店舗のディスプレイ広告もパーソナライズ。オンラインとオフラインのデータ連携でCX向上を実現する中国のデータ活用法
キャッシュレスやプラットフォームの集約化が進む中国では、オンラインの決済情報や配車アプリから取得した位置情報などを活用し、消費者理解を深めています。また、オフラインで取得したデータと連係し、中国企業は消費者の体験価値向上に取り組んでいます。
消費者ごとに変わる広告表示
中国では、各大手ECプラットフォームの激しいオンライントラフィックの争奪戦を経て、現在はオフラインの顧客争奪戦も激化しています。
オンライン・オフラインの広告配信を行うため、アリババグループは2018年、中国最大のエレベーター広告運用企業のFOCUS MEDIA(分衆媒伝)に150億元を出資。両社は共同で、顔認証と電子スクリーン認識技術を開発しました。
この顔認証と電子スクリーン認識技術は、ビッグデータとクラウドコンピューティング技術を活用し、ディスプレイ広告をパーソナライズすることができます。
「Databank」(アリババがユーザーデータの管理をブランド企業へ提供するダッシュボード)を通じ、消費者の画像とエレベータ広告を設置したビルを使うユーザー属性を精確にマッチング。その結果、パーソナライズしたオフライン広告でリーチすることができ、商品購入などコンバージョン率の向上につなげています。
キャッシュレスやプラットフォームの集約化が進んでいる中国では、オンライン・オフラインの決済情報だけでなく、タクシーや自転車アプリから得ている位置情報など、アリババやテンセント(Tencent)が取得できるデータ量は多岐にわたります。
2019年にはアリババがパーソナライズドマーケティング支援システム「Tmall2.0」をスタート。「Tmall」で使用しているアカウントIDと多種のデータをつなげることで、各ブランドで買い物をする消費者分析の精度を向上させています。「Tmall」の店舗訪問時に掲載される店舗トップページを消費者に合わせて表示するなど、パーソナライズドマーケティングを実現しています(参考:https://netshop.impress.co.jp/node/7640)。
日本でも始まったパーソナライズしたオフライン広告
日本でも同様のオフライン広告の取り組みが始まっています。埼玉高速鉄道は2019年11月、NTTドコモ、ビズライト・テクノロジー、LIVE BOARDと共同で、鉄道車内では世界初となる環境変化に応じて表示内容や広告を切り替えることができるダイナミックDOOH事業を推進すると発表しました。
ビズライト・テクノロジーはデジタルサイーネージ「ダイナミックビークルスクリーン」を開発。2019年11月中旬から埼玉高速鉄道車両内に順次設置しています。
スクリーン型の広告にはカメラやLTEモジュール、温湿度センサーなどが搭載されており、見ている人の年齢や性別など、おおよその属性や位置情報によって広告を出し分けします。
「Databank」活用で広告精度を向上
アリババのオフラインにおけるパーソナライズ広告配信のメイン技術「Databank」について説明します。「Databank」は個人情報保護の観点から個人を特定する情報を見ることはできませんが、属性の近い消費者をグループ分けし、分析することができます。
また、下図のようにブランドが構築したWeChat(ウィチャット)上のミニプログラムが保有する会員情報を属性ごとにタグ付け、「Databank」に取り込むことでアリババプラットフォーム外の消費者属性も把握できます。
ミニプログラムだけでなく、ECサイトの会員データなど「Databank」のユーザー情報を電話番号と紐づけすることで、さまざまな顧客データの情報を深堀りすることができます。
「Databank」の本来の目的は消費者分析ではなく効果的な広告配信です。そのため、分析した結果をもとに広告配信を行い、広告精度の向上と広告配信結果(閲覧者、クリック率、コンバージョンレートなど)から、再度消費者分析を行い、より情報精度を高めるPDCAを組むことができます。
広告配信先としても、アリババが保有するさまざまなプラットフォーム・アプリが配信対象になるため、オフライン情報も活用した広告配信を行えます。
冒頭のサイネージ広告に戻ると、カメラによるユーザー属性の分析が進むことで、スマホからアプリやサイトにアクセスすることなく、電車の中で乗客の属性に合わせた広告が配信できるようになります。
CX向上はオンラインとオフラインの情報を組み合わせで
中国では、京東集団(JD.com)が展開するスーパー「7フレッシュ(7FRESH)」において、顔認証による決済が提供されています。オフラインにおけるユーザー特定に必要な情報も備わってきています。
オフラインから認識したユーザーとオンラインで保有しているユーザー情報を紐づけできるようになれば、ユーザー属性の精度が高まり、人ごとに表示広告が瞬時に変わっていくなどの対応ができるようになると考えられます。
昨今うたわれているCX(カスタマーエクスペリエンス)においては、ブランドと消費者のすべての接点において、いかに心地良く満足度の高い体験をもたらすかが重要となっています。消費者それぞれのニーズに合わせた情報や伝達方法を選び、不要な情報を減らすことで、体験価値を高めることができます。
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