越境ECの成功のカギは「決済」「不正対策」 80か国のビッグデータからわかる最新トレンド
ECで利用される決済手段は国や地域によって異なるため、越境ECに取り組む際は決済手段のローカライズが欠かせない。また、地域の特性に合わせた不正注文対策も必要となる。世界80か国以上で約5,600社に決済ソリューションを提供しているACI Worldwideの日本法人、日本エイシーアイ・ワールドワイド(ACI)の朴健一・日本韓国カントリーマネージャーらが、越境ECを成功させるための決済と不正注文対策のポイントを解説する。 写真◎Lab
2020年に越境ECは1兆ドル規模
国をまたいで商品を購入する越境EC市場は拡大を続けている。2020年の越境EC市場は1兆ドルを超える見通しである。
こうしたことを踏まえ、ACIのアカウントマネージャーである金山紀果氏は「日本の企業の成長要因には、国境を越えたEC戦略を追求すること」と指摘。世界のオンライン決済のトレンドと、越境ECの決済のポイントを次のように説明した。
世界のオンライン決済のトレンド
- オンラインショッピングの年間支出額は2.2 兆ドル
- 2016年は16億人がオンラインショッピングを利用
- 2020年には10億人が越境ECを利用し、越境ECの支出額は1兆ドルに達する見通し
ECのボリュームゾーン「ミレニアル世代(1980年前後から2005年生まれ)」の特徴
- 62%がECのアプリと決済手段とのスムーズな接続を要望
- 45%がウェアラブルデバイスに支払い情報を接続
- 44%が小額支払いにスマートフォンでの決済を好む
国や地域ごとに最適な決済方法とは
国や地域ごとに使われるオンライン決済の手段の内訳はどのようになっているのだろうか。金山氏は各国の主な決済方法の違いを説明しながら、越境ECの決済のポイントを次のように指摘する。
“越境ECの課題は、Web サイトの言語対応や、現地通貨での価格設定などいくつもある。その中でも決済は消費者の買い物の利便性に直接影響する重要な要素。国や地域に適した支払い方法を導入する必要がある。また、各国の事情に合わせた不正決済対策も怠ってはいけない。”
英国やフランスはクレジットカード決済の比率が約8割を占める一方、ドイツはクレジットカード決済が約2割にとどまる。オンライン決済の手段の比率は国ごとに大きく異なっている。また、東南アジアではキャッシュ・オン・デリバリー(代金引換)やデビッドカード決済の比率が高いという状況も示した。
Amazonなどの大手も使うACIの決済ソリューションとは
ACI Worldwideの事業概要に触れておこう。1975年設立の大手決済ソリューション・プロバイダーで、決済システムの構築と導入、運用、不正決済対策などを80か国で手がけている。現在は金融機関、小売業、決済代行会社など約5,800社の電子決済を支援しており、1日の決済額は14兆ドル(約1,500兆円)に上るという。
加盟店向けにクレジットカード決済、代金引換、電子マネー、銀行口座振替、ペイパル、アリペイ、Apple Payといった350種類以上の決済手段を、一括して提供しているのも特徴だ。不正注文や不正決済を防ぐセキュリティーソリューションにも定評がある。
ACI Worldwideの概要
- 80か国以上で約5,600社の電子決済を支援
- 1日の決済額は14兆ドル(約1,610兆円)
- 世界展開する300社以上の大手小売企業をサポート
- 360以上の決済機関の不正取引を阻止
- 従業員数は世界34か国で4,450人
ACIの決済ソリューションは、米国の大手百貨店のメイシーズや、EC最大手のAmazonをはじめ、越境ECや海外販売を展開する300社以上の小売企業に採用されている。クロスボーダー、現地販売、複数の国にまたがるプラットフォームなど、さまざまな事業形態のオンライン販売のオペレーションに対応し、小売企業のグローバル展開を支えている。
一部のクライアントの事例も紹介。英国のアパレル企業asosは、2010年に発展途上国で越境ECを開始。国際展開を行ったことで年間の利益が41%増加し、現在では140か国以上に発送できる体制を整えたという。
オンラインゲームプロバイダのgreen man gamingは、国別の決済方法とクロスボーダー取引を可能にし、国境を越えた不正利用の防止も実現。
米国スポーツメーカーは、ECプラットフォームの構築とモバイル対応、オムニチャネル戦略を伴う越境ECの拡大によってEC事業を牽引。グローバル展開を推し進めることで、2020年までにオンライン売上高を現在の10億ドルから70億ドルへ拡大する計画だ。
350種類以上の決済機能をかんたんに実装
ACIのグローバル決済ソリューション「PAY.ON(ペイオン)」は、クレジットカード決済、代金引換、電子マネー、銀行口座振替、プリペイドカード、デビッドカード、ペイパル、アリペイ、テンペイ、Apple Payなど、350種類以上の主要な決済手段を一括で提供している。
ソリューションコンサルタントの鈴木氏とフランチェスコ氏が登壇し、ACIが350種類もの決済をシンプルで安全な方法で提供できる理由を次のように説明した。
決済ソリューション「PAY.ON(ペイオン)」は、350種類以上の決済手段を網羅しており、加盟店はAPIを使って当社の「PAY.ON(ペイオン)」と連携するだけで、それらの決済手段を使えるようになる。
ECサイトに決済機能を追加するデモンストレーションを、EC企業から注目が集まっているApple Payを例に実施した。ECサイトにシンプルなコードを埋め込むだけでApple Payを追加し、ソリューションの利便性の高さを実証した。
不正決済対策「レッドシールド」の機能と成果
ACIの決済ソリューションは、オンライン決済やクレジットカードの不正利用対策ソリューション「ReD Sheild(レッドシールド)」によって、堅牢なセキュリティー機能を保持している。「レッドシールド」の機能や成果を、国内の販売代理店であるスクデットの伊藤拓典氏が解説した。
「レッドシールド」は世界の大手企業を中心に3,000社以上が利用しているという不正利用対策ソリューション。ACIのリスク・アナリストが世界中から集まる膨大なトランザクションを分析し、不正注文の新たな手口に目を光らせ、新しい防衛策をシステムとして提供したり、加盟店にフィードバックしたりしている。
「レッドシールド」はデバイス認証など最新のテクノロジーを駆使し、不正注文を未然に防ぐのが特徴。たとえば、1台の端末で複数のアカウントを利用している場合や、1台の端末から短時間で複数の新規注文があった場合、不正注文の可能性が高いと判断するという。
一つひとつの注文を見ているだけでは不正は防げない。「レッドシールド」は数百万件の大量の注文処理を分析し、不正をあぶり出す。
継続的に不正防止を講じる
不正注文対策の有効な手立てのひとつに「ブラックリスト」に基づくユーザーのブロックがあるが、伊藤氏は「ブラックリストに基づく対策だけでは、不正注文を防ぎきれない」と指摘する。
その理由として、カード情報の入手経路や不正注文の手口は巧妙化・複雑化しており、「ブラックリストで防げる不正注文は全体の1%程度に過ぎない」と説明。「単にブラックリストを使うだけでなく、多くのツールやテクノロジーを用いて、不正を防ぐ必要がある」と強調する。
伊藤氏は、「レッドシールド」の加盟店の成功事例も紹介した。ある大手小売りのECサイトは、過去6か月間の不正注文のデータに基づき不正対策を実施。その結果、「レッドシールド」の契約直後にチャージバックがゼロ件になった上、不正注文を目視で確認する割合も約3分の1に減少。オペレーションコストの削減にも成功したという。
伊藤氏は、日本におけるクレジットカード番号の盗難による被害額が年々増えているデータを説明し、「不正注文の被害が1か月で数千万円から数億円に上るケースもあり、対策は待ったなしだ」と強調する。
スクデットは、「レッドシールド」の国内代理店として、ACIのリスク・アナリストが開発したセキュリティー施策を日本語に翻訳したり、不正注文対策のオペレーションを効率化する方法を提案したりして、日本企業のセキュリティー対策を支援している。
伊藤氏は、「不正対策は1つのテクノロジーだけで全て解決するということはない。つまり、継続的に不正対策に取り組んでいかなければならないということ。加盟店と一緒に継続的に不正と戦っていく」とセミナーを締めくくった。