フィットネスアプリの「Runkeeper」を8500万ドルで買収したアシックス。新たなテクノロジーを利用して、消費者とのつながりを強化しています。なぜアシックスは消費者と直接的な関係を作ろうとしているのでしょうか。

老舗スポーツメーカーがアプリ運営企業をなぜ買収したのか

「1949年創業のスポーツブランドであるアシックスは、フィットネス関連商材を消費者がどのように購入してきたのか、その変遷を長きにわたって見てきました」。Runkeeperのエンジニアリング担当ディレクターであるフィル・コナートン氏は説明し、次のように指摘します。

今まで、アシックスは時代に合わせて変化してきました。今、最も重要視しているのは、新しい靴を購入しようと消費者が思った瞬間から、彼らとつながる方法を見つけることなんです。

その方法を探していたアシックスは2016年3月、フィットネスアプリ「Runkeeper」の運営企業であるFitnessKeeper社を8500万ドルで買収しました。コナートン氏によると、買収の目的は、スポーツブランドであるアシックスが消費者との直接的な関係を構築することだそうです。

買収当時、「Runkeeper」のユーザーは3300万人。ユーザーはアプリを使ってトレーニング中の走行距離とペースを記録。フィットネスの目標を達成するために役立つ活動を記録し、管理、分析します。

アシックスは顧客と直接コミュニケーションを取り、つながる必要があります。私たちのブランドがいつも消費者の頭の片隅にあるようにしたいのです。

このように話すコナートン氏。「Runkeeper」を利用すれば、朝方にユーザーが靴を履いてランニングをする度、アシックスはユーザーとつながることができるようになります。これによって、消費者と絶えずコミュニケーションを取り続けているAmazon(アマゾン、インターネットリテイラー社発行「全米EC事業 トップ1000社データベース 2017年版」の1位にランクイン)のような企業と戦えるようになるとコナートン氏は言います。そしてこう続けます。

私たちはプラットフォームサービスとしてフィットネスを提供しています。「Runkeeper」はユーザーのランニングを追跡し、適切なトレーニングプランを提案します。たとえば、マラソンのトレーニング中、けがをしたり、1週間ほど走れないような場合、実際のスケジュールに合わせて調整したフィットネスプランを作成できるのです。最終的には、マラソンで設定したゴールを達成できるようにサポートします。

「Runkeeper」は日本でもおなじみのフィットネスアプリ 「アマゾンとも競争できる」――アシックスがフィットネスアプリを買収した理由
「Runkeeper」は日本でもおなじみのフィットネスアプリ(編集部が追加)

「Runkeeper」で6年間勤めていたコナートン氏は、モバイルの開発者として入社後、EC部門に異動。彼はアプリケーションを収益化するために消費者への製品販売に取り組みました。

たとえば、ユーザーが夜のランニングを終えると、「Runkeeper」が点灯するベストやヘッドライトのような製品をレコメンドして提案する仕組みを開発しました。これは、次回以降、ユーザーが夜のランニング中でも走行車から見えやすくするといった製品を提案したのです。

「Runkeeper」を買収して数か月後、デジタル改革を推し進めるため、アシックスは「アシックス・グローバル・デジタル」部門を立ち上げました。それ以降、「Runkeeper」のチームは、アシックスのEC改善のサポートを手がけています。

アプリ会社買収後、デジタル強化を進めるアシックス

最近、アシックス・グローバル・デジタル部門がローンチした新しいECサイトは統合プラットフォーム「MuleSoft」の技術を使用し、アシックスの全ブランドと連携しています。アシックスのランニングブランド、ライフスタイルブランドである「アシックスタイガー」と「オニツカタイガー」、アウトドアフィットネスとアパレル会社である「ホグロフス」は、「Runkeeper」と連携しています。

「Runkeeper」は日本でもおなじみのフィットネスアプリ 「アマゾンとも競争できる」――アシックスがフィットネスアプリを買収した理由
ECはグローバルで強化の方針が掲げられている(画像は編集部がアシックスの決算説明会資料からキャプチャし追加)

「MuleSoftを使ってシステム間が通信することで、ECサイトの速度を遅れさせる要因となるポイント・ツー・ポイント通信(編注:通信を行う端末と端末が1対1で接続される形態)をなくすことができました」とコナートン氏は言います。

たとえば、アシックスには2つの製品管理システム、2つの注文管理システム、2つのコンテンツ管理システムがバックグラウンドで動いています。そして、常にシステムを最新状態に保つには、約12のシステムが毎日連携し合う必要があります。コナートン氏はこう説明します。

従来のアプローチは、ポイント・ツー・ポイント通信のためのカスタムコードを作成して対処していましたが、このアプローチでは、システムが脆弱になり、障害が発生しやすくなります。そのためIT担当者がメンテナンスに多くの時間を費やすことになってしまうのです。「MuleSoft」は、スピードが速く、リアルタイムで変更できるAPI(アプリケーションプログラミングインターフェイス)の活用を推奨しています。APIを使用することで変更をリアルタイムで送信。バッチに依存することなく、すぐに情報を更新することが可能になります。

APIは、他のソフトウェアなどと機能を共有できるようにする機能です。たとえば、小売事業者がInstagram(インスタグラム)のフィード上で掲載された写真をWebサイトに表示したい場合、APIを使用して画像を取得することができるようになります。

アシックスは先日、「MuleSoft」のプラットフォームを使用して在庫情報をリアルタイムで管理するAPIを開発しました。以前は、従業員にファイルを読み込ませてスプレッドシートを更新。そのシートをメールで送る形式で在庫を管理していました。新しいAPIは在庫ファイルに直接接続、在庫が少ない製品にフラグを立てるようになっています。

コナートン氏は、このプロセスのさらなる改善をめざしています。現在、在庫ファイルの更新は夜間のみ。そのため、在庫情報はリアルタイムで反映されません。しかし、「MuleSoft」を使えば、リアルタイムで在庫データを反映できるようになります。APIを介して在庫に直接接続できるようになるためです。

「Runkeeper」は日本でもおなじみのフィットネスアプリ 「アマゾンとも競争できる」――アシックスがフィットネスアプリを買収した理由
アシックスのグローバルECサイト(画像は編集部がキャプチャし追加)

新しいシステムの稼働により、消費者が購入直後に注文履歴へすぐにアクセスできるようになります。コナートン氏はこう言います。

以前は、購入した新しい靴を妻や友人に見せたいと思って注文履歴を開いても、注文管理システムは15分ほど遅れて反映される仕組みでした。白い画面が表表示されたり、注文履歴がなかったり……。つまり、私たちが提供したいカスタマーエクスペリエンスではなかったのです。今は注文してすぐに情報を消費者へ表示できるようになりました。

新しいシステムにより、私たちはバックエンドのIT作業に要する時間を短縮し、イノベーションにもっと集中することができるようになりました。

「MuleSoft」を使うことで、システムを手動で接続する必要がなくなり、時間を節約することができるようになりました。プラットフォームへはネット環境があればアクセスできるため、アシックス従業員によるサーバーの監視時間を短縮できるようになります。コナートン氏は次のように話します。

新しいEC機能は予想よりも2.5倍の速さで実装することができました。新しいシステムの稼働で、私たちはバックエンドのIT作業に要する時間を短縮し、イノベーションへもっと集中することができるようになりました。たとえば、アシックスの従業員は現在、ランナーが自分に最適な靴を見つけることができるWeb機能の開発に取り組んでいます

アシックスは現在、各ブランドのサイトを訪問しなくても、アシックス、アシックスタイガー、オニツカタイガーを1つのカートで購入できるように準備中です。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア「Internet RETAILER」の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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