食料品のネット通販が加速した2020年。新型コロナウイルス終息後も消費者のEC利用は続く?
新型コロナウイルスの大流行で消費者の習慣が変わり、食品小売事業者は迅速な対応を余儀なくされました。何百万もの世帯がオンラインで食料品を購入し、店舗受け取りか自宅配送を利用しています。そして、ウイルスの危機が去った後も、引き続き多くの世帯がEコマースを利用するでしょう。
新型コロナウイルス感染拡大で食料品のEC利用が急増
オムニチャネル機能を持つ食品店の配達、店頭などでの受取サービス「カーブサイド・ピックアップ」が一時的にひっ迫しました。その理由の1つは、新型コロナウイルス感染の恐怖でした。ロックダウンの間も食料品店は営業を続けていましたが、多くの消費者は対面での買い物を警戒していました。
『Digital Commerce 360』とデータ分析サービスなどを提供する「Bizrate Insights」が、オンラインショッピング利用者952人を対象に行った調査(2020年5月に実施)によると、回答者の84.5%が店舗で食料品を購入する際、新型コロナウイルスに感染することを心配していると答えました。
「買いだめ」がオンラインシフトを加速
食料品を求める消費者をオンラインに向かわせたもう1つの要因は、買いだめです。多くの消費者が、クリーニング用品、消毒剤、トイレットペーパーのような生活用品を買い求め、地元の店舗から在庫がなくなりました。店頭での商品不足が消費者をオンラインに向かわせ、彼らは今までオンラインで購入したことがなかったような商品がどこで買えるのか、情報をインターネットで探しました。
オンラインで食品を購入した約65%が、体験を高評価
食料品コンサルティング会社の「Brick Meets Click」は、2019年8月の調査データを元に、アメリカの1,310万世帯が食料品を積極的にオンライン購入した、すなわち、過去30日間にオンラインで食料品を購入したと推定しています。
2020年3月に実施した同様の調査では、3,950万世帯がオンラインで積極的に食料品を購入すると推定していましたが、2020年5月にその数は4,300万世帯に増加しました。
小売事業者にとっての朗報は、「一般的に消費者はオンラインで食料品を買うのが好き」ということでしょう。2020年5月の調査では、オンラインで食料品を購入する約65.0%が買い物体験を8点以上(10段階評価)と評価しました。6点以下の評価を与えたのはわずか16%でした。
EC利用者は「素早い検索」「待ち時間不要」「節約・効率性」などを評価
新型コロナウイルス拡大中、消費者が食料品をオンラインで購入した理由は、店舗に行くことに興味がない(54%)、店舗に行くことができない(15%)、在庫切れの商品がある(31%)などがあげられています。新型コロナウイルスを抜きにしても、「素早い検索」「待ち時間ゼロ」「駐車場不要」など、オンライン購入に伴う時間の節約と効率性を消費者は支持しているようです。
米国消費者の31%が新型コロナ終息後も食料品購入にECを利用する
リテール分析などを行う「Acosta Insights」のデータによると、アメリカの消費者の31%(ミレニアル世代の50%を含む)が、新型コロナウイルスが終息した後もオンラインでの食料品注文、店頭受け取り、配送を利用し続ける可能性が高い、または非常に高いと回答しています。これらの数字は、3月6日~12日(対象者549人)、3月20日~29日(対象者602人)、4月4日~7日(対象者609人)に実施したAcosta社のオンライン調査から得たものです。
Walmartは食料品のオンライン注文が「過去最高を記録し続けている」
食料品市場の進化は続いています。オンラインでの食料品注文の急増にけん引され、Walmart(北米EC事業 トップ1000社データベース 2020年版 第3位)の2020年5-7月期(第2四半期)におけるEC売上は前年同期比97.0%増となりました。
Walmartは世界最大の小売事業者であり、アメリカ最大の食料品店です。第2四半期中、宅配や店舗での受け取りを目的とした食料品のオンライン注文が、過去最高を記録し続けていると発表しましたが、正確な数字は公表していません。
Walmartは、食料品を求める消費者のためのオムニチャネル機能の構築に数年を費やしてきました。2020年2月以降、店舗での受け取り・配達枠を30%近く拡大し、店舗からの出荷機能を永続的に増やしたと言います。Walmartは現在、オンライン注文の受け取り場所として約3,450か所を提供すると同時に、約2,730店舗から当日配達を行っています。
Walmartの競合他社も、オンライン需要の急増に対応しています。新型コロナウイルス危機の際には、Amazon(北米EC事業 トップ1000社データベース 2020年版 第1位)やスーパーマーケットチェーン「Kroger」(北米EC事業 トップ1000社データベース 2020年版 第17位)も、EC向け集配サービスの時間帯を拡大しました。また、Krogerは2020年3-5月期(第1四半期)に、食料品の受け取りを行う場所のテストをシンシナティで開始しました。
アメリカの2019年のオンライン食料品売上高は前年比30.7%増
アメリカの消費者は、新型コロナウイルスに見舞われる前から、食品のオンライン購入の利便性に気づいていました。2020年のコロナウイルス危機の以前でも、成長が鈍化していた米国の食料品市場の中で、eコマースは明るい希望でした。
アメリカの食料品市場は巨大です。『Digital Commerce 360』は、すべてのチャネルを通じた食料品の2019年合計売上高が1兆2500億ドルに達したと試算していますが、2018年の1兆2100億ドルからわずか3.3%の増加にとどまっています。一方、アメリカのオンライン食料品売上高は2019年に540.7億ドルへ達し、2018年の413.7億ドルから30.7%も増加しています。2019年にeコマースが食料品市場全体の4.3%を占め、その数字は2018年の3.4%から0.9ポイント増加したと試算しています。
アメリカのオンライン食料品市場では、31.0%のシェアを占めるWalmartが最大のプレーヤーであり、次いでアマゾンが29.6%のシェアを持っています。単独で5.9%以上のシェアを占める企業は他にありませんでした。
WalmartとAmazonの食品関連の注目点
2019年における、WalmartとAmazonの食品関連の注目点をいくつかご紹介します。
- 2019年10月、Walmartは、年間98ドルまたは月額12.95ドルの料金を支払うことで、食料品の配達を無制限に利用できる「デリバリー・アンリミテッド」というサービスを開始しました。Walmartはその後、同プログラムを1,600店舗に拡大。
- Walmartは、ロボット工学企業のNuro社との契約を結び、自動運転車両を使用した食品配達のテストを始めました。2019年後半には、、Nuro社独自の自動運転ソフトウェアとハードウェアを装備した自動運転のトヨタ・プリウスを使用して、Walmart Neighborhood Marketの1店舗からのテスト配達を実施。
- 2019年4月と5月に、AmazonとWhole Foods Marketは、「プライムナウ」の当日配達サービスを通じてWhole Foodsの商品配達を22の都市部で提供開始。
- 2019年10月、Amazonは2時間配送サービス「アマゾンフレッシュ」を通じた食料品の配送を、プライム会員が無料で利用できる特典にしました。以前は、同サービスには月額14.99ドルの追加料金がかかりました。Amazonによると、同サービスは2020年1月時点でアメリカ国内の2,000以上の都市や町で利用できるそうです。
新型コロナウイルス終息後、食料品のオンライン販売どうなる?
オンライン食料品市場の見通しは、これまでになく有望なものとなっています。新型コロナウイルスは、食料品のオンライン注文に対する消費者の認知向上と利用促進を、他の何よりも加速させました。しかし大きな問題は、事態が収束したらどうなるのかということです。
多くの人は、利便性が明らかになった今、食料品購入において、消費者はオムニチャネルのオプションをより頻繁に利用するようになると考えています。
しかし、店頭での食料品購入がすぐに消えてなくなることはないでしょう。同時に、食料品チェーンによるオムニチャネルの急速な拡大と、(明らかな)Amazonの影響力の高まりにより、広大なアメリカの食料品市場におけるeコマースの普及も、決して衰退することはありません。