「オムニチャネル」が盛り上がって「クリックアンドモルタル」は盛り上がらなかった理由
オムニチャネルに取り組む企業が、この1、2年で急増しています。特にアパレル系、家具系の企業では売上拡大に大きく貢献している取り組みが数多く見受けられ、次々と新しいサービスをリリースしています。
しかし「クリックアンドモルタル」や「O2O」など、同様の概念は昔からありました。なぜ当時は普及しなかったのでしょうか? この違いを押さえておくことはオムニチャネルの成功のポイントになるかもしれません。
スマホと通信インフラの進化が鍵
当時との大きな違いとしては、スマートフォンと通信インフラ環境が挙げられます。
フィーチャーフォンでは操作性や通信速度が足かせとなり、できることが制限されていました。さらに、実際に携帯を使いこなせる人も限られていて、せっかくソリューションを作っても対象者が限定的でした。
また、POS系の仕組みとECを連携させたくても技術的に困難な点が多く、開発費をかけても思ったほどの収益を得にくい状況でした。
スマートフォンについては、始めはフィーチャーフォンの延長で考えられていたのですが、フィーチャーフォンとは操作性が大違いで、いつでもどこでも誰でも、インターネットのサービスを容易に利用できるようになり、急激に一般消費者に普及しました。誰もがインターネットで検索し、商品ページや店舗ページを当たり前のように利用し始めました。
消費者がオムニチャネルを求めた
このような情勢の中、企業もオムニチャネルの取り組みを始めました。
上手くいっている企業の方の言葉で印象的だったのが「店舗にいらっしゃるお客さまの方がネットの活用が進んでいて、それに追い付くのが大変だ」という発言です。オムニチャネルは事業者側が仕掛けていったというよりは、消費者のニーズでもあったわけです。
では、実際にどのようにオムニチャネルの展開がされているのでしょうか。
オムニチャネルと言うと、ポイント統合、在庫連動などシステム的な要素を先に思い浮かべてしまいますが、これらはいくつのかステップを踏んだ後に必要となる要素と言えます。
あるアパレル企業では、オムニチャネルのシステム投資をする前から、すでに販売スタッフのブログなど、SNSによる情報発信がかなり活発に行われていました。「販売スタッフのSNS利用は制約を付けるとつまらなくなる」ということで、ある意味炎上覚悟で自由にやらせる方針で臨まれ、20代の女性スタッフがカリスマブロガーになり、多くのお客さまを惹き付けていました。彼女たちはスマートフォン1つで実に多くの情報発信をします。
オムニチャネルが作る新たな導線
あるお店が気に入ると、人は自然とそのお店のウェブサイトやブログを見ます。そこに掲載されている商品の詳細や新着情報を見て、購入意欲が生まれます。お客さまのニーズに素直に対応すると「ネットでも購入できた方が便利」ということになります。
チラシや広告を見て来店し、しばらく来店しない期間を経て、ネットで情報を受け取ってまた来店し、今度はアプリを使用したりSNSで情報をシェアしたりする、染み渡るような導線も生まれます。
また、ネットでも購入できるようにすることによって、場所や時間の制約でお店に行けなかったり、他のお店で購入してしまったり、購入しそびれたりする機会損失が低減されます。オムニチャネルによって1顧客あたりの購入金額がアップしている企業が多いのです。
現在、アパレルはファッション特有の商品の回転の早さから、家具は商品購入に至るまでの期間の長さなどから、オムニチャネル化が大きく進展しています。その他の業種においても、オムニチャネルの面白い事例は数多く見受けられます。業種ごとに進化の仕方はそれぞれですが、新たな商売の流れが生まれつつあります。
店舗にいらしているお客さまの利便性の向上を、時間・商品・場所・情報などの切り口で検討していくと、オムニチャネルのサービスが強化されるのではないでしょうか?
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