コンバージョン率が高い=良いECサイト? CVRを評価するときの注意点とは
「EC事業を内製化する」――それは必ずしも、「Webサイトやコンテンツの制作スキルを身につける」「リスティング広告の運用を自社内で行う」「自社サイトのシステム改修をECチーム内で解決する」ことを意味しません。ECに関係する専門的な領域は、すでにいち担当者の努力でどうにかなる時代ではなくなっています。
この連載では、EC事業の内製化を目標に、ECマーケティングに関係するテーマを設定、その判断をするための「考え方」を伝えていきます。3回目も「売上の公式の『真実』」をテーマに、CVRを算出するときの注意点などを解説します。
- ECのマーケティングとは? 「売り上げを伸ばす」ってどういうこと? EC事業の内製化に大切なポイントを解説!
- 客単価が2倍=売り上げも2倍!はウソ? 事例に学ぶ売上の公式の「真実」とは
- コンバージョン率が高い=良いECサイト? 「割り算」で算出する数値には注意しよう!
ECのマーケティングは「ヒト・モノ・カネ・情報といった自社のリソース」と「外部のマーケティングソリューション」を組み合わせて、「結果としての売り上げと利益を最大限に伸ばす」ことが求められます。
つまり「EC事業の内製化」とは「業務の内製化」ではなく、「判断の内製化」なのです。ECの戦略・方針、日々のアクション・行動、そしてソリューションの選択が成果につながっているか、これだけは社内のネットショップ担当者でなければ判断ができません。
「強いEC会社を支えるネットショップ担当者を作る人財育成講座」では、ECマーケティング人財育成(ECMJ)が、こうした判断を行えるEC担当者育成に向けたポイントを解説します。
「コンバージョン率(CVR)の真実」とは?
ひぇぇ~怖いよう~。
ネッタヌ君、いったいどうしたの?
だって、石田さんが「コンバージョン率(CVR)の真実」を話すって言うから……。前回の「客単価の真実」もすごく怖かったんだもん。
別に怖くはないでしょ。EC事業の内製化のために、社内のメンバーが認識しておかなければいけないことなんだからさ。
だって、これまでは「客単価を2倍にして、売り上げを2倍にする方法」をずっと考えていたんだもん。
たしかにそういう事業者さんにとっては不都合な話だったかもしれないね……。
まぁ気を取り直して、「コンバージョン率(CVR)の真実」をお願いします!
ネッタヌ君、意外と切り替えが早いね……。
ECサイトのコンバージョン率は1%~10%の間くらい
コンバージョン率(CVR)についてはいくつか話したいことがあるんだよ。ネッタヌ君、コンバージョン率の定義と計算式は知っているよね?
ECサイトでの購入を達成した割合がコンバージョン率ですよね。計算式は「コンバージョン数(受注件数)÷セッション数(アクセス数)」で算出する!
おお、さすが「ネットショップ担当者フォーラム」のキャラクター。このあたりは完璧だね。じゃあ、ネットショップのコンバージョン率ってだいたいどれくらいになると思う?
うーん。そこはECサイトによって違いそうですよね。
そう。コンバージョン率は販売している商材や価格帯、ECサイトのブランド認知などによってかなり異なる。ただ、おおむね1%~10%の間に収まるかな。販促イベントによって一時的に10%を超えるコンバージョン率が出るケースもあるけどね。
たしかに、実店舗がある有名ブランドのECサイトとかはコンバージョン率が高そう。
そうなんだよ。けれども、コンバージョン率は100%にはならない。50%や60%にもならないんだよね。
それって、当たり前のことなんじゃ……。
コンバージョン率が100%になるビジネス?!
ネットショップをある程度運営しているとごく常識的なことなんだけど、ここに感覚的に気づかない可能性があるんだ。世の中には「コンバージョン率100%」っていうビジネスがあるんだよ。なんだと思う?
え? コンバージョン率100%? そんな夢のようなビジネスが!?
たとえば、飲食店。ファミレスをイメージしてほしい。お客さまが入店した時点で必ず何かを注文するよね。物販ならコンビニエンスストアだって、入店したお客さまがほぼ何かを購入して退店していく。コンビニだと50%以上のお客さまは何かしら商品を購入してお店を出ていくんじゃないかな。
たしかに! リアルのビジネスはコンバージョン率が高そう!
ECサイトのコンバージョン率の低さへの違和感は、長年リアルのビジネスを営んできた会社さんが抱きやすい。「実店舗だとほとんどのお客さまが購入して帰るぞ!」ってね。
こういう会社さんは、サイトのリニューアルや商品ページの作り込みに傾倒しやすいんだけれど、「ECサイトのコンバージョン率はそんなもん」だと理解した方がいいかもしれないね。
「コンバージョン率が高い=良いショップ」ではない?
どんなネットショップでも「ECサイトにアクセスしたけど、購入に至らなかった人」が一定確率出るってことですね。
そうだね。ここはECというビジネスが「ショップ間の移動コストが少ない」ことが大きな理由だろうね。
次に聞きたいんだけれど、「コンバージョン率が高い」ネットショップは良いショップだと思う?
もちろんですよ! だって「売上の公式」からいえば、コンバージョン率が高ければ最終的な「売り上げ」の数値も高くなるじゃないですか!
そうとも言えないんだよなぁ。ECサイトって、サイトの規模が大きくなる(=売上規模が大きくなる)ほど、基本的にコンバージョン率は下がるものなんだよ。
えっ……。
コンバージョン率の上下はセッション数と大きな関係がある
サイトの規模が大きくなると、コンバージョン率は、さ、下がる……?!
そう。売上規模が大きいECサイトだからといって、コンバージョン率が高いとは限らない。その理由は「コンバージョン率」の計算方法にあるんだ。ヒントは、コンバージョン率が「割り算」で算出する数値だということ。
あ、わかった! 「割り算」の分母と分子の関係性だ!
その通り! コンバージョン率は「コンバージョン数(受注件数)÷セッション数(アクセス数)」で算出される。コンバージョン率が上がったり下がったりするのは、必ずしもコンバージョン数(分子)が上がったり下がったりするからではない。セッション数(分母)が上がったり下がったりしても、コンバージョン率は上下するんだよね。
と言うことは、セッション数(分母)が下がるとコンバージョン率が上がっちゃうわけか。
そうなんだよ。売上規模が小さいECサイトほど「サイトを知っている人」が対象になるので、実はコンバージョン率が高い状態になりやすい。売上規模が大きくなるとECサイトへの「一見さん」のセッション数も大きく増える。そうなるとコンバージョン率が低くなるんだよね。
こう考えると、コンバージョン率が高いことが必ずしも良いことなのか、わからなくなってくるでしょ?
高ければ高いほど良いと思っていました。「割り算」って難しいなぁ~。
「割り算」のデータ項目って実は奥が深いんだよ。ある程度データに慣れないと直感的に正しい判断ができない。コンバージョン率はコンバージョン数とセッション数との割り算だから、「セッション数を論じずにコンバージョン率を評価する」としたら、ちょっとズレてるんだよね。
肝に銘じます。
個人的には「割り算」のデータ項目よりも、「足し算」のデータ項目を気にする方が建設的だと思うよ。「割り算」のデータ項目とは違って、「足し算」のデータ項目は基本的に「増えれば増えるほど良い」だからね。
セッション数、コンバージョン数、SNSフォロワー数、定期購入者数――ネッタヌ君、他には?
売り上げと利益!!
まとめ
最後に今回のコラムを少しまとめるね。
ECサイトのコンバージョン率はおおむね1%~10%の間に収まる。ただ、商材や価格帯、ブランド認知などによって異なる。ただし、50%や60%にはならないのでリアルビジネスを経験している会社さんは注意が必要。コンバージョン率は「割り算」で算出される数値。分母と分子でデータは上下する。必ずしもコンバージョン率が高い方が良いわけではなく、サイト規模が大きくなるとコンバージョン率は下がっていきやすい。
こんなところだね。
石田さん、今日の話を聞いていて思ったんですけれど。ファミレスがコンバージョン率100%ってすごくないですか?
すごいよね。インターネットの仕事をやっていると、驚愕の数値だと感じるよね。
当たり前すぎて、そんな視点でリアルのビジネスを見ていなかったことに気がつきました。
リアルのビジネスをネットのノウハウの視点で分析するのも面白いかもね。このコラムは「ECの内製化」がテーマだけど、「リアルの判断」にも活用できるかもしれない。
ネッタヌもさらにお勉強頑張ります!
ECマーケティング人財育成は「EC事業の内製化」を支援するコンサルティング会社です。ECMJコンサルタントが社内のECチームに伴走し、EC事業を進めながらEC運営ノウハウをインプットしていきます。詳しくはECMJのホームページをご覧ください。
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