トランスコスモスチャイナ(transcosmos China), 平野 雄太 2020/11/5 9:00

アリババが2017年にリリースした新たなマーケティングサービス「Uni-Marketing」。そのコアサービスとなるのが「Databank」。中国EC市場におけるマーケティングで重要となる「Databank」の活用方法について解説します。

「Databank」でビッグデータの活用にシフト

中国におけるリテール市場は拡大を続けており、その中でもEコマースは2019年に10兆元(約155兆円 ※1元=15.5円で換算)。EC化率は2015年の13%から24%まで成長しています。

ECプラットフォームやECを行うブランドの増加が背景にあると考えられます。一方で、競合が増えたことによる新規顧客獲得のコストも上昇しています。新型コロナの影響もあり、2018年の第1四半期は207元(約3,190円)だった新規顧客獲得単価が、2020年同時期には812元(約12,520円)まで上昇しています。

また、「Tmall」ECプラットフォーム内で存在感のあるアパレルカテゴリにおいて、2018年は最大37%近くあった成長率が2019年では8%に低下。成長が鈍化してきています。

こうした背景を踏まえ、「Tmall」は従来の店舗への流入を作る広告ツールの進化から、「Databank」を通じたビッグデータの活用へ戦略をシフトしてきています

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「Tmall」のマーケティング年表(画像はtranscosmos Chinaが作成)

ビッグデータの活用を推進する「Databank」とは

ブランド企業へ全面的にユーザーデータの管理を提供するダッシュボードです。アリババグループが保有するすべてのブランドのデジタルマーケティングに関するデータとユーザー購買履歴データを合わせた、総合マーケティング応用システムを搭載しています。

ブランド企業がユーザーのライフサイクルを把握するために必要となるデータベース(アリババグループのプラットフォームで蓄積されるブランド企業に関係あるユーザーデータ。ユーザーが何を好み、どのようなライフスタイルなのかに関するデータ)を管理します。言い換えればCRM(顧客関係管理)を支援するものです。

「Databank」の強みは、6億人のデータを持っている点。そして、アリババが持つ他のプラットフォームからもユーザーの紐づけを行い、購買データ以外の情報も保有・活用できる点です。

ビッグデータを分析できる「Databank」は2018年に一般開放、ブランドの課題分析ができるようになりました。しかし、活用方法が多岐にわたっており、ブランドやTP(Tmallパートナー)などの利用者にとって、効率的な改善施策の実施は困難でした。

企業が「Databank」を活用できていない状況を受け、売上拡大に向けたさまざまな手法を明確にするフレームワーク「FAST」が2019年に誕生。自社ブランドの分析だけでなく、市場分析からブランドの拡大ポテンシャルを把握する「GROW」も発表しています。この1年の動きだけでも、アリババの分析強化へのシフトが感じられます。

ビッグデータの活用をサポートする「FAST」と「GROW」とは

そもそも「GROW」と「FAST」とは何かを紹介します。

「GROW」と「FAST」は、主に「Databank」を利用する際の使用方法をよりシンプルにし、企業が「Databank」を有効活用するためのフレームワークや分析軸となるものです。

「GROW」は、市場や業界カテゴリとブランド状況を分析することで、市場におけるブランドの「浸透力(新規顧客獲得力)」「リピート力」「客単価向上力」「新商品の展開力」を見定め、ブランドポテンシャルを把握し、ブランド戦略の策定をサポート。

「FAST」は、ブランド顧客の「総数」「関係の深さ」「会員やファンの総数」「会員やファンのアクティブ率」からブランドの現状と、必要となる顧客育成のポイントを見極め、プロモーション施策の策定と実行が可能になります。

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「GROW」と「FASTer」で行う内容(画像はtranscosmos Chinaが作成)

「FASTer」とは、ブランド全体の顧客状況を見る「FAST」に、旗艦店を軸とした視点を追加した「FAST」の進化版です。

分析軸となるツールは「Databank」になりますが、「GROW」においては「Tmall」のカテゴリ上位ブランドだけが使える「策略中心(ツーリュエジョンシン)」を使い、市場や業界カテゴリの分析を行う必要があります。

「FAST」でのユーザー分析は「Databank」だけでも実行できますが、施策の実行やプロモーションのシミュレーション作成は、「Tmall」広告管理ツールの「阿里妈妈(アリママ)」や「UniDesk(ユニデスク)」などを使用する必要があります。

公開されているさまざまなツールを駆使することで、「GROW」や「FAST」で行うような分析を行うことは可能です。ただ、利用する企業に求められる知識・スキルの幅が広くなり、「Databankを活用してできること」と「利用者がやれること」に差が出てきてしまいました。そのため、「GROW」と「FAST」が誕生したのです。

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「Databank」を活用する際に用いるツール(画像はtranscosmos Chinaが作成)

実行方法ですが、大きく下記5つのステップに分かれます。

  1. ブランドの業界カテゴリとブランドの分析を行い、現状とポテンシャルを把握
  2. 分析結果をもとに、注力すべき顧客セグメントや注力商材を定める
  3. 定めた顧客セグメントや注力商材に基づき、ブランド戦略を策定
  4. 策定された戦略から、セグメントのインサイト・関連性の高い別の商品カテゴリ、好みのKOLなどを深堀りし、短期的な実行施策を策定
  5. 策定した施策の実行とPDCAをタイムリーに実施

どこまでが「GROW」、どこからが「FAST」ということではなく、業界の市場全体やブランド状況をさまざまな視点で深堀りと見直しを行い、戦略を策定できるようになります

「Databank」を経由して投下したプロモーションは、接したユーザーの分析も可能となるため、施策を行いながら顧客分析を行い、日々改善をしていくことが重要となります。

トランスコスモス・チャイナの施策事例

ここで、トランスコスモス・チャイナの「GROW」と「FAST」の活用について、スポーツアパレル企業が行った大型キャンペーン「618」の事例を紹介します。

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トランスコスモス・チャイナがクライアントに対して行った施策(画像はtranscosmos Chinaが作成)

目標に対し、既存顧客から得られると予想できる売り上げから、必要となる新規顧客の数を割り出します。ブランドのポジショニングやポテンシャル、市場とブランド分析を通じて把握し、消費者や商品の戦略を策定し、最終的なマーケティング施策まで落とし込むことで、目標達成率410%を記録しました。

これは、データを活用したターゲティングや商品選定の効果を痛感した事例でもあります。

◇◇◇

ビッグデータ先進国である中国でリテールビジネスを行うにあたり、これまでは商品力やブランド力、プラットフォームや代理商とのコネクションやリテール実績が重要でした。しかし、さまざまなデータを見られるようになった今、分析能力とその結果に基づく実行力と検証力が重要なポイントになってきています。

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