小林 真由美 2022/7/13 8:00

BtoB(法人向け取引)-ECで受発注業務のデジタル化は進んでいるものの、決済に関してはデジタル化が遅れているのが現状だ。こうした環境下、2022年1月施行の改正電子帳簿保存法、2023年10月に始まるインボイス制度(適格請求書等保存方式)への対応について、決済のデジタル化を進めなければさまざまな問題が生じることになる。BtoB-ECの決済に携わるキーマンが対応ポイントを語った。

Dai取締役・鵜飼智史氏 ラクーンフィナンシャル Paid推進部長 執行役員 及川哲哉氏 マネーフォワードケッサイ株式会社の岡本創氏

BtoB特有の決済とBtoB-EC決済サービスの課題

Dai取締役・鵜飼智史氏(以下、鵜飼氏): BtoB-ECの市場についてお話しをします。経済産業省が公表したデータによると、BtoB-ECの市場規模は334兆円、EC化率は33.5%に達しています。さて、皆さんもご存じだとは思いますが、BtoBには請求書を用いた『掛け払い』という特有の決済方法がありますよね。今回は、それに対応するBtoB-EC決済サービスの課題についてディスカッションしていきます。

Dai取締役 B2BソリューションDiv.マネージャーの鵜飼智史氏。BtoBの受発注業務をEC化するクラウドサービス「Bカート」を提供している
Dai取締役 B2BソリューションDiv.マネージャーの鵜飼智史氏。BtoBの受発注業務をEC化するクラウドサービス「Bカート」を提供している

ラクーンフィナンシャル Paid推進部長 執行役員 及川哲哉氏(以下、及川氏): BtoBにおいて、大手同士の取引はEDI(電子データ交換)を使っていることが多く、BtoB-ECは中小企業との取引が中心となります。また、請求書払いが多く、掛け売りのニーズが高いのが特長で、それに対応できるサービスが必要となっています

BtoB-ECの課題
BtoB-ECの課題

業務負荷の問題もあります。BtoB-ECサイトを立ち上げ、受発注はEC化したとしても、請求に関しては入金管理と合わせて従来通り紙ベースというケースは少なくありません。請求関連の業務がアナログのままであれば、当然取引先が増えると業務負荷も増加してしまいますここをいかにデジタル化していくかというのは、2022年1月の電子帳簿保存法改正、2023年10月に始まるインボイス制度(適格請求書等保存方式)とも関係してくることもあり、今後のBtoB-ECサイトの導入において重要なポイントと言えます。また、請求業務においては与信・保証も大きな課題です。中小企業や個人事業主は与信が取りにくく、顔がみえない新規企業との取引には不安がありますよね。そのため、与信・保証までサポートしてくれるサービスが求められています。

ラクーンフィナンシャル Paid推進部長 執行役員 及川哲哉氏。後払い決済「Paid」を担当している
ラクーンフィナンシャル Paid推進部長 執行役員 及川哲哉氏。後払い決済「Paid」を担当している

クレジットカード決済よりも掛け売りの方が客単価は高い

鵜飼氏:BtoC-ECでは、クレジットカードによる決済が一般的です。BtoB-ECでも、クレジットカード決済は適しているのでしょうか。

及川氏:BtoB-ECは、請求書を発行する掛け売りでの取引ニーズがかなり高いと言えます。ラクーンコーマスが展開しているBtoB-ECサイト「スーパーデリバリー」では当初、クレジットカード決済と代引きを用意していましたが、取引先からの要望で掛け売りを導入した経緯があります。そこで気付いたのは、クレジットカード決済よりも、掛け売りの方が客単価が高くなるということです。

鵜飼氏:なるほど。決済手段によって客単価が異なるというのはおもしろいですね。

及川氏:おそらくその理由の1つに、中小企業に法人カードが行き渡っていないことがあげられます。法人カードを持っていない企業であれば、クレジットカード決済を選択した場合、個人カードを使うため限度額にすぐ達してしまいます。

マネーフォワードケッサイ株式会社 岡本創氏(以下、岡本氏):会計処理の問題もありますよね。仕訳を行う際に、自家用と業務用をわけなくてはならず、処理が煩雑になってしまいます。また、売り手側にかかる手数料の問題もあるでしょう。クレジットカード決済の場合、手数料は5%くらいだと思いますが、BtoBビジネスは粗利が少ない薄利多売のビジネスモデルが多いため、この手数料が高いとビジネスそのものが立ち行かなくなってしまいます

マネーフォワードケッサイ株式会社の岡本創氏。デジタルサービスと与信・保証がセットになった「マネーフォワード ケッサイ」を提供
マネーフォワードケッサイ株式会社の岡本創氏。デジタルサービスと与信・保証がセットになった「マネーフォワード ケッサイ」を提供

鵜飼氏:規模の大きな商社など、そもそも営業利益が数%という場合もあったりするので、決済手数料の捻出が難しいケースもありますね。

BtoB-ECに適した決済方法とは

岡本氏:「Bカート」と「マネーフォワード ケッサイ」を導入し、デジタル化を推進した事例を紹介しましょう。雑貨・インテリアなどの卸企業で従業員は約30人、売上規模は年間約10億円で、取引先は小口の小売店といった事例です。

2年前に会社へ伺った時には、棚には注文書、請求書、発注書、仕入れ書などの用紙が並び、毎月の請求は約1200件、そして毎日FAXで注文書が200枚くらい届くという“紙だらけ”の状況でした。受注情報は、女性の担当者が基幹システムへ手入力していました。今考えると、とてつもない業務量ですよね。そこでBtoB ECサイトを立ち上げ、請求業務の電子化を進めていかれました。新型コロナウィルスの感染拡大時期でしたが、デジタル化を推進することで、従業員は家でも仕事ができるようになり、働き方も大きく変わりました

インボイス制度・電帳法で変わるBtoB-ECの請求・決済業務。事業者が知っておくべき請求業務の変更点と対応方法
抱えていた課題など

及川氏:全国の介護事業者や福祉施設に対して、代理店を通じて商品を卸している企業の事例を紹介します。以前は分厚いカタログを使って商品を提案しており、受注はすべてFAXを用いて行っていました。手書きFAXが少なくなかったため、読みにくい文字を確認するオペレーションにも手間がかかり、受注処理の業務負荷が高くなっていました。クライアント側からすると、分厚いカタログから商品を探すのは時間がかかり、手書きのFAXで注文するのも負担になります。そんななか、ECサイトで検索して注文したい、という声が増えてきたことをきっかけに、BtoB-ECサイトを立ち上げました。

受発注をEC化すると同時に、決済面においても掛け売りの導入を検討し始めましたが、与信管理をどうするか、という問題が浮上しました。掛け売りと与信管理を対応できる決済サービスを探すなかで、ラクーンフィナンシャルの「Paid」を導入しました。受発注・請求業務の軽減はもちろん、ネックとなっていた与信審査による取りこぼしが減少したそうです。

インボイス制度・電帳法で変わるBtoB-ECの請求・決済業務。事業者が知っておくべき請求業務の変更点と対応方法
デジタル化の効果について

鵜飼氏:システムを自前で開発すると時間がかかるうえ、コスト的にも負担が大きいですもんね。

及川氏:そうですね。既にECサイトで受注業務を行なっており、請求業務のデジタル化を考えているのであれば、ECサイトと連携できる決済サービスの導入をオススメしたいですね。

2023年10月に迫ったインボイス制度への対応

インボイス制度・電帳法で変わるBtoB-ECの請求・決済業務。事業者が知っておくべき請求業務の変更点と対応方法
法制度への対応、判断ポイント

鵜飼氏:この先、大きな問題となるのが法改正です。電子帳簿保存法とインボイス制度が義務化されると、請求や決済のあり方が大きく変わってきます

岡本氏:2023年10月から始まるインボイス制度は、BtoB-ECをやる・やらないに関係なく、すべての企業が対応しなくてはならない制度です。この制度におけるポイントは5つあり、そのなかで、売り手側・買い手側の双方に関わるのが保存要件です。請求書を発行する側も受け取る側も、請求書を7年間保存しなければなりません。保存スペースも必要ですし、破棄の費用もかかりますよね。

税計算もこれまでと形式が変わり、納品単位か請求単位かを選ぶ必要があります。そして、請求書を提出する側は、適格請求事業者として税務署へ事前登録をしなければなりません

インボイス制度・電帳法で変わるBtoB-ECの請求・決済業務。事業者が知っておくべき請求業務の変更点と対応方法
改正電子帳簿保存法、2023年10月に始まるインボイス制度のポイント

保存要件:紙or電子化

鵜飼氏:まず、どこから手を付ければいいのでしょうか。

岡本氏請求する側がまず着手するべきことは、請求書を紙で送るのか、電子化してデータで送るのかの決断です。今後も、請求書を紙で発行して郵送することを選択した場合、その保存には2つの方法があります。

1つは、発行側は請求書の控えを保存し、受け取る側は原本を保存する方法。これには、先ほどお話しした通り保管スペースや保管期間が過ぎた書面の破棄コストの問題があります。

もう1つは、紙ベースの請求書を双方でスキャンしてPDFや画像で保存する方法です。この場合、スキャンに時間がかかるうえ、データ保管の仕組みを考慮しなければなりません。

そこで、最も手間をかけずにコストも抑えることができるのは、請求書をデータで発行し、データで保存する方法です。しかし、この方法にも問題があります。請求書をデータで送った場合、受け取った側もデータでしか保存できないことです。印刷して保管しておく、という方法を取ることはできません。ただし、この方法には2年間だけ猶予期間があり、この間は、紙に印刷して保管することが許されます。しかし、2024年1月からは、受け取る側もデータでしか保存できなくなり、受け取る側も仕組みを整えなければなりません

インボイス制度・電帳法で変わるBtoB-ECの請求・決済業務。事業者が知っておくべき請求業務の変更点と対応方法
保存要件のポイント

鵜飼氏:つまり、請求書をデータとして発行する側は、受け取る側のことも考えて、システムを選ぶ必要があるということですね

岡本氏:はい、そうです。請求書の発行・発送業務や新規顧客の与信などを人の手で管理してしまうと、その業務のための人件費や郵送代、紙の請求書の保管費用、保管期限が過ぎたものの破棄費用などがコストとしてかかってきます。図で表すとよくわかるのですが、請求業務には思っている以上に費用が発生しているのです。

そこで、BtoB-ECサイトで受発注業務をEC化し、さらに法改正に対応した決済サービスを使うことで、業務コストを大きく削減することができるようになります

インボイス制度・電帳法で変わるBtoB-ECの請求・決済業務。事業者が知っておくべき請求業務の変更点と対応方法
請求業務のコストを踏まえると、電子化した方がメリットは大きい

消費税計算(納品ごと、請求ごと)

鵜飼氏:消費税の計算方式に関してはいかがでしょうか。

岡本氏:ここも重要ですね。消費税の計算は、これまで認められていた1明細行ごとの端数処理が認められなくなり、「1請求ごとで計算するのか」「1納品ごとで計算するのか」の二択になります端数処理のズレを考慮したり、キャンセルや返品があると計算がさらに複雑になります。これらを毎回人の手で計算するというのは現実的ではないので、システムで対応する必要があると言えます。しかし、多くの会社 がこの問題に気付いていないのが現状。これからシステムを導入するのであれば、きちんとインボイス制度の消費税計算に対応しているサービスを選んでいただきたいですね

インボイス制度・電帳法で変わるBtoB-ECの請求・決済業務。事業者が知っておくべき請求業務の変更点と対応方法
消費税計算について
インボイス制度・電帳法で変わるBtoB-ECの請求・決済業務。事業者が知っておくべき請求業務の変更点と対応方法
1納品ごと、1請求ごとの端数処理について

岡本氏:BtoBの場合、消費税を1納品ごとに計算することが多いのですが、保存の問題があります。請求書をデータ保存しているのであれば、納品書を紙で保存するのは片手落ちですインボイス制度、電子帳簿保存法の双方に対応し、1納品ごとの端数処理を選択するのであれば、納品書もデータ保存できるサービスを検討したいところです。

インボイス制度・電帳法で変わるBtoB-ECの請求・決済業務。事業者が知っておくべき請求業務の変更点と対応方法
1納品ごと、1請求ごとの課題

インボイス制度に対応するサービスを選ぶ

鵜飼氏:インボイス制度、電帳法に対応する決済サービスを選ぶ際のポイントについて教えてください。

岡本氏適格請求書の発行や税計算、受け取る側のデータ保存も対応できるサービスなのか否かを調べてほしいですね。新たにサービスを導入するというのであれば、与信・保証、代金回収、顧客問い合わせなどもセットになっているような決済サービスを選ぶと良いでしょう。

鵜飼氏自社だけではなく、取引先のことまで考えていかなければならないことに加え、受注から請求までをつなげていくことも、今後のBtoB取引においては重要だということですね。

岡本氏:そうですね。その実現方法として基幹システムを改修するのではなく、クラウド型のサービスを外付けして法改正に対応することも検討してほしいですね。いろいろなサービスを組み合わせていけばコストを抑えることもできます。

鵜飼氏:業務のデジタル化を進めるだけでなく法令対応も行っていきたいですね。コスト面もそうですが法改正までのスケジュールを考慮すると、クラウド型のサービスを組み合わせて対応する方法がお勧めと言えるでしょう。

インボイス制度・電帳法で変わるBtoB-ECの請求・決済業務。事業者が知っておくべき請求業務の変更点と対応方法
法制対応のポイント

◆鵜飼さんが監修・執筆したBtoB-ECの専門書『BtoB-EC市場の現状と将来展望2022』のご案内

『BtoB-EC市場の現状と将来展望2022』

『BtoB-EC市場の現状と将来展望2022』

  • 監修:鵜飼 智史
  • 著者:鵜飼 智史/森田 秀一/朝比 美帆/インプレス総合研究所
  • 発行所:株式会社インプレス
  • 発売日 :2022年1月25日(火)
  • 価格 :CD(PDF)+冊子版 110,000円(本体100,000円+税10%)
    CD(PDF)版・電子版 99,000円(本体 90,000円+税10%)
  • 判型 :A4判 カラー
  • ページ数 :250ページ
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