オムニチャネルの強化、Amazon戦略の再考――EC事業に新型コロナウイルスが及ぼす影響6つのポイント
米国経済は再開し始めていますが、新型コロナウイルスは、夏休み明けの学校再開に向けたショッピングやホリデーシーズンの買い物にも引き続き影響を与えるでしょう。今回は、2020年の残りの期間、新型コロナウイルスの拡大がEC事業者に影響を及ぼすであろう6つのポイントを紹介します。
新型コロナがEC事業に影響を与える可能性がある6ポイント
2020年、新型コロナウイルスの危機が進行していく中、EC売上トップ1000社の中でも、オムニチャネルやモバイルサービスなどの分野でしっかりとした戦略を持ち、不況を乗り切るのに十分な現金や信用力を持っている事業者が最も強いことがわかります。
新型コロナウイルス危機がEC事業に影響を与える可能性のある6つのポイントを紹介しましょう。
1. オンラインショッピングの増加
不要不急の商品を販売する多くの実店舗が、政府により閉店を命じられた2020年3月。消費者はオンラインで買い物をするようになりました。Web解析ツール「Adobe Analytics」によると、米国の4月のオンライン売上高は前年比49%増でした。
消費者調査によると、新型コロナウイルスが脅威であり続ける限り、オンラインショッピングへのシフトは続くでしょう。調査・コンサルティング会社のRetail Systems Researchが2020年3月下旬に実施した消費者1200人を対象とした調査では、90%の消費者が実店舗での買い物をためらっており、45%が危機的状況の中でオンラインショッピングが必須になると予想していることが判明しました。
『Digital Commerce360』と調査会社のBizrate Insightsが4月に実施した別の調査によると、EC利用者の55%が新型コロナウイルス危機前よりもオンラインでの注文回数が増えたと答え、3月の26%から29ポイント増加しています。なかでも、利用回数がとても増えたと答えた人が3月の調査では6%にとどまっていたのに対し、4月には22%に増えています。
新型コロナウイルスの危機が急速に緩和されない限り、小売事業者にとって1年で最も大きな2つのショッピングシーズン「夏休み明けの学校再開に向けたショッピング」と「ホリデーショッピング」の間に、オンラインショッピングへの大きなシフトが起こる可能性があります。
コンサルティング会社Forrester Researchと物流技術を提供するNarvarが3月17日から25日にかけて実施した調査では、23%の小売事業者が新型コロナウイルスの拡大を受けてさまざまな体制の変更を計画していました。
2. 非必需品を販売する小売店を苦しめる景気後退
2020年3月から4月にかけて、新型コロナウイルスの影響で経済が悪化したため、企業は何百万人もの労働者を解雇し、深刻な景気後退の恐れが広がりました。そのため、EC事業者の間でも、今後数か月間で売り上げが減少するのではないかとの懸念が広がっています。
『Digital Commerce360』が3月3日から9日に実施した小売事業者304社対象の調査によると、EC売上の減少(36%)と増加(38%)をほぼ同数の小売事業者が予測していました。
不況下では、消費者は食料品、ヘルスケア商品、家庭用品、ペット用品などの必需品を優先的に購入することになるでしょう。3月に実店舗閉鎖と大量解雇が行なわれた時、アパレルの売り上げは激減し、オンラインのアパレル小売事業者は大幅な値引きを余儀なくされました。
2020年4月上旬、大手オンラインアパレル小売事業者124社を対象とした『Digital Commerce360』の調査によると、91社(73%)がサイト上でセールを実施していることが判明。これらの小売事業者のうち53%が、感謝祭(米国の祝日の1つ)前後のサイバーウィークのような大規模セールイベントをサイト全体で行っており、割引率の中央値は40%でした。
小売事業者は、消費者の購買行動が通常に戻るのか、不況に直面するのかもわからない中で、ホリデーシーズンに向けて商品を提供しなければなりません。景気が早く回復しなければ、ホリデーシーズン中に値引き競争が激しくなる可能性があります。
3. 供給の多様化を図るEC事業者
新型コロナウイルスは、世界の製造業の中心地であり、北米の小売事業者がオンラインとオフラインで販売する商品の多くの供給源である中国で最初に発生しました。中国の工場は2020年初頭に数週間も閉鎖され、商品の供給源として将来的に期待できるかどうか、懸念が高まりました。
過去10年間に登場したデジタルネイティブブランドの多くは、中国から商品を安価で購入し、北米でオンライン販売することでビジネスモデルを構築してきました。その中には、現在はテレビショッピング大手のQurate Retail Group(北米EC事業 トップ1000社データベース 2020年版 第9位)の傘下に入っているzulily(アパレルや生活用品を販売するECサイト)も含まれていますが、中国からの商品供給が枯渇したため、2020年初頭のプロモーションを大幅に縮小せざるを得なかったとQurateは伝えています。
Wayfair(第6位)は家具や住宅用品のオンライン小売大手ですが、商品の約50%を中国から調達しているため、大きな影響を受けました。ニラジ・シャー最高経営責任者(CEO)は2020年2月下旬の株式アナリストとの電話会談で、トランプ大統領政権が課した中国製商品に対する米国の関税の影響を最小限に抑えるため、以前は60%あった中国への商品依存度を引き下げたと話しました。
『Digital Commerce360』による2020年3月初旬の調査では、多くの小売事業者がサプライヤーとの連絡を密にし、中国以外の供給源を求めていると答えました。その中には、中国からの納品を積極的に監視していると答えた事業者が23%、すでに中国のサプライヤーへの依存度を下げていると答えた19%が含まれています。
発注先を中国から変更したいと思う小売事業者は北米や世界中に存在するものの、2020年のホリデーシーズンを前にして、代替となる供給源を見つけるのは難しいでしょう。つまり、中国で新型コロナウイルスが再燃した場合、2020年の残りの期間の売り上げに大きな影響を与える可能性があるということです。
4. オムニチャネルとモバイルサービスの重要性
多くの消費者が実店舗に入ることを恐れ、新型コロナウイルスが拡大する中で、道端での受け取り(カーブサイドピックアップ)を提供できる小売チェーンには優位性がありました。
「北米EC事業 トップ1000社データベース 2020年版」上位1000社にランクインした208の店舗型小売店のうち、2019年末時点で道端受け取りサービスを行っていた事業者はわずか7.7%でしたが、他の小売店もすぐに後を追いました。
家電量販店のBest Buy(第10位)は、2020年3月下旬にオンライン注文のみ道端での受け取りを可能にしました。工芸品小売業者であるThe Michaels Companies(第220位)とJoann.com(第336位)もそれぞれ、ウイルスの蔓延に伴い道端での受け取りを開始しました。
スーパーマーケットチェーンのWalmart(第3位)、ディスカウント百貨店チェーンのTarget(第12位)などの大手小売事業者は、オンラインで買い物をする消費者の利便性を高めるため、すでに道端での受け取りを導入していましたが、最近のメールマガジンでは簡単に道端で受け取ることができることをアピールしています。
Targetは消費者に向けて「お客さまの安全を考慮してDrive Up(車に乗ったまま商品を受け取れるサービス)を強化しました。サイン不要。車のトランクにも荷物を積み込みます」と発信しています。
これらの小売事業者は、支払い情報を保存したモバイルアプリを使って道端での受け取りサービスを利用できる利便性を強調していますが、それが多くの消費者にアプリをダウンロードさせる原動力となったようです。
アプリの動向をモニターしているApp Annieによると、2020年3月下旬は1月に比べてWalmart Groceryアプリのダウンロード数は460%増加。4月5日には、常に最も人気の高いAmazonのアプリのダウンロード数を上回りました。
モバイルアプリを提供している上位1000社の小売チェーンの45%は、新型コロナウイルスの恐怖が消費者の行動に影響を与え続ける場合、道端受け取りのようなサービスを提供することで優位に立つことができるでしょう。
5. Amazonマーケットプレイス戦略に対する再考
注目すべきは、3月初旬に実施した『Digital Commerce360』の調査に回答した小売事業者の22%が、Amazonマーケットプレイス戦略の調整を行っていると回答したことです。その理由の大半が、優先度の高い商品の注文に集中するために、Amazonが不要不急の商品の入庫を一時的に停止すると発表したことに起因していることは明らかです。アマゾンは5月上旬までにこれらの制限を緩和しました。
つまり、Amazon経由のオーダーの発送をAmazonのフルフィルメントに頼っていた小売事業者は、Amazon倉庫での商品が不足しているため、売り上げが減少する可能性が高いということです。
「北米EC事業 トップ1000社データベース 2020年版」上位1000社の小売事業者の多くは、マーケットプレイス戦略を見直す可能性があります。上位1000社の主要カテゴリーの小売事業者のうち42.7%がAmazonで販売しており、その中にはビタミンやサプリメントを販売する小売事業者の80%近くが、ベビー用品、医療用品、ペットケア商品などの専門商品を販売する小売事業者の半数が含まれています。
上位1000社のデータベースで第1位のAmazonは、不要不急の商品カテゴリーでも強力な競争相手として台頭する可能性があります。北米で新型コロナウイルスが流行するにつれ、アマゾンは家庭用品や健康とは関係のない自由裁量商品を通常よりも多く取り扱うようになった、とある関係者は『Digital Commerce360』に語っています。
これは、アマゾンが新型コロナウイルス危機の結果としてオンラインショッピングを利用する消費者が増えたことで、市場シェアをさらに拡大する機会を得たことを示唆しています。
6. 銀行にある現金と強力な与信枠の重要性
多くのエコノミストが今後の深刻な景気後退を予測する中、銀行は融資を縮小しています。そのため、小売事業者にとっては、販売不振を乗り切るために十分な現金や信用力を持つことが、これまで以上に重要になってきています。
「北米EC事業 トップ1000社データベース 2020年版」上位1000社の小売事業者の中には、手元の資金を維持するために、キャッシュポジション(※編注:投資資金の中で投資に回していない手元にある資金)の強化、場合によってはコスト削減に迅速に動いた企業もあります。
たとえばWayfairは2020年4月、上場している同社の株式に転換できる5年物の約束手形を5億3500万ドル売却。2019年4月に開いた毎年恒例の「Way Dayプロモーション」を2020年は延期しました。
アパレル小売業のLand's End(第63位)は、4月に社員の70%と店舗スタッフのほぼ全員を一時解雇。また、追加の運転資金として既存の与信枠で7500万ドルを銀行から借り入れたほか、与信枠を2500万ドル増額して総額2億ドルとしたことも発表しました。
一方、「北米EC事業 トップ1000社データベース 2020年版」の上位100社のうち13社は、3月1日から5月8日までの間に390億ドル近くの債券を発行しています。これにより、低金利で借り入れをしながら手元の資金を増強することができました。
小規模な企業には、現金のバッファーや銀行からの与信枠、社債の販売による資金調達能力があまりありません。現金がほとんどない場合、急激な不況を生き残ることができない可能性、もしくはビジネスの売却を余儀なくされる可能性もあります。
生き残る企業も、今後のショッピングシーズンに向けた在庫確保、および広告関連の支出を削減しなければならないかもしれません。このような状況で、勝者になりそうなのは、Amazon、Walmartなど、資金力があり強力なeコマース事業を展開している「北米EC事業 トップ1000社データベース 2020年版」上位1000社にランクインしている大企業です。