Digital Commerce 360[転載元] 2023/8/3 7:30

米国でレディースアパレルの小売業を手がけるJ.Jill(ジェイ・ジル)のメールマーケティングに関する事例をお伝えします。J.Jillは、Eコマースの販売促進につながる重要なEメールの配信成功率が低下したため、早急に対応しなければならないという課題を抱えていました。どのような施策を打ち、この危機を脱したのでしょうか。開封率アップにつながった取り組みを含めて解説します。

記事のポイント
  • Eメールシステムの移行後、J.JillのEメールにおける消費者エンゲージメントは99.7%から96.8%に低下
  • GoogleやYahooのスパムブロックから解除されるために、最も熱心な顧客にメールを送り、IPアドレスの「ウォームアップ」を実施した

IPアドレスが突如、ブロックされた理由とは

米国のEC専門誌『デジタルコマース360』が発行する「北米EC事業 トップ1000社データベース 2023年版」で245位にランクインされているJ.Jill。Eメールの運用・戦略担当シニアマネージャーを務めるマイケル・カブラル氏は「Eメール関連の指標にはすべてに目光らせていますが、EメールからWebサイトにアクセスするトラフィックは最も注視しています」と話します。

J.Jillは2022年7月に3回目のメールシステム移行を実施した後、メールの配信成功率が低下しました。カブラル氏によると、何らかの原因によって7月4日にメールIPアドレスがブロックされたことが理由だそうです。これにより、J.Jillのメール配信における消費者エンゲージメントは、従来の99.7%から96.8%に下がりました

それほど大きな数字ではないように見えますが、メールからECサイトへの訪問数が多いJ.Jillにとってはかなりの打撃と言えます。

J.Jill Eメール運用・戦略担当シニアマネージャー マイケル・カブラル氏
J.Jill Eメール運用・戦略担当シニアマネージャー マイケル・カブラル氏

EメールはJ.Jillのオンライン販売の“非常に大きな部分”を担っている」とカブラル氏は付け加えています。

受信者にとって迷惑メールと思われない工夫とは

J.JillからのEメールにあまり興味がない場合、消費者の受信ボックスをJ.JillからのEメールであふれさせたくないですし、迷惑メールボタンを押してほしくありません。消費者の手によって迷惑メールに分類されるより、そもそも受信しないように設定してもらった方が良いのです。(カブラル氏)

特定の送信者から受信したメールを迷惑メールに分類する人が多い場合、その送信メールアドレスは、自動でブラックリストに登録されます。ブラックリストとは、スパム、すなわち迷惑メールを送信しているとみなされたIPアドレスの集まりです。

ブラックリストに登録されたメールアドレスは、ブロックされるか、受信者のメールボックスのスパムフォルダに自動で分類されるようになります。

この仕組みを踏まえると、消費者がEメールをクリックすればするほど、消費者は多くのEメールを小売事業者から受け取ることになります。一方、受信拒否などインタラクションが少なくなれば、その消費者にJ.Jillが送るEメールの数は少なくなります。

迷惑メールに分類されると事業者の不利益につながりやすい
迷惑メールに分類されると事業者の不利益につながりやすい

J.Jillは、データの品質保持とメールマーケティングプラットフォームを運営するValidity社が提供するツール「Everest」を使い、どういったEメールが承認され、問題がないかを確認したそうです。

カブラル氏とValidityのアカウントマネージャーは、J.Jillが全てのメールアドレス登録者に向けて、あたかも全員が定期的にメールを開封する熱心なファンであるかのように想定してEメールを送っていることを突き止めました。それはなぜか?

「Apple社のiOSアップデートでメールのプリキャッシュの仕組みを変更したため、メールが開封されなくても、メールが開封されたと誤認されることが発生していました」とカブラル氏は言います。プリキャッシュとは、ソフトウェアが消費者のWebブラウザデータを事前に保存またはキャッシュすることで、消費者に電子メールをより速く配信できるようにする仕組みです。

「良い」IPアドレスを築くためのウォームアップとは

2021年初頭、AppleのiOS 14のアップデートにより、ユーザーはWeb上のアクティブトラッキングをオプトアウトできるようになりました。これにより、企業のマーケティング担当者はWebユーザーを追跡し、その分析結果を踏まえてパーソナライズした広告やキャンペーンを作成することが難しくなりました。

J.Jillは過去にメールを開封した受信者にメールを送りました。しかし、「AppleのiOS 14へのアップデートにより、メールが開封されたかどうかを正確に把握することができなかった」とカブラル氏は振り返ります。

J.Jillなどの小売企業が新しいメールマーケティングベンダーを活用したEメール配信に移行した場合、小売企業は「良い評価」を得るIPアドレスを築き上げなければならないとカブラル氏は気付きました。

そのため、J.JillはEメールのIPアドレスの「ウォームアップ」を実施しました。「ウォームアップ」は、専用IPアドレスで送信するEメールの量を、数週間かけて徐々に増やしていくことを意味しており、カブラル氏によると、これによって「良い評価を得る」ことができるそうです。

良い評価を得るためには、自社のIPアドレスが信頼できる送信元であることを示すために、メールを受信した消費者がメールを開封したり閉じたりする必要があります。(カブラル氏)

メールの大手キャリアGmailとYahooは、受信者がスパムメッセージを受信していないことを確認するため、EメールのIPアドレスを監視しています。ブラックリストに載るのを避けるため、カブラル氏はまず最もエンゲージメントの高い顧客にメールを送りました。

J.Jillの顧客がメールをクリックし、メールを開封すると、IPブロックは解除されたとカブラルは言います。「クリックしたり、メールを開いたりする人がどんどん増えていきました」(カブラル氏)

開封率の高いメールを送るために

Eメールが意図した読者に届くようになった今、カブラル氏は「J.Jillは値引きよりも商品の“新しさ”をアピールすることをより重視して訴求している」と言います。それがメールを受信する顧客にとって有益な情報なのだそうです。

カブラル氏はEメールの開封率を追跡しているので、開封率の高いメールにするには何が適切なのかを理解しています。

J.Jillは受信する人の視点に立ったメールマーケティングを実施している
J.Jillは受信する人の視点に立ったメールマーケティングを実施している

一番の人気は、新商品、あるいは新入荷の商品を知らせる内容で、開封率が高い傾向にあります。J.Jillはその傾向を踏まえたEメールの配信をしています。(カブラル氏)

同一商品は訴求内容に変化をつける

カブラル氏はこう言います。「同商品について訴求するときは、Eメールを一度送信したあと、2週間後にもう一度送ります。そうすることで、顧客の購買意欲を持続させることができると考えています」

J.Jillの顧客のなかには、J.JillからのEメールが届かない場合、なぜ自分に届かないのかをカスタマーサービスにメールで問い合わせることもあるそうです。

J.Jillのお客さまは、お送りしているEメールをとても熱心にチェックしてくれていると思います。(カブラル氏)

また、新商品や売れ筋商品の入荷が遅れた場合、J.Jillはその旨をメールで顧客に知らせています。入荷が遅れている商品をチェックした顧客には、その商品の在庫が入荷された時点でそれを知らせるメールも送っています。

先述の通り、iOSの変更以来、J.JillではWebサイトの訪問者数は減少しているそうです。その一方で、ユーザーによるWebサイトの滞在時間は長くなっています

J.Jillの熱心なファンはまだWebサイトに来てくれています。その証拠に、Webサイトの売り上げは以前よりもアップしています。(カブラル氏)

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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