アスクルがめざす「新しい働き方」とは。 社員の声からリニューアルした新オフィス【探訪記】
アスクルは「新しい働き方」の実現に向け、東京都豊洲の本社オフィスを2021年にリニューアルした。2020年6月に「With・Afterコロナのオフィスをどのように活用していくか」を検討するプロジェクトをスタート。全社横断で各事業部から代表社員が参加し、トップダウンではなくボトムアップ方式で議論を進めたという。社員の意見をベースにリニューアルした新オフィスを取材した。
社員の声を反映した新たな職場。「アスクルらしさ」を表現しつつ、刺激を受けながら働ける場所へ
豊洲キュービックガーデンの11階と12階にあるアスクル本社。リニューアルは2021年4月末に完了した。コンセプトは「ASKUL CROSSING(アスクル・クロッシング)~リアルでもオンラインでも集い結び着くことができる仕事場~」。
多様な働き方のなかで、多様な人材が情報を分かち合いながら、刺激を受けながら働ける場所として、「ASKUL CROSSING」というキーワードを発信した。(アスクルの岩津徹 人事総務本部 働き方改革 仕事場改革 部長)
業務の特性が異なる各事業部の意見を参考にオフィス家具の変更やレイアウトを変更し、空いたスペースの活用方法などを議論。安心・安全をベースにしながらリアルなコミュニケーションができる場を設けた。コロナ禍でオフィスの在り方・働き方が変化した時代だからこそ、イノベーションし議論できる、クリエイティブな場をめざした。
本社リニューアルプロジェクトには各事業部から代表社員32人が参加。プロジェクトの第1フェーズではオフィス内にある不要な物や家具を処分。その際に出た不要品の総重量は37トンに及んだという。
第2フェーズでは空いたスペースをどのように有効活用するかを議論し、「社員の思いをつなげる」「アスクルらしさを体感できる」「リフレッシュできる場所がほしい」「社外とつなぐ場がほしい」など7つの主軸となるテーマを出した。
プロジェクト参加メンバーは、新しいオフィスのレイアウトにどう家具を設置するか検討するファシリティチーム、安全・防疫面などの対策・運用チーム、リフレッシュスペースやカフェについて検討するチームなど5つのチームに編成した。
プロジェクトの総意でありベースにある「人とのつながり、人の思いをつながりを大切にする」、「せっかく出社するのであれば、人と会うときの価値を感じられる新しい仕事場にする」を元に、それぞれのチームがテーマに沿った施策を検討し、実装したという。
オフィス内を探検してきました!
古来からある植物を植えた緑あふれるエントランス
オフィスのエントランスには古来からある原種の植物を植えた。アスクルのパーパス(存在意義)の「仕事場とくらしと地球の明日に『うれしい』を届け続ける」を表現するため、植物の種類にこだわったという。
エントランスや社内の植物は「そら植物園」の西畠清順氏が監修。植樹や植物の手入れに関する講義なども行ったという。
コミュニケーションのきっかけ作りにもつながるシーズナルツリー
エントランスの先には、アスクルのコーポレートマーク「アスクル坊や」と季節に応じたシーズナルツリーを設置。シーズナルツリーは社員同士や来社した人とコミュニケーションを取るきっかけ作りの役割も担っているという。
シーズナルツリーの種類は「そら植物園」のスタッフが選定し、2週間に1回ほどメンテナンスを行っている。アスクル社内の部活動「エンゲー部」に所属する社員の要望で決めることもあるという。
植物のメンテナンスを行う「エンゲー部」
エントランスやオフィス内の植物をメンテナンスする「エンゲー部」を設立。吉岡晃社長も含め、2021年6月時点で33名が所属している。
水やりなどのほか、隔週で定期的な「エンゲー部会」を実施しており、実施・発信できることを議論しているという。この部活動にはさまざまな事業部から社員が参加しており、コミュニケーションの場としての役割も担っている。
今後は「エンゲー部」以外にも横のつながりが生まれるような施策ができないか検討しているという。
翌日の天気をイメージしたBGMをAIが生成
エントランスにはAIが生成した音楽が流れている。AIには四季に合わせたある程度のパターンや音が組み込まれており、それらを組み合わせて翌日の天気をイメージした音楽を生成しているという。
エントランスには曲名と音楽に合わせた画像を表示するディスプレイを設置。5日に1回表示内容を変更しており、内容も季節に応じたものになっている。
オンライン打ち合わせもゆったりできるスペース
「ASKUL CROSSING」を象徴するエリア。カフェ風のハイカウンターやボックス風の席を設置し、打ち合わせなどに使用できる。
ハイカウンターの近くには、オンライン会議ができる広めのスペース「Zoom rooms」を設置。カメラとスピーカーのほか、大きなモニターを2台設置しており1画面で資料、もう1画面で会議参加者を映すという使い方ができる。
集中できる「個室ブース」と社員のアイディアを生かした半個室「テレカンブース」
1名または2名で利用できる個室ブースを設置。集中して作業ができるため、利用頻度が高いという。オンラインの打ち合わせにも利用できるよう、防音性が高いブースになっている。
パートナー企業も利用できるゆったりとしたカフェテリア
アスクル社員だけでなく、パートナー企業の社員も自由に利用できるカフェテリアは、「仲間と集うオアシス」をコンセプトにリニューアル。
充電器を設置したテーブルもあるが、これは昼休憩時にしかスマートフォンを利用できないパートナー企業に配慮した取り組みだという。
防疫面を考慮し、併設している売店や給茶機などは非接触で利用できるよう完全セルフスタイルになっている。有料のコーヒーメーカーの支払いはキャッシュレス決済を導入している。
一部のコーヒーメーカーではアスクルで販売しているコーヒー豆を使用。こうした取り組みを行っている理由について、アスクルの長谷川仁氏(人事総務部 働き方改革 仕事場改革 ファシリティーマネジメント マネージャー)は「実際にアスクルで販売している商品がどのような味かわかってほしい」と説明する。
オフィス家具を体験できるショールーム
12階フロアの一角にはショールームスペースを設置。リニューアル前からオフィス家具のショールームを実施していたが、「新しい働き方」を提案できるように進化したという。
リラックスできるパートナー企業専用エリアも設置
「忙しいなかでも、しっかり休息」をコンセプトにリニューアルした、パートナー企業社員専用のリラックスエリア。このエリアでスマートフォンを使用する機会も多いことから、電源や通信環境も整備している。
2つの目的から導入した位置情報ツール
アスクルは現在、月の出社回数を6回以下に制限し、テレワークを推奨している。また、11階、12階のフロアはコールセンターなどユーザー対応業務をのぞき、ゾーン別にフリーアドレス制へと移行した。
こうした状況下のコミュニケーション促進としてオフィス位置情報ツール「beacappHERE(ビーキャップヒア)」を導入した。
「beacappHERE」を利用することで、スマホアプリや専用のWebサイトから誰がどこにいるかを知ることができ、フロアを往来して人を探す必要がなくなるという。また、個室・半個室ブース付近にも専用のPCを設置し、利用状況がわかるようにしている。
導入してまだ間もないため利用者数は多くないが、利用者からは「アプリから電話もかけられて便利」という声があがっているという。
コミュニケーション促進以外にも、リアルタイムでカフェエリアなどの混雑状況がわかるため、密を回避することにも役立っている。
今後は「beacappHERE」で取得したログを活用し、密になっているエリア・空いているエリアを定量的に把握し、エリアの改装に役立てていくという。
PDCAを回し、より便利で出社機会を生かしたオフィスをめざす
今回のリニューアルに際し、岩津氏は「シーズナルツリーやブレストできる場所など、オフィス内にあえて集まりやすい場所を作っている」と話す。
リニューアルしたオフィスについてどんどん発信して、出社したらコミュニケーションできるよう啓蒙している。(岩津氏)
1年かけて実現したオフィスリニューアル。今後は実際の利用方法などについてヒアリングを行い、使い勝手の良さをより向上させていくという。