尼口 友厚 2015/7/1 8:00

以前、私が運営しているブログで、1機のプライベートジェットに別々のグループが相乗りできるようにしたシェアリングサービス「JumpSeat」を紹介した。現在「シェアリング」は庶民の手の届かない贅沢を楽しんでいる富裕層にも広く普及し、別荘やクラシックカーなど、さまざまな高級品がシェアされるようになっている。

今回紹介する「Eleven James」は、この「シェアリング」を高級腕時計に適用したサービスだ。同サイトの利用者はメンバーになると、数か月に1回ほどのペースで次々に別の高級腕時計を身につけることができる

高級腕時計のシェアリングサービスサイト「Eleven James」
「Eleven James」のサイトイメージ

高級腕時計はプライベートジェットに比べると不特定多数でシェアするのに向かない商品のように思えるが、これまでに227万ドル(約2億7240万円)の投資を獲得。また昨年の年間売上においては正確な数字は明らかにされていないが、7桁(数百万ドル=数億円)に到達したと報道されている。同サイトはどのようにして利用者たちからの支持を得ているのだろうか。

高級腕時計のコレクターも、毎年購入しつづけるのは大変

【この記事のポイント】

ただのレンタルではなく、定期的な購入の負担をちょっとだけ和らげるという価値を提供するレンタルサービス。「Eleven James」の強みは、そうした“できそうでできなかった”微妙なニーズに応えたことにあると言える。

「Eleven James」の創設者Randy Brandoff氏
「Eleven James」の創設者Randy Brandoff氏

「Eleven James」の創設者は高級腕時計の愛好家でもあるRandy Brandoff(上写真、以下ブランドオフ)氏。同氏は高校時代に親友がブルーフェイスのオーデマピゲ・ロイヤルオークを見せてくれたのがきっかけで高級腕時計にはまるようになり、20代になると自分でも数年ごとのペースで腕時計を購入、コレクションするようになったそうだ。

ところが、ブランドオフ氏の収集ペースはやがて鈍ってしまった。常にもっとたくさんの腕時計に接し、「それぞれのブランドやモデル、スタイルなどを楽しみたい」と思っていた。

ところが、彼が購入する腕時計はかなり高価なため、次々に腕時計を買っては身につけ、ブランドやスタイルをつぎつぎ満喫していく……という楽しみ方は到底できなかったのだ。

こうした不満が募るうちに、ブランドオフ氏は腕時計を購入することなく、「次々に試せるような方法があったら良いのに」と考えるようになった。

こうした願望を叶えるサービスのアイディアは、偶然にも勤務先において見つかった。ブランドオフ氏は「JumpSeat」の競合でもあるプライベートジェットサービス「NetJets社」に勤めており、現場で富裕層の顧客たちと身近に接する内に、高級品のシェアサービスのニーズが日々高まっていることを実感したという。

高級品のターゲットとなる顧客たちが、自分で所有するよりもシェアすることに関心を持っているのを知ったんだ。プライベート・ジェット、別荘、クラシックカー、その他長い間「財産」とみなされてきた貴重品が、さまざまなクラブを通して簡単にアクセス可能になり、シェアできるようになっていたんだよ。(ブランドオフ氏)

高級品は購入するよりもシェアして楽しむ――こうしたトレンドの高まりを肌で感じたブランドオフ氏は、「ならば高級腕時計もシェアサービスで取り扱ってみたら受け入れられるのではないか」と考えた。

その際には「腕時計を購入せず、ずっとレンタルし続ける」といったものではなく、時計の収集を補完するようなサービスを想定したという。

たとえば1年に1個ずつ、高級腕時計を買っている利用者がいるとするよね。そういう人がちょっとたくさん買い込み過ぎてるな、と感じたら、僕たちのレンタルサービスを使えば、2~3年ごとに買うぐらいに頻度を落として、その分をリースで補うことができると思ったんだよ。(ブランドオフ氏)

高級腕時計がレンタルできるサービスは「Haute Vault」や「the D&C Watch Company」といった米国系のサービスがあったが、これらの会社は保険などの問題で海外では利用できない。またヨーロッパにはハイエンドな腕時計を販売するディーラーが存在していても、レンタルを行っている業者はいなかった。

そこで、ブランドオフ氏は高級腕時計レンタルサービス「Eleven James」を開始。ロレックス、オーデマピゲ、カルティエ、パテックフィリップなどの腕時計を取り扱うことに成功すると、やがてサービス範囲を英国にも拡大した。現在でも競合他社がまだ手を出していない海外市場に力を入れており、米国以外の利用者にもできるだけ対応しているようだ。

年間3~6個の時計をレンタルできるサブスクリプションサービス

「Eleven James」で送られてきた商品
「Eleven James」では利用者の腕にきちんとフィットする腕時計が送られてくる

「Eleven Jame」でレンタルで可能な腕時計はロレックス、ブライトリング、カルティエ、IWCなど30以上のブランドで、合計100を超える高級モデル。ただ、高級腕時計を使い回しているのではなく、あらかじめ利用者とサイズのすり合わせが行われ、利用者の腕にきちんとフィットする腕時計が送られてくるという。

なお、同サイトはレンタルサービスでありながら1年単位のサブスクリプション制を採用。メンバーになると、キュレートされたコレクションのなかから、「4か月ごと」あるいは「2か月ごと」に時計が1つ届けられる仕組みになっている。新しい時計が届けられたときにはそれと引き換えに、前回借りた時計を返却する。

「Eleven James」では高級腕時計がずらりと取り扱われている
「Eleven James」は高級腕時計を取り扱っている

もともと、気に入った時計をサイトで見つけて購入のきっかけとすることを想定したサービスであるため、借りた時計を気に入った場合は返却せずに買い取ることも可能だ

こうした利用スタイルは顧客側も共有し、サービスを利用し始めたメンバーの85%が、「1年以内に腕時計を購入すると思う」と答えている

それぞれの料金プランについて例を用いて見てみる。

  • 7000~1万5000ドル(約84万~180万円)クラスの腕時計をレンタルする「Afficionadoコレクション」にて時計を年間6個交換するプランを選択したとき
    → 月額449ドル(約5万3880円)かかるとある。1年契約にするとやや割安になるが、それでも4850ドル(約58万2000円)で、1月あたり404ドルかかる計算
  • 3万~5万ドル(約360万~600万円)クラスの商品を扱った「Virtuosoコレクション」で年間6個交換するプランを選ぶと
    → 1年に支払う総額は1万7250ドル(約207万円)

このように少々割高のサービスではあるが、ブランドオフ氏は「Eleven James」のサービスに価値を見い出す利用者は多いと語る。同氏によると、サブスクリプションを申し込む顧客は3種類の富裕層に分けられるそうだ。

【1種類目 → 高額所得を得ているが、高級腕時計についての知識や経験が浅いという若めの利用者】

購入後の後悔を防ぐために、できるだけ多くの時計に触れて、自分にふさわしい一品を見つけたいというニーズ。「Eleven James」登録時にはスタッフがそれぞれの顧客に直接対応し、好みや希望を聞いて、その顧客のプロフィールを作成。それをもとにお勧めの時計を教えたり、時計選びのアドバイスを与えている。時計に関する相談に応えるコンシェルジュも用意されているため、初心者であっても安心だ。

【2種類目 → 数十万ドル(数千万円)の年収がある中年の企業幹部といった利用層】

子供たちがプライベートスクールに入学するなど、これまでよりも出費が増える時期に入り、生活費を締める必要が生じたが、高級腕時計の趣味はあきらめたくないという理由からの入会者が多いという。

【3種類目 → すでに高級腕時計を数多く所有しているが、あまりに時計が多すぎて、ほとんどの時計は箱に入れたまま出番のない状況に置かれている資産家】

コレクションをこれ以上安易に増やすのは控えたいが、一方でまだ手にしたことのない時計に触れてみたいというニーズからの入会が多いそうだ。

こうした富裕層にとっては、パートナー関係にある企業のサービスをメンバー価格で利用できることや、会員限定のイベントに参加できるといった特典があることも大きい。なかでも、パーティーやイベントを定期的に開催しているため、会員たちはスーパーボールパーティー、ファイナルフォーパーティーなどに参加。同じような嗜好を持つ富裕層とのコネクションを作ることができる。

「Eleven James」ではリアルイベントも主催する
「Eleven James」が主催するリアルのイベント

時には、「自分たちの時計を交換する」という催しもあるそうだ。

これらのイベントは多くの利用者に愛され、「Eleven James」の大きな強みとなっているとブランドオフ氏は語っている。

利用者同士のニーズが近く、人脈作りに活用できることも、こうした高級シェアリングサービスの価値の1つだろう。

定期的に購入する負担をちょっとだけ和らげる、という価値に着目

「Eleven James」はレンタル料金が高く、利用し続けていても腕時計が手元に残るわけではない。そのため、顧客となる人をかなり選ぶサービスであるといえるだろう。同じコレクターでも、「自分の部屋にコレクションを飾って並べたい」という利用層に対しては訴求力はない。

腕時計を専門に扱うオンラインマガジの「Hodinkee」でも、同サイトのコンセプトの面白さは認めながらも、「僕には用のないサービスだ」という意見が目立っている。

しかしブランドオフ氏のように、自分で腕時計を持つ「所有欲」よりも、さまざまなブランドを愛し、「いろんなものを実際に身につけてみたい」という想いを優先する「高級腕時計ブランドのフリーク」、あるいは「毎年腕時計を購入していて、もっと数々の腕時計に接したいが毎回購入するのはきつくなってきた」という富裕層にはうまくはまりそうなサービスだ。

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