EC化率30%+EC売上は7年で10倍に拡大した高級革ブランド「ペッレモルビダ」の成長秘話
ECは数字を積み上げるドライな仕事だと思われがちですが、実際EC担当者はさまざまな泥臭い仕事も行います。関係者を巻き込んで組織を動かすために、高い熱量を持って仕事に取り組む。メーカーのEC担当者は、そういった心構えが必要ではないでしょうか。
そう話すのは、革製のバッグや財布などを展開しているブランド「PELLE MORBIDA(ペッレモルビダ)」のEC担当者である児玉浩一郎さん。2020年9月にEC担当に着任すると、未経験ながら徹底した顧客目線でサイト改善や新サービス導入、フルフィルメント体制の整備、オムニチャネル施策などを実行してきました。
直近3年間でEC化率が10%強から約30%に高まるなど、EC事業が急成長した背景には、どのような取り組みがあったのでしょうか。
EC担当者の児玉浩一郎さんと、ECサイトの制作を担当している谷口綾子さんに、「ペッレモルビダ」のEC戦略や今後の展望をうかがいました。
高級革製品ブランド「ペッレモルビダ」のEC売上高が7年で10倍に拡大
フューチャーショップ 安原:本日は「ペッレモルビダ」のEC事業が急成長している理由について、EC担当者の視点でお話をお聞かせください。
児玉さん:わかりました。よろしくお願いします。
安原:「ペッレモルビダ」がどのようなブランドなのか、あらためてお聞かせいただけますか?
児玉さん:「ペッレモルビダ」は、2012年にローンチしたブランドです。「本質を知り、優雅さを求める大人のブランド」というコンセプトで、高品質の革を使用したバッグ、財布、ベルト、小物などを販売しています。価格帯は約1万〜30万円前後が中心です。
売上高の約7割を実店舗が占めており、直営店は15店舗、卸先を含めると約100店舗あります。
安原:近年はEC事業も拡大していますね。
児玉さん:はい。EC事業を本格的に開始した2015年から7年間で、EC売上高は10倍以上に拡大しました。オンラインの販売チャネルは自社ECサイトを中心に、「ZOZOTOWN」など一部ECモールにも出店しています。2023年8月期のEC化率は約30%でした。
ECのボトルネックを解消してブランドのポテンシャルを発揮
安原:自社ECサイトの売り上げを伸ばすために、どのような施策に取り組んできましたか?
児玉さん:2020年9月に着任してから3年間、ECの基本的な施策を愚直に実行してきました。奇抜なことは行っていません。お客さまにとって使いやすいECサイトとは、どのようなものか。それを一生懸命考えて、ECサイトのユーザビリティを改善しています。
たとえば、お客さまが商品を探しやすいように、ECサイトのカテゴリ分類やメインメニューの項目を改善しました。また、サイト内検索で商品が漏れなくヒットするように、商品ページのキーワード対策も随時行っています。
私がECサイトを実際に操作して、使いにくいところや、わかりにくいところを1つひとつつぶしていく。それを続けてきた結果、ECの売り上げが伸びました。
安原:ECサイトのボトルネックを解消することでブランドのポテンシャルが引き出されて、ECの売り上げも伸びたのですね。
児玉さん:はい、個人的にはそういった印象を持っています。
私が着任した当時のEC化率は10%強で、アパレル業界の平均よりも低い水準でした。実店舗向けの卸売りがメインだったこともあり、EC事業の運営体制は改善すべきことが多かったんです。
この3年間でECサイトを抜本的に改善したほか、EC専用の梱包資材を導入し、ささげ業務の効率的な運用フローを構築するなど、運用体制の整備も含めてさまざまな施策を実行してきました。そういった取り組みの結果として、本来あるべきEC化率に到達したと思っています。
安原:児玉さんはEC運営が未経験だったそうですが、ECの知見をどのように学んだのでしょうか。
児玉さん:ECサイトの売り上げを伸ばすノウハウは、インターネット上にたくさんありますから、まずは自分で調べて勉強しました。また、フューチャーショップさんが開催している「futureshopアカデミー」など、オンラインの勉強会にも積極的に参加しました。
自社ECサイトの集客とリピート促進の施策とは?
安原:自社ECサイトの集客やリピート促進において、どのような施策を打っているか教えていただけますか?
児玉さん:自社ECサイトの主な集客手段はオンライン広告です。目的に合わせて複数の広告を使い分けています。たとえば、ブランドの認知度を高めるにはSNS広告、購入意欲の高いユーザーにリーチするならリスティング広告やGoogleショッピング広告といった使い分けです。
新規のお客さまのF2転換を促進するために、マーケティングオートメーションツールを導入し、メルマガやLINEのステップ配信も行っています。
安原:既存顧客向けのサービスとして、製品のアフターメンテナンスを自社ECサイトで受け付けるサービスを導入したそうですね。
児玉さん:はい。修理の見積もりから決済まで、オンラインで完結するメンテナンスサービスを導入しました。アフターメンテナンスのオンライン注文サービスを開始したところ、既存のお客さまとの接点が生まれ、F2転換率の向上につながっています。
「ペッレモルビダ」のアプリ会員に登録すると1000ポイントもらえるキャンペーンを実施していますので、「ポイントを有効活用してメンテナンスを行いませんか?」といったメッセージをお客さまに配信することでサービスの認知を高めています。
ちなみに、アフターメンテナンスのオンライン注文サービスを開始したきっかけは、EC会員向けにアンケートを実施した結果、アフターメンテナンスのニーズが高いことがわかったからです。お客さまの声を直接聞き、潜在ニーズを定量的に掴むことができました。ブランドの本質的な課題やニーズを把握できることも、ECのメリットだと感じています。
安原:CRMを強化する取り組みの一環で、フューチャーショップの「CRMコンサルティングサービス」を2020年から毎年利用してくださっていますね。
児玉さん:自社ECサイトの売上高を伸ばすには、リピート売上を積み重ねていくことが欠かせません。
フューチャーショップさんの「CRMコンサルティングサービス」は、新規顧客とリピーターそれぞれの売上金額や購入単価、注文件数などを月ごとに算出し、RFM分析なども実施するなど、ECサイトの現状を可視化してくれます。その上で、改善策を具体的に提案してもらえるので、施策の実行スピードが上がりました。
直近では、初回購入者に対するステップ配信や、優良顧客化につながるCRM施策などを行い、リピート促進につなげています。
オムニチャネル化で実店舗とECの相互送客に成功
安原:2019年に「futureshop omni-channel」を導入し、実店舗とECサイトのポイントや顧客情報を統合しましたね。
児玉さん:直営店を持っていることは「ペッレモルビダ」の強みの1つです。これからの時代、ブランドのファンを増やすには、実店舗とECが連携して顧客満足度を高めていくことが一層重要になると思います。
「ペッレモルビダ」の自社ECサイトは、単なる販売チャネルではありません。ブランド価値を高めるプラットフォームです。
ECサイトの発信力を活かして、ブランドの認知度を高める。ECサイトに店頭在庫を表示し、来店の動機を作る。実店舗で購入した商品のメンテナンスをECサイトでも受け付けることで、実店舗のお客さまをオンラインにも誘導する。
このように、お客さまの買い物のストーリーに沿い、ECと実店舗の相互送客を意識してECサイトを運営しています。
安原:実店舗とECの相乗効果は生まれていますか?
児玉さん:1つ例をあげるなら、ECサイトのトラフィックが上がると銀座本店の来店数も伸びる傾向があります。ECサイトで商品を調べたお客さまの一部が、実物を見るために実店舗を訪れているのだと思います。
ECサイトは“ブランディング”と“売上追求”のバランスが重要
安原:ECサイトを運営する上で、ブランドの世界観を表現するために意識していることはありますか?
児玉さん:「ペッレモルビダ」は高額商品ですので、ブランドの世界観を崩さないように写真や文章のトンマナには細心の注意を払っています。たとえば、ブランドカラーが紺色なので、世界観を守るために赤文字は原則使いません。
ECサイトの売り上げを追求するあまり、ブランドを毀損しては本末転倒です。とは言え、ECサイトの売上を伸ばすには、前例に捉われず挑戦しなくてはいけないこともあります。
たとえば、「ペッレモルビダ」のブランド名やシリーズ名は原則として英語表記で統一していたのですが、ECサイトではカタカナ表記に変えました。お客さまが商品を検索する際、カタカナを使うことが圧倒的に多く、英語表記ではSEOで不利になったりサイト内検索で商品がヒットしにくくなったりするからです。
安原:ブランディングと売上追求のバランスが重要ですね。
児玉さん:難しい舵取りですが、そういった調整を行うこともEC担当者の役割だと考えています。
ECサイトを「commerce creator」で運用
安原:ECサイトの更新やデザイン制作は、谷口さんが担当していらっしゃるそうですね。
谷口さん:はい。私は2021年に入社し、社内デザイナーとして制作全般を担当しています。
「ペッレモルビダ」のECサイトは児玉と二人三脚で作ってきました。児玉が考えたアイデアを実現するのが私の役割です。
安原:「futureshop」の使い勝手はいかがですか?
谷口さん:前職でも「futureshop」を使っていたため、基本的な操作方法でつまずくことはありませんでした。
制作の過程でわからないことが出てきたら、すぐに「futureshop」のサポート窓口に電話をかけて質問しています。「futureshop」は操作マニュアルが充実していますが、マニュアルで調べるよりも電話で聞いた方が早く解決できることもあるので、ご迷惑を承知で電話をかけてしまうことが多いです。
安原:いえいえ、まったく迷惑ではありません。サポート窓口をうまく活用していただけてなによりです。これからも遠慮なく電話をかけてください。
谷口さん:サポートチームのスタッフさんは、どんな質問にも丁寧に、かつ迅速に対応してくださるので、とても助かっています。コーディングなど技術的な質問にも具体的に回答してくださるのでありがたいです。サポートスタッフさんとのやり取りを通じて「futureshop」に対する理解が深まり、スキルアップできることも嬉しいです。
実店舗や商品開発部門なども巻き込んでブランドの拡大に貢献したい
安原:最後に、EC担当者としての今後の抱負をお聞かせください。
児玉さん:EC化率が約30%まで上昇した「ペッレモルビダ」のEC売上高をさらに伸ばすには、前例にとらわれず一歩踏み込んだ取り組みが必要になると思います。
繰り返しになりますが、自社ECサイトは単なる販売チャネルではなく、ブランドのファンを増やすためのプラットフォームです。「ペッレモルビダ」をより多くの消費者に知っていただき、ファンになっていただく施策を打つには、商品開発やフルフィルメント部門などとこれまで以上に密接に連携する必要があると考えています。前例がない施策に投資するための予算を確保することも必要になるでしょう。
その際、社内の組織を動かす原動力として、EC担当者の役割が重要になると思います。
ECは数字を積み上げるドライな仕事だと思われがちですが、実際は、EC担当者はさまざまな泥臭い仕事も行います。関係者を巻き込んで、組織を動かすために、高い熱量を持って仕事に取り組む。メーカーのEC担当者は、そういった心構えが必要ではないでしょうか。
私は商品を作れるわけではありません。ECサイトの制作や撮影、物流などはそれぞれの担当者が行います。極論を言えば、私がいなくてもEC事業は回るんです。
私の役割は、EC事業に必要なことを考え抜き、必要である理由を言語化して、EC部門以外の人たちに理解してもらうことです。関係者の目線を合わせて、組織を動かす調整役として汗をかくことに存在意義があると思っています。
2024年8月期のEC売上高の計画は、前期比約1.5倍という高い目標を会社から求められています。EC事業部が単独で行える施策には限界がありますから、実店舗や商品開発部門なども巻き込んで、ブランドの拡大に貢献したいです。
安原:児玉さんたちが心置きなくEC事業に取り組んでいただけるように、私たちはシステム開発の側面からサポートさせていただきます。本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
この記事はフューチャーショップのオウンドメディア『E-Commerce Magazine』の記事を、ネットショップ担当者フォーラム用に再編集したものです。