新日本有限責任監査法人 消費財セクター 2015/8/20 7:00

経営者のためのチェックポイント

  • 業務遂行の成果を把握する適切な評価基準を持っていますか? それは十分にきめ細かいものですか?
  • 外部環境の変化により、今までとは異なる業務遂行が必要となったきに、迅速に対処できますか?
  • 幹部は徹底した業務遂行を企業文化として根付かせるために、適な管理を行っていますか?

人材と実行力はこれまでもつねにビジネスの差別化要因とされてきました。しかし、アジアの新興国市場が企業にとって新たな重要性を持ちつつあるということは、つまり、アジアでの業務遂行能力が今や、企業全体の持続的な繁栄の絶対条件になっていることを意味しています。

したがって、企業は統制のとれた戦略遂行を重視する企業文化を創造しなければなりません。EYのKristina Rogersは、次のように述べています。「これはとても基本的なことで、別に難しい話ではありません。要はいくつかの戦略的視点を持ち、業務が適切に遂行できるように注力することです。業務遂行能力をしっかりと身につけて、はじめて成功を手にできるのです

とはいうものの、それは言うに易く行うに難しいことで、継続することは極めて困難です。「この市場では、自分たちの業務遂行のあり方を日々改善していかなければなりません。それは文字通り、小売店一店舗ごと、飲食店一軒ごとの課題です。当社は業務遂行について、これまでも取り組んできましたが、さらに前進させていく必要があります」とDiageoのManz氏(Global Strategy Director,)は述べています。

企業全体の業績の健全性に関し、アジアの重要性がより精査されるようになっており、主力事業部門や調達部門といった中枢機能の一部を地域に移転する企業も増えています。

たとえば、Procter & Gambleは、Skincare, Cosmetics and Personal care部門の本部を、米国Cincinnatiからシンガポールに移転しましたが、これは、「向こう5年間ないしその先において、最大の成長が望める地域の中心」に本拠を構えることを目的としています。

業務はきめ細かく遂行され、一定の評価基準に基づいて把握され、修正されていく必要があります。Manz氏は「店舗レベルにまで業務遂行計画やパフォーマンス追跡を深掘りしていくことで、業務遂行能力を改善できます。組織の隅々に浸透させていくためには、明確な業績評価基準を持ち、上級幹部がしっかりと管理することが必要です」と述べています。

Mondelezにおけるベストプラクティス教本

2012年、Mondelezの経営幹部は、企業全体に存在しているベストプラクティスを集約するプロジェクトを実施しました。この中には、技術開発、販売、サプライチェーン、運転資本管理、包装、価格決定、生産性向上などの項目が含まれています。プロジェクト・チームは、これらを「教本」にまとめ、全世界の幹部がアクセスできるようにしました。

現在、ベストプラクティス教本は全世界で利用され、幹部たちは、他の類似した市場がビジネス上の問題にどのように取り組み、解決したかを手早く、簡単に見つけることができます。

今後の課題は、この教本をアップデートし続け、新しいアイデアを加え、会社組織の事業基盤の一部となるよう生きた文書としていくことです。もしそういう企業文化を維持できるならば、会社の競争力の一つとなるでしょう」Swee Leng Ng氏(Group CFO GroupM China and former CFO of Kraft Foods,China)は述べています。

適切な人材を採用し教育することは、適切な業務遂行のための重要な鍵ですが、多くの消費財メーカー・小売企業はこの点で苦労しています。多くの市場では、従業員の離職率の高さ、人件費の上昇、スキル不足に悩まされています。ハイ・パフォーマーでも、現地での人材開発が大いに効果を上げていると回答したのはわずか18%に留まり、それ以外の企業では13%に過ぎません(図13参照)。

貴社の現地経営陣は次の機能の運営において、どの程度、効果を上げていますか?
図13 質問と回答:貴社の現地経営陣は次の機能の運営において、どの程度、効果を上げていますか?(図は、大いに効果を上げていると回答した企業の割合、%)

アジア新興国市場での人材獲得競争を勝ち抜くためには、多国籍企業は、魅力的な就業環境を整え、最高の人材を雇わねばなりません。このことは、単に社外からの採用に焦点を当てるだけでなく、現在の従業員の能力開発・向上のために投資をしなければならないことを意味します。

興味深いことにハイ・パフォーマーは、それ以外の企業と異なり、現地経営陣のチームづくりにおいて、一つにアプローチに偏らず、すべてのアプローチを採用する傾向があります。すなわち、現地における社内登用、社外からの駐在社員の採用、現地社員の採用、および本社からの駐在員派遣のすべてを組み合わせています(図14参照)。

向こう3年間の現地経営陣のチームづくりに関して、どのアプローチを最も重視しますか?
図14 質問と回答:向こう3年間の現地経営陣のチームづくりに関して、どのアプローチを最も重視しますか?(図は重視すると回答した企業の割合、%)

同時に、ハイ・パフォーマーは、アジア新興国市場とは低賃金労働力の供給地であるとの固定観念から脱する必要があります。ある宝飾品小売大手の経営幹部は、「現地の優秀な人材が欲しければ、まずはそれに見合った報酬を払う必要があります。更にその次には雇った人材を引き留めておく必要があります。しかし多くの会社がこのことを解っていません」と語っています。

社内登用か、引き抜きか、異動か?

Bill Leisy Global Talent & Reward Leader, EY

企業の売上高や利益において、アジア新興国市場が占める割合が高まるにつれ、より効果的な人材開発モデルを築くことが必要不可欠となっています。企業は、社内登用、社外からの引き抜き、異動の間でバランスを取るべきだと考えられます。

もちろん、どのような比率が適切かは各企業および市場の発展段階によって異なります。まずは、自社が保有する人的資源の状況を明確に把握する必要があります。すなわち、活用できる人材の有無、そのコスト、さらに管理職を派遣したり、呼び戻したりすることからくる問題点などです。

次に、企業は外部環境を把握し、それが人事政策にどう影響するかについて考える必要があります。具体的には、人材の確保のしやすさ、それぞれの市場ごとの労働力の質、現地での法規制、および現地での生活水準に関する問題などに目を向けなければなりません。こうした内的および外的な見通しがつけば、その次は、現在の事業戦略とそれを支える人材について考えることが可能になります。

パズルの最後の一片は、労働力予測分析を行うことです。これには、労働力の世界的な趨勢を把握し、個々の市場において自社の長期的な戦略を支える人材をどう確保するかを考えることが含まれます。たとえば、人材を現地から登用していくことが持続的に可能なのか、M&Aを行うことなどによって人材を「買う」べきか、などです。

人材は戦略を実施し、規律ある業務遂行を確保するための鍵となります。有能な人々を引きつけ、根づかせ、能力をさらに高めてもらうことは、成功への基本条件となるでしょう。

負け組とならないために

先進国が長期的な経済成長率の鈍化に直面していることから、すべての消費財メーカー・小売企業は、新興国市場に一段と注目し、経営資源を投入しています。今回の調査では、とくにアジア新興国に焦点を絞りましたが、本稿で述べた原理原則は、中南米やアフリカなど他地域の新興国市場にも等しく当てはまります。唯一異なる点は、現地での業務遂行の形態です。

新興国市場では市場シェアを獲得し、売上拡大に傾注するだけでは不十分です。これらの市場は今や転換点を迎えており、売上の成長とともに収益性が問われています。企業は利益を創出しなければなりません。さもなければ、よりはっきりと利益に照準を合わせているライバル企業に敗れ去るでしょう。

しかし、多くの企業が感じている通り、利益を伴う成長の実現は難しいものです。この業界の中で最も豊かな経験を有する企業さえも、コストの上昇、複雑さ、熾烈な競争、目まぐるしい変化というすべての要因による厳しい試練にさらされています。

このような試練を克服するには、一見、矛盾するように見えるいくつもの要素を両立させなければなりません。これは間違いなく骨の折れる仕事ですが、本稿で述べた8つの取り組みによって達成できるだろうと私たちはみています。

多くの企業では、これらの取り組みの一部を実行していますが、これら全部を十分に実行している企業は非常に少ないのが現状です。世界経済の重心が新興国へと移りつつある中で、これらの市場で利益を伴う成長を実現していくことは、企業の長期的成長、さらには生き残りにとって必須の条件となっています。

▶この記事は、新日本有限責任監査法人の記事を転載しているものです。
オリジナルの記事(PDF)はこちらから閲覧できます

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