江沢 真紀 2014/8/21 11:30
今回はGoogleやSEOのことは置いておいて、とにかくユーザーのことだけを考えて運営していたら「結果的に」Googleに好まれるサイトになり、ここ数年右肩上がりのトラフィックを得るようになった「石けん百貨」の事例をご紹介します。石けんを中心にスキンケア用品、ベビー用品、雑貨などおよそ6千点を販売する、年商4億円のサイトですが、「石鹸」で検索しても上位に来ない状態から、今ではさまざまな目的を持った幅広い属性のユーザーの集客に成功しています。そこには徹底した「お客さま目線」がありました。

楽天から退店して独自ドメインショップを開店

石けん百貨さんは独自の取り扱い基準で原料や成分、製法まで審査し、本当に良いものだけを厳選して販売しているショップです。国内外のメーカーさんと密に関係を築き、そこにしかないものを販売したり、最近ではオリジナル商品の開発にも力を入れられたりしています(参考:石けん百貨とは)。

また、利用するユーザーさんにも良いものを選別する目を持ってほしいという願いから、単に売るだけではなく情報サイトや掲示板、専門家の解説サイトなどの姉妹サイトも運営されています。

さて、これらのサイトは最初からあったわけではありません。さかのぼること14年、まずは2000年9月に楽天に出店。その後2005年2月に独自ドメインの「石けん百貨」をリリース。同年8月には楽天を退店しました。

「石鹸」で上位に来ない? SEOとの出会い

私が石けん百貨さんと出会ったのは2008年の5月でした。その時、SEOのわかりやすい例として指摘したことは、メインワードである「石鹸」で上位に来ていないということでした。

1つの理由として、サイト名が「石けん百貨」、「石けん百科」で「石鹸」という言葉が使われていなかったという点があったのですが、その説明をしたときに「じゃあ、石けん百科を石鹸百科にしようか」と社長の一声であっさりサイト名が変更となってしまい、とてもびっくりした記憶があります(笑)。

もちろん課題はそれだけではなかったのですが、少しずつSEO要素を取り入れることで、当時は100位圏外だった「石鹸」で、現在は‎Wikipediaに次いで2位に表示されるようになりました。

しかし、順位はあまり重要なことではありません。なぜなら「石鹸」で2位に来ていても所詮流入は全体の2.6%しかないからです。

重要なことは検索流入が増えて売上が上がること。そして何より、せっかく良い物を売っているのに、欲しがっているターゲットユーザーにリーチできていないことが最大の課題だと説明しました。

実際、石けん百貨にはまだキーワードが不足していましたし、石鹸百科は構造やページ内容が最適ではありませんでした。せっけん楽会はクローズドな掲示板だったため大量のお宝コンテンツが眠っている状態で、そして各サイトの連携(リンク)もほとんどない状態でした。

つまり良い商品もあるし素晴らしい知識や情報があるのに、それがユーザーに届いていない状態だったのです。

社長はとても理解のある方で「欲しがっているターゲットユーザーにリーチできていない」この言葉でSEOの本質を理解し、重要性を感じてくださったようです。

SEOを意識しながらもSEOだけではないコンテンツ作り

さて、ここから2009年以降、段階的に1サイトずつリニューアルしていったわけですが、一番重視していたことはSEOではなくてお客さまの使い勝手でした。

カテゴリを最適化するときもキーワードだけでなく、必ず「この名称でわかるか」「探せるか」という視点で議論しました。ページのレイアウトを決めるときも「お客さまが見やすいか」「使い勝手が良いか」リンクを置くときも「ここにあると便利じゃないか」「どこにリンクすれば最善か」常にお客さま視点で作業は進められました。

そしてまだほとんどの人が「コンテンツ」の重要性に気付いていなかった時代に(今のSEOは誰もかれもがコンテンツですが…)、石けん百貨のカテゴリ説明文をすべて手で書き、商品の説明文やスタッフの一言をどんどん追加していきました。

情報サイトの石鹸百科にはたくさんのお役立ちコンテンツを追加し、せっけん楽会の膨大な過去ログを整備して掲示板をコンテンツ化していったのです。

その作業はすべて内部スタッフの方が行い、説明文1つにしても何回も推敲に推敲を重ねて「本当にお客さまにとって良いもの、必要なもの」を追求されていたように思います。

最近はクラウドソーシングで信じられない価格で文章を依頼できる時代です。さらにプロのライターさんにも気軽に頼める状況になっています。

でも、一番信頼できるのは運営者の言葉です。商品の開発から知っていて、自身も使っている運営者が書く文章、作るコンテンツに勝るものはないと思います。いくつか例を紹介しましょう。

人気商品アルカリウォッシュの商品ページ
人気商品アルカリウォッシュの商品ページ
http://www.live-science.co.jp/store/php/shop/s_show_abc-CH003.html

説明文から関係する情報サイトへのリンクや特集へのリンクなどが複数挿入されていますが、これはSEO目的で入れたリンクではありません。スタッフの方が「ここにリンクしたら便利だろう」という視点で設置しているリンクです。なんと商品1つ1つ、すべて手で設定されています。

「重曹」で3位にヒットする情報サイトのページ
「重曹」で3位にヒットする情報サイトのページ
http://www.live-science.com/honkan/partner/bicarbonate.html

このページにも下部に関連したページへのリンク、ネットショップの関連する商品へのリンクがありますが、これもすべて手で設置されています。

レコメンドエンジンで関連商品を出したり、文中リンクを機械的に生成したりといったサイトもよく見ますが、やはり手で選んだリンクにはかないません。結果的にSEO的にも良い効果が生まれると思います。「SEOに効果があるからやる」のではなく、「お客さまにとって価値があるからやる」という視点が重要なのです。

最近できたレビューから商品を探せるコーナーです。SEO的にもレビューは有効ですが、通常は「書いてくれたら送料無料」というようなインセンティブがないと集まりませんし、質が不安であえて持たないショップも多いようです。

石鹸百科ではかなり昔からレビュー機能があり、上記のような人気商品ですと数百件ついています。もちろんインセンティブはありません。継続は力なりです。

結果的にSEOでもプラスの効果が生まれた

さて、このようにスタッフの方が手をかけて運営されてきた結果、現在はどうなっているのでしょうか? それぞれのサイトのGoogleアナリティクスのアクセス状況を見てみたいと思います。

オーガニック検索流入(2011/7-2014/7)

石けん百貨(ネットショップ)オーガニック検索流入(2011/7-2014/7)
石けん百貨(ネットショップ)
石鹸百科(情報サイト)オーガニック検索流入(2011/7-2014/7)
石鹸百科(情報サイト)
せっけん楽会(掲示板)オーガニック検索流入(2011/7-2014/7)
せっけん楽会(掲示板)
読んで美に効く基礎知識(美容の専門サイト)オーガニック検索流入(2011/7-2014/7)
読んで美に効く基礎知識(美容の専門サイト)

この3年間、どのサイトも右肩上がりで増加しています。

実はこの期間というのはGoogleのアルゴリズム変更が激しく、特に2012年の5月、6月、そして2014年に入ってから減少が見られるサイトも多いのです。

特に注目すべきは情報サイトである石鹸百科の伸び率です。以前はネットショップの石けん百貨と情報サイトの石鹸百科が同じくらいの流入数だったところ、情報サイトの検索流入がどんどん増えて、今年の7月は3年前に比べて3.3倍となり、ネットショップのトラフィックを大きく上回ってしまいました。

読んで美に効く基礎知識という美容の専門サイトも専門家による良質な記事というのが評価されてか6.8倍、特にここ数か月大きく増加しています。やはりコンテンツ系サイトの評価が上がっていることがうかがえます。

姉妹サイトの流入増に比例して、ネットショップである石けん百貨への流入も次のように増え、売り上げに寄与するようになっています(すべて2014/7と2011/7の流入比)。

  • 石鹸百科からの流入→1.8倍
  • せっけん楽会からの流入→2.7倍
  • 読んで美に効く基礎知識からの流入→1.7倍

この連載の1回目で説明したように、今のGoogleでは「購入目的」でないキーワードはECサイトがヒットしにくくなっています。石けん百貨さんではそのようなキーワードを情報系の姉妹サイトでしっかり獲得し、意図したわけではありませんが、コンテンツを重視する今のGoogleに好まれるサイトとして大きな成果を生んでいるのです。

続いて、流入キーワードを見てみます。サイトごとにしっかりすみ分けができていて非常に興味深いです。

オーガニック検索の流入キーワード(2014/7の上位25)※Yahooのみ

石けん百貨(ネットショップ)オーガニック検索の流入キーワード(2014/7の上位25)
石けん百貨(ネットショップ)。商品やメーカー系のワードが目立つ。
石鹸百科(情報サイト)オーガニック検索の流入キーワード(2014/7の上位25)
石鹸百科(情報サイト)。ハウツー系、「とは」のような情報検索ワードが目立つ。
せっけん楽会(掲示板)オーガニック検索の流入キーワード(2014/7の上位25)
せっけん楽会(掲示板)。CGMなので細かい言葉、ニッチな言葉が目立つ。複合語も多い傾向。
読んで美に効く基礎知識(美容の専門サイト)オーガニック検索の流入キーワード(2014/7の上位25)
読んで美に効く基礎知識(美容の専門サイト)。美容に関する専門用語、成分なども目立つ。

流入キーワードが違うということは、訪れているユーザーの属性も違うことが考えられます。

商品を探しているユーザーから、使い方を探しているユーザー、成分を調べているユーザー、ニッチな情報を探しているユーザーなど幅広いターゲットユーザーを獲得できていることがうかがえます。ユーザーのニーズからサイトを作った結果、このようにセグメントの全然違ういろいろなユーザーを集客することに成功しているのです。

◇◇◇

よく「SEOのために衛星サイトを作ったほうが良いですか」、「ブログがあったほうが良いですか?」「サブドメインにしたほうが良いですか?」「やっぱり今は記事が上位に来るんですか?」などの質問を受けますが、SEOだけを目的としてサイトを増やしても成功しないように思います。

ユーザーにとって必要な情報は何か、どんなコンテンツがあれば役立つか、そういった視点で考えるとSEO的にも自然と良い形になるように思います。

そして、できればコンテンツは自社内で用意することをおすすめします!「日々の業務が忙しくてそんな時間がない」という声が聞こえてきそうですが、4サイトを運営している石けん百貨さんのスタッフは7名です。制作は外注していますが、撮影、説明文のライティング、コンテンツの作成、カテゴリの編集、姉妹サイト間のリンク設置などはすべてスタッフの方が作業されているのです。

一気に最終形になる必要はありません。前回も書きましたが、SEOの成功の秘訣は地道な努力の継続だと思います。まずはお客様目線で「どんな情報があれば喜ばれるか」から考えていきませんか?

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