楽天が老舗ファッションEC企業を吸収合併する理由とは? スタイライフ・松山副社長に聞く
既報(参照記事)の通り、ファッション通販サイトを運営するスタイライフは4月1日付で、親会社の楽天と楽天スーパーロジスティクスに事業を譲渡し、吸収合併する。スタートトゥデイ、マガシークなどと並び、ファッションEC業界をけん引してきたスタイライフが消滅することは、EC業界に関わる人に大きな衝撃を与えた。スタイライフの松山奨取締役副社長に吸収合併の決定に至るまでの経緯、今後の事業構想などを聞いた。
ファッションブランドから信頼を得られた14年の取り組み
――吸収合併の決定に至る経緯や理由を教えてください。
楽天の持つ経営資産などさまざまなリソースを共有することで、より一層効率的な事業運営が実現可能になることが最大の理由です。
吸収合併の構想は、2012年5月にスタイライフが楽天グループに入った当初からありました。ただ、ブランド側からは「本当に楽天はファッションのことがわかるのか」「安売りしようとするだけではないのか」といった不安の声があり、まずはブランド各社から信頼を得る必要があったのです。この1年間の取り組みで、ファッションブランド各社から信頼を得ることができたため、合併を推し進めることになりました。
また、2014年度は営業利益・最終利益ともに黒字転換するなど、数値的側面からも体制が整ったといえます。そういった背景もあり、楽天としてもさらにファッション分野に力を入れていくという意味で、4月1日から楽天内で事業展開することになりました。
――ファッションブランドから信頼を得ることができたこの1年間の取り組みとは。
ファッションブランドにとって「楽天市場」は、「アウトレット」や「セール」のイメージが強く、「自社の商品をブランドイメージを崩さずに売ることができない」と映っています。そのため、まずはブランド企業に「楽天ブランドアベニュー」はしっかりとブランドの世界観を打ち出せるファッションサイトであることを印象付ける必要がありました。
「楽天市場」では出店者が自社のサイトデザインなどを決め、ページデザインを制作します。しかし、「楽天ブランドアベニュー」では、当社の担当者がブランド企業の担当者と綿密な打ち合わせを行い、ブランドの世界観を表現したページをブランドごとに制作しています(1ブランド1ショップ)。また、ブランド名で検索した際、一番上に「楽天ブランドアベニュー」の公式ショップを表示するようにし、ブランド企業に公式ショップのメリットを感じてもらえるようにしました。こうした、“1ブランド1ショップ”は現在46ブランドで実施しています。
「楽天ブランドアベニュー」では、シーズンや商品をピックアップした特集を増やしてきました。「楽天市場」のファッションを見てみると、送料無料やセールといった特集が多いのですが、「楽天ブランドアベニュー」では「春物アウター」「秋冬シューズコレクション」といった特集を行うことで、ブランドが打ち出したいポイントを訴求できるようにしました。また、こうした特集を始めた結果、これまで「楽天市場」ではなかなか売れにくかった冬物コートなどの商品も売れるようになってきています。
こうした取り組みを行う上で、当社の担当者は熱心にブランド企業に足を運び、何度も打ち合わせをしました。「楽天市場」のECコンサルタントもそうですが、楽天の強みは社員の熱心さにある。こうした熱心さに触れたことで、さらに信頼感を得られたのではないかと思います。
これが2014年上期の主な取り組みとなります。
――2014年下期に「楽天ブランドアベニュー」の取り組みとして推進してきたことは。
ブランドの世界観をしっかり打ち出すことができた、いいページができたとしても、実際に売り上げにつながらなければ本当の意味で信頼は得られません。そのため、下期はブランドの売り上げを高めるための取り組みを強化してきました。
なかでも、「楽天スーパーDEAL」とは相性がよく、多くのブランド企業が取り組んでいます。「楽天スーパーDEAL」は定価で販売し、ポイントで還元するというビジネスモデルです。定価で販売するため、ブランド価値を損なうことなく販売でき、ユーザーに対して楽天のポイントを付与できるという点で、多くのブランドから評価いただいています。単に在庫の多い商品を出品するだけではなく、コーディネート一式を販売したり、売れている商品を出品することで、まずはお客さまに自社の商品を買ってもらうきかっけとして「楽天スーパーDEAL」に取り組むブランドも出てきています。
楽天スーパーセールでも売り上げを伸ばすブランドが増えてきています。単純に割引を行うのではなく、2点買えば○○%OFFといった企画や、1時間だけのタイムセールなど、ブランド価値を損なわない範囲でのセールを実施することで、大きく成長しています。2014年末のスーパーセールの「楽天ブランドアベニュー」の流通額は前年に比べ数倍規模。参加しているブランドも多くなっています。
こうした取り組みで、「楽天ブランドアベニュー」に出店している主要ブランドのほとんどが、「楽天ブランドアベニューは売れる場所だ」という認識を持っていただけたと思っています。
2015年中に100ブランドの専門サイトを作る
――イメージも守れ、売れる場所ということになれば、出店したいというブランドも増えてくる。実際、ブランドの出店希望は増えているのでしょうか。
ここにきて出店したいというブランドは急激に増えています。ただ、当社としては、最低ロット数など綿密に審査する必要がありますので、慎重に出店数を増やしているところです。一方、大手セレクトショップやメーカーのなかには、まだ出店いただけていないところもありますので、そうした大手ブランド企業にはスタイライフ側からお声がけをしていかなければならないと思っています。
――1ブランド1ショップでページの展開ができるブランドは、基本的に大手ブランドだと思います。出店を希望している中小のブランドはどのような販売から始まるのでしょうか。
基本的にまずは「スタイライフ」のなかで販売を始めていただき、売れ行きが良くなったり、商品数が増えてきた、または旬のブランドになってきたという状況になれば、ブランド企業と相談し、専門のショップを作るようにしています。
――楽天に吸収合併する4月以降の展開を教えてください。
まずは1ブランド1ショップ展開をさらに強化し、2015年中に100ブランドの専門サイトを作りたいと思っています。
また、「楽天スーパーDEAL」とはかなり相性がよく、ブランド企業からも数多く出品したいというニーズが強いため、「楽天スーパーDEAL」を強化することで、より多くの商品を取り扱っていけるようにしていく予定です。
また、海外向け販売にも力を入れていきます。特に台湾、香港、中国への販売に関しては、日本のブランドへの興味・関心が高いと聞いている。その際、ライセンスの問題などもありますので、ブランド企業と綿密に打ち合わせながら進めていこうと考えています。