瀧川 正実[執筆], 松原 沙甫[執筆] 12/27 9:00

EC業界の黎明(れいめい)期から自社ECビジネスをサポートしてきた老舗プラットフォーマーが転換期を迎える。

1999年に自社ECのショッピングカート「ストアツール」の開発・提供を始めたEストアーは、新興ECプラットフォーマーであるBASE傘下へ。Eストアーの100%子会社でECパッケージの老舗企業であるコマースニジュウイチ(コマース21)は、ヤフー(当時、現在はLINEヤフー)、Eストアーを経て、次は投資ファンドの手に渡る。

Eストアー、コマース21の設立は共に1999年。Eストアーは主に中小企業、コマース21は中堅から大手企業と、20年以上にわたってECサイトの構築・運用で企業のECビジネスをサポートを手がけてきた。老舗2社のM&Aは、ECプラットフォーマーの競争、事業者のECプラットフォーム選びに影響を与えそうだ。

EストアーのTOBを巡る動向と買収スキーム

BASEのEストアー買収などは、成長潜在力のある中堅・中小企業に特化したバイアウト投資、成長支援を目的としたファンドを運営する日本成長投資アライアンス(JGIA)が12月に設立した特別目的会社(SPC)であるJG27がTOB(株式公開買付)を実施。Eストアーを子会社化し、最終的にコマース21の株式はJG27が継続して保有、Eストアー株式をBASEが33億円で引き受ける。

JG27によるTOBは2025年3月4日をめどに開始。TOB成立後、最終的にBASEがEストアーの株式を取得する実行日は2025年7月中旬を予定している。

連結子会社にコマース21のほか、セレクトショップ「SHIFFON」のSHIFFON(シフォン)、デジタルマーケティング支援のWCA、ECシステム構築などのアーヴァイン・システムズを抱えるEストアー。

2024年12月時点でのストラクチャー図(ユニコム、ワンドはEストア社長の石村賢一氏の資産管理会社
2024年12月時点でのストラクチャー図(ユニコム、ワンドはEストア社長の石村賢一氏の資産管理会社

なお、公開買付けに先立ち、SHIFFONはマネジメント・バイアウト(MBO)により全発行済株式をSHIFFON取締役の西村健太氏に譲渡。WCAはエイチームに売却した。アーヴァイン・システムズの株式はEストアーが継続して保有、最終的にBASEの孫会社となる。

2025年7月中旬でのストラクチャー図

BASEのEストアー買収の狙い

Eストアーのメイン事業は中小企業向けECプラットフォーム「ショップサーブ」。また、自社で決済代行サービスを提供しており、決済手数料も大きな収益となっている。

近年は導入社数や流通総額などを公開していないが、2021年3月期の「ショップサーブ」導入企業は中小企業を中心に約8000社。2022年3月期の「ショップサーブ」を介した流通額は約1000億円。決済額は660億円にのぼる。

「ショップサーブ」の流通額と決済額は、「BASE事業のGMV(注文額)に相当し、決済額はGMV(決済額)に相当する」(BASE)。BASEは次のシナジーを期待するという。

  • BASEグループの既存プロダクトの「Eストアーショップサーブ」加盟店への横展開による幅広いシナジー
  • グループGMVの大幅増加に伴う各種原価及び手数料圧縮による、コストメリット

既存プロダクトの成長戦略、グループ横断の拡大戦略によって「対象顧客の拡大」「付加価値の向上」による企業価値の向上に努めるとする。

具体的には、ECプラットフォーム「BASE」を使う企業よりも上のレイヤーとされる「ショップサーブ」利用者層の中小企業に対象顧客を拡大。流通額や決済収益を伸ばしていくと見られる。また、購入者向けショッピングサービス「Pay ID」の拡大も視野に入れる。

Eストアー、コマース21の設立は供に1999年。Eストアーは主に中小企業、コマース21は中堅から大手企業と、20年以上にわたってECサイトの構築・運用で企業のECビジネスをサポートを手がけてきた。
BASEが掲げる中長期の成長戦略

「Pay ID」は「BASE」で構築・運用しているネットショップで販売している商品を購入できるショッピングアプリ。ID決済の機能も備えており、「BASE」利用者のネットショップで「Pay ID」決済できる。「Pay ID」を通じて「BASE」を使って開設されたネットショップへの集客や販促、リピーター対策のさらなる強化を進めており、「Pay ID」の利用店舗の拡充などで、「Pay ID」の強化も進めると見られる。

BASEは6月上旬ころから、Eストアーの株式非公開化に向けた入札プロセスに参加。日本成長投資アライアンスとBASEは10月中旬、共同してEストアーの売却プロセスに参加することに合意した。

日本成長投資アライアンスのコマース21買収の狙い

近年、企業のDX推進が加速度的に進み、コマース21による大型案件の獲得が増加しているという。Eストアーでは2024年3月期の決算説明会資料で、「DXソリューション事業部門の新設、マネージドインフラサービスを拡大しクラウドソリューション事業とする」とし、新たな事業ドライバーとしてクラウドソリューション事業、DXソリューション事業を新たな成長ドライバーに掲げていた。

Eストアー、コマース21の設立は供に1999年。Eストアーは主に中小企業、コマース21は中堅から大手企業と、20年以上にわたってECサイトの構築・運用で企業のECビジネスをサポートを手がけてきた。
コマース21の成長戦略(画像はEストアーの2024年3月期決算説明会資料からキャプチャ)

日本成長投資アライアンスはこうしたコマース21の成長可能性に着目。コマース21の株式保有を目的に新設したJG27を通じて、コマース21の企業価値向上に取り組む。なお、JG27はコマース21を買収した後、JG27を存続会社とする吸収合併を2025年11月までに実施する予定。“新生コマース21”は次のような価値向上に取り組むとしている。

中長期の成長に向けた人材及び経営管理体制の強化

現状、コマース21は営業・開発・経営管理において人材が不足。これにより事業・経営に十分な対応ができないという事態が生じているという。

日本成長投資アライアンスのアライアンスパートナーからの経営支援人材の派遣、人材ネットワークによる外部採用を通じた人材増強で組織を構築。コマース21のさらなる成長に向けた事業・経営基盤の強化を進める。

新規顧客基盤の獲得

展示会などでの潜在的な顧客リードの強化、パートナー営業体制の構築に関して、日本成長投資アライアンスが既存投資先で取り組んできたノウハウをコマース21へ提供。新規顧客獲得を進める。

また、エンタープライズ顧客を有する日本成長投資アライアンスの投資先であるソフトウェア企業とコマース21による相互送客による協業、投資先企業における今後のECサイト構築やDX化をコマース21との協業で進める。

M&AおよびPMIの支援

コマース21は拡大する需要に対応するため、顧客システムの開発を担当するエンジニアのキャパシティの強化を展望しているという。ECを中心とするシステム開発を手がける企業のM&A、資本業務提携について、日本成長投資アライアンスがサポートしていくという。

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