通販新聞 2015/5/22 7:00

ファッションブランドなどが抱える余剰在庫を期間限定、数量限定で割引販売するフラッシュセールサイトが日本に上陸して約6年が経過し、一定の市場創出に成功している。最近では大規模なプロモーションを展開して200万人近い会員を獲得するサイトも出てくるなど、既存の通販企業にとっても無視できない存在になりつつある。先発の3社を中心にフラッシュセールサイトの現状について見ていく。

主要3社の合計売上高は150~170億円程度に拡大と推測

フラッシュセールサイト大手3社の概要

フラッシュセールサイトは元々、欧米で注目された事業モデルだ。販売期間を1週間などに限定し、特定の会員だけに割引価格で販売することで、高級ブランドであってもブランドイメージを傷つけずに余剰在庫を処分できるチャネルとして成長してきた。

消費者にとっては、従来は憧れのブランドが安く手に入る売り場は郊外のアウトレットモールやリサイクルショップの中古品などに限られていたが、ウェブ上で手軽に注文できるようになり、しかも期間限定のフラッシュセールという販売手法が消費者同士の競争意識を生むことで、購買までの瞬発力を高めることに成功している。

日本では2009年3月に米ギルト・グループの日本法人が「ギルト」を開設したほか、同年8月にGLSジャパンが「グラムールセールス」を、10年3月にB4Fが「ブランズ・フォー・フレンズ」(※昨年11月にサイト名を「ミレポルテ」に変更)をオープン。以来、3社が中心となって市場を開拓してきた。

ギルトの上陸当初こそ、「フラッシュセール=高級ファッション」の印象が強かったものの、GLSやB4Fの参入もあって、今では衣料品といっても国内の人気ブランドやセレクトショップ、カジュアル衣料まで幅広く、また、各社とも女性客が多いことからコスメや子供服、ホームグッズなどに領域を拡大している。

ただ、各社のカテゴリー別売上高構成比は、ギルトがウィメンズ(ファッション)が過半を、GLSはアパレルが40%でバッグ・シューズ・アクセサリーが30%、B4Fも女性向けのファッションアイテムが半分以上を占めている。というのも、ファッション商材は他のカテゴリーに比べてシーズン性が高くフラッシュセールとの相性が良いため、引き続き主力分野であることに変わりはないようだ。

ギルトのフラッシュセールサイト
高級感が特徴的なギルトのサイト

市場の拡大続く

参入当初に比べ、取引先ブランドにフラッシュセールの事業モデルへの理解が深まっていることもあって各社は順調に業績を伸ばしているようで、具体的な数字は公表していないが、3社合計の売上高は150~170億円程度に拡大していると推定される。

足もとの事業環境についても、「取引先ブランドの在庫は減っていないし、十分にポテンシャルがある」(GLS)、「海外の市場規模を考えれば、いまの10倍は伸びる」(B4F)など前向きだ。

一方、常設のアウトレットサイトに加え、大手アパレルが自社通販サイト内にアウトレット品を販売するコーナーを設けるケースが増えているが、新しいブランドや好みのブランドを発見する“わくわく感”はフラッシュセールならではの特徴で、ブランドが運営するサイトでは味わえない点をフラッシュセール運営企業は指摘する。

また、昨今はブランド側も生産量自体を絞って在庫を極力発生させないように努めているものの、「リアルのアウトレットモールや自社通販サイトで展開するアウトレットコーナー、フラッシュセールサイトといった各売り場に出せるくらいの在庫はある」と、ある大手アパレルのEC責任者は明かす。

実際、大手アパレルでは、期初の時点でフラッシュセールに出品する複数回分のセールスケジュールを決めたり、各フラッシュセールサイトの客層と売れる商品にも違いがあることから、サイトごとに投入するブランドを変える企業も多いほか、常設のアウトレットサイトに商品を投入しつつ、瞬発力の高いフラッシュセールを活用する企業もある

最近では、フラッシュセールを積極的に活用することで生産サイクルを早め、在庫および財務体質の健全化と、店頭の鮮度保持を図る動きも出ている。また、単に在庫を素早く現金化するためだけでなく、知名度がそれほど高くないブランドにとっては、200万人近い会員を抱えるフラッシュセールサイトに商品を投入することで認知拡大やネットに慣れた消費者との接点が持てるのも魅力のようだ。

GLSのフラッシュセールサイト
GLSはテーマごとの提案にも力を注ぐ

TVCMを放映

フラッシュセール各社はサイト開設から5~6年が経ち、これまではウェブ上の施策を中心に一定規模の顧客を開拓してきたが、ネットでは獲得できない層などにアプローチする目的で昨年11~12月に相次いでテレビCMを放映した。テレビCM以外にも、ギルトは交通広告と「LINE」の公式アカウントを開設した。GLSは今年3月にも新しい内容でテレビCMと交通広告を打つなど大規模なプロモーションを展開。マス広告の効果もあって今年3月時点の会員数はギルトが200万人、GLSは170万人、B4Fは180万人に拡大している。

取り扱いカテゴリーの拡充や会員数の増加に伴い、各社はセール開催の頻度を高めており、その数は月間300セール以上だ。ひとつのブランドで商品数が多い場合などは複数のセールに分けることがある一方、商品数が少ないブランドなどは複数ブランドでひとつのセールを実施。買い回りしたくなる組み合わせで商品を提案するセレクトショップのような取り組みも行う。

また、ギルトでは上位顧客やモバイル会員向けに限定セールを開催したり、通常よりも早く買い物ができる先行入場の特典を付けるなどして顧客ロイヤリティーを高める工夫をしているのに加え、体験型クーポンを販売する「ギルト・シティ」については競合他社との差別化を図るためにも強化している。これまでは都内で利用する体験型クーポンがほとんどだったが、最近では全国展開するスパなどの提案も始めた。

B4Fのフラッシュセールサイト
B4Fはサイト名を「ミレポルテ」に変更した

インフラ強化へ

事業規模の拡大に伴い、インフラ整備の動きも目立つ。ギルトは、今年4月から2カ月をかけて川崎市内の倉庫と東京・辰巳の撮影スタジオを品川の勝島に移転・拡張中で、分散していた両業務を一カ所で行うことで効率化も図る。

GLSは、本社オフィスを4月初めに東京・八丁堀に移転・拡張したほか、物流面では仕分けやピッキングシステム、梱包の自動化なども計画。商品発送までのスピードアップを図りたい考えだ。また、同社は約150人の従業員を抱えるが、事業の拡大を見据えて今年はさらに50人規模の採用を計画している。

一方、事業拡大のペースについては戦略の方向性が分かれる。積極的な人員強化を計画するGLSは“今が攻め時”と判断。利益よりも成長を優先してテレビCMなど大がかりな販促を実施している。対照的なのがサイト開設から3年目に黒字化を達成したB4Fで、「ECビジネスにはさまざまな投資が必要になるが、その時々で優先すべき範囲を選択していく」(B4F)とし、堅実な成長路線を描く。

各社、成長しているものの、世界的に見てもフラッシュセールで利益を出している会社は4~5社程度で、決して簡単なビジネスではないようだ。ブランドのイメージを壊さない写真撮影の品質に加え、新しいデバイスに対応する技術力や取引先ブランドとの関係性などは事業を継続するのに不可欠な要素だ。日本でも3社以外でフラッシュセールに特化したサイトは12年5月に参入した「ミューズコー」くらいで、同社は複数回にわたって投資会社からの増資に成功。今年3月末にはミクシィグループの一員になるなど、安定した資本力も必要という。

3社の新しい取り組みとしては、ギルトは4月にアップルウォッチ対応アプリをリリース。日々、持ち歩くモバイル端末とフラッシュセールは相性が良いことから、体感型アラートでセール開始時間を知らせる。GLSは都内の一部地域で電気自動車を使ったエコ配送サービス「グラムールカー」を開始。自社配送にも乗り出す考えで、消費者と直接の接点を作るとともに、ロゴが入った車を使うことで認知拡大にもつなげる。B4Fは昨年11月にサイト名を「ブランズ・フォー・フレンズ」から「ミレポルテ」に変更。新サイト名は“千の扉”という意味で、フラッシュセール以外の新サービスの導入や海外進出も見据えているようだ。

常設のアウトレットサイトは?

マガシークは2年後50億目標、フラッシュのコンテンツも始動

フラッシュセールサイトとは異なり、常時、ファッションブランドのアウトレット商材を販売しているのが、マガシークの運営する「アウトレットピーク」だ。

フラッシュセール各社が規模を拡大する中、アウトレット品の調達に苦労するケースも出始めているが、商品量のあるアパレル企業にとってはコンスタントに在庫を消化できる売り場としてメリットは大きいようだ

品ぞろえについては、昨年11月にアパレル大手のワールドとアウトレット品の取り引きを開始。同時に、商品情報と在庫のデータ連携に着手したことで「アウトレットピーク」の商品数は従来の1.5倍~2倍(3万5000型~4万型)に広がり、ワールド商材で同サイトの売り上げを7~10%押し上げる効果が出ているという

11月下旬には、「アウトレットピーク」の姉妹店をNTTドコモと共同運営する「dファッション」にオープン。自社倉庫で管理する在庫を2つの売り場で販売できるようになった。

「dファッション」で扱うアウトレット品は「アウトレットピーク」の品ぞろえとほぼ同じで、売れ筋のブランドにも大きな差はないものの、より値ごろな商品が売れる傾向にあるという。

販促面については、「アウトレットピーク」はこれまで、不定期でメルマガ会員やスマホアプリ利用者を対象にした限定セールを実施。昨年12月時点でメルマガ経由の訪問者は前年比5倍に拡大したことから、さらなる利用促進を図る目的で、今年4月1日にメルマガ限定セールをフラッシュセールのコンテンツ「シークレットピーク」として格上げした。

同コンテンツでは週に3回、新しいセールをスタートし、それぞれ1週間の期間限定で販売。マガシークによると、常設店への商品投入は難しいブランドが出てきていることに加え、フラッシュセールであれば販売したいという企業もあることから、従来、「アウトレットピーク」では取り引きがなかったラグジュアリーブランドなどの開拓にも力を注ぐ。

開始から約1カ月で40~50ブランドのセールを開催しているが、メルマガ経由の流入数はさらに倍増し、ユニークユーザー数も1.3倍となるなど、出足としてはまずまずの成果を得ているようだ。

「シークレットピーク」は、先行するフラッシュセール専門サイトとの差別化要素が不可欠になるものの、アウトレット商材の販売で10年の実績を持つ同社でしか取り扱いのないブランドも多く、また、常設のアウトレット商材との買い回りができるのは強みになりそう。

一方、「dファッション」での展開もあって、商材に不足感が出始めていることが課題だ。このため、商品カテゴリーなどの拡大に着手する計画で、低価格アイテムやランジェリー、メンズファッションを強化する。低価格帯商材の拡充に向けてはネットSPAブランドの開拓を進めたい考えで、当該ブランドとの在庫連携にも取り組む。

マガシークは、アウトレット商材だけで17年3月期に50億円の売上高を計画しており、15年3月期の「dファッション」を含めたアウトレット品の売上高は前年比約30%増で着地。今期は同50%増を目指す。

 

「通販新聞」掲載のオリジナル版はこちら:
フラッシュセールサイト 存在感〝じわり〟高まる、在庫の受け皿として成長(2015/05/15)

※記事内容は紙面掲載時の情報です。
※画像、サイトURLなどをネットショップ担当者フォーラム編集部が追加している場合もあります。
※見出しはネットショップ担当者フォーラム編集部が編集している場合もあります。

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