オムニチャネル、買い物しやすい導線作り、LINEを活用した会員登録――「マンゴハウス」に学ぶECサイトリニューアル成功ポイント
沖縄県などで着用されるシャツ「かりゆしウェア」の専門店を運営しているマンゴハウス(本社沖縄県)。2023年4月に自社ECサイト「MANGO HOUSE(マンゴハウス)」をリニューアルするとともに、同年5月からオムニチャネルを開始した同社は、実店舗とECサイトの相互送客によってEC会員が毎月1000人以上増えるなど、大きな成果を上げています。
同社は自社ECサイトのリニューアルにおいて、どのようなことを重視したのでしょうか。リニューアルを担当した金城圭佑さんに、EC担当者としての心構えや、実際に取り組んだことをうかがいました。(聞き手:E-Commerce Magazine編集部)
金城さんがお話ししてくれた内容は、ECの現場担当者ならではの具体的かつ実践的なもので、ファッションカテゴリーにとどまらず多くのEC事業者にとって示唆に富むものでした。自社ECサイトのリニューアルを検討している企業は、ぜひ参考にしてください。
【リニューアルが成功した要因】
- リニューアルの目的が明確で、リニューアル後に取り組みたい施策も具体的にイメージできていた
- ECサイトの設計や制作を、信頼できる制作会社に依頼した
- 勉強会やセミナーなどに積極的に参加し、ECの最新情報やノウハウを学んでからリニューアルに臨んだ
マンゴハウスとは?
マンゴハウスは「かりゆしウェア」の企画・製造・販売を手がけているアパレル企業です。2001年に創業し、現在は直営店「MANGO HOUSE」を沖縄県内で7店舗展開しています。
社内のデザイナーが企画した約500種類のオリジナル商品を販売。デザイナーが店頭に立って接客し、コーディネートを提案したり、顧客の声をデザインに活かしたりしています。
実店舗には国内外からの観光客が訪れるほか、普段使いの服を購入する地元のリピーターも多いそうです。
2015年に「futureshop」を導入し、2023年4月には「commerce creator(コマースクリエイター)」にリニューアルしました。2023年5月に「futureshop omni-channel」を使い、実店舗と自社ECサイトのポイントを共通化したほか、会員情報も一元化しています。
自社ECサイトの年商は約2000万円。現在は実店舗とECの相互送客に取り組んでおり、EC会員が月間1000人以上増えているほか、LINE経由やメルマガ経由の売り上げも伸びるなど、リニューアルとオムニチャネルの成果を上げています。
なお、「楽天市場」や「Yahoo!ショッピング」といったECモールにも出店していますが、EC売上高の大半を自社ECサイトが占めています。
自社ECサイトをリニューアルした理由とは?
E-Commerce Magazine編集部(以下、編集部):本日は、自社ECサイト「MANGO HOUSE」をリニューアルした経緯や、その後の成果についてお話をうかがいます。特に、金城さんがEC担当者として心がけたことや、リニューアルオープンに向けて意識したことをお聞かせください。
マンゴハウス 金城圭佑さん(以下、金城さん):わかりました。よろしくお願いします。
編集部:早速ですが、今回のリニューアルで自社ECサイトをどのように変更したのでしょうか?
金城さん:自社ECサイトのプラットフォームを従来の「futureshop」から「commerce creator」にリニューアルし、今まで以上に買い物しやすいネットショップに作り変えました。
特に意識したのは、商品を探しやすい導線や、買い物の途中で離脱しにくいUIを作ることです。お客さまから寄せられていたご意見を参考にしたほか、顧客目線でECサイトを使ったときに私が感じた「使いにくい」「商品を見つけにくい」「わかりにくい」といったポイントを解消しました。
編集部:改善したい課題が明確だったと。
金城さん:はい。EC担当者として日々仕事をするなかで課題を抽出し、それらをリニューアルによって解決しました。
ECサイトを運営していると、やりたいことや、できなくて困ったことなどが次々と出てきます。それらを運用でカバーしたり、ECサイトのマイナーチェンジで対応したりしてきましたが、抜本的に改善するにはリニューアルが必要だと常々感じていたんです。
メニューバーを改善して商品を探しやすい導線に
編集部:買い物をしやすいネットショップを作るために、どのような機能やUIを取り入れたのでしょうか。
金城さん:改善点は多岐にわたりますが、たとえば、商品を探しやすい動線を作るためにメインメニューに「デザイナーで探す」という項目を追加しました。
弊社の強みの1つは、オリジナル商品を販売していることです。7人のデザイナーそれぞれに個性があり、商品のデザインに特徴があります。リピーターのお客さまのなかには、特定のデザイナーの商品を気に入ってくださっている方もいます。そういった弊社の強みを踏まえて、デザイナーを起点に商品を絞り込めるようにました。
金城さん:また、メニューバーには「柄で探す」という項目も追加しました。「シーサー柄」「デイゴ柄」「ドラゴン柄」「ハイビスカス柄」といった絵柄で商品を絞り込むことができるので、かりゆしウェアを着たことがないお客さまでも、好みの柄を直感的に選ぶことができると思います。
柄で商品を検索する機能は、リニューアル前にメンズカテゴリーで試験的に実装したことがありました。その結果、利用者が多く、お客さまから「探しやすい」というご意見もいただきましたので、そういったお客さまの声もリニューアルに活かしました。
カート投入画面に全SKUと再入荷通知ボタンを表示
編集部:買い物の途中で離脱しにくいUIを作ることも意識したとおっしゃっていましたね。どのようなUIにしたのでしょうか。
金城さん:たとえば、商品ページで「商品を選んでカートに入れる」というボタンを押すと、すべての色とサイズが一覧で表示されるようにしました。すべてのSKUを1つの画面に表示することで画面の遷移を減らし、お客さまの離脱を防いでいます。
金城さん:また、SKUごとに在庫の有無も一目で分かるようにしました。在庫切れの商品は「入荷お知らせ」というボタンが表示されますので、それを押していただけば、再入荷した際にメールが届きます。
再入荷したことを通知する機能は、リニューアル前から実装していましたが、予約ボタンの場所がわかりにくく、利用率が低いことが課題でした。
リニューアル後は「入荷お知らせ」のボタンが購入導線のわかりやすい場所に表示されるようになりました。その結果、再入荷通知の利用者数はリニューアル前の5倍ほどに増えています。
再入荷通知機能の利用者が増えたことで、機会損失を防ぐことができています。
マンゴハウスのEC事業では、小禄バイパス店の店頭在庫をEC在庫としても使用しています。そのため、小禄バイパス店の在庫がなくなるとECサイトも在庫切れになります。ただ、商品が他の店舗に残っていることもあり、そういったケースではお客さまが「入荷お知らせ」機能を使ってくだされば、売り逃しを防ぐことができるんです。
編集部:再入荷通知機能を活用して、在庫の偏在による機会損失を防いでいるのですね。
金城さん:おっしゃる通りです。
オムニチャネルを開始した理由と成果
編集部:オムニチャネルの取り組みについてもうかがいます。オムニチャネルを開始した背景には、どのような意図があるのでしょうか。
金城さん:会社全体の売り上げをさらに伸ばしていくには、実店舗とECの相乗効果を創出することが重要だと判断しました。
弊社は沖縄県内に7店舗を展開しており、多くのお客さまにお越しいただいています。しかし、以前は実店舗とECの顧客情報が一元化されていなかったため、実店舗とECで相互送客するような施策を打つことができませんでした。
また、ECサイトで買い物をしたお客さまが、過去に実店舗で買い物をしたことがあるか否かを判断することもできていませんでした。ECサイトで新規会員登録したお客さまが、実店舗のリピーターさんだったというケースもあったと思いますが、購入履歴がわからないために適切なマーケティング施策を打つことができなかったんです。そういった課題を解決することも、オムニチャネルを開始した理由の1つです。
編集部:オムニチャネルを開始したことで、どのような成果が出ていますか?
金城さん:たとえば、店頭で会員登録を促すことで、「MANGO HOUSE」の会員さんが月間1000人以上増えています。会員証は実店舗とECで共通ですから、必然的にEC会員さんも同じ数ずつ増加しています。
自社ECサイトでは広告による集客をほとんど行っていないため、EC会員さんの獲得において実店舗はとても重要な動線になっています。
しかも、実店舗で商品を購入しているお客さまですので、試着ができないというECサイトの弱点もクリアできます。
編集部:店舗スタッフさんが会員登録を案内しているのでしょうか?
金城さん:はい。店頭でスタッフがご案内しています。
会員登録の流れは、まず、弊社のLINE公式アカウントに友だち登録していただき、送られてきたLINEメッセージのバナーから会員登録画面に遷移していただいています。店頭にLINEのQRコードを設置し、操作方法などは店舗スタッフがご説明しています。
編集部:会員登録にLINEを活用しているのはなぜでしょうか?
金城さん:理由は主に2つあります。
1つ目は、実店舗を訪れたお客さまが会員証を表示しやすくするためです。Webブラウザで「MANGO HOUSE」にアクセスして会員証を開くよりも、普段から使い慣れたLINE経由で会員証の画面に遷移する方が、お客さまにとって便利だと判断しました。
2つ目の理由は、LINEを通じて「MANGO HOUSE」の新着ニュースやコンテンツなどをお届けするためです。LINEでのコミュニケーションが可能になったことで、LINE経由の売り上げも増えてきました。
編集部:そういった会員獲得の動線は、リニューアル前から想定していたのでしょうか。
金城さん:はい。オムニチャネルに取り組みたいと社長に進言したとき、すでに構想を持っていました。
信頼できる制作パートナーにECサイトの設計を依頼
編集部:自社ECサイトをリニューアルする際に、サイト構築やデザイン制作を「futureshop」の制作パートナーでもあるデザインファミリーさんとソレプロさんにお任せしたとうかがいました。
金城さん:はい。ECサイトの要件定義や設計などは、デザインファミリーさんと一緒に行いました。ECサイトのデザイン制作は、ソレプロさんにお任せしました。
編集部:制作パートナーさんとの役割分担を教えていただけますか?
金城さん:まず、リニューアルの目的やゴールをデザインファミリーさんに伝えました。仕様書や指示書を作成したわけではなく、私がやりたいことを箇条書きのようなかたちでまとめて、それをお渡ししました。
弊社からの要望を受けて、デザインファミリーさんがそれを実現する方法を考えて、提案してくださいました。
ECサイトのサイトマップや機能などの仕様が決まったら、デザインやコーディングなどをソレプロさんが行うという役割分担でした。
編集部:リニューアルはスムーズに進みましたか?
金城さん:はい。デザインファミリーさんとソレプロさんのお力添えのおかげで、リニューアルはスムーズに進みました。
私はEC担当者としてのキャリアが約3年と浅く、リニューアルは初めての経験でしたが、大きなトラブルもなく終えることができたのは、デザインファミリーさんとソレプロさんがサポートしてくださったからです。
私は、リニューアルのゴールをイメージできていたものの、それを実現するために何から手をつければよいかわかりませんでした。デザインファミリーさんとソレプロさんは、弊社の要望を的確に理解し、「一を聞いて十を知る」といったようすで動いてくださったので、とても頼もしかったです。
編集部:良い制作パートナーさんに出会えたことが、リニューアルが成功した一因だったのかもしれませんね。
金城さん:はい。その通りだと思います。
制作パートナと出会ったきかっけはECの勉強会
編集部:デザインファミリーさんやソレプロさんに依頼したきっかけを教えていただけますか?
金城さん:2022年4月に私が参加したセミナーに、デザインファミリーの大伴社長も参加していらっしゃったことがきっかけです。
当時、私はすでに自社ECサイトのリニューアルを検討していましたので、セミナーが終わった後に大伴さんに相談しました。私がやりたいことをその場でお伝えしたところ、大伴さんは親身に耳を傾けてくださり、リニューアルの進め方についても具体的にアドバイスしてくださいました。
そのときに、デザインファミリーさんなら安心してお任せできそうだと感じました。その後、デザインファミリーさんの制作事例なども調べた上で、正式に依頼しました。
ソレプロさんはデザインファミリーさん経由で知り合いました。
編集部:セミナーに参加したことが、制作パートナーさんと出会ったきっかけだったのですね。EC業界の勉強会やセミナーに参加することは、知識やスキルを習得できるだけでなく、制作会社さんなどとのつながりを作ることができるのもメリットかもしれませんね。
金城さん:はい、そう思います。
自社ECで年商5000万円をめざし「MANGO HOUSE」ならではの取り組みを加速
編集部:最後に、自社ECサイト「MANGO HOUSE」の今後の展望をお聞かせください。
金城さん:自社ECサイトで年商5000万円を超えることが当面の目標です。そのためには、ECのリピーターさんをさらに増やしていくことが重要だと考えています。
リピーターさんを増やす具体的な取り組みの1つは、「futureshop」の機能を活用した「レビュー施策」です。購入日の7~10日後に、レビューの投稿方法を記載したメールをお客さまに送信し、レビューを投稿してくださったらポイントを差し上げています。
レビューが増えればECサイト全体のコンバージョン率アップにつながりますし、ポイントを受け取ったお客さまがリピーターとして再度購入してくださることも期待しています。
編集部:リピーターさんを増やしていくことが、「MANGO HOUSE」のさらなる成長につながるとお考えなのですね。
金城さん:はい。そして、「MANGO HOUSE」のファンを増やすために、「MANGO HOUSE」らしい取り組みを続けていきたいと考えています。
たとえば、弊社のスタッフが自発的に投稿しているブログは、弊社らしさが伝わるコンテンツだと思います。ブログを読んだお客さまが、弊社のブランドやスタッフに親近感を持ってくださったら嬉しいです。
また、弊社の商品を着用して「かりゆしウェディング」を挙げたお客さまの写真を掲載している特集ページも、弊社ならではのコンテンツだと自負しています。これからも、お客さまとの距離が近いお店であり続けたいです。
そして、弊社はECサイトの撮影・採寸・原稿や、商品ページへのアップロードなどの業務をデザイナーが行っています。商品のことをもっともよく知っていて、思い入れもあるデザイナーがECサイトのコンテンツを作ることで、リアルで熱量の高い商品ページになると考えています。
こうした「MANGO HOUSE」ならではの取り組みを今後も強化していくことで、お客さまから選ばれるネットショップを作っていきたいです。
取材を終えて
今回のインタビューを通じて、明確な目的意識を持ってリニューアルに臨むことの大切さを、あらためて強く感じました。そして、EC担当者としての日々の仕事のなかで、EC運営の課題を抽出し、セミナーや勉強会にも参加してECの知見を深めるなど、金城さんの日々の努力の積み重ねがリニューアルの成功につながったのでしょう。また、信頼できる制作パートナーにリニューアルを依頼したことも、とても重要なポイントだったと思います。
ECサイトのリニューアルを検討している企業は、今回ご紹介した「MANGO HOUSE」の取り組みを参考にしてみてはいかがでしょうか。
この記事はフューチャーショップのオウンドメディア『E-Commerce Magazine』の記事を、ネットショップ担当者フォーラム用に再編集したものです。