新任ネットショップ担当者に期待すること、期待しないこと。
読者の皆さんの中には、小売やメーカーに所属していて、異動などでネットショップの現場で働き始めた方がいらっしゃると思います。また、ネットショップを担当する管理職の方や、配属を決める人事担当の方も多いかもしれません。現場の運用担当者からみた新任のネットショップ担当者に期待することしないこととはどんなことでしょうか? 残念なミスマッチを防ぐために、みなさんに読んでいただければと思います。
ネットには詳しくなくも
よく実施されてしまう人員配置は、趣味的にネットに詳しい社員、ネットショップ部門ではないが関連している部門や、他のネット関連部門からの異動です。しかし、私がいつも一番期待しているのは、既存のメインビジネスの基幹となっている部門や業務からの人材です。小売で言うと販売、MD、物流などからです。
なぜかというと、既存事業会社の中でネットショップを行うには、既存事業の知識が必要だからです。それも深い理解と応用が必要です。新規成長ビジネスであるネットビジネスのあり方として、既存ビジネスとまったく関係のないネットショップ単体で大きな規模や急成長ビジネスになるのは非常に困難です。ですので、これまでの業務の知識が非常に大切です。
異動してきた皆さんは必ず言います。「ネットのことはまったく分からないので……」。はっきり言います。現時点でネットは分からなくて良いです。これから分かるようになれば良いだけです。それよりも、あなたが今までやってきたことに期待しています。小売であれば、商品や販売の知識です。ネットショップも小売です。あなたたちこれまで身に付けてきたスキルは、そのまま使えることがたくさんあります。私の経験から、販売やMD出身の人がネット系の知識やノウハウを身に着けるのは、ネット系の知識しかない人が販売やMDの知識やノウハウを身に着けるよりはるかに容易です。
販売やMD出身の人はネットショップ部門に来ると戸惑います。まず言葉や用語が分からない。ツールやシステムが違って使えない。思ったより手間がかかる。顧客と直接接点がなく、商品もない……など。ネットの知識についても、前からいるメンバーとの差に落ち込んだりしてしまいます。
しかし2、3か月で最低限のことができるようになると、あっと言う間にネット出身の人を追い越していきます。それでもまだ自信がなさそうな人もいますが、ネットショップ業界自体の知識やノウハウというのはそれほど歴史があるわけではないので、半年も経てば実は業界標準なレベルに達していると思っています。逆にネット系の知識しかない人に販売やMDを身に着けてもらうのは大変です。理屈はすぐに分かるのですが、センスや売り方というものはなかなか身に付かないのです。
これまでの人脈と実績が武器です
ネットショップと言っても既存ビジネスと同じような種類の業務が多く、社内の他部署と連動しています。また、取引先も重なっていることが多いため、古巣の部署や取引先とやり取りすることがよくあります。
あなたに何か依頼される側にしてみたら、その業務を行うことによって新しい作業(負荷)が生じます。相手のメリットにも触れながら依頼しますが、なかなか難しい場合もあります。その際ものを言うのがあなたの人脈やこれまでの実績です。もちろん強いトップダウンも必要ですが、現場の納得感をどう作っていくかが大切で、これまでの人脈にかなうものはありません。
とりあえず歩き出す勇気があれば大丈夫です
ネットショップはいまだに新規事業の要因が多いので、基盤となる業務やフローから構築しなければならないこともあります。ただ、それほど高いレベルを要求されることはありませんので(この辺のレベル感を理解するのも難しいのですが)、ある程度おおざっぱな方針を決めたら、精度を追及するよりもまず歩き出す。後で精度を上げていくというやり方が必要です。
その他にあったら良いことは、
Excelが使える…なんだかんだでよくExcelをよく使います。高度な関数を知っていることよりも使い慣れていることが大切です。MD出身の人などは使い慣れている人が多く重宝します。
管理画面などの利用に抵抗がない…登録画面やアクセス解析ツールなど、基本は同じなのですぐ覚えるのですが抵抗感をなかなかぬぐえない人がいます。この辺の抵抗感の克服には期待しています。
新規の組み立てができる…新しいことが多いので……。
デスクワークができる…ネットショップの業務は単純にデスクワークだけではないのですが、机に座ってパソコンに向かい続ける時間が非常に長いです。店頭などの現場だけでデスクワークの経験がないと、机に座っているのがつらいようです。
質問ができる…ネットショップに限ったことではありませんが、分からないことを恥ずかしがらずに質問して学べる能力(性格)は大切です。私がおすすめしているのが、取引先に育てていただくことです。丸投げではなく、ちゃんと一緒に議論や作業をしていくことはとても有効です。ネットショップでは複数のお取引先とお話をしながら仕事を進めていくので、取引先を下に見ず、パートナーとして見た場合には、最強の学びの場とります。ネットに限っていうと、詳しい人は割と教え好きです。
逆に、中途半端なネットの知識、ネットショップのヘビーユーザー過ぎること、高すぎるプライドなどは不要です。また、新規事業部門だから既存の大変な部門より負荷が軽いという考えは間違いです。立ち上がりはタフで、既存ビジネスとは種類の違う負荷もあるのです。
今後、ネットショップやWebでの展開を行わない小売はありえなくなるでしょう。「ネットとリアルの戦い」などと言っているのは的外れな話で、ネットを使って自社のビジネスをどう伸ばしていくかを考えていくべきです。
そんな中で、既存のビジネス(チャネル)だけを経験した人、ネットショップだけを経験した人に比べ、その両方を経験した人は有利です。オムニチャネルやマルチチャネルと言われるビジネスのトレンドは変わりようがない中、複数のチャネルを理解できる人材がどう活躍していくのか、期待は広がっていきます。また、こうしたネットショップ人材が増えていくことが、日本のネットショップ業界の発展に大きく関わってくると考えています。
このコーナーはインプレスビジネスメディア主催のイベント「ネットショップ担当者フォーラム」のプログラム委員によるリレーコラムのコーナーです。
プログラム委員会は、ネットショップ事業者や周辺の支援ベンダーなど、業界事情を熟知したスペシャリスト12名で構成されており、イベントのテーマや構成、講演していただく方々の選定や調整などをしています。
このコーナーではネットショップ担当者のみなさんのために、最新トレンドや具体例を交えて役に立つ記事をお送りする予定です。「こんなテーマの記事を書いてほしい」などのリクエストやご質問をFacebookやTwitterでおよせください。