店舗スタッフがインフルエンサーとして活躍する「Zoff」のデジタルマーケティング戦略
企業と消費者のコミュニケーション手段として、SNSの存在感が高まっている。アパレル業界などでは、本社やマーケティング部門がSNSを運用するのではなく、販売店舗のスタッフも加わり、商品の着用感を文章や写真、動画で投稿する取り組みが広がっている。
関東を中心に国内約300店舗を展開するメガネブランド「Zoff」では、2022年から社内インフルエンサーの制度を導入。店舗スタッフの投稿画像はSNSをはじめ、公式サイトの商品ページでも利用している。こうした体制作りにはどんな狙いがあるのか。「Zoff」を運営するインターメスティックの井戸喜貴氏(マーケティング統括部 部長)が、visumoの井上純氏(代表取締役社長)との対談で解説した。
眼鏡業界のEC事情
井上純氏(以下、井上):visumoは、ビジュアルデータを一元管理できるプラットフォームをSaaSとして提供しています。一般的に事業者は、店頭の販促物、デジタル広告などさまざまなクリエイティブを制作します。その過程でデジタルアセットが蓄積されていくわけですが、それらを社内で無駄なく使っていただきたい。それを管理できるようにしたのが「visumo」です。
井上:「Zoff」では店舗スタッフが写真や動画を投稿する際に「visumo」の機能を活用していただいています。「visumo」を導入している「Zoff」の公式サイトについてですが、企業の公式サイトというと、ブランドサイトやコーポレートサイトを指すことが多いですが、「Zoff」は明確に「公式サイト=オンラインストア」と打ち出していますね。
井戸喜貴氏(以下、井戸):はい。とはいえECだけが主眼ではありません。まず、前提としてこの業界はまだまだEC化率が低いこと。レンズやフレームの調整なども必要なので、それらすべてがデジタル化されていないため、オンラインストアには「店舗に行く前の情報収集の場」という役割があります。
井上:ただ、最終的には眼鏡の購入はネットだけで完結できるというような意識があり、その流れでECを発展させているのですか? それともオンラインとリアルの融合をめざしているのでしょうか。
井戸:理想を言えば、ECだけで完結すればお客さまは便利でしょう。その状態をめざしたいのですが、やはり1人ひとりに眼鏡のかけ具合を調整するなどの対応が必要になります。そのため、完全には難しいかもしれません。とはいえ、できる限りデジタルの力で不自由をなくそうと頑張っています。
井上:テクノロジーの観点で、将来像のようなものはありますか?
井戸:スマホをちょっと遠くにおいて、視力を測るような技術は出てきています。ただ、まだ補助的な段階で、それだけで眼鏡が作れるというには、もう一踏ん張り必要でしょう。
社内インフルエンサー制度を2年前に開始
井上:「Zoff」では、店舗スタッフをインフルエンサー化する取り組みを続けています。店舗スタッフを軸としたデジタルマーケティング施策ですが、どのようなきっかけで始めたのですか?
井戸:2022年春頃、社内でSNSの運用グループを作ったのが1つのきっかけになりました。実はそれまで、X(旧Twitter)を運用する担当者はいなかったんです。そこで、公募で店舗から1名募集し、その人にXを運用してもらおうとなりました。それと同時に、何か店舗スタッフ発信の施策ができないか、上司とも相談して試すことになったんです。
井上:運用チームの発足が最近というのはかなり意外ですね。となると、それまではどうしていたんでしょうか。
井戸:かなり属人的にやっていた感じです(笑)
井上:SNS運用の専門チームができ、店舗スタッフも巻き込んでSNSを強化しようという目的が明確にあったわけですね。具体的にはどんな効果を狙っていたのですか?
井戸:お客さまからすると、企業から「これ良いですよ」「これ新商品ですよ」と言われても、自分事にできないというか、売りつけられているような感覚が少なからずあるはずです。それに対して、店舗スタッフが「かわいい」「使いやすい」など等身大の情報を発信すれば共感してもらいやすくなるのではないか……。このように考えました。
井上:デジタルマーケティング業界では、Cookie規制によってWebプロモーションのコストが高くなるのではないかといった懸念が高まっています。今までとは別のタッチポイントを作りたいという狙いもありましたか?
井戸:それもありました。PR要素を押し出した広告だけでは駄目ですし、SNSやオウンドメディアでも企業からの発信では届きにくいのではないかと感じていました。もちろん、それらを全て捨てるのではなく、より良くしていかなければなりません。しかし、違う立場、角度からの発信も必要だと考えたのです。
井上:具体的な施策をお聞きしていきます。まずはInstagramで、店舗スタッフがさまざまな写真を投稿しています。そしてもう1つ、「visumo」を利用している部分ですが、眼鏡のスタイリング写真をスタッフの皆さんが投稿すると、これが公式サイトのギャラリーや、商品詳細ページのサポートコンテンツに反映するようになっています。
井戸:実は、「Zoff」では実際に眼鏡を着用している写真が少なかったんです。外部のECサイトもいろいろと研究しましたが、「Zoff」は着用画像が足りなかったということがわかったのです。EC運用部門でもモデルを使った写真をかなり増やすのと同時に、スタッフの写真を追加。これにより、お客さまにとってわかりやすさが飛躍的に向上したと感じています。
投稿者は現在200人弱。目標は1店舗1人
井上:日々画像を投稿するスタッフを、社内からどう集めましたか?
井戸:最初は少しヘッドハンティングに近い感じでした。「あの店舗の誰が良いんじゃないか」など……。新卒採用では、SNSの利用状況を聞きながら、適した人を探しました。あとは社内公募ですね。年に2回くらい、実際に投稿すると仮定した画像やテキストを提出してもらっています。
私と関連チームのメンバーはもちろん、社長も議論に加わっています。現在は200人弱が投稿しています。最終的には1店舗1人が目標です。
井上:現場の熱量はどうでしょう? 「私もやりたい」という声は多いですか?
井戸:最初は少なくて、店舗のマネージャーに改めて声がけをしてもらっていました。直近では、そこまでプッシュしなくても自発的に投稿するスタッフが多くなってきました。投稿のクオリティも上がってきていて、浸透してきた感はあります。
井上:ネット上で自分の顔を出すことに抵抗があるスタッフもいるとは思いますが……。
井戸:顔を出すことにポジティブな人がいる一方で、出したくないスタッフもいます。そういうスタッフにはスタコレではなくSNSを中心に活動してもらっており、口元を隠したり、カフェの写真に眼鏡を一緒に写したりといった投稿をしてもらっています。
井上:取り組みがスタートしてから約2年が経過しましたが、中長期的な目標を聞かせてください。
井戸:SNSのフォロワー数がまだまだ少ないのが課題です。アパレル業界では、本当の意味でのインフルエンサーが店舗スタッフから生まれる例が出てきています。「Zoff」からもスターインフルエンサーが早く1人出てほしいという期待があります。
それと社内インフルエンサーは全国に散らばっているので、なかなか集まれないというのも課題の1つ。なので、近隣エリアのスタッフだけでも集まり、話し合いながら改善していく――自律型・自走型の組織が各エリアに生まれ、盛り上がっていくことが理想ですね。
画像投稿ルールで試行錯誤。現在は作業時間を週に30分確保
井上:苦労した点もお聞きします。投稿する画像のレギュレーションでは試行錯誤したそうですね。
井戸:弊社の公式オンラインストアの商品着用写真は、「白シャツでボタンはしっかり留める」「髪は男性なら短く」などのルールを設けていました。ですので、着用画像が画一的になっていました。
井上:それが変わったのはいつくらいですか?
井戸:例のSNS運用グループができた2022年あたりですかね。「Zoff」はファッションとしても眼鏡を扱うブランドとはいえ、「公式サイトは製品を説明する場」みたいな意識だったんです。
井上:等身大の写真を増やしたいのであり、すでに公式サイトにある画像と同じような写真をスタッフに撮ってもらいたい訳ではないですからね。
井戸:はい。ですので、今は最低限のレギュレーションだけ決めて、「あとは自由にやってね」というスタンスです。
井上:自由度は大事なポイントと言えます。同様の施策を実施している企業にお話を聞いてみても、よく話題になります。
井戸:あとは社内の表彰制度ですね。優秀な店舗を選んで表彰する取り組みと同じように、優秀な社内インフルエンサーを表彰する制度を開始しました。
社内インフルエンサーの制度を開始しようとすると、「店舗スタッフがSNS投稿用の画像を撮影する時間が、店舗の売り上げにどうつながるんだ」「それより店舗の仕事をするべきでは?」という議論になりがちです。ですので、最初は業務時間外に自己啓発としてやってもらい、その上でインセンティブを出していました。
このような段階を踏み、経営陣もこの活動を支援しています、表彰もしますとなったことで、店側の意識が少しずつ変わってきました。今では週に30分、インフルエンサー関連の業務を業務時間内にやるという運営方法に切り替えました。
作った画像はPOPやバナーにも活用
井戸:店頭のPOPにも社内インフルエンサーの画像を使っています。SNS用で作った画像が、それ以外の場所でも使われるようになったわけですね。テレビ番組で「Zoff」を取り上げていただいた際には、この取り組みを紹介してもらいました。また、雑誌からは社内インフルエンサーのInstagramの写真を使わせてほしいという依頼もありました。
そんなこともあり、最近では「私もスタッフインフルエンサーをやりたい」と、憧れを持つスタッフが増えたと感じています。
井上:画像はさらにバナー広告にも使っていますね。せっかく作ったビジュアルを二次利用、三次利用しなければもったいないというのは「visumo」のコンセプトでもあります。EC事業を手がけている事業者は、ぜひ「Zoff」の取り組みを真似していただきたいですね。他に新しい試みはありますか?
井戸:2024年3月にバーチャルフィッティングをリニューアルしました。カメラで顔を映すだけで、どこでも画面上で試着できます。特にこだわったのが、カラーレンズのフィッティングです。これは店頭ではなかなかできません。今、さらに機能を使いやすくするように取り組んでいます。
井上:本日は貴重なお話をありがとうございました。
井戸:ありがとうございました。
800社以上が利用する「visumo」とは
「visumo」の導入実績は800社超。Instagram連携UGC活用機能、ビジュアルコンテンツのAIレコメンド機能、動画接客機能、スタッフ投稿機能、SNSライクなユーザー体験を提供できる各種テンプレートなど、ビジュアルでサイトのCVR・回遊率・滞在時間等を向上させるための機能を提供している。
直近では2024年9月、AIでコンテンツをレコメンドする「visumo recommend(ビジュモ レコメンド)」機能、SNSのようなユーザー体験を自社サイトへ実装できる「フィードモーダル」テンプレートを実装。「SNSライク」なユーザー体験の実現をサポートする機能の提供も進めている。