中国で躍進する“福袋”由来の「ブラインドボックスマーケティング」が新しい顧客体験を提供しているワケ
中国の若者の間でここ数年、「盲盒」(ブラインドボックス)が大人気となり、中国玩具市場(デザイナーズトイ)が拡大しています。「ブラインドボックス」とは、日本の福袋に由来したマーケティング手法です。購入前に中身が見られないため、期待の商品を手に入れると、大きなお得感を感じることができる福袋。この福袋の特徴を生かしたブラインドボックスマーケティングは、顧客の好奇心とギャンブラーの心理を掴み、中身が見えない抽選形式で購買刺激を与える販売手法として、事業者の売上増加に貢献しています。
ブラインドボックスマーケティングは「品薄商法」「IP開発」「SNS活用」
ブラインドボックスマーケティングを成功させる秘訣(ひけつ)は、「品薄商法」「IP(知的財産)開発」「SNS活用」にあります。
「ブラインドボックス」を手がけるメーカーは「シリーズ商品」「Hidden Edition」(シークレットデザイン)「限定品」というフレーズを用い、マーケティングを行います。シークレットデザイン(当たる確率が限りなく低い商品)と限定品という品薄商法は、消費者の勝ちとる意欲を掻き立て、商品のリピート率を大幅に向上させました。
中国のデザイナーズトイ市場で最も成功したフィギュアブランド「POP MART (ポップマート)」の例を説明します。
販売する「ブラインドボックス」は、定価59元(約900円)~79元(約1218円)の「シリーズ商品」で、シリーズごとに12個の通常キャラクターを封入し、商品によっては「シークレットデザイン」を入れています。「シークレットデザイン」が当たる確率は極めて低いため、引き当てた際に、消費者は大きな満足感を得て、SNSなどで周囲へ自慢話をします。
「POP MART」の各種の商品においてキャラクターのMolly(モリー)は最大のIPコンテンツです。上記の画像イメージはMOLLY(モリー)昆虫シリーズの商品で、シークレットデザインは蛍のフィギュアです。
福袋との違いは何か? 「ブラインドボックス」のメーカーは知的財産 (IP) の開発を重視していることです。「POP MART」はIPのブランドイノベーションと運営に力を入れたことで、日本市場への進出など想定以上の効果を得ています。
「ブラインドボックス」のカルチャーはSNSにも波及しています。消費者は自発的に情報をシェアするのです。ベテランプレイヤーはWeibo(マイクロブログ)、WeChat(ウェーチャット)のモーメンツ、TikTok(ティックトック)、BiliBili(ビリビリ)などのソーシャルプラットフォームにブラインドボックスのアンボクシング動画(欲しかった商品を購入して、最初に箱を開ける時の様子を撮影した動画)と抽選攻略法を投稿します。こうした消費者の行為が、「ブラインドボックス」市場の爆発的な発展を推進しています。
中国玩具市場のブラインドボックスブーム
近年、中国玩具市場は「ブラインドボックス」ブームを迎えています。米国のコンサルティング会社Frost & Sullivanの報告によると、中国玩具市場の規模は2019年に207億元(約3249億9000万円)に達し、CAGR(年平均成長率)が34.6%となりました。2024年には763億元(約1兆1979億円)にまで成長する見込みです。
特に注目を集める「POP MART」は2019年に中国玩具小売企業の売上1位となり、市場シェアの8.5%を占めています。
「ブラインドボックス」をきっかけに中国玩具市場が急成長している理由は、次の3点にまとめることができます。
まず、若年層世代の存在です。Tmallが2019年8月に発表した「95後世代(1995年以降出生の世代)消費動向ランキング」によると、中国では15~25歳の若者が1億4900人存在し、その7割が「タオバオ」「Tmall」を利用しています。そして、「95年後に生まれた若者」の間では、お金をかける5大趣味「フィギュア」「オシャレスニーカー」「コンピューターゲーム」「撮影」「コスプレ」の人気が高いとの調査結果が出ています。
次は希少価値の向上です。祝祭日限定版や地域限定版などの限定商品は入手が困難なため、中古市場や海外通販プラットフォームを通じて購入せざるを得ない状況となっています。それらの限定品が、通常価格より倍以上の価格で取引されており、若い世代が相次いで「ブラインドボックス」の収集にお金をつぎ込んでいます。こうした状況が、限定商品の価値をさらに向上させているのです。
3つ目は、ニューリテールを背景にしたオフラインとオンラインの販売チャネルとサプライチェーンの継続的な改善です。「ブラインドボックス」の販売チャネルはハイスピードで拡大しています。実店舗以外に、百貨店、スーパー、映画館、大学周辺などに自動販売機が設置。オンラインでは、Tmall、JD.xom、WeChat、デザイナーズトイソーシャルプラットフォームなど幅広い販路を展開しています。
まとめ
「ブラインドボックス」カルチャーの流行で、多くの企業が「ブラインドボックス」形式のマーケティングを試み、競争が激しくなっています。たとえば、中国聯合航空(China United Airlines)はJD傘下の旅行販売アプリ「京東旅行(trip.jd.com)」と提携し、「ブラインドボックス飛行家」という旅行製品をリリースしました。玩具ではなく、「未知の目的地への旅」を商品として開発したのです。
デジタル変革の時代では、新しいマーケティング手法が常に出現します。「ブラインドボックス」は、消費者に対して新しい購入体験価値を提供しているのです。
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