率が平均40%以上のペースで推移するなど、目をみはる成果をあげています。その急成長の背景には、ECサイトの利便性を高めるためのさまざまな施策に加え、ECと実店舗のポイント共通化や顧客データの統合といったオムニチャネルの取り組みがありました。
ミレー・マウンテン・グループ・ジャパンが描くEC戦略とは? これまで取り組んできた施策や、オムニチャネルを実現した方法と今後の展望について、EC担当の奥村武さんと松浦洋さんにお話をうかがいました。
ミレー・マウンテン・グループ・ジャパン
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イーコマース・マネージャー
奥村 武(おくむら・たけし)氏
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イーコマース・マーケティングスペシャリスト
松浦 洋(まつうら・ひろし)氏
【インタビュアー】
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安原 貴之(やすはら・たかゆき)
アプリのリニューアルやオムニチャネルでEC事業が拡大
フューチャーショップ 安原(以下、fs安原): 本日はミレー・マウンテン・グループ・ジャパンさんが手がけているEC事業やオムニチャネルの取り組みをうかがいます。まずは御社の事業概要を教えてください。
ミレー・マウンテン・グループ・ジャパン 奥村さん(以下、奥村さん):弊社はフランス発祥のアウトドアブランド「ミレー」を1992年から日本で展開している会社です。登山を中心としたアウトドア用のリュックやウェア、アクセサリーなどを販売しています。
日本市場向けにローカライズした商品も多く、国内売上高の約7割は日本規格の商品です。「ミレー」のブランドコンセプトを踏襲しながら、日本人の体型や、日本の気候に合ったウェアやリュックなどを商品化してきました。プロの登山家から、趣味でアウトドアを楽しむ方々まで、年齢や性別を問わず幅広いお客さまにご愛用いただいています。
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fs安原:どのような流通経路で商品を販売しているのでしょうか。
奥村さん:流通経路は、卸先の販売店、直営店、ECの3つです。
登山専門店やスポーツ用品店を中心に卸売りを行っているほか、直営店8店舗をアウトレットモールに出店しています。EC事業は公式オンラインショップ「MILLET」のほか、「楽天市場」店と「Yahoo!ショッピング」店の合計3店舗を運営しています。
fs安原:EC事業の現状や、運営体制を教えてください。
奥村さん:EC事業を開始した2017年11月に自社ECサイトをオープンし、その後、2020年に「楽天市場」、2022年に「Yahoo!ショッピング」に出店しました。
EC事業のメンバーは私と松浦を含めて4人です。マーケティングやプロモーション、コンテンツ制作などは主に社内で行い、商品撮影や商品登録、物流といったバックヤード業務はパートナー企業にもご協力いただいています。
fs安原:EC事業が急成長しているそうですね。
奥村さん:2018年から2024年まで、EC売上高の年間成長率は平均40%以上のペースで推移しています。EC売上高の約6割を占める自社ECサイトを中心に、さまざまな施策を打ってきたほか、オムニチャネルに着手したことでECの成長に弾みがつきました。
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ECと直営店のポイントを共通化、会員データの一元化も実現
fs安原: オムニチャネルの進捗状況をお聞かせいただけますか?
奥村さん: 2023年8月に自社ECサイトと直営店のポイントを共通化したほか、会員データも一元化しています。
ポイントの共通化と会員データの統合は、ポイント・顧客一元管理システム「CROSS POINT(クロスポイント)」を使いました。また、2022年に導入したアプリプラットフォーム「MGRe(メグリ)」をアップデートし、会員登録したお客さまの情報を自社ECサイトの会員情報と紐付けることで、ECと直営店の会員データを統合しています。
「CROSS POINT」と「MGRe」は「futureshop」と連携しているため、こうしたオムニチャネルの仕組みをスムーズに実現することができました。今後は直営店の在庫数をアプリで閲覧できるようにすることも検討しています。
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fs安原:自社ECサイトと直営店の会員データを一元化したことで、CRM施策の幅も広がったのではないでしょうか。
奥村さん:そうですね。以前は実施できなかったCRM施策にも取り組めるようになりました。たとえば、ECと直営店の両方の購買実績にもとづいてRFM分析を行い、セグメントごとにアプリでコンテンツを出し分けるといった施策を行っています。また、会員さまの居住地域に合わせて、近隣の実店舗のセール情報をアプリで通知するなど、O2Oの施策も取り入れました。
ミレー・マウンテン・グループ・ジャパン 松浦さん(以下、松浦さん):アプリのプッシュ通知やメルマガ、LINEなどを活用してコンテンツの発信にも力を入れています。新商品の情報やキャンペーン、クーポン、読み物など、さまざまなコンテンツをお届けし、お客さまが便利に楽しく買い物をしていただけるように工夫してきました。
ECのリピート率を上げるには、お客さまと継続的にコミュニケーションをとることが欠かせません。お客さまにとって「ミレー」が第一想起になるように、適切な形でコンテンツを届けていきたいと考えています。
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アプリ会員の獲得に店舗スタッフが大きく貢献
fs安原:CRM施策の成果を上げるには、アプリ会員の人数を増やしていくことも重要ですね。
奥村さん:おっしゃる通りです。「ミレー」のアプリは、会員登録していなくても店頭での会計時にポイントがたまります。こうした機能はアプリのダウンロード促進には有効ですが、CRMの施策を打つには、会員登録も行っていただくことが重要です。
fs安原:会員登録を行っていただくために、工夫していることはありますか?
奥村さん:アプリのダウンロード用のQRコードを店頭に設置し、店舗スタッフがお客さまにアプリをご案内しています。店舗スタッフがお客さまにアプリの利便性を伝えるとともに、アプリ会員になると誕生月クーポンなどの特典を受けられることや、新規登録特典としてECで使える送料無料クーポンを付与していることを説明しています。
店舗スタッフによるこうした取り組みを始めた結果、アプリのダウンロード数はそれ以前の3倍以上に増えました。現在、アプリダウンロードの9割以上は店頭経由です。
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ECサイトは「品ぞろえ」と「情報発信」で実店舗を補完
fs安原:オムニチャネルを推進する上で、ECと実店舗の相乗効果を生み出すために、ECサイトの運営で意識していることはありますか?
奥村さん:意識していることは多岐にわたりますが、重視していることの1つは品ぞろえを充実させることです。
実店舗は物理的な制約もあり、すべてのSKUの在庫がそろっているわけではありません。ECサイトではロングテールの商品を含めて、できるだけ多くの商品を掲載することで、実店舗にない商品を探しにきたお客さまのニーズに応えています。
また、ECサイトでは写真や動画、文章を駆使して商品の機能についても詳しく説明しています。「ミレー」の商品は保温性や防水性、通気性、伸縮性、防虫効果など、さまざまな機能を備えています。店頭ではお客さまに伝えきれない商品の機能や素材の特徴などをわかりやすく伝えることも、ECサイトの役割だと考えています。
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ECとブランディングを両立するコンテンツ制作の仕組みとは?
fs安原:「ミレー」の公式サイトは、ブランドサイトとECサイトを統合していますね。ブランディングとECを両立させる上で、工夫していることや意識していることはありますか?
奥村さん:コンテンツの制作において、複数の部署が連携し、それぞれの強みを生かしています。
たとえば、トップページの制作はブランディングの知見に長けたマーケティング部門が担当しています。また、商品の機能を詳しく説明するコンテンツは、商品部に協力を仰ぎながら制作します。そして、商品ページや購入動線の設計などはECの部署が担っています。
このように、部署を横断してコンテンツを制作することで、実店舗とECで統一されたブランドの世界観を表現しながら、ショッピングの利便性も高めています。
fs安原:ブランドサイトとECサイトを統合することで、どのようなメリットがあると考えていますか?
奥村さん:サイトを統合するメリットの1つは、ブランドサイトとECサイトを行き来するユーザーの離脱を防げることです。サイトが2つに分かれていると、ページ遷移の回数が増え、ユーザー動線が複雑になるため、離脱率が上がりやすくなるでしょう。
fs安原:SEOの観点でも、ブランドサイトとECサイトを統合した方が有利だと言われています。
奥村さん:そうですね。検索エンジンからの集客という観点でもブランドサイトとECサイトを統合する効果は大きいと思います。
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「Amazon Pay」やWeb接客システムなど外部ツールも積極的に導入
fs安原:「ミレー」の自社ECサイトにWeb接客ツールを導入するなど、外部サービスも積極的に取り入れていらっしゃいますね。
奥村さん:ECの技術は日進月歩ですから、いろいろなツールを試しながら、お客さまにとって便利なECサイトをめざしています。
たとえば2024年5月には、商品情報から自動でハッシュタグを生成する「awoo AI(アウーエーアイ)」とWeb接客ツール「MATTRZ CX(マターズ シーエックス)」を活用し、ハッシュタグで商品を検索できる取り組みを開始しました。
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fs安原:決済サービスの「Amazon Pay」も導入していますね。
奥村さん:「Amazon Pay」は自社ECサイトの売上拡大に大きく貢献しています。
「Amazon Pay」はAmazon IDを使って「ミレー」の自社ECサイトでログインや決済を行えるため、新規のお客さまは買い物の際にクレジットカード番号などを入力する必要がありません。入力フォームでのカゴ落ちを防げるため、ECサイトのコンバージョン率向上につながっています。ちなみに、「ミレー」の自社ECサイトにおける「Amazon Pay」の決済シェアは、クレジットカードに次いで2番目に高いです。
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倉庫への出荷指示や返品対応を自動化
fs安原:受注処理の効率化も実現したとうかがいました。
奥村さん:ECサイトの受注管理システムとWMS(倉庫管理システム)を連携し、出荷指示が倉庫側へ自動的に送られるようにしました。現在は8割以上の注文が自動的に処理されています。
自社ECサイトと「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」の受注データは以前から「CROSS MALL(クロスモール)」で一元管理していましたが、このたび受注データをWMSと連携したことで、運用の手間がさらに軽くなりました。
また、弊社が休みの土曜日や日曜日に入ってきた受注データも自動的に処理されるため、土曜・日曜の出荷が可能になり、配送リードタイムを短縮することができました。
松浦さん:業務効率化の一環で、返品対応を自動化するサービス「Recustomer(リカスタマー)」も導入しました。返品対応の業務負荷が軽くなりましたし、お客さまにとっては返品や交換の手順が簡素化され、より使いやすいECサイトになったと思います。
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実店舗とECの垣根を意識させないショッピング体験の実現へ
fs安原:最後に、EC事業の抱負をお聞かせください。
奥村さん:「ミレー」の商品を愛用してくださっているお客さまに、より便利に楽しく買い物をしていただけるように、ECサイトのコンテンツを充実させ、UI・UXの改善を加速させたいと考えています。
オンラインで買い物をすることが当たり前になり、オムニチャネルへの対応も求められようになったことで、ECサイトの役割も変化していると思います。実店舗とECの垣根を意識させないショッピング体験を実現するために、EC担当者として何ができるのか。そういったことも考えながら、日々の仕事に取り組みたいです。
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編集後記
今回のインタビューでは、アウトドアブランド「MILLET」のEC事業が伸びている要因について、施策や運用体制、バックヤード業務を効率化する方法まで、さまざまなお話をうかがうことができました。こうした知見は、アパレルECはもちろんのこと、それ以外の商材においても、自社ECサイトの売り上げを伸ばすヒントになったのではないでしょうか。
また、自社ECサイトと直営店のポイントを共通化するとともに、会員データを統合してCRM施策を推進している同社の取り組みは、オムニチャネルの1つの形として示唆に富むものでした。オムニチャネルを推進している事業者さんや、これからオムニチャネルに着手する事業者さんは「MILLET」の成功事例をぜひ参考にしてください。
この記事はフューチャーショップのオウンドメディア『E-Commerce Magazine』の記事を、ネットショップ担当者フォーラム用に再編集したものです。