7月21日に米国で正式にオープンしたばかりのマーケットプレイス「Jet」について、その誕生の経緯と会員を増やすために取ったマーケティング戦略を前編で紹介した。

後編では、「Jet」のマーケットプレイスの中身を覗いて、そのビジネスモデルと同社が「オンライン上のどこよりも低価格で商品を提供する」という約束をどのように果たそうとしているのかを見ていこう。

「Jet」のビジネスモデルを考察することで、日本でのAmazon対策、競合対策のアイデアのヒントを得ることができるかもしれない。

「Amazon」よりも「Jet」が価格面で魅力的な理由はなぜ。そのビジネスモデルを研究①
Amazonの最強の対抗馬と評判の「Jet」

Jetのビジネスモデルのポイント

  • 出店者から徴収する手数料は、商品価格をさらに下げる目的に利用し、顧客に利益を還元
  • 買いたい商品については、ベンチマーク価格として「Amazon」での販売価格をサイト内に表示
  • 配送関連の利便性を犠牲にして価格面での競争力を優先
  • 単なる値引きではなく、さまざまな買い物方法によってディスカウントする仕組みを構築
  • 1つの店舗で購入するほど割引額は大きくなる

「Jet」は審査の上、信頼できると判断した現在約1300の小売業者と提携してネットワークを組んでいる

「Jet」が参考にしたコストコは実店舗で営業しているため、商品を業者からコストコの各店舗に搬入する必要があるが、オンラインで運営する「Jet」にはその必要がない。

「Amazon」よりも「Jet」が価格面で魅力的な理由はなぜ。そのビジネスモデルを研究②
「Jet」は現在約1300の小売業者とネットワークを組みマーケットプレイスを展開

歯磨き粉、生理用ナプキン、朝食用シリアル、ペットフードなど、顧客がなるべく早く届けてほしいと希望すると思われる商品については、現在2か所に配置した「Jet」の倉庫に在庫をキープしている。注文が入ると、近い方の倉庫から顧客に出荷し、2日以内に配達する。それ以外の商品は小売業者から顧客に直接出荷される

「Amazon」や「eBay」などのマーケットプレイスでは、同一商品を複数の売り手がそれぞれの設定した価格で販売しているが、「Jet」では売り手が複数いても、1つの商品につき対応する登録情報は1件のみ。商品説明を見ても、その商品の販売と発送をどの小売業者が担当しているのかは分からない仕組みだ。

「Amazon」よりも「Jet」が価格面で魅力的な理由はなぜ。そのビジネスモデルを研究③
「Jet」ではどの小売業者が販売と配送を担当しているのか、商品説明からわからない仕組みを採用

これは会員が買物を終えてチェックアウトするとき、「Jet」が独自開発したソフトウェアが働き、カートに入っているすべての商品を評価した上で、注文をする会員にとって最も経済的に満たせる小売業者を選び出すシステムになっているためだ。

サプライチェーンの専門家たちは「送料無料が本当に無料なことはない」という言葉をよく口にする。小売業者にとって顧客に商品を発送するためにかかるコストは非常に高い。そこで送料無料をうたいながら、商品価格に送料を上乗せしている場合が実はほとんどなのだ。

小売業者も消費者も「価格」については個々の商品単位で考えがち。だが、いくつもの商品をまとめて配達するためにかかる物流コストを最低限に抑えるという視点で考えることで、より大きなコストダウンが可能になる

Jet社CEO、Mark Lorie氏

同じ商品をまとめて買う顧客に大量割引を提供している例は珍しくないが、「Jet」では商品は異なっても、1つの小売業者の持つ在庫のなかからより多くの商品を購入する顧客ほど、価格面で優遇するシステムになっている

「Jet」は商品が売れるごとに一定の手数料を業者から徴収するが、商品価格に「Jet」の利益を上乗せすることはしていない。業者から徴収した手数料は商品価格をさらに下げる目的に利用し、顧客に利益を還元することを方針として打ち出している

いずれは会員からの年会費だけで利益を上げられるようになることが目標だという。

「Jet」が提供する5つの節約方法の仕組み

「Jet」で買い物をするには会員登録する必要がある。会員料は年49.99ドル(約6000円)。現在はトライアル期間として3か月間無料で利用できる。ただし現在は米国内にしか対応していない。

「Jet」を利用した場合に、消費者はどのくらい節約できるのか見てみよう。

節約方法1:基本的にどの商品も他のサイトで購入するより低価格

商品の価格はどれもオンライン上のどの店舗よりも平均して5~6%低く設定されている。

食料品のコーナーで「Jifブランドのピーナッツバター(16オンス)」を1つ購入してみよう。

「Amazon」よりも「Jet」が価格面で魅力的な理由はなぜ。そのビジネスモデルを研究④
画像右下に、Amazonでの販売価格が表示されている

商品画像の右側には、ベンチマーク価格として「Amazon」での同製品の販売価格「2.48ドル」が表示されている。確認のために「Check」をクリックすると、「Amazon」で販売されている該当製品のページにジャンプする。

「Amazon」では、この商品が12個セットで29.76ドルで販売されていた。1個当たりの価格は確かに2.48ドル。「Jet」では「-0.10 off」と表記されているので、販売価格はAmazon価格より0.10ドル安い「2.38ドル」になる。

また、この商品の名前には緑に白抜きのドル記号が表示されている。

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スマートアイテムが表示されていると、次回購入時にディスカウントを受けることができる

これは「スマートアイテム」(上の画像)であることを意味する。スマートアイテムを1個カートに入れると、次のスマートアイテムを購入する際、より大きなディスカウントを受けられる仕組みだ。

上のピーナッツバターを「Add to Cart」をクリックして、カートに入れてみた。

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ピーナッツバターをカートに入れると、送料込みで合計金額は8.37ドル

この1品だけでチェックアウトした場合は、送料5.99ドルが加算され、合計8.37ドルとなる。

節約方法2:購入すればするほどスマートアイテムが増え、ディスカウント率も上がる

2品目としてAmazon価格よりも2.24ドルお買い得になっているトイレットペーパーをカートに入れてみよう。この商品もスマートアイテムである。

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「Amazon」よりも「Jet」が価格面で魅力的な理由はなぜ。そのビジネスモデルを研究⑧
買い物すればするほどより多くの商品がスマートアイテムに変わり、ディスカウント率も上がる

カートに入れると「164万3141点の商品で割引率が増加しました」というメッセージが表示された。買い物をすればするほどより多くの商品がスマートアイテムに変わり、ディスカウント率も上がっていく。つまり同じ商品でも買い方によって価格が変動するのだ。

たとえば、上のトイレットペーパーの割引額は2.34ドル(ピーナッツバターをカートに入れている)。一方、その前にピーナツバターをカートに入れていない場合では、割引額は2.24ドルではなく2.03ドルに減少する。

「Amazon」よりも「Jet」が価格面で魅力的な理由はなぜ。そのビジネスモデルを研究⑨
ピーナッツバターをカートに入れていないと、トイレットペーパーの割引額は2.03ドル(入れた場合の割引額は2.24ドル)

逆にピーナツバターより高額なスマートアイテムである液状洗剤を先にカートに入れていた場合には、トイレットペーパーは2.37ドル割引される。

「Amazon」よりも「Jet」が価格面で魅力的な理由はなぜ。そのビジネスモデルを研究⑩
高額なスマートアイテムである液状洗剤を先にカートに入れていた場合、トイレットペーパーは2.37ドルの割引

節約方法3:35ドル以上購入すれば、送料無料

さらに27.04ドルの「サッポロ一番みそラーメン(24個パック)」をカートに追加してみた。

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35ドル以上を購入すると、送料と返品にかかる費用が無料になる

1回の買物で35ドル以上を購入すると、送料と返品にかかる費用が無料になる(ただし返品できない商品もある)ので、この買い物の合計金額は37.19ドルとなった。

Amazonで購入するよりも全体で3.36ドルの節約だ。

節約方法4:返品の権利を放棄すると、さらにディスカウント

「Amazon」よりも「Jet」が価格面で魅力的な理由はなぜ。そのビジネスモデルを研究⑫
返品可能の商品の返品権利を放棄するとさらなるディスカウントが受けられる

カートに入れた3つの商品のうち、トイレットペーパーは返品可能になっている。この商品を返品する権利をこの段階で放棄すると、さらに0.09ドルのディスカウントを受けられる。

ちなみに、トイレットペーパーはオープンしてからの最初の10日間で「プロテインバー」に続いて2番目に多く売れた商品だという。

節約方法5:支払い方法によってさらにディスカウントも

支払いで「Visa」または「Master Card」のクレジットカードを使うと0.25%、デビットカードならば1.5%のディスカウントをさらに受けられる。

「Amazon」よりも「Jet」が価格面で魅力的な理由はなぜ。そのビジネスモデルを研究⑬
支払い方法によってディスカウントが受けられる

こうした節約方法を賢く組み合せて利用することで、最大20%の節約になると「Jet」では説明している。

「Jet」と「Amazonプライム」の比較

「Amazon」よりも「Jet」が価格面で魅力的な理由はなぜ。そのビジネスモデルを研究⑭
「Jet」と「Amazonプライム」の比較

ブルームバーグは、Amazonの会員制プログラム「Amazonプライム」との比較をしている。上記の表からも読み取れる「Jet」のアドバンテージは「Amazonプライム」の約半額となっている会員費用だ。

取り扱い商品の数は現在「Amazon」の2000万点に対し、「Jet」は780万点で「Amazon」の半分に満たない。しかし、どの商品も「Amazon」よりも低価格であるということであれば、顧客の満足度は非常に高いだろう

配送関連は「Amazonプライム」の圧勝だ。送料は常に無料で、2日以内に配達される。「Amazonプライム」に入っているのなら、思い立ったときに商品1個だけでも注文するのをためらう必要がない。

一方、「Jet」では最低35ドル分の商品を購入しなければ送料無料にならない。そのため、ある程度買いたいモノが溜まるまで購入が先延ばしにされるケースも多くなるだろう。

このように比較してみると、前編で紹介した創業者のコメント通り、「Jet」が配送関連の利便性を犠牲にして価格面での競争力を優先していることがよく分かる

いずれにしても始まったばかりのサービスだ。まだまだ磨かれていくだろう。「Jet」はよりお得な買い物を求める新しい層をネットの世界に呼び込むことはできるだろうか? 今年、最も注目すべきECサイトの1つであることは間違いない。

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尼口 友厚

株式会社ネットコンシェルジェ

尼口 友厚(あまぐち・ともあつ)

株式会社ネットコンシェルジェ CEO プロダクト・マーケティング責任者

明治大学経営学部卒。米国留学からの帰国後、デザイナー/エンジニアとしての活動を経て、2002年に国内有数のウェブコンサルティング会社「キノトロープ」に入社。

2003年同社関連会社としてネットコンシェルジェを設立。eコマースとブランディングを専門領域とし、100億規模の巨大ECサイトからスタートアップまで150を超えるクライアントを抱える。現在は、ショッピングSNSサービス「Cart」を運営する。趣味はブラックミュージック鑑賞。

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