渡部 和章 2018/1/9 6:00

ネットとリアルの融合をめざしている良品計画。アプリやWebサイト、SNSなどを活用し、「無印良品」の理念を伝え、共感を得ることに力を入れている。「生活者の共感」から培った関係性が土台となり、店舗やECサイトでの購入につながると考えているためだ。消費者との関係作りを重視する良品計画のデジタルマーケティング戦略について、WEB事業部・川名常海部長が語った。写真◎Lab

ウェブサイト、アプリ、SNSを活用してネットとリアルの融合を加速

無印良品のデジタルマーケティングがめざすのは、無印良品の理念を伝え、その活動に共感して、応援したり、参加してくれる人々を増やすこと(川名部長)。

川名部長は良品計画がデジタルマーケティングに取り組む理由をこう説明する。

株式会社良品計画 WEB事業部 部長 川名 常海 氏
株式会社良品計画 WEB事業部 川名常海部長

良品計画は国内の小売屈指のデジタルマーケティング活用企業。たとえば、ECと店舗で利用できるアプリ「MUJI Passport」の累計ダウンロード数は2017年9月時点で約1,000万件。アプリを月1回以上起動するアクティブユーザーは約720万人にのぼる。

SNSアカウントの運用やYouTubeなどを通じた動画発信にも力を注いでいおり、グローバルでのSNSのフォロワー数はFacebookが350万人、LINEが335万人、Instagramが90万人、Twitterが57万人(2017年11月時点)。

工場内での人気スニーカーの製造工程なども含めてドキュメンタリータッチで商品を紹介する動画や、バナナバームの投稿など、SNSでバズった投稿は数多い。

オウンドメディアでの情報発信やコミュニティサイト上でのユーザーとの交流も活発に行っている。また、今年8月にはブランドサイトとECサイトを統合し、買い物体験のさらなる向上を図った。

こうしたデジタルマーケティングに底通するのは「理念」「共感」「会話」だと川名部長は強調する。

無印良品の「理念」を発信し、それに「共感」してくれた人たちとつながっていく。そして、つながった人たちと「会話」をすることで関係を深めていくことを大切にしている。(川名部長)

商品に込めた理念を伝えるには「WHY」を説明することが必要

良品計画がネットやリアルで重視するのは「理念」の発信。商品を売るときは、価格や機能だけの説明だけでは終わらない。「なぜ無印良品がこの商品を作ったのか」「なぜこのような素材、形、機能なのか」を説明する。

そのスタンスは店頭やECサイトの商品説明文、オウンドメディアのコンテンツ、SNSに投稿する写真、店頭イベントなど、あらゆる取り組みで徹底しているという。

無印良品のパーソナリティに共感してもらい、共感から関係性が始まることが大切だと思っている。(川名部長)

WHY=売り手、企業の論理ではなく、生活者あるいは自然の論理に則って、生活の「基本」と「普遍」を示し続けたい。そのことが世界を豊かにすると信じています。
HOW=工業化により生産効率や販売効率に比重が置かれ、形によるはき心地の違いについては二の次になっていた靴下を、誕生の原点までさかのぼりリデザインしました。
WHAT=人間中心のデザインに作りなおしました。足なり直角靴下です。
商品を売るときは、「なぜ」を説明することを大切にしているという(スライドの図はサイモン・シネックの「ゴールデンサークル」)

川名部長は、商品に込めた理念を伝える説明の例として、かかとが直角の靴下「足なり直角靴下」を紹介するときの謳い文句をあげた。無印良品の靴下は、人間の足の形に自然にフィットする90度になっている。

売り手、企業の論理ではなく、生活者あるいは自然の論理に則って、生活の基本と普遍を示す。そのことが世界を豊かにすると信じています。工業科により、生産効率や販売効率に比重が置かれ、形による履き心地の違いが二の次になっていた靴下を、誕生の原点まで遡り、リデザインしました。人間中心のデザインに作り直した、足なり直角靴下です。(川名部長)

「足なり直角靴下」の紹介文の一部
足なり直角靴下」の紹介文の一部

無印良品の理念を伝える場は、SNSアカウントのほか、良品計画が運営するオウンドメディアも重要な役割を果たす。オウンドメディア「くらしの良品研究所」は無印良品のブランドや商品、生産者、そしてそこに関わるユーザーにまつわる出来事やストーリーを記事にして発信している。

良品計画が運営しているオウンドメディア「くらしの良品研究所」
良品計画が運営しているオウンドメディア「くらしの良品研究所」

広告よりも「顧客とのつながりそのもの」に投資する

無印良品は、理念を生活者に「共感」してもらうためにどのような取り組みをしているのだろうか。川名部長によると、現在は広告を介して消費者の購買行動を促すことが以前と比べて難しくなっていることから、広告以外のコミュニケーションを強化しているという。

ソーシャルメディアやオウンドメディアでの情報発信、あるいは、そこで行われるコミュニケーションそのものにしっかり投資することで、直接お客さまと会話ができる環境を作っている。(川名部長)

「くらしの良品研究所」の中に、商品に関する改善提案や新商品のアイデアを顧客から募集するコミュニティサイト「IDEA PARK」がある。アイデアを投稿した会員にMUJIマイルを付与することで会員の参加を促進。企業が一方的に情報を発信するのではなく、顧客を商品作りに巻き込んでいくスタンスだ。

無印良品の情報発信は、企業が自分たちのことを報道する「ブランド・ジャーナリズム」という考え方に基づく。「インターネットの時代になって、企業やブランド自身がメディアを持てるようになった。これからは自分たちのことを伝えることが今後もますます重要になっていく」(川名部長)と考えている。

アプリでユーザーの共感の度合いを把握

無印良品の理念に共感したユーザーを、どのように把握しているのか。その役割は「MUJI Passport」が担っている。

「MUJI Passport」はショッピングや会員カード、クーポン発行、店舗でのチェックイン、買い物履歴の登録、店頭在庫検索などの機能を提供。ユーザーは買い物やクチコミ投稿など、さまざまなサービスを利用することでMUJIマイル(ポイント)を貯めることができる。

店舗とECサイトの顧客情報を一元化し、良品計画は顧客一人ひとりの購買履歴、ECサイトの閲覧履歴や実店舗の来店履歴、オウンドメディアでのクチコミ投稿の履歴なども把握している。ユーザーがSNSアカウントとアプリを連携していれば、SNS上の活動まで追跡することが可能だ。

調査 選定 購入 受領 利用 保有 推奨
・来店
・商品チェック
・検索
・カタログ閲覧
・友人の評価取得
・ネットで購入
・店舗で受領
・問い合わせ
・コミュニティ参加
・検索
・カタログ閲覧
・友人の評価取得
・満足度のツィート
アプリ「MUJI Passport」やオウンドメディア、SNSを活用し、顧客の購入前後の行動まで追跡する

無印良品の理念に共感している消費者が、商品を購入するとは限らない。そのため、店舗のPOSデータやECサイトの購買データに基づく「買ったか買わなかったか」だけで消費者の共感の有無は判断していない。だからこそ、クチコミ投稿やユーザーのSNS上における活動までを把握できるようにしている。

買い物の前の情報収集やソーシャルメディアでの行動、クチコミの投稿など、購買の前後における行動も含めて、顧客のコンテキストを理解してコミュニケーションを行う必要がある。(川名部長)

共感してくれた顧客と「会話」する

共感してくれた顧客と関係を深めるため、「無印良品のファンと会話をしていく」(川名部長)という「顧客との会話」を持つのが基本スタンスだ。

「顧客との会話」とは、優れた店舗体験や商品体験の提供、アプリを通じたコミュニケーション、SNSアカウントの発信や交流、オウンドメディアで新商品のアイデアを投稿してもらうこと、店頭イベントなどのすべてを指す。

弊社がお客さまとコミュニケーションを行うときの考え方は、社員も一人の生活者として自分たちの理念や価値観ををお客さまに伝える。そして、その理念がお客さまの友人・知人に伝播していく。それを繰り返すことで多くの消費者とつながっていくことが大切だと考えている。(川名部長)

生活者
SNS
店舗体験
商品開発
アプリ
イベント
商品体験
コミュニティ
良品計画が顧客と向き合うときは、「企業と消費者」ではなく「生活者と生活者」という視点を大切にしている

エンゲージメントを測る「参加」という概念

川名部長は、SNSなどの投稿がどれだけ共感を生んだかを数値で図る仕組みも紹介した。コンテンツの効果を検証する際、リーチ数ではなく、「いいね!」の数やシェアの回数、コメントの件数、アプリのダウンロード数など、ユーザーとのエンゲージメントを指標としている。

ユーザーがアクションを起こすことを「参加」という概念で捉え、施策の結果として「参加」した生活者がどれだけ増えたかを重視しているという。

SNSユーザーが「いいね!」やシェアなどのアクションを起こすことを「参加」という概念で捉えている
SNSユーザーが「いいね!」やシェアなどのアクションを起こすことを「参加」という概念で捉えている

最後に川名部長は、良品計画がめざす顧客とのコミュニケーションについて次のように説明し、セミナーを締めくくった。

無印良品の理念に共感してもらい、理念によって顧客とつながり、つながった上で会話をしていく。こうした関係性は、デジタルの時代にはますます重要になっていくと思う。(川名部長)

会場風景
会場は超満員、多くの来場者が詰めかけた
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