サブスクリプションサービスの「儲かるビジネスモデル」とは? 収益や商材など解説
Amazonの「Amazonプライム」、動画配信サービスの「Netflix」や音楽配信サービスの「Spotify」などの登場で、近年注目を集めるサブスクリプションサービス。配信サービスだけではなく洋服やおもちゃなど商品のレンタルサービスも広まってきていますが、ビジネスとしてどのように成り立たせるにはどのようにすればいいのでしょうか。
今回、サブスクリプションサービスに関する疑問を解決するために元テモナ執行役員CMOで現在はキッズ・ラボラトリー代表取締役の青柳陽介(あおやぎようすけ)氏にサブスクリプションサービスの基礎、サブスクリプションに向いている商材、サブスクビジネスで重要なことなどについてインタビューしました。連載形式でお伝えしていきます。
サブスクリプションサービスの基礎
テモナでサブスクリプションサービスの普及などに尽力してきた青柳氏は2019年、幼児向けおもちゃのサブスクリプションサービス「キッズ・ラボラトリー」を手がけるキッズ・ラボラトリーを設立。子どもの成長に合わせた知育玩具を個別にプログラム、定期的にお届け・交換する定額制サービスを展開しています。
国内のサブスクサービスと認知度
青柳氏は国内のサブスクリプションサービスとして、トヨタが手がける車のサブスクリプション「KINTO(キント)」、レディース向け洋服が借り放題の「MECHAKARI(メチャカリ)」、宅配クリーニングと保管ができる「LACURI(ラクリ)」を例にあげます。
珍しいサービスでは高級バットを試せるサービスや、ダイエット・筋トレ用食事メニューを提供するものもあります。サービス数が少しずつ増えてきています。(青柳氏)
しかし、2019年に行ったアンケート調査結果では、「国内のサブスクリプション認知度は2割程度」とのこと。さらにコンテンツサービスを利用したことがある人は8.5%、レンタルサービスの利用経験は6.1%しかいないという結果に。「サブスクリプションサービスが増えてきていても、認知はまったく進んでいません」(青柳氏)
サブスクビジネスのメリットは「資金調達のしやすさ」
それでも、青柳氏らがサブスクビジネスを展開するにはメリットがあるから。青柳氏は「サブスクビジネスのメリットはストック型ビジネスであること」と言います。合わせてストック型ビジネスモデルがメリットとなる理由として、5つの点を説明します。
- 消費者にサービスの価格を安く見せることができる
- ユーザーから先に利用料を支払ってもらう前払い制なので、資金繰りが容易になる
- サービスを利用しているユーザー数(アクティブユーザー数)をいつでも把握できる
- 1回きりの売り上げを積み重ねるよりもユーザーとの接点が長いため、平均顧客寿命が長い
- 需要予測ができるので、投資計画が立てやすい
「この5つのメリットがあることで投資家からの信頼が得やすい」と青柳氏は言います。
投資家は環境問題、シェアリングエコノミーを意識していることが多いんです。そのため収益性や継続性が高く、成長が見込めるサブスクビジネスは投資してくれる人が見つかりやすく資金調達がしやすいんです。(青柳氏)
サブスクビジネスで重要な基礎知識
サブスクビジネスを展開するにあたって「絶対に覚えておかなければならない重要な指標」が3つあると青柳氏は言います。
1.ARPU(アープ)
ユーザー平均単価のことで重要な経営指標のこと。
企業としてはアープを上げることが目標になります。サービスに登録している会員数が多くてもアープが低いと、更に会員数を増やさないともうからないので。アープが上がる=平均単価が上がることなので、アクティブユーザー数と掛け合わせることで、「将来的に利益がこのぐらいになる」と予測することができます。(青柳氏)
2.MMR(マンスリーリカーリングレベニュー)
販管費などを除いた1か月における収益のこと。1度しか発生しない初期費用や追加購入費用などは除いて計算する。リピート顧客にどれだけ売り上げが増えいているかを見るための指標になる。
3.Churn(チャーン)
解約数のこと、全ユーザーのうち解約したユーザーの割合を示す指標をChurn Rate(チャーンレート)という。
アープとチャーン、MRRとチャーンのいずれかの組み合わせで経営指標を見ていきます。(青柳氏)
定期購入との違い
毎月定額を払って商品を受け取るという点では似ている定期購入ビジネス。青柳氏は、ビジネスモデルが似て異なると言います。特に「販管費の構成」が大きく異なると青柳氏は説明します。
定期購入は毎月同じ商品をユーザーに届けるので、製造原価もコストも見通ししやすい。初月の顧客数は何人で、その場合に発生するクレジットカードなどの手数料や配送料、翌月は何人が継続して何人が新規で入るなど、毎月の計画予定表を作成していけば、そこから投資回収シミュレーション表を作成します。
一方、サブスクリプションサービスはユーザーが「商品をレンタルしている」イメージのため、ユーザーから商品が戻ってくる可能性があり、返送料という変動費が発生します。交換が発生すれば返送料と送料がかかりますが、交換がなければその月は交換にかかる送料は0円です。ユーザーが商品を戻すか戻さないかの予測が非常に難しい。その点をきちんと考慮して数字の設計をしないと、PL(損益計算表)を大幅に狂わせます。
たとえば、100人のユーザーに商品を送ってその内10%の人しか交換しないなら、商品を送る際にかかる送料は100人分で返送料は10人分ですみます。しかし100人全員が交換を希望したら、送料が2倍かかるのとほぼ同じになります。(青柳氏)
単品リピート購入との違い、共通点
定期購入との違いに続いて、単品リピート購入との違いや共通点についても説明します。
① 集客方法は同じ
「集客はサブスクリプションも単品リピート購入も同じ」と青柳氏。アフィリエイトや広告の運用も行い、商品を買ってもらう、契約してもらう時のきっかけは「ユーザーのお悩み」からという顧客接点も同じとのこと。
ユーザーは何か悩みがあり、それを解決するために商品やサービスを探しています。「シェアリングエコノミー」「家に物があふれないことの喜び」をうたっている他のサブスクリプションサービス企業もありますが、それだけではユーザーを獲得できないのではないかと思います。
ユーザーに「これが欲しい」という動機付けをしてあげて、商品を買ってもらう、契約してもらうということは普通の通販と同じだと思います。(青柳氏)
② 期間縛りをしない
「初回契約から3か月間は解約できない」といった、商品やサービスの契約に期間の縛りを設定しないとのこと。
③ 使い放題のプラットフォーム
「商品やサービスが使い放題のプラットフォーム」であることがとても重要とのことです。
④ LTVが高い傾向
「食品って1回で美味しいかそうじゃないか判断されるじゃないですか。サブスクリプションもそれに似ているなと感じます」と青柳氏。しかし、サブスクリプションならではの施策によってLTVが高い傾向にあると言います。
サブスクリプションは「ユーザーに新しい体験を提供すること」だと思っています。たとえば、私が手がけるサブスクリプションサービスは幼児向けおもちゃのサブスクリプションなので、「子どもが遊ばない」という理由ですぐに解約することもあります。一方で、お子さんから人気が非常に高いおもちゃが何かを知っていることで、送った商品で非常にユーザーに喜んでもらうことができる。これはサービスを利用していないと得られない体験ですよね。(青柳氏)
さらにサブスクリプションでは「来月はどうしますか?」というように、ユーザーとのコミュニケーションが定期的に取れている点がLTV(顧客生涯価値)の向上につながっていると青柳氏は話しています。
⑤ 損益モデルが違う
商材によって損益の計算モデルが異なる点があるとのこと。「商材によって原価率も違いますし、交換時の送料の問題もあるので簡単に事業計画を立てられないと思いますね」(青柳氏)
⑥ 商品の向き不向きが分かれる
サブスクリプションに向いている商品は向き不向きがはっきりわかれるそう。「消耗材の方が向いているかもしれないですね。ユーザーが商品を使用して比較できる商材が良いと思います」(青柳氏)
⑦ 双方向のコミュニケーション
ユーザーと翌月の契約をどうするかといったこと、商品についての問い合わせなどユーザーと結びつく「双方向のコミュニケーション」が強いことが他のビジネスモデルと異なるとのこと。
⑧ 資金調達がしやすい
サブスクリプションのメリットと重複する部分。ストック型のビジネスモデルですので利益の積み上げが出やすく見えるので、投資家からの援助が受けやすい点があります。
青柳氏が考えるサブスクまとめ
サブスクリプションの基礎や他の通販との違いについて解説した青柳氏。次のようにサブスクリプションを説明します。
私は、サブスクリプションとは「ユーザーが商品やサービスにアクセスするために、一定の間隔でお金を払うモデル」だと考えています。
企業は顧客が求める価値を最大化しようと努力し、ユーザーからのいろいろな意見を元に改善を繰り返していきます。例えるなら、温泉旅館に宿泊したユーザーからのレビューを見て、それに対応するのと同じようなことですね。
それから、SaaSビジネスの初期設定は経営者が行いますが、サブスクリプションはユーザーとたくさんコミュニケーションを取る「従業員からの突き上げ型」でモデルが変わっていくことが、他の通販とは違う点ですね。
サブスクビジネスについて最後にまとめると、「徹底的な顧客中心主義であること」「高度なITスキルが一定以上必要になること」「商品やサービスを売るためのマーケティングテクニックが必要になること」、この3つが重要です。通販を知っていて、ある程度サブスクリプションのビジネスモデルを知っている人たちが成功していると感じます。