個人事業主と取引するときもマイナンバー対応が必須。企業が気を付ける8つの注意点
2016年からマイナンバー制度では、社内だけではなく、社外の関係者からもマイナンバーを収集するケースがあるのはご存知ですか? たとえば、ネット通販企業では、デザイナーやライター、コンサルタントなど個人事業主に業務を委託している場合、その人からマイナンバーを収集し、それを管理する業務が発生します。それを誰が、どのように収集し、管理するのかというルール決めと運用はとても重要になってきます。今回はマイナンバー制度を社内で安全に運用するための、収集・管理に関する重要ポイントを解説します。
マイナンバーの収集・管理でとっても重要な8つのこと
とっても重要な8つのポイント
①デザイナーやアルバイトからもマイナンバー収集が必要
ネット通販などの企業側からの視点で、マイナンバーの収集や保管、利用、提供、廃棄などのいろいろな場面を想定して、制度への対応について考えてみます。
マイナンバーの利用に伴い、“必ず実施”しなければならないのは情報漏えい防止などの安全管理措置です。利用範囲が拡大しますので、影響度はより高まります(漏えいしたらマスコミの格好の餌食になりますし……)。厳重な安全対策が求められます。
まず、ビジネスをする上で、“誰から”マイナンバーを収集しなければならないでしょうか。
番号収集の対象範囲に関する例を見てください。
- 従業員等とその扶養家族(従業員等という範囲には、取締役や監査役なども含む)
- デザイナーやサイト運営などを依頼している個人事業主、パート、アルバイト。また、社労士や税理士など個人経営の士業の方
- 株主配当金を出しているならば個人株主も対象
- 寮や社宅などを会社名義で借りている場合、家主の方が個人の大家さんであるならば、その方からもマイナンバーの収集が必要となる
②マイナンバーは安全管理措置がとっても重要
では、いつマイナンバーを集めるのでしょうか。
最も遅いケースで、2016年の税務申告の際にマイナンバーを入手していれば大丈夫です。社外の人の場合、税務申告でマイナンバーが必要となりますので、最も遅い場合はそのタイミングで十分です。
しかし、2016年前半は取引はあるものの、後半ではなくなってしまう場合もあります。もしかすると、税務申告の頃には、対象者の住所が変わっているかもしれません。電話番号も変わっていて連絡が取れなくなる場合もあります。
ですので、2016年の取引が始まるタイミングで収集するのが適当なタイミングでしょう。アルバイトやパートの方々から収集も、雇い始める際に収集しておくのが、ベストと言えるでしょう。
また、上記のような方々と2015年から取引が継続しているのであれば、なるべく早いタイミングで集めておきましょう。取引終了時点や年末頃になると、忘れてしまいがちになるからです。
また、税務申告の時期になってマイナンバーを収集できないとなると、忙しい時期に無駄な時間を費やしてしますので、前もって段取りしておくことを勧めます。
社員やその扶養家族においても同様です。多くの企業では2015年中に収集を開始していて、それらの企業ではほとんど年内には収集完了することでしょう。社員などの場合は、年明け早々に社会保険の手続きが発生する場合がありますので、安全管理などの制度対応の準備が整い次第、収集する方が良いでしょう。
しかし、気を付けなければならないのは、安全管理が不十分な場合。不完全なままですとリスクが大き過ぎるため、あわてて収集することはむしろ止めるべきです。
すぐにとりかかるべき安全管理などの制度対応とは、次の通りです。
- マイナンバーの担当者・責任者の任命
- 事務所内のマイナンバー作業を行うエリアの定義
- 紙でマイナンバーを保管するのであれば、鍵付のキャビネットの設置や運用規程の整備
- システムで管理するのであれば、ID・パスワードやファイアウォールなどの設定
- マイナンバー業務を委託するのであれば、委託契約書の見直しなど
端的には、マイナンバー取扱規程を整備し、それを補完する業務フローをきちんと構築、それらの規程や業務フローに基づいて業務をすることを指します。
③社員や取引先の個人事業主に対しての本人確認は必要か
マイナンバーを収集する際に必ずやるべきことは本人確認です。本人確認は、「番号確認」「身元確認」の2つの行為から成り立ちます。新しい制度ですので、番号確認は絶対に必要ですよ。社員から12桁の数値をもらっても、本当にその番号が正しい番号なのかチェックしなければ意味がありませんから。
社員に対して、いまさら身元確認が必要か? と思われでしょう。入社時の免許証提示などちゃんと身元確認をしているのであれば、省略は可能です。しかし、結婚して名前が変わったり、入社年度の古い人には身元確認していなかったなど、いろいろなケースがありますよね。マイナンバーの番号確認書類を集める訳ですから、この際、全員の身元確認もしておいた方が明確になるのでおすすめします。
番号確認や身元確認は、書類のコピーまたはスマホなどで撮影した写真の提出によって確認することができます。
番号確認については、届いたマイナンバー通知カード、または、2016年1月以降であればICチップ入りの個人番号カードの番号記載面(裏面)、あるいは、マイナンバーが記載された住民票によって確認することができます。
身元確認は、従来から利用している写真付きの証明書などで確認できます。一般的には、免許証、パスポート、外国籍の方であれば在留カード、および2016年1月以降であるならば、個人番号カードの写真が載っている面(表面)などが対象になります。
マイナンバーの収集には上記の社員に加え、取引をしている個人事業主、個人株主などから、本人確認書類を同時に入手して、確認をする必要があります。ただし、社員の扶養家族については、一部の例外を除いて本人確認は要りません。税金関連では扶養家族の本人確認は社員が実施しますので、会社が本人確認することは不要になります。
ネット通販では個人事業主のデザイナーやライター、コンサルティング事業主さんと契約しているケースがありますよね。個人事業主さんに仕事の発注をしている場合は、マイナンバーを収集しなければならないことをチェックしておいてください。
その際、誰が取引先の個人事業主さんからマイナンバーを収集するのかという観点も重要になりますが、どのような方法で、どんな管理をしていくのか、といったことも考えなければなりません。経理担当者以外の現場担当者が行うといったことも考えられますよね。そうしたケースも含めて、マイナンバー管理のルールは、会社全体で共有しておくことが重要です。
ちなみに、社会保険に関しては、例外があります。社員の配偶者の国民年金第3号被保険者の手続きをする場合には、会社は必要な書類を入手して配偶者の本人確認をしなければなりません。必要な書類というのは、配偶者が社員に代理してもらう意味の委任状、配偶者の番号確認書類、および、代理している社員の身元確認書類の3点。他にもやり方はありますが、一般的にこの方法で行われると思います。
年金や健康保険に関しては、1年遅れで開始されることもあり、2016年中にいくつかのルールが公表されると思いますので、注意しておかなければなりません。
④誰がマイナンバーの管理を担当するの? 担当者の任命は重要です
ここで重要になってくるのが、本人確認書類、とりわけ番号確認書類の取り扱いです。マイナンバーといった特定個人情報は絶対に漏えいしてはいけません。ですから、マイナンバーが記載された書類は、社内でも特定の担当者・責任者のみがハンドリングするように決めなければいけません。
マイナンバー制度への対応の第一歩は、マイナンバー取扱担当者と責任者の任命です。社員が100名以下の中小規模の事業者では、担当者と責任者が同じ人であってもOKでしょう。担当者と責任者を決めたら、それ以外の人が、なるべくマイナンバーにタッチしない仕組み作りや教育が必要です。
具体的には、マイナンバー記載書類を無造作に机の上に放置することはNGです。書類の取り扱いでは他者が見れないように封筒に入れて運ぶようにすることも必要です。これらについても業務フローなどで、しっかり記述しておくことが重要ですよ。
一般社員が他者のマイナンバーを見ただけでは罰則にはなりません。見ただけで大騒ぎする必要はないですが、一般社員がメモをとったり、コピーをしたりすることは“故意”と判断されるためNGです。ですから、そういった可能性がゼロに近い状況をいつも作っておくことが大切です。
⑤マイナンバーの保管方法は? 紙での保管はOK?
次に決めることは、収集したマイナンバーの保管場所です。マイナンバー保管方法は、法律やガイドラインが具体的に指定している訳ではありません。つまり、紙であってもシステムであってもOKです。ただ、安全管理措置をしっかり守っていることが重要です。
紙で保管するのであれば、鍵付の書庫やキャビネットに保管しなければなりません。では、その鍵は誰が管理するのでしょうか。それはマイナンバーの責任者あるいは、担当者ということになります。
企業でよくありがちな光景として、書庫には鍵がかかっているが、その鍵は誰もが知っている場所に置いてある、というケースです。鍵の責任者が休暇を取ったり、外出したりして、いざという時に対応できなるケースを想定しての措置だと思いますが、マイナンバーについては、これでは意味がありません。特定の担当のみがマイナンバーを取り扱う体制が必要です。
システムで保管する場合は、利用している人事給与パッケージソフト会社が提供している保管庫を利用するのも有用でしょう。クラウドでサービスしている場合もあります。また、独自にマイナンバーDBを構築する方法もありますよ。また、エクセルにマイナンバーだけを保管する方法もあります。いずれの場合でも、最低限、IDとパスワードによる管理は必須です。マイナンバー責任者と担当者以外がアクセスできないように、しっかりと制御する必要があります。
できれば二要素認証を用いるなど、より安全に管理することが望ましいでしょう。具体的には、JCAN証明書など、公的な電子証明書によるクライアント認証等があげられます。
⑥スマホからマイナンバーを登録させる方法も有力です
担当者と保管場所が決まったら、本人確認のための書類などの運搬方法を決める必要があります。
紙の書類を郵送するのであれば、自治体から簡易書留でマイナンバー通知カードが届いたように、書留など追跡ができる運搬方法を利用すべきでしょう。
運搬ルートで漏れや事故が起きた場合に問題となるからです。デザイナーや士業の方など社外から収集する場合、普通郵便でお願いしてしまうと「この企業の安全管理は大丈夫かな?」と信頼を損ねるリスクも考慮した方が良いでしょう。
紙媒体を利用しないスマホからのマイナンバー収集は、利便性が高いです。もちろん安全対策が施されていることが大前提です。
人事側の作業量を増加させないために検討された方法ですが、工夫に工夫を重ねる過程で、あまりにもセキュリティ対策を強化した為にスマホ側の操作が複雑になってしまう場合があります。すると、人事宛ての問い合わせが増えてしまい、業務量増加してしまうという、もともとの狙いと逆行することも考慮しなければなりません。
⑦本人確認書類はすぐに廃棄すべきか? 保存すべきか?
ここで問題になるのが、マイナンバーを保管した後の本人確認書類の取り扱いです。本人確認書類を紙で集めた場合は、その紙の取り扱いであり、スマホなどの媒体から電子の写真として集めた場合はディスクに一時保存された写真の取り扱いです。これらを長期に保存するか否かは、それぞれの企業が定める規程によります。
個人的には、危険な紙書類や写真は、すぐに廃棄した方が良いと思っています。ディスク上の写真は、ファイルのネーミングルールを整備したり、マイナンバーとの紐付けできるようにリンクを貼る為の開発が必要となったりします。また、いつかは削除が必要になりますので、そのルールを定めた上で業務フローを整備する必要があります。ですので、さっさと廃棄するのが合理的でしょう。
ただし、年末調整の際の「扶養控除申告書」で番号収集しているのであれば、保管期限はその関連の法令などに従います。「扶養控除申告書」の保管期限については7年間ですので、逆に、7年後には必ずその書類を廃棄しなければなりません。この点については注意が必要です。この廃棄手順についても、業務フローで定義しておくことが重要です。
⑧民間でも利用が拡大する可能性があります
マイナンバー制度は税と社会保障と災害対策のみに利用されますが2018年からは任意ではありますが、銀行口座とマイナンバーを結び付けることが2015年9月の衆議院で改正法案が成立しました(制度の施行前ですが……)。これにより、脱税や生活保護の不正受給が減らせると見込んでいます。
また、メタボ健診や予防接種の履歴情報にも活用することになりました。引越や転職をした場合でも、自治体や健康保険組合の間で健診情報が引き継げるメリットがあります。
もともとマイナンバー制度は利用の拡大をめざして制定されていましたので、今回の預金口座への適用はそれに従った改正といえます。今後もさらに適用範囲が広がることが想定されています。
また、証券会社で証券の口座を開く場合、2016年以降、マイナンバーの提示が必要になります。既に口座を持っている場合は、しばらくの経過措置期間がありますが、2018年には提示が必要となります。既に口座がある方は、最近の証券会社から案内書類に、マイナンバー提出のお願いというリーフも同封されていることにお気付きだと思います。この株式等に関連する内容は、ネットショップ等、株式会社を経営する側の人にとっては、注意しておくべき点でしょう。
企業は「配当、剰余金の分配及び基金利息の支払調書」を税務署に提出しなければなりません。上場企業が配当した場合は証券会社が代行してくれるので、企業が個別にマイナンバーを収集する必要はありません。
しかし、非上場企業が個人株主に配当する場合、所得税や住民税を源泉しますので、その税務申告にはマイナンバー記載が必要となります(猶予期間や金額による支払調書作成の要・不要等については、国税庁のホームページでご確認をお願います)。
→ http://www.nta.go.jp/mynumberinfo/jyoho.htm#gaiyo
企業によっては、持株会を通して個人から資本を集めたり、配当を支払ったりしている場合もあるでしょう。その場合、持株会が主体となって、マイナンバーを収集することになりますが、それはあまり現実的ではありません。持株会が会社にマイナンバー収集を委託して、会社が個人株主のマイナンバーを収集するケースが増えくるでしょう。
「ネット通販のための5分でわかるマイナンバー対策」は全6回の連載コラムです。各バックナンバーはこちら。
- 1回目:5分でわかるマイナンバー制度の概要
- 2回目:企業が気を付ける注意点
- 3回目:マイナンバーの罰則規定、業務委託
- 4回目:事務所の取扱区域とマイナンバー運用の記録
- 5回目:管理・運用で失敗しないために押さえておくべきポイント
- 6回目:マイナンバー対策は業務の改善&効率化するチャンス