ブランド作りに正解はない。そのため、多くの企業が試行錯誤を繰り返し、独自のブランド作りを模索している。

今回は経歴や価値観などの活用、Instagramの積極利用などで顧客の支持を集めている腕時計のECサイトが取り組んできたことを紹介する。

腕時計は基本的に高価なものだ。そのためコレクターでない限り、何本も腕時計を購入するのは難しい。必然的に毎日着替える衣服と違って、腕時計は同じものを装着して出掛ける、というパターンが多くなる。

「愛着のある腕時計が1つあれば充分」という人もたくさんいるだろうし、僕もどちらかというと腕時計は気に入ったものをずっと身に付けていたい方だ。

しかし中にはパーティーやデート、ビジネスなど、さまざまなシーンに応じて時計のスタイルを変えたい、というニーズもあるという。

今回紹介する「ShoreProjects」は、そのような時計のバリエーションの乏しさという欠点を補うために、シーンや気分に合わせて簡単に外観を変更できる腕時計を販売している。

「ShoreProjects」のECサイト
「ShoreProjects」のECサイト

同サイトの腕時計で変更できる箇所は「バンド」の部分。他の腕時計とは違ってワンタッチでバンドの着脱が可能になっており、革製からシリコンのものまで、さまざまなシーンに対応可能なストラップも取りそろえているのが魅力だ。

1つの時計ではさまざまなシーンに対応できない

【この記事のポイント】

  • 結論が出たらすぐに実行に移す行動力
  • 独自のブランド作りに成功したブランディング戦略
  • 腕時計を利用する人の潜在ニーズを見事に開拓

「Shore Projects」の創業者は、Neil Waller(写真左。以下ウォーラー)氏、James Street(写真中央、以下ストリート)氏、Jono Holt(以下ホルト)氏の3人。

「Shore Projects」の創業メンバー
「Shore Projects」の創業メンバー

ウォーラー氏らはバース大学の同窓生で、それぞれ起業家や投資家、企業プランナーなどの分野で活躍してきた。卒業後も度々パブに集まってはビジネスの話やプライベートの話など、お酒を飲みながら語り合ってきた仲良し3人組だ。

そんな彼らがパブでいつものようにお酒を飲んでいたある時、時計に関する話題が上がった。3人はいずれも時計を身につけておらず、好きなブランドや製品もないままここまで来た。そのため、なぜ時計に魅力を感じないのか、その理由が何か知りたいと考えたのだ。

3人が話し合って出した結論はこうだ。

人は複数のシーンに参加する必要がある。たとえばビジネス、パーティー、デートなどだ。しかし1つの時計だけでは、そうしたさまざまな状況に対応できず、時として場にそぐわないものとなってしまう

そこでウォーラー氏らは、1本の時計を購入するだけで、“TPO”に合わせてスタイルを変更できるような商品はどうかと考えた。

そして、お互いの仕事の合間を縫って、「どのような時計であれば多くの顧客の支持を得ることができそうか」「自分たちが好きな時計のデザイン、顧客のニーズにはどのようなものがあるのか」などを煮詰めていったという。

その結果、「気分やTPOに合わせてバンドを着せ替えられる」時計を考案。これなら時計そのものは同じものでも、バンドを変えるだけで大きく印象を変えることができる。また時計本体のデザインは、余計な装飾は付けずに極力シンプルにすることも決定した。

自分たちの思うような時計を作りあげた3人は、海辺で育ってきたことにちなみ「Shore Projects」という海辺をイメージさせる時計ブランドを設立。ストリート氏はプロダクトを担当、ウォーラー氏は宣伝、ホルトはブランドとデザインとそれぞれ役割分担し、商品の販売を開始するようになる。

ワンタッチで時計バンドの着せ替えができる時計

「Shore Projects」が販売する着せ替えができる時計
ワンタッチで時計バンドの着せ替えができる時計

現在「Shore Projects」が販売している時計の種類は12種類。価格はすべて115英ポンド(約2万3000円)となっている。デザインは非常にシンプルなもので、無駄な装飾をそぎ落としているのが特徴だ。

時計の前面はクリスタルガラス、背面のカバーはステンレススチールを利用し、傷にも強い。

それぞれの時計には海辺の街の名前が付けられている。たとえば「Poole」は英国南岸のリゾート地、「Whitstable」は牡蠣などシーフードがおいしいので有名な港町だ。

また実際に海で時計が使えるように設計されており、水深100メートルまでの防水設計となっているという。

個々の時計の商品ページでは、左サイドに各種バンドの一覧が用意されており、その時計でバンドを変えるとどのような外観になるかを確認することができる。

「Shore Projects」が販売する着せ替えができる時計

バンドのラインナップはメッキ加工されたステンレスなどを用いた「メッシュ」は40ポンド(約7700円)、イタリアンレザーを用いた「レザー」は30ポンド(約5800円)、レザーに水玉模様をほどこした「ポルカドット」は25ポンド(約4800円)、「シリコン」は25ポンド、「クラシック」は20ポンド(約3800円)。なおクラシックはナイロン生地でできているようだ。

「Shore Projects」が販売する着せ替えができる時計

これらのバンドの着せ替えはわずか数秒で交換できるように設計されている。デザインも男性的な革製のバンドから、女性に合うようなシリコンやクラシックまで幅広く用意されているため、カップルが共有したり、ファッションや行事に合わせて好みの時計にカスタマイズできるのが魅力だ。

「Shore Projects」が販売する着せ替えができる時計
カスタマイズの説明

また、「GIFT BOX」では時計本体1個と好きなバンド4点を選び、170ポンド(約3万2000円)で購入することができる。最初に同サイトの時計を利用する際のスターターキットとしてはうってつけだろう。

「Shore Projects」では「GIFT BOX」も販売
「GIFT BOX」も販売する

なお「Shore Projects」が顧客を獲得するためのマーケティングは、Instagramが大きな役割を果たしているという。たとえば週ごとに写真を募集し、当選者には好きな時計が送られるというキャンペーンを行っているそうだ。

このキャンペーンでは応募者が「Shore Projects」のアカウントをフォローし、サイトにふさわしい海岸や海をテーマとした写真を撮影してアップ。「#shoreprojects」と「#goodtimes」をタグ付けすればOKだ。

「海」をモチーフにブランドや時計作りを行っていることから発案されたアイディアで、これらの試みが奏功してか、現在同ソーシャルメディアには3万人ものファンがいるという。

「Shore Projects」のInstagram
「Shore Projects」のInstagram

アイディアを得た瞬間から動き出した

創業者の3人は、起業家、投資家の集まりでもあったたため、パブでアイディアを出し合って結論が出たその場で、時計業界の調査を開始。どのような時計であれば多くの顧客の支持を得ることができそうか調べ出したという。この行動力がビジネスを軌道に乗せた原動力になったに違いない

「Shore Projects」はブランディング、マーケティングに多くの予算をかけているわけではないが、創業者3人が海辺で育ったという経歴、海辺が好きであるという価値観をブランドに取り込み、時計の名前に海辺の都市名をつけたり、Instagramでのキャンペーンを通してブランドに共感する顧客を獲得し、独自のブランドを築くことに成功している。こうしたブランド作りも参考にしたいところだ。

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尼口 友厚

株式会社ネットコンシェルジェ

尼口 友厚(あまぐち・ともあつ)

株式会社ネットコンシェルジェ CEO プロダクト・マーケティング責任者

明治大学経営学部卒。米国留学からの帰国後、デザイナー/エンジニアとしての活動を経て、2002年に国内有数のウェブコンサルティング会社「キノトロープ」に入社。

2003年同社関連会社としてネットコンシェルジェを設立。eコマースとブランディングを専門領域とし、100億規模の巨大ECサイトからスタートアップまで150を超えるクライアントを抱える。現在は、ショッピングSNSサービス「Cart」を運営する。趣味はブラックミュージック鑑賞。

著書に『なぜあなたのECサイトは価格で勝負するのか?』(日経BP)
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