お客の心をつかんだニッチ過ぎるECサイト。秘訣はソーシャルメディアの運用にあった
持ち歩くくらいマヨネーズが好きな人を「マヨラー」と呼んでいたのはいつのことだろうか。「外食でも自分の好きな味で食べたい」という人はだいぶ特殊だと思っていたのだが、米国にも同じような考え方をする人がいるそうだ。
それが今回紹介するECサイト「Sriracha2Go」の創業者だ。同サイトは、創業者が「スリラチャソース」というチリペッパーを主原料としたソースが大好きで、外食店に置いてあるソースやスパイスのバリエーションの少なさに飽き飽きするうち、携帯して持ち込めるサイズの「携帯ボトル」を思い付いたのだという。
同サイトの運営会社は米国ニューヨークを拠点に、2014年10月に設立。収益は公表されていないが、最初のオーダーで1万ボトルを発送したことがあることから、かなり人気となっていることが伺われる。
成功の背景にはソースボトルへのこだわりのみでなく、ソーシャルメディアの戦略的な運用があった。今回はその手法もあわせて紹介しようと思う。
きっかけはレストランにケチャップとホットソースしか置いていなかったことへの憤り
【この記事のポイント】
活用するソーシャルメディアの役割を明確にし、使い分けることで効果的なマーケティングを実現しているのが「Sriracha2Go」。ソーシャルメディアの使い方として、役立つ事例の1つだ。
創業者はKyle Lewis氏(以下ルイス、写真左)とFarbod Deylamian氏(以下デーラミアン)の2人。デーラミアン氏はカリフォルニア大学を2004年に卒業後、さまざまな企業で営業担当として働いてきた。ルイス氏も同じくカリフォルニア州立工科大学を卒業後の2008年から、さまざまな企業において営業担当を務めてきた人物。オラクルでセールスマネージャーも務めていた営業のプロフェッショナルだ。
そんな2人は友人同士。スパイスが大好きという共通の趣味があった。そのため一緒に食事に出かけることも多かったが、どの店もケチャップやホットソースが置いてある程度で、ソースやスパイスが絶対的に少ないと感じていた。
ルイス氏らは特に「スリラチャソース」という、ベトナムやタイなどのチリペッパーを主原料としたソースを好んでいたが、これを置いている店がほとんどない。
ならばと「スリラチャソースを店に携帯できるサイズのボトルを販売しているECサイトはないか」とオンラインを探してみたところ、そのようなボトルはどこにも販売されていないことがわかった。
そこで2人は自分たちの好きなスリラチャソース・ブランド「Huy Fong Sriracha Sauce」のソースを、携帯できるコンパクトなボトルに詰めて販売しようと考えつく。
しかし、ソースを詰め替えるボトルの製造には困難がつきまとったようだ。
まずスリラチャを詰めるためのボトルはBPA(ビスフェノールAと言われており人体に悪影響を与える可能性が懸念されている成分)を使っていないものにしたいと考えたが、BPAフリーなボトルはなかなか見つからない。
また、携帯可能なほどにコンパクトな形状のボトルはたくさんあったが、これらは化粧品や日焼け止めを入れることを想定した容器ばかりで、食べ物を詰めるのには適していないものばかりだったという。
携帯できるサイズの市販のソースボトルは見つからないと知った2人は、まずは自社製のボトルを作ることを決意する。
そこで自分たちで型を作ると、それを見本にボトルを製造してくれる工場を「Alibaba」で探し、5つの工場で実際にボトルを作ってもらい、その質や工場の認定証などのさまざまな情報を集めて1つの工場を選んだ。
ルイス氏らはこのとき入念に工場を選んだが、1万オーダーを受けた後に、この工場の品質管理が非常に悪かったことが発覚。品質管理が最重要と考えていた2人は、不良品の発見率を1%以下に抑えたいと考え、もっとお金をかけてでもより良い工場を探そうと腹をくくった。
そんな矢先、偶然にも家族のつながりを通じて、2つの良質な工場が見つかる。ルイス氏らはこの2つの工場に生産体制をシフト、最終的には3つの工場で製品を分散させて製造することになった。
ちなみにこれらの工場は中国にある。中国の工場というとやや品質に不安があるという印象も強いが、この点についてルイス氏はこのように語っている。
みんな中国製品の質はひどいという話を聞いたことがあるだろう。でも考えてみれば世界でもっとも洗練されているiPhoneも中国で作られているんだ。大事なのは自分たちのニーズに適したしっかりした工場を探すことなんだよ。
ソーシャルメディア運用が成長の柱
現在、「Sriracha2Go」の主力製品はスリラチャソースのセット14.99ドル(約1800円)。このセットでは9オンス(約266ミリリットル)が入ったソースのほかに、1.6オンス(約50ミリリットル)と1オンス(約30ミリリットル)の2種類の携帯用ボトルがついてくる。
すでにスリラチャソースを持っている人に向けて、ボトルのみの販売も行っている。1.6オンスボトルなら5.99ドル(約720円)、1オンスボトルは4.99ドル(約600円)で購入可能だ。
ルイス氏らはこれらの製品を売り込むため、当初は友達、家族、ソーシャルメディアを通じて商品の宣伝を開始したという。なかでもInstagramがコストがかからず、商品の認知度を上げるうえで大きく役立ったそうだ。
Facebookの投稿でも、食べ物の写真のシェア率は高い。一定のフォロワーがつくようになれば、あとは人々が勝手に「Sriracha2Go」を使ってさまざまな食べ方を楽しみ、その様子をシェアしてくれる。そのため、相性がかなり良いと言える。
ただ最初は「Sriracha2Go」の運用するInstagramのアカウントには誰もフォロワーはいない。そこで「Sriracha2Go」は「#Srirachaタグ」で写真をアップしているInstagramユーザーを見つけては、「Like」を押したり、コメントをするなどして、ユーザーとサイトとのコネクションを作っていったという。
「Sriracha2Go」はTwitterの運用にも積極的だ。ただしTwitterはInstagramのような広告的な位置付けはなく、フォロワーもさほど多くない。
それではどのような使い方をしているのかというと、カスタマーサポートのような運用を行っているそうだ。そのためTwitterでユーザーからのコメントや質問があれば、すべて数時間以内に返信することを心がけているという。
ソーシャルメディアごとに伝え方を考える
「Sriracha2Go」はその他のツールも積極的に活用している。たとえば、米国の巨大掲示板「Reddit」では40%割引のプロモーションキャンペーンについて投稿し、話題を得た。Facebookページではスリラチャソースの活用法などを取り上げ、このソースがどんなものかをあまり知らない人の認知度を高めているのだ。
スリラチャソースを知らない人は、そもそもこのソースがどんな料理に合うのか、どう使えばいいのかもわからない状態だ。そのような人には「Sriracha2Go」の商品の良さもなかなか分かってもらいにくい。
そこで、たとえばピザにソースかけているシーンを撮った写真などをアップすることで、ソースの活用法を伝えているという。
今回のまとめ
このように複数のソーシャルメディアをうまく活用しているのが「Sriracha2Go」の強みの1つになっている。
それぞれのソーシャルメディアの役割を明確にし、使い分けることで効果的なマーケティングを実現している。ソーシャルメディアの使い方として、役立つ事例のひと1つだろう。
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