決済業界の二大巨頭であるVisaとMastercardは、エージェント型コマースの利用拡大に伴うAIエージェントを活用した決済の普及において、独自の取り組みやパートナー企業との連携を広げています。新時代を見据えた両社の取り組みを詳しく解説します。
AIエージェント活用型決済の拡大
「エージェント型コマース」が進化を続けるなか、そこで行われる決済を支える技術も進化を続けています。グローバルな決済網を持つVisaとMastercardも、この変化にいち早く対応しています。
両社は2025年10月、エージェント型コマースの台頭を支援することを目的とした独自のフレームワークを発表。自社のネットワーク内にAIエージェントによる決済を確実に取り込むことを最優先課題として掲げています。両社のフレームワークは、加盟店が信頼できるAIエージェントを検証し、購入者の意図に基づいて決済処理をよりスムーズに行えるようにするものです。
昨今、人間に代わってリサーチし、買い物する商品を選び、決済まで済ませる「AIエージェント」が普及し始めています。それに伴い、新たなニーズが生まれており、決済大手の両社はここ数か月でさらなる一歩を踏み出しました。
VisaとMastercardのアプローチから、両社が共通して抱いている懸念事項や、エージェント型コマースのエコシステムに向けた最初の一手がどのようなものであるかがわかります。
Visa、Mastercardが各社との連携で進める“足場固め”
まず、VisaとMastercardは、自社のネットワークを使ってエージェント型コマースの取引を確実に行えるよう、決済業界内の重要なパートナーとの連携を進めています。
コンサルティング大手のMcKinsey & Companyは、2030年までに米国だけでAIエージェントによる取引額が1兆ドルに達すると予測。決済技術やサービスを提供する企業にとって、システムが構築されている今のうちに足場を固めておくことは非常に魅力的なのです。
その重要なパートナーの例が決済大手のStripe(ストライプ)です。2026年3月、Stripeが「共有決済トークン(SPT)」を用いてネットワーク主導のエージェント決済機能を拡張すると発表した際、VisaのAIエージェントを活用した決済基盤「Intelligent Commerce」とMastercardのエージェント型決済プラットフォーム「Agent Pay」が、後払い(BNPL)サービスのAffirmやKlarnaとともにStripeの連携相手として名を連ねました。
また、2026年1月にGoogleが「ユニバーサル・コマース・プロトコル(UCP)」(AIエージェントが消費者に代わって買い物関連のタスクを実行する「エージェンティック・コマース」を推進する新標準プロトコル)を発表した際も、VisaとMastercardは連携する企業の1社に加わりました。
Visaは独自の「Trusted Agent Protocol」も保有しています。「Trusted Agent Protocol」は、エージェントコマースの基盤となるセキュリティフレームワークです。Visaは以前、このプロトコルをOpenAI独自の「エージェント型コマース・プロトコル」と連携させると発表しました。他にも、Visaが築いている注目すべき協力関係として、クラウドセキュリティ事業を手がけるAkamai Technologies、Amazon Web Services(AWS)とも連携しています。
課題はAIエージェントの不正防止
グローバル決済を主導するVisaとMastercardは、エージェント型コマースが「自分たちが関与すべき領域である」という点について考えが一致しているようです。同時に、解決すべき課題もあると考えています。
Visaの“身元”保護の取り組み
Visaのチーフ・プロダクト・アンド・ストラテジー・オフィサーであるジャック・フォレステル氏は、2026年3月にニューヨークで開催されたカンファレンスで、「1990年代後半から2000年代初頭のEC黎明期以来、これほどの変化は見たことがありません」と話しました。
VisaはAkamai Technologiesと協力し、本人確認、認証、不正防止に取り組もうとしています。
AIエージェントにも「身元」が必要です。その身元を安全に保護し、正当なものであることを確認し、セキュリティを確保するためにより多くのデータを収集する――そうした全ての仕組みが必要なのです。(Visa フォレステル氏)
Visa チーフ・プロダクト・アンド・ストラテジー・オフィサー ジャック・フォレステル氏(Visaのコーポレートサイトから追加)
Mastercardは認証基準の構築に注力
Mastercardも、人間が介在しない「AIによる自律的な取引」のための認証基準の構築に取り組んでおり、OpenAI、Google、Cloudflareと提携しています。
Webセキュリティの強化および表示速度の最適化を手がけるCloudflareの「Web Bot Auth」技術(ボット認証)は、Microsoft、Shopify、Checkout.com、Worldpay、Adyenなどの企業とともに開発されたもので、現在はVisaとMastercardの両方で採用されています。
Mastercardのマイケル・ミーバッハCEOは、2025年10月、同社のネットワーク上で「最初のエージェント取引が行われた」と発表しました。

ミーバッハCEOは、Mastercardが将来的にエージェント型コマースの「中心」になると宣言。さらに、Mastercard傘下で支払いトラブルの早期解決やチャージバック削減ソリューションを提供するEthoca(エソカ)のリアルタイムデータや、最新のサイバー攻撃を検知する「Mastercard Threat Intelligence」(マスターカードスレットインテリジェンス)を活用することで、Mastercardの「Agent Pay」プログラムにおけるセキュリティや不正防止のニーズに対応していくとミーバッハCEOは話しています。
さらなる信頼構築が求められる時代の到来
振り返れば、こうした一連の課題は、かつてEC黎明期に小売事業者のECサイトがクレジットカード決済を導入した際の状況と似ています。当時は「インターネット上でクレジットカード番号を入力しても安全か」という消費者の不安を解消することが、普及への第一歩でした。
エージェント型コマースという新たな時代の到来により、業界は再び同じ、しかしより高度な信頼構築のプロセスを歩み始めています。VisaとMastercardは、この新市場がもたらすであろう莫大な収益の機会を、確かな手応えとともに見据えています。
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