Digital Commerce 360 2017/10/26 8:00

顧客は何を望んでいるのか? その技術は顧客が抱える問題を解決できるのか?」。小売事業者はこう自らに問いかけることが重要です。

米国百貨店大手のNordstrom(ノードストローム)は、フレンドリーで有能な販売員だけが、優れた顧客サービスを提供できるとは考えてはいません。常に顧客を最優先に考え、顧客を中心に行動することが大切だと考えています。

「もっとできることはないか?」と常に考え続けてきた116年

顧客の役に立っていないなら、それはカスタマーサービスではない

この言葉は、ブレナン・オー・リーブスと私(ロバート・スペクター)が共著した最新の書籍「Nordstrom Way to Customer Experience Excellence:価値に基づいた文化の醸成」で紹介したノードストロームの格言の1つです。

ノードストロームが提供する価値には「イノベーション」と「変化対応」が掲げられています。ノードストロームは、シアトルのダウンタウンの靴屋として1901年にスタート。これまで116年以上もビジネスを継続できているのは、4世代にわたって家族経営を続けてきた同族リーダー達が、カスタマーエクスペリエンスにおいて、「もっとできることはないか?」と常に考え続けてきたからです。

創業116年の老舗米国百貨店ノードストロームの店舗画像
創業116年の老舗米国百貨店ノードストローム

顧客のこだわりへの対応は徹底的に対応していますが、近年はそのこだわりを実現するための方法が変わってきました。

ノードストロームに長年勤務し、現在はチーフ・イノベーション・オフィサーを務めるギーヴィ・トーマス氏(35歳)はこう話します。「技術ではなく、顧客が最優先なのです。“顧客は何を望んでいるのか? その技術は顧客が抱える問題を解決するのか?” 私たちはこう自らに問いかけるのです」

ノードストロームのコールセンターが受ける質問で最も多いのは、「今オンラインで見ている商品を、地元のお店で買えますか?」という内容です。

ノードストロームは、自社のことを「顧客のこだわりをデジタルで実現する企業」と表現しています。すべての販売員は、ノードストローム全店舗、ECサイト「Nordstrom.com」、流通センターにあるすべての商品在庫を一元的に閲覧することができ、在庫情報を顧客へ素早く伝えることができます。

アマゾンの登場で気付いた変化の必要性

ノードストロームは、シアトル本社から目と鼻の先にあるAmazon(アマゾン)で何が起こっているのかを常に意識していました。アマゾンが事業をスタートしてから、小売業の変化に気付き、自分たちも変化をする必要があると感じていました。

Nordstrom.comはアマゾンがスタートしてから3年後、1998年のホリデーシーズンにローンチしました。当時、ほとんどの小売事業者がサイト制作を外部に委託していましたが、ノードストロームは社内でサイトを開発。2000年には、Nordstrom.comは最高のオンライン体験を提供するECサイトとして、コンサルティングなどのフォレスターグループ社が発表したレポート「パワーランキング」で紹介されました。

1998年にローンチしたノードストロームのECサイト「Nordstrom.com」
「Nordstrom.com」は1998年にローンチした(画像は編集部がキャプチャ)

ノードストロームは現在、実店舗は廃れてはいなく、デジタル化されただけと考えています。そして、ノードストロームは北米内の350店でデジタル技術を活用する方法を模索しています。五感で感じる体験、デジタルで可能にするパーソナライゼーションと利便性を結びつけるためです。

ノードストロームの新しい顧客の3分の1は、Webサイト経由で来店Nordstrom.comの注文の25%以上が店舗で処理されています。基本的にすべての店舗がECの倉庫として機能しているのです。ギーヴィ・トーマス氏はこう話します。

過去の経験を未来の為に活用しますが、過去にとらわれていてはいけません。共感を生み、楽しく、ソーシャルでも話題になるために、最新技術をどのように生かせば良いか考えるのです。」

店舗での買い物体験に付加価値を常に与え、顧客を惹きつける

2014年以降、ノードストロームの販売員は、スマートフォンで顧客と個別メッセージのやり取りを通じ、商品販売を行うことをできるようになりました。顧客は、スマートフォンを使って商品をスキャンし、価格をチェック。自分のサイズと好みの色が決まったら、自宅、オフィス、ホテルなど、北米ならどこにでも配達してもらうことができます。購入はNordstrom.comのアカウントを使えば完了します。

ノードストロームは特定のチャネルに依存していません。実店舗の顧客、オンラインの顧客という境界線はありません。つまり、すべてのチャネルのお客は同じ顧客と考えているのです。ノードストロームの売上の3分の1はマルチチャネルを利用する顧客によるもの。顧客は、どのチャネルで購入するかはあまり気にしませんが、どのようなカスタマーエクスペリエンスが提供されるのかは気にしています。

ノードストロームはマルチチャネル顧客の数を増やし続けています。なぜならマルチチャネルの顧客は、1つのチャネルのみで購入する顧客の4倍も買い物をするからです。

とにかく早く購入できることが顧客の買い物体験にとって重要だと考えている企業もあります。一方、ノードストロームは店舗内での買い物体験には、顧客の五感にアピールするために共感できる感情的な要素が必要であると考えています

その結果、ノードストロームは商品の提案・案内役から、商品をベースにしたサービスと経験の提案・案内役へと進化しました。そして、店舗での買い物体験に付加価値を常に与え、顧客を惹きつけているのです。

顧客のこだわりをデジタルで実現する

ノードストロームでは、ECサイトで購入された商品を、指定された店頭にてスタッフが車まで運ぶサービスなども展開している
ECサイトで購入された商品を、指定された店頭にてスタッフが車まで運ぶサービスなども展開している(画像は編集部がキャプチャ)

ノードストロームのコールセンターが受ける質問で最も多いのは、「今オンラインで見ている商品を、地元のお店で買えますか?」です。

オンラインで購入された商品は返品率が高いため、ノードストロームは支払いなしで商品をオンライン予約できる「Reserve&Try」というアプリを提供しています。注文から2時間以内に(店舗開店時間内)予約された商品を最寄りのノードストームで準備し、テキストメッセージで顧客に試着が可能になった旨を通知します。

顧客は店舗内で、「注文ピックアップ」と呼ばれる場所に行き、予約した商品が準備され、自身の名前がドアに掛かっているフィッティングルームを探します。そして、数分で試着し、何を購入するか決めることができるのです。

「Reserve&Try」は、オンラインショッピングの利便性と店内ショッピングの満足感を組み合わせ、魅力的でシームレスな買い物体験を作り出しています。Nordstrom.comの社長、ケン・ワーゼル氏はこう話します。

顧客のニーズに集中し、20分ではなく5分または10分で買い物できるようになると、“15分得したから、店内をもう少し見てみるわ”と言っていただけるのです。

顧客のこだわりをデジタル化で実現する」ことによって、ノードストロームは革新的で環境に応じた手法を、これまで通り発見し続けていくでしょう。これらの手法で、従業員のモチベーションを高めると同時にカスタマーエクスペリエンスを向上させ、顧客のロイヤリティを高めて売り上げを伸ばしていくのです。

コアバリューに「イノベーション」と「変化対応」が掲げられている企業では、このようなことが実現できるのです。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

この記事が役に立ったらシェア!
これは広告です

ネットショップ担当者フォーラムを応援して支えてくださっている企業さま [各サービス/製品の紹介はこちらから]

[ゴールドスポンサー]
ecbeing.
[スポンサー]