アリババグループのパーソナライズドマーケティングを支える「Tmall旗艦店2.0」とは?
Tmallが2019年6月に発表した「旗艦店2.0アップグレード計画」。この計画は「旗艦店運用ツールをアップグレードすることで、ユーザー(消費者)を深掘りし、よりユーザーのニーズに合った運用サービスを提供できるようにサポートする」というものです。
ユーザーを深く知る、精緻なマーケティングをサポート
IT化が進むことで企業が取得できるデータが増え、従来より多くのユーザーデータを確認できます。消費者と直接やり取りを行う小売・メーカー企業も多くのユーザーデータを取得していますが、そのほとんどが取引データです。取引データからは、ユーザーの購買情報しかわからないため、ユーザーの興味や習慣、価値観などの情報をそれほど多くは取得できていませんでした。
Alibaba(アリババ)はグループ内のさまざまなサービスを活用し、膨大なデータを取得。さまざまなデータを紐づけしています。決済アプリ「Alipay(アリペイ)」からはオフラインの決済情報、シェア自転車アプリ「モバイク」やシェアタクシーアプリ「Didi」からは位置情報、動画サイト「Youku」の閲覧履歴からは趣味嗜好を取得できます。
これらのビッグデータを組み合わせることで、ユーザーを深く把握し、購買行動もより詳しい情報を得ることができます。
アリババグループ(タオバオ、Tmall)や京東(JD.com)は、高品質で多元的なデータを用いてユーザー分析をすることで、精緻なマーケティング活動を行うことができます。
そのため、ブランドと販売事業者にとって最も重要な財産は「ユーザー資産」になっています。ブランドがユーザー資産の価値を最大限活用するためにサポートすることが、「Tmall旗艦店2.0アップグレード計画」の最も重要な目標です。
「Tmall旗艦店2.0アップグレード計画」が示した2つの方向性
「Tmall旗艦店1.0」は、「モノ」を中心とした「商品を販売する」というシングルサイトの販売モデルを軸としていました。「Tmall旗艦店2.0」は、「モノ」を販売するだけのシングルサイトから、「ヒト(ユーザー)」を把握し「ヒト」に合わせた販売・マーケティングが行える仕組みに転換するものです。
Tmall旗艦店2.0の主な新機能
1.ユーザー体験型マーケティング
今までは1階層だった店舗のトップページを、2つの階層に分けられるようになりました。1階層目は従来通り商品棚の機能を果たすエリア、2階層目はユーザーにブランド・商品理解を深めてもらえるエリアになっています。2階層目にはブランドのショートビデオやVR体験、会員限定機能となるVIP招待などを設置でき、ユーザーは必要に応じてクリックすることで各機能を利用できます。
2.360度パノラマ展示
3D、AR、AIなどの技術により、ユーザーはオフラインの買い物と同じようにオンラインショッピングを楽しみ、「オンラインの仮想空間で見たものを買える」という体験ができます。また、興味のある商品をお気に入りに登録しておくこともできます。
中国5G時代の到来によって、オンライン体験はより高速化し、リアルになります。そのため、オンラインストア以上の体験を生み、商品選定においてオフラインとのシームレス化が進みます。
3.カスタマイズ可能なトップページ
バナーや検索、カテゴリー、KV(Key Visual)、商品陳列など、トップページの固定されたレイアウトをカスタマイズすることで、CXの向上につながります。販売事業者は、店舗の顔となるトップページを独自のデザインに変更し、ブランドのイメージを高めることができます。
4.ブランドポップ店+Tmall旗艦店モデル
Alipayのミニプログラム機能を活用してブランドポップ店を設置し、ブランドポップ店とTmall旗艦店を連携させることができます。連携することにより、以下のメリットが得られます。
- 売上実績や販売計画が必要となり、出店ハードルの高いTmall旗艦店の申請とは異なり、気軽に開店申請が可能
- 店舗デザインなどの作成が不要なため、店舗を速やかに構築できる
- 新たなデータツールにより、管理画面の運用が効率化(データツールは準備中)
- 旗艦店だけでなく、タオバオやTmall、Alipayなど他のプラットフォームとの垣根を越えた運用が可能
新たな購買チャネルや活用できるユーザー情報と機能が増えたことで、店舗に求められる消費者体験の質は高くなります。
3つの機能を持つユーザーAIシステム
追加機能の精度をより高めて運用するために、「Tmall旗艦店2.0」はユーザーAIシステム(abtest)V1.0をリリースしました。ユーザーAIシステムは3つの機能を提供しています。
- ユーザー管理システム:ユーザーを把握し、属性に合わせたユーザーのグルーピングが可能
- トップページシステム:店舗の入り口となるトップページを、設定したグルーピングに応じた画面を表示させることが可能
- ABテストシステム:さまざまなページパターンをテストすることで、最適なページデザインを作成できる
3つの機能を持つことで、「モノ」のオペレーションから「ヒト」のオペレーションへ転換できるようになっています。また、AIを用いた機能となっているため、各ファンクションにおけるデータの最適化を一部自動的に行うことが可能です。
Tmall旗艦店に来店した際、トップページは1人ひとり異なります。来店したユーザーのニーズに合わせた商品が並べられ、商品の展示方法もユーザーの好みに合うように表示されます。例えば、動画コンテンツが好きなユーザーにはショートビデオを配信します。
これらの機能が備わり一般化することで、ユーザーに合わせた表示を行うTmall店舗の独自機能「千人千面(チェンレンチェンミエン)」(ターゲティングアプローチ手法の1つ)の運営する能力が販売事業者に求められます。
「Tmall旗艦店2.0」では、ユーザー属性ごとにページのテンプレートを作成できます。準備している属性が多いほどテンプレートが多くなり、より「千人千面」の精度を高めることができます。
ABテストシステムでは、テストを通じてさまざまなテンプレートの中から各属性に合うページ構成を模索します。
既存顧客獲得が課題に
現在、中国EC市場の新規ユーザーの成長速度は以前より緩やかになっています。今までは各ECプラットフォームの指標は新規ユーザーの増加でしたが、徐々に横ばいになり、新規ユーザーの獲得から既存顧客の奪い合いに転じていると考えられます。
ニュース配信アプリの今日頭条(Toutiao)、騰訊(Tencent)プラットフォームとの競争や、2、3級都市を中心としたECプラットフォームの拼多多(PDD)、動画共有サービスの快手(kuaishou)とのユーザーの奪い合いが生じています。
ユーザー獲得のため、Tmallは「旗艦店2.0アップグレード計画」を通じて、より精緻なマーケティングの仕組みとエンドユーザーへの買い物体験向上を提供し、販売事業者とエンドユーザーのロイヤリティを向上していきます。
ブランド企業は店舗運営において、商品をどう売るかにとどまらず、ユーザー資産の価値をどのように向上させ、ユーザーとの接点に活用するかが重要になります。
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- EC市場データランキング(TOP10)
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