広告経由の売上が1年で4倍に! 運用型広告のノウハウと成功事例
広告の掲載枠や単価などを変えながら出稿方法を最適化していく運用型広告は、特定の広告枠を購入する純広告と比べて高い費用対効果を期待できる。しかし、高度な運用ノウハウを必要とするため、思うような成果を上げられていないEC事業者も少なくないようだ。運用型広告に特化したコンサルティング会社、オーリーズの鈴木多聞社長が、広告経由の売上を1年で約4倍に増やした成功事例を交え、運用型広告で成功するためのノウハウを一挙公開した。 写真◎Lab
セミナーのポイント
- 急拡大する運用型広告
- 運用型広告の3つのトレンド
- ︎運用型広告とどう向き合うべきか
急拡大する運用型広告
株式会社オーリーズは運用型広告に特化したコンサルティング会社。2011年の創業以来、コンサルティングで運用した広告チャネルやツールは合計30種類を超えている。クライアントの80%はB2Cを中心とするEC事業者だ。
冒頭、鈴木氏は参加者に「リスティング広告を知っていますか?」と問いかけ、全員がリスティング広告の基本を知っていることを確認してから運用型広告の説明を開始した。運用型広告とはGoogle AdWordsやFacebook広告、Yahoo!プロモーション広告などのこと。
広告枠や表示回数などがあらかじめ決まっている予約型広告に対し、運用型広告は広告表示の条件を細かくコントロールしながら最適化していく。
2014年のインターネット広告の年間売上高は、野村総合研究所の調査結果によると1兆500億円で、そのうち予約型が約3千億円、運用型が約5千億円だった。インターネット広告の市場規模は2020年には全体で1兆2千億円に成長し、運用型広告は7千億円に伸びると予想されている。
運用型広告の3つのトレンド
企業が運用型広告を実施する場合、導入→運用→計測→分析という流れをサイクル化して回していくことになる。鈴木氏によると、近年の運用型広告のトレンドには次の3つの事象があり、運用型広告で成果を上げるにはそのことを理解する必要がある。
①導入は多様化している
インターネット広告のエコシステム(生態系)を描いたカオスマップには、左にアドバータイザー(広告主)、右側にパブリッシャー(媒体社)が配置されており、その先にオーディエンスがいる。プレイヤーの数は急速に増えており、多くの企業がさまざまなサービスを提供している。
プレイヤーがここまで増えると、運用型広告を専門に扱っている我々でも、どのプレイヤーがどういうエコシステムでどんな機能を果たしているのかを具体的に説明することはかなり難しい。インターネット広告は非常に多様化している(鈴木氏)。
テクノロジーを使ったマーケティングツールの提供会社を配置した「テクノロジーランドマップ」は、さらに企業が入り組んでおり、もはや個々のサービスを見分けることも困難だ。
テクノロジーに関する情報格差も生まれており、マーケティグツールなどについて「知っているか知らないか」によって企業の収益パフォーマンスが大きく変わる。本当に優れた新しい機能が次々と出てくるため、それをキャッチアップできているかどうかでROIに大きな差が生まれてくる。
②運用は自動化している
運用型広告は広告である以上、「何を」「誰に」「どの程度」届けたかが重要だ。運用型広告における「何を?」は原稿であり、「誰に?」はターゲティング、「どの程度?」は入札・予算を意味する。運用の自動化の目的は大きく分けて、「既存の作業を代替すること(リソースの開放)」と「人では不可能なことをすること(限界の突破)」の2種類がある。
自動化の手段としては、よく利用されるアドワーズやスポンサードサーチなどのチャネルのAPIがある。それをカスタマイズし、高機能化したのが広告運用プラットフォームツールだ。具体的には「THREe」「Marin Software」「glu」などがある。
もう1つ、特に注目したいのがチャネルの機能やチャネルそのものが限界突破を始めていることだ。
Google AdWordsに追加されてきた機能を振り返ってみると、2010年ごろから限界突破的な傾向がみられるようになってきている。個別の機能では、「DRM(レコメンド)」は質に対する限界突破を、「DSA/PLA」は量に対する限界突破を、「広告カスタマイザ」はリアルタイムに対する限界突破を可能にする。
たとえばセールを行うとき、「あと2時間でセール終了」「あと1時間で終了」と情報を流していきたいが、担当者がずっと画面に向き合っているわけにもいかない。このような、人間が実施するのは困難な限界突破型の機能が次々と実装されてきており、今後、運用型広告はこの方向へ一層進化していくと予想される(鈴木氏)。
③計測は断片化している
「計測の断片化」のトレンドは市場環境の変化を表している。2000年以前は、Yahoo!というメガメディアがあって、デバイスはパソコンが中心だった。オーディエンスのクッキー情報は存在していなかったため、Yahoo!にバナー広告を出稿してさえいればよかった。
しかし、今はSNSなどを含むマイクロメディアが多数存在し、デバイスもパソコンとモバイルが並存している。モバイルにはスマートフォン、タブレット、ガラケーなどが存在する。オーディエンスデータはクッキーによって収集されている。
これらを総称してフラグメンテーション=断片化と呼んでいる。
かつてのインターネットユーザーは主に検索エンジンとポータルサイトを経由してWebサイトに到達していたが、いまは検索エンジンが複数存在する上、ポータルサイト以外にソーシャルメディアやパーソナルメディアも多数存在する。多様な広告メディアの広告貢献度の可視化が重要になっており、媒体ごとの成果を正しく測定できていないと、広告効果を正確に把握できない。
運用型広告とどう向き合うべきか
こうした状況を踏まえたうえで、今後、運用型広告をどう展開していけばいいのだろうか。2005年頃は、広告の導入は簡単で、運用と計測を人力で行っていた。分析方法もシンプルだった。しかし、2020年には導入チャネルが多様化し、広告の運用と計測は自動化し、分析に多くの時間を使う時代になるだろう。
現在は過渡期であるため、どのフェイズにも手間がかかる。運用と計測は自動化が進んでいくため、分析力(Analysis)と導入力(Introduction)が重要になるのは確かだ。分析力の「A」と導入力「I」、つまりA.Iドリブンな広告が重要になる。
広告運用を改善してEC売上4倍
鈴木氏は広告運用を改善して大幅な売上拡大を実現した事例も紹介した。
オーリーズが広告運用支援を手掛けた家具EC会社は、運用型広告を改善したことで、広告経由の月商が1年間で約4倍に増えたという。月商は2014年7月時点では640万円だったが、2015年6月には約4倍となる2,720万円に拡大した。ROAS(売上対広告)も278%から604%へ3倍近く上昇した。
広告チャネルを3種類から10種類に増やしたほか、広告効果の分析力を高めるため、広告効果測定ツール「AD EBIS」を導入した。複数の広告媒体の効果を正確に計測する方法としてB.C.G(バジェットカットグラフ)を用いたアトリビューション分析を採用。
多様化している広告チャネルの貢献度をTCV(トータルコンバージョン)に基づき計測する手法で、広告コストの生産性をグラフ化することができ、それをもとに広告チャネルへの予算再配分を実行する。
この手法によって15〜30%程度のコンバージョン増加を期待できる。チャネルの数が多い場合や多数のキャンペーンを実施する場合など、予算の管理単位が多いケースで有効だ。
なお、こうした運用型広告のパートナーを選ぶ際は、運用手数料が「広告費用の何%」という量的手数料でないことが重要になる。単体の広告チャネルの運用だけでなく、プロモーション施策全体での効果やアロケーションを見ながら支援するには、限られた予算の中であらゆる施策を計画・実行し、正しく計測・分析するという質的な面への貢献をできるパートナーが必要だ。テクノロジーやチャネルにニュートラル(中立)であることや、チャネルの情報収集と仕入に力を入れていることも、もちろん必要だ。
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