起業資金12万円で3年後に年商12億円。男性向けギフトECサイトが急成長した秘訣
ギフトのECサイトで立ち上げから3年で年商12億円に急成長している企業がある。スタート時の予算は12万円。少ない、いや少なすぎる予算のなかで、どのように顧客を増やし、売り上げを伸ばしていったのか……。
「売ることよりも、“売るための顧客ニーズ”を知ること」「“年に数回の特別な日に貰う”“待ちに待ったギフト”だらこその喜びを追求する企業姿勢」が、そのECサイトの成長のカギになっているようだ。
今回紹介する「Man Crates」は、こうした「男性に何を贈ったらいいか」と迷っている人のために作られたECサイトだ。男性向けのユニークなギフトセットを購入・配送できるシステムを整備。女性を中心としたニーズを捉え、2014年度には1000万ドル(約12億円)以上の売り上げを計上した。
米国カリフォルニアにある「Man Crates」が設立されたのは2011年冬のこと。設立当初の予算はわずか約1000ドル。しかし、数年後には大きな売り上げを記録したほか、2015年3月には310万ドル(約3億7000万円)の投資も受けた。
世の中にはギフトに一体何を送ったら良いのか迷っている人がたくさんいる
「Man Crates」の成長のポイント
- 「男性に喜ばれるギフトがわからない」。こんな悩みを抱えるユーザーが多かったため、男性向けギフトに絞った
- 自らの経験をもとに、商品コンセプトは“手作り感”のあるモノにした
- “年に数回の特別な日に貰う”“待ちに待ったギフト”だからこそ、楽しい体験を提供するようにしている
- 売ることよりも、“売るための顧客ニーズ”を知ることに専念した
- 電話でのやり取りを通じ、得たニーズを商品開発にフィードバックしている
父の日に父親に何をプレゼントしようか迷ったことがある読者の人は多いのではないだろうか。ギフトはどんなものでもある程度喜んでもらえるだろう。受け取った人が本当に満足し、喜ぶことができるギフトを贈ることができたらそれが一番だ。
ところが、父の日に限らず、男性へのギフトで何を贈ったらいいのかわからないという人はかなり多い。こうした事情は日本だけのものではなく、米国でも同じであるようだ。
ちなみに、サイトを利用する顧客の65%が女性であるという。
「Man Crates」創業者のJonathan Beekman(以下、ビークマン)氏は2002年にアリゾナ大学を卒業。Intelでファイナンシャルアナリストとして働いた後は、投資銀行に金峯。その後はNPOで3年間勤めたという異色の経歴がある。
2007年にはサンフランシスコに移り住み、スタンフォード大学でMBAを専攻。同大学を卒業した2009年には、結婚式の来賓への贈り物、団体向けのギフトを販売するECサイトを手がけたが、上手くいかず、2011年に廃業となってしまった。
ビジネスそのものは失敗に終わってしまったが、ギフト業界に携わる中で、男性向けギフト需要の高さを学ぶことができた。
それは、男性に対して「何を贈ればよいのか分からない」という女性ユーザーが多いということだ。ネクタイやギフトカードなど、無難なモノでは男性はあまり喜ばないことなどがわかった。
そこでビークマン氏は、今度は「男性向けのギフト」にサービス内容を限定、新たなECサイトの運営に着手しようとした。しかし、同氏は先に同じようなサイトを手がけて失敗したばかり。奥さんの反対にあったのだ。
そのため、奥さんからは、起業に使う資金はバイクを売って手に入れた1000ドル以内に収めることを条件に許可を得たという。
予算がないなかで知恵を絞らなければならなくなった同氏。自分が昔ギフトでもらったモノで何が一番嬉しかったかを振り返ってみた。思い出したのが、少年時代にホッケーをしていた時、父親に誕生日プレゼントとして作ってもらった手作りのプラスチック製ホッケーゴールだった。
そこで、販売するギフトは手作り感のあるモノにすることを決定。男性が喜びそうな木箱に、お酒やスナックなどを詰め合わせたギフトを完成させた。そしてECサイトも開設し、アドセンス広告で販促を実施。想像以上に販売数をあげることができたという。
木箱や弾薬缶に詰められた男性を楽しませるギフトの数々
現在の「Man Crates」のラインナップは60種類以上。大別すると……
- 肉類を詰め込んだ「ジャーキー&ミート」
- ビールとおつまみ、ウイスキーとおつまみなどを取りそろえた「パーソナライズドギフト」
- スパイシーなソースやベーコンなど辛いものに目を付けた「ホット&スパイシーギフト」
- ゲームやアウトドア用品など趣味性の高い「スポーツ&ホビーギフト」
- 自分の手でベーコンやビールを作る「プロジェクトキット」
などがある。それぞれ「親しい男性に贈るギフト」を目的としたものだけあって、主に壮年層の男性が満足&楽しめそうな内容の商材が中心だ。
たとえば「レトロゲーマー」(99.99ドル、日本円で約1万2000円)は、「今あるゲームシステムはクールだけど、時々メニューもムービーもないゲームを遊びたい」という人に向けたモノ。ファミコン本体とランダムで選ばれたゲームソフトが2本、その他数々のお菓子が付いてくるという。
また、ポーカーセット(99.99ドル、日本円で約1万2000円)は、スフィンクスをテーマにした美しいアートワークを持つ2種類のトランプ、長年プレイヤーとして満足できなかった重量と風合にこだわったカスタムカラーのポーカーチップ、他では手に入らないチップを収納するインサート、そして、それらを収納する容器として弾薬缶が付いてくる。
これらのギフトは、梱包や容器もあわせて楽しめるように工夫されているのが特徴だ。たとえば生肉の入っているベーコン手作りキットやスパイシーギフトなどのデリケートな品は、段ボールにそのまま梱包されている。
しかし、ポーカーセットやアウトドアサバイバルセット、葉巻とヒュミドール(葉巻を保管する箱のこと)のセットはNATO(北大西洋条約機構)仕様の弾薬缶に入っている。また、ゲームやビールなどの大半のギフトセットは木箱に密封された状態で届けられるのだ。
この木箱はかなり頑強で、付属のバールを用いてこじ開ける必要がある。一見手間がかかって顧客から嫌がられるようにも感じるが、顧客からの反応は良いようだ。
この木箱の梱包が、日常的に使うような食料品のサブスクリプションに使われていたらさすがに鬱陶しいかもしれない。しかし“年に数回の特別な日に貰う”“待ちに待ったギフト”だらこそ、時間と努力をかけて開封する時間も楽しい体験となっているのだろう。
顧客と直接電話で話をしたことが成功のきっかけに
「Man Crates」の開始当初は1000ドルしか予算がなかったため、商品の写真をECサイトに並べた時点で、商品の在庫はほとんどない状態だった。
裏を返せば、顧客から注文が入って確実に商品が売れるかどうかニーズがあるかわかった後に商品を売ることができ、低リスクでビジネスを始めることができる、ということでもある。
在庫が少ないため、商品を購入した顧客の反応を即座に採り入れて、売る商品を変更できるなど、小回りが効くという利点もあった。
そこで、ビークマン氏はとにかく売ることよりも、“売るための顧客ニーズ”を知ることに専念したという。
顧客ニーズを知るために徹底的に活用したのがフィードバックだ。メールだけではなく、時には顧客に電話もかけた。長い時は30分間も質問攻めにした。
- どうやってMan Cratesを知ったのか
- なぜ自分たちの商品を選んだのか
- どんな商品であればまた購入したいのか
などを顧客に聞き、得られた回答を商品のラインナップに生かした。また顧客から電話がかかってくる度に、何をどう改善できるかヒントを得ることができるように心がけているという。
商品が市場にマッチしているのかは、データを見てわかる部分はある。でも顧客が実際どう思っているのか主観的なところにもヒントは隠れていると思うよ
~ビークマン氏~
同氏はフィードバックを生かすことに現在も注力している。サイトの目立つ場所に電話番号を表示し、週7日間のすべてを営業日として設定。顧客との接点を可能な限り確保するようにしているそうだ。
はじめは予算1000ドルという制約のために行ったことだったが、それによってむしろビジネスをする上で重要な視点を手に入れたようだ。
ECサイト側は常に顧客視点のあるビジネスを行うことができるし、顧客も真摯に向き合ってくれるカスタマーサポートに対して悪い気はしないだろう。こうした細かな配慮が、「Man Crates」ユーザーの購買体験の質の向上を支えている。
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