ロボットが倉庫内作業を効率化する未来――Amazon・DHL・Walmartの物流改革
多くの小売事業者や配送業者が、ロボット技術をフルフィルメントのインフラに組み入れて生産性を上げようとしています。その理由を説明しましょう。
「Alphabot(アルファボット)」は、Walmart Inc.(ウォルマート)のオンライン食品オーダー用のピッキングロボットです。無人のモバイルカートが、ニューハンプシャー州にあるウォルマート傘下の店舗「Salem」の倉庫を走り回り、オンラインで注文した消費者向け保存食商品をピックアップしています。その後、ウォルマートのスタッフに商品が届けられ、梱包されて発送されます。
ウォルマートがアルファボットを2018年に導入したのは、正確な在庫管理と店舗スタッフによるすばやいフルフィルメントを実現するためです。ウォルマートの企業コミュニケーションディレクターであるラーガン・ディケンス氏は次のように言います。
店舗スタッフの効率を上げるためにロボットを導入しています。スタッフのアシスタントの位置付けです。ロボットが単調な反復作業を処理する間に、店舗スタッフは他の作業ができるようになるのです。(ラーガン・ディケンス氏)
アルファロボットは現在、「Salem」で試験的に使われていますが、時期を見てオンラインの食品オーダーのピックアップはすべてアルファボットに任せる方針です。
消費者が商品をピックアップしたい時間に合わせて、食品を注文できるようにすれば、より高い利便性を提供できる可能性があります。(ディケンス氏)
多数の企業が、生産性を高めるためにロボットを導入
フルフィルメントとディストリビューションにおいて、効率を上げてコストを削減するためにロボットへ注目しているのはウォルマートだけではありません。
世界的にデリバリーサービスを展開するDHLも北米の倉庫内で商品ピッキングロボットを活用し、ECの需要に対応しています。
GAP(ギャップ)は2017年10月、人間が操作するロボットアームを導入し、人工知能のスタートアップ企業であるKindredと提携してオンライン注文のフルフィルメント改善に努めています。
また、2012年に7億7500万ドルでKiva Systems(後にアマゾンロボティクスと社名を変更)を買収したAmazon(アマゾン)は、倉庫内で10万以上のロボットを使用しています。
理由は簡単です。ECの成長にともない、注文をより効果的により早く処理して、小売事業者たちは需要に対応しなくてはいけないからです。ロボットシステムは高価ですが、倉庫でロボットを活用しているEC事業者の多くは、高い金額を補って余りある利点があると信じています。
ロボットはディストリビューションとフルフィルメントセンターにおける生産性を高め、倉庫スタッフが自分の仕事に集中できるようにします。では将来、ロボットに仕事を乗っ取られるのでしょうか?
研究機関IDCでサービスロボットの研究責任者を務めるジョン・サンタゲート氏は言います。
ロボットが人間に置き換わるには、まだ長い時間がかかります。もちろん、ロボットが担当する仕事もあるので、仕事によってはロボットに置き換わることもあるでしょう。今後必要になってくるのは、職務記述と職務要件の再定義になるはずです。ロボットは一定の仕事を自動化するツールですが、職業を自動化するわけではないのです。(ジョン・サンタゲート氏)
【ウォルマートの事例】スタッフがロボットを使いこなすことで効率化
ウォルマートは、ロボット事業のスタートアップであるAlert Innovationと協業し、自社のオンライン食品オーダーピッキングシステムにアルファボットを導入しました。
モバイルカートが冷蔵・冷凍商品をピックアップし、消費者への発送を担当するスタッフに引き渡すのです。こうすることで、スタッフが他の仕事をすることができます。ウォルマートのスタッフはフルーツや野菜などの生鮮食品のピッキングを担当しています。
食品ピッキングロボットのアルファボット以外に、ウォルマートは1時間以内に十数列の棚をスキャンして、スタッフにリアルタイムで在庫を知らせることができるスキャナーを50の店舗で利用しています。
2016年から利用されているそのロボットは、棚をスキャンして在庫レベルを確認し、在庫の有無やラベル、価格などに誤りがないかどうかをチェックします。それらのデータは、店舗在庫を追跡するウォルマートの社内アプリに送られます。
またウォルマートでは78の店舗で、自動洗浄機を利用。1月末までには新たに360店舗へ導入する計画です。自動洗浄機はウォルマート社員と一緒に稼働します。QRコードを搭載した洗浄ロボットが店舗内に配置されており、スタッフが店舗内のどのルートを掃除するのかプログラムを選択します。
洗浄機マシンに乗って掃除をするのではなく、使いこなしながら仕事をすることで、他のスタッフやお客さまのお手伝いが可能になります。(ディケンス氏)
【DHLの事例】生産性が飛躍的に上がったDHL
ECの成長にともない、ロボットを活用して効率を上げようとしているのは小売事業者だけではありません。たとえば、DHLは2年の歳月をかけてさまざまな倉庫技術を学び、ロボットを活用するための方法を模索してきました。
DHL Supply Chainのソリューションデザイン担当ジャスティン・ハ氏は言います。
生産性の向上が我々の目標でしたが、実際には労働市場においてどのようにイノベーションを起こし、課題に立ち向かうかという意気込みが原動力になったのです。我々の倉庫がある街には他社の倉庫も数多く存在するため、労働者確保のための競争があり、失業率も比較的低い状況です。今働いているスタッフのパフォーマンスを上げるため、ロボットに手伝ってもらうのです。(ジャスティン・ハ氏)
DHLは3社のロボットベンダーと提携しています。Rethink Robotics、Universal Robotics、ABB Roboticsの3社がDHLの倉庫のロボット開発などを任されています。ロボットアームは単純な反復作業を担当。運搬ロボットはA地点からB地点へ商品を運びます。そして、ピッキングアシスタントロボットは商品のピッキングを行うのです。
既存のインフラにこれらのシステムを組み込んでから、人間のスタッフだけに仕事を任せるよりも生産性が30%上がりました。
伝統的な自動化と比較すると、よりフレキシブルで、我々の既存インフラに合っています。ホリデーシーズンなど、物量が急激に増えた場合、このようなフレキシブルなソリューションが役立つのです。(ハ氏)
年間4億ドルをロボットに投資するDHL
DHLは北米に430あるディストリビューション拠点のうち、85拠点でロボットを利用しています。今後さらに350拠点でロボット導入を検討し、今年はそのための技術に4億ドル投資するそうです。
また、2019年にはシカゴ郊外にAmericas Innovation Centerと呼ばれる2万4000平方メートルの施設を作り、その中で固定のロボットアームやモバイルピッキングロボットなどのロボット技術にも注力すると考えられますが、詳細な計画はまだ決定していないそうです。
DHL Supply ChainのCEOであるスコット・スレディン氏によると、DHLの生産性は大きく上がりましたが、ロボットを導入したことによりスタッフが短期間で多くを学ぶようになりました。
たとえば、今までの方法ではピッキングの生産性が1時間に100個だった場合、多くの新人はそのレベルに到達するのに2~4週間を要します。ロボットのソリューションを使えば、新人でも数日で同じレベルに到達し、数週間もすれば1時間に150個など新たな目標に到達できるのです。
「多くのロボットベンダーが、RaaS(Robots as a Service)と呼ばれるサービスを提供していますが、それらは高価なものです。しかしDHLではすでに技術投資が予算に組み込まれています」とハ氏は話します。
彼のチームは、技術的に何か問題があった場合の危機管理計画も準備しています。その計画には、ネットワークがダウンした時のWi-Fiホットスポットや、必要であれば手動でシステムを戻す方法なども含まれています。
【メーカーの事例】Adore Meの新しいディストリビューションセンター
デジタルネイティブの下着メーカーだるAdore Meは最近、サードパーティの物流センター利用を止め、12万6286平方メートルの自社ディストリビューションセンターをオープンし、2つの異なるロボット技術を取り入れました。
1つ目はAutoStoreと呼ばれるストレージ技術で、ロボットが回転率の高い商品をピッキングして、容器をきちんと縦に積んでいきます。
2つ目は、Opex SureSortという名前の分別システムで、商品をスキャンし、正しい容器の中に入れていきます。
Adore Meの新しいディストリビューションセンターは、オンラインの注文に加え、2018年6月にニューヨークにオープンした店舗と2018年11月にニュージャージにオープンした店舗への商品の発送を行います。
Adore Meによると、新しい技術のおかげで、ディストリビューションセンターでは今までの4倍にのぼる、1日2万以上の注文を処理できるようになりました。新システム導入でスタッフの数は30%削減でき、サードパーティの物流を利用するより1.5倍の注文に対処できます。
Adore Meのディストリビューションディレクターであるクルティン・シャー氏によると、在庫と配送の精度が上がったことで、キャンセルや個別配送の部分輸送料が、以前のベンダーと比べて50%ダウンしたそうです。
自動化することで、小さなスペースでも高い処理能力を発揮します。早くて効率が良く、物量を増やす際も人間スタッフが少なくて済みます。また、注文の精度も自動化によって上がりました。(クルティン・シャー氏)
しかにAdore Meは、技術の導入時にいくつかの課題に直面しました。技術は高価なもので、500万ドル~1000万ドルの事前投資が必要です。また、導入には十分な時間が必要です。
自動化をした1年目は、メンテナンスコストは最小限でした。しかし、時間とともにメンテナンスコストがかさみます。ただ、機材コストの10%を超えることはないだろうと考えています。価値のある投資でした。以前よりも少ない人員で多くの物量に対応することができています。(シャー氏)
【アマゾンの事例】フルフィルメントにおけるロボットの役割
フルフィルメントやディストリビューションセンターでのロボット導入の効果は、他にもあります。
たとえば、Kiva Systems(現在はアマゾンロボティクス)を買収したアマゾンは倉庫にロボットを投入することで、ホリデーシーズンに雇っていた季節労働者の数を減らしました。2018年のホリデーシーズンには、集中する需要に対応するために10万人を雇いましたが、2年前の同時期は20万人を雇っていました(アマゾンの広報担当はインターネットリテイラー社に対して、雇用人数はロボットと関係ないと述べています)。
アマゾンは世界中にあるアマゾンフルフィルメントセンターの25か所で、アマゾンロボティクス社の10万個以上のドライブユニットと、パレットに商品ケースを積むことができるパレタイザーロボットを30台以上使っています。
アマゾンの広報担当者は次のように話しました。
ロボットと自動化は、我々のフルフィルメントセンターに多くの利益をもたらしました。最新技術が、我々の迅速な配送を可能にし、効率を上げ、ミスを少なくし、価格を安くして、世界中の職場環境を改善しています。従業員をサポートする技術に投資すれば、仕事が楽になり、フルフィルメントの効率が上がるのです。(アマゾン広報)
また、アマゾンは倉庫ロボットを提供するBalyo社の持株比率を今後7年間で29%にまで上げる予定だと言われています。Balyo社の技術を使えば、フォークリフトを自動運転に変えることができ、アマゾンのディストリビューションセンターの効率がさらに上がります。
それだけではありません。アマゾンは商品をピッキングして、別の場所に収納するピッキングロボットを自社開発していると噂されています。現在は、倉庫で働く人たちが行っている仕事です。
アマゾンの広報担当者は「自動化で職業が奪われるというのは幻想です。実際我々は新しい仕事を生み出しながら、自動化しています」と話しました。
ほとんどの小売事業者、配送業社やアナリストは、ロボットが人間に取って代わるまでにはまだ長い時間がかかると考えています。しかし、技術は急速に進化しており、より多くの小売事業者はロボットが提供する効率に注目し、投資をしています。
IDC社のサンタゲート氏は話します。
現代のロボットの多くは、人間と協業するように作られています。人間の代わりになるように作られていないのです。手動で行わなければならない仕事をロボットが担当すれば、カートを押すなどの単純作業ではなく、より価値のある作業に人間が集中できるわけです。ロボットは効率良く動きますが、人間が得意としていることすべてができるわけではありません。(サンタゲート氏)