
最大245%の関税+デミニミスルール撤廃で「SHEIN」「Temu」に衝撃。トランプ政権の関税措置で米ECビジネスの今

ファストファッションブランド「SHEIN(シーイン)」をグローバル展開するSHEIN Group(シーイン・グループ)、越境ECサイト「Temu(ティームー)」を展開する中国EC大手PDDHDは、商品を米国に輸出する際に課される245%の高関税と運営費用の増加を理由に、商品の販売価格を引き上げることを発表しました。
トランプ政権が中国経済にもたらす打撃
トランプ政権の方針により、ほぼすべての国からの輸入品に関税の引き上げが導入される前に商品の購入を急ぐ消費者が増えたため、米国における2025年3月のEC小売売上高は前年同月比で増加したと米国国勢調査局が発表しました。すでに一部の米国の輸入品には価格上昇が実施されており、今後も輸入品の価格上昇が続く見込みです。
その兆候は、商品の仕入れを輸入品に依存する日用品・キッチン・家電を扱う事業者、中国から輸入する小型で低価格の商品に見られます。
トランプ大統領は、米国への輸入品に対する新たな関税(基本関税に上乗せする関税)の導入を4月10日から90日間停止すると発表しましたが、中国からの輸入品に対する高関税は維持する意向を示しました。これには、中国から輸入する商品に課している145%の関税が含まれます。
米国政府からの高関税を受け、中国は報復措置として、米国からの輸入品に対しての関税を引き上げ。これを受けた米国政府はさらに関税率を引上げ、中国もさらなる報復措置に踏み切る――といった応酬が続いた末、ホワイトハウスは4月15日、「中国は米国への輸入品に歳代245%の関税を課す可能性がある」と発表しました。
5月2日からデミニミスルール撤廃。「SHEIN」「Temu」に甚大な影響
中国からの輸入品に対する追加関税は、800ドル未満の貨物が免税で米国に輸入されることを可能にしてきた「デミニミスルール」(通称)が5月2日に撤廃される予定であるなかで発表されました。
「SHEIN」「Temu」は価格転嫁を決定
「SHEIN」のSHEIN Group、「Temu」のPDDHDは、「デミニミスルール」の恩恵を受けてきました。越境ECモール「eBay」を運営するeBayも、自社のビジネスに影響を与える可能性のある動向として、「デミニミスルール」の撤廃について2024年12月期(通期)の決算説明会で言及しています。
そして、SHEIN GroupとPDDHDは商品の販売価格を引き上げる予定であることを発表しました。
SHEIN GroupとPDDHDは、4月25日から米国へ輸出する商品の価格を改定し、値上げすると発表しました。値上げの主な理由には、米国政府による高関税をあげています。
「SHEIN」がECサイト上に掲載した顧客向けのお知らせには、こう書かれています。「昨今の国際貿易ルールと関税の変更により、運営費用が増加しました。品質を妥協することなく、お客さまが希望する商品を提供し続けるために、2025年4月25日から価格を調整します」

同じ内容の発表が「Temu」のサイト上にも掲載され、同様の計画が確認されました。
輸入品を仕入れる米国事業者のビジネスにも影響
このほかの事業者も価格転嫁を検討しています。商品の仕入れの多くを輸入品に頼る日用品・キッチン・家電を販売する米国事業者のWilliams-Sonomaは、輸入にかかる関税で増加したコストをカバーするため、販売価格の引上げを検討しています。
Williams-Sonomaの社長兼CEOであるローラ・アルバー氏は、2025年1-3月期(第1四半期)の決算説明会で、「ホワイトハウスによる関税措置に伴い発生した、極端なコスト上昇を吸収するために、いくつかの商品の価格変更を検討している」と発表しました。
一方、高級家具やインテリアを扱う事業者RH(旧Restoration Hardware)は、慎重な姿勢です。ゲイリー・フリードマンCEOは、2024年12月期(通期)決算説明会と同時期に行われた、ホワイトハウスによる4月2日の関税措置の発表に不意を突かれました。
投資家から、RHが関税に対応してすでに販売価格の引上げを行ったかどうかを尋ねられたとき、フリードマンCEOは「まだ措置を講じていない」と答えました。しかし、将来は価格転嫁の措置を講じる可能性があることを否定しませんでした。
ただし、「現時点では何もするつもりはありません」とフリードマン氏は説明。同時に彼は、関税措置は最終的に消費者が買い物をするときの変化に気付くだろうと予想しています。「消費者に影響はあるのでしょうか?もちろん、あるでしょう」(フリードマン氏)

「Temu」のGoogle広告支出は大幅ダウン
インプレッションは19%から0%に急落
「SHEIN」のSHEIN Groupと、「Temu」のPDDHDにとって、米国政府の関税措置は自社のビジネスに長期的な影響を与える可能性があります。マーケティング代理店のTinuitiによると、PDDHDは3月31日まで米国のGoogleショッピング広告へ積極的に入札し、インプレッションの19%を獲得しようと動いていました。しかし、4月12日現在、そのシェアは0%に急落しました。

2024年に実施された米プロフットボールの決勝戦「スーパーボウル」だけでも「Temu」が出資した広告支出は数百万ドルに達すると推定されています。総合金融サービス会社のJ.P. Morganは「2025年度の期末までに、PDDHDは『Temu』のマーケティングに30億米ドルを費やす可能性がある」と推定しています。