Digital Commerce 360 2020/8/27 8:00

実店舗を持つ企業は、店舗でのカスタマーエクスペリエンス(CX)とデジタル上のカスタマーエクスペリエンスの統合を加速させています。そのカギを握るのがモバイルです。

アメリカでは消費者のeコマースシフトが4~6年早まった

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で消費者の購買パターンが劇的に変わる中、実店舗を持つ多くの企業は、収益向上のためにモバイルへの切り替えを検討しています。

アメリカの消費トレンドを調査したAdobe社のレポートによると、新型コロナウイルスの大流行によって、消費のeコマースシフトが4~6年早まったと推定されています。5月のオンライン購入の総額は、前年比77.0%増の825億ドルという驚異的な数字を記録しました。

モバイルの成長は、EC全体を上回る

eMarketer社の調査(2019年)を見ると、世の中の動向を追っている企業は、モバイルショッピングへ対応への移行を始めていたのがわかります。回答した消費者の50.0%以上が過去1か月以内にモバイルアプリを使って商品やサービスを購入したことがあることが判明。モバイルのコンバージョンがオンラインショッピング全体のコンバージョンよりも成長していることを示しています。

1か月以内に米国のスマホ/タブレットユーザーが起こした行動について eMarketer社の調査
1か月以内に米国のスマホ/タブレットユーザーが起こした行動について(eMarketerの「Smartphones Will Account for More than One-Third of Ecommerce Sales in 2019」より編集部が作成)

最近までオンラインよりも実店舗に重点を置いてきた小売事業者にとって、モバイルへのシフトは難題となることも。ただ、多くの事業者にとって、実店舗はブランドのDNAと魅力を表現する大事な存在です。一般的に、オンラインが消費者が店舗や商品に接触する最初の場所がモバイルになっているため、モバイルが実店舗とデジタルの強力な架け橋になり得る可能性があるからです。

物理的な体験とオンラインでの存在感を組み合わせることができる小売事業者は、Withコロナ時代を生き抜くための最高の武器を備えていると言えるでしょう。

アプリ、オムニチャネル、再エンゲージメントでコロナ危機を乗り越える

アプリEC市場は新型コロナウイルスに直面しても、概ね持ちこたえており、人々は自粛生活を送りながら、これまで以上にアプリを利用するようになりました。

しかし、eコマースアプリは新型コロナウイルス拡大初期の数週間、嵐をうまく乗り切ることができませんでした。アプリのマーケティングを行うAdjust社が発表したアプリのトレンドレポートによると、2020年3月までのeコマースアプリのインストール数は前週比12%減。企業が広告を控えたため、3月から4月にかけて有料インストール数は35%減少しました。

しかし、Adjust社の最新データによると、これらの数字が新型コロナウイルス以前の水準に近いところまで上昇しています。経済がより活発な活動に向けて準備を進める中、デジタル広告費が全体的に回復している証でしょう。また、新型コロナウイルス発生の初期段階に、業界に不安が蔓延する中でもマーケティング予算を安定的に確保していた企業の中には、インプレッションあたりのコスト減を成長の追い風にできた企業もありました。

特にアメリカでは、大規模小売事業者はオムニチャネルを活用することで、競合他社よりもうまく困難を乗り切ってきました。その回復力は、新しい環境への適応に苦労している中小企業とは対照的です。これらの大手小売企業は、モバイル技術を利用してコンバージョンを促進しながら、大規模な倉庫や店舗の利点を活用することで、今後の成功を確実なものにしています。

また、企業はユーザーの再エンゲージメントに焦点を当てることで、ビジネスを前進させています。Adjust社のデータでは、3月の最終週と7月の第1週を比較すると、お気に入りのECサイトに戻ってきた消費者は世界全体で27.5%の増加でした。広告が再開され、消費者の購買意欲も戻ってきた証拠でしょう。この数字は3月単体の再来訪率43%を下回っていますが、消費者が購買意欲を取り戻すために、リターゲティング広告が大きく寄与していると言えます

アナリティクスを使用して顧客との関わりを深める

データはデジタルが持つ最も大きなアドバンテージであり、データから得られるインサイトで、ビジネスの戦略全体を強化することができます。モバイルデータは今まで独立して取り扱われていましたが、現在ではモバイルが企業にとって消費者との最も近いタッチポイントであることが多くなってきています。アメリカの一般的な消費者は、毎日4時間モバイルデバイスを利用していますが、そのうち88%の時間がアプリに費やされています。この数字が、今後数年で急上昇することは間違いありません。

2018-2022年に米国人が1日にアプリとブラウザで費やした/費やすであろう平均時間の比較 eMarketer調査
2018-2022年に米国人が1日にアプリとブラウザで費やした/費やすであろう平均時間の比較(eMarketer「The Majority of Americans'Mobile Time Spent Takes Place in Apps」より編集部が作成)

パーソナライズされたコンテンツに対する消費者の需要は常に高まっており、消費者の関心を引くモバイル広告を作成するためにも、データは不可欠です。モバイル広告は、人口統計学的データや心理学的データ、以前の行動(閲覧したアイテムなど)に基づいて作成したり、消費者がマーケティングファネル内のどこにいるかに合わせてカスタマイズしたりすることができます。

また、ロックダウンと経済再開を経験し、消費者の行動は急速に進化しています。コンサルティング企業McKinsey社が行ったアメリカの消費者意識調査によると、新型コロナウイルス拡大期間中に61%のアメリカ人がオンラインで買い物をしたことがあり、その内の31%がオンラインショッピングを初めて利用しました。このような消費者は従来の買い物に慣れているため、継続的にエンゲージメントを促し、価値を示すことが非常に重要です。

産業別に見た、デジタルアクセス数に対するユーザーのデジタル活用度合いについて
産業別に見た、デジタルアクセス数に対するユーザーのデジタル活用度合いについて(McKinseyDigitalの「The COVID-19 recovery will be digital: A plan for the first 90 days」より編集部が作成)

どんなクリエイティブな商品やメッセージが消費者の心に最も響くかを分析することで、ブランドはキャンペーンをさらに改良していくことができます。

実店舗とデジタルの橋渡しに成功したブランドから学ぶ

モバイル施策を始めたばかりの小売事業者にとって、モバイルマーケティングは困難に見えるかもしれません。しかし、かつては実店舗中心だったブランドがデジタルへの移行を成功させ、今ではモバイルがこの2つの世界の架け橋となり、店舗での物理的なカスタマーエクスペリエンスとデジタル上のカスタマーエクスペリエンスの統合を加速させている例は数多くあります。

Starbucksは、新型コロナウイルス流行の中でも売り上げを急増させるため、「ピックアップのみ」の店舗開設を急ぐ一方で、ドライブスルー、道端でのピックアップ、デリバリーなどのサービスを提供するため、400店舗を再構築しています。

StarbucksのCEOケビン・ジョンソン氏と、ファイナンス担当のパトリック・グリスマー氏は次のように投資家たちに語りました。

この戦略は、新型コロナウイルスの結果として加速しました。モバイル注文の利便性の向上、非接触型のピックアップ、店内混雑の緩和など、急速に進化する消費者の嗜好と一致しており、これらすべてが自然とソーシャルディスタンスを可能にしています。(StarbucksのCEOケビン・ジョンソン氏と、ファイナンス担当のパトリック・グリスマー氏)

スペインのファッション大手ZARAも同様に、eコマース事業への投資を倍増させ、今後3年間でオンラインサービスに10億ドルを投入してデジタル販売を強化する予定です。1,200 店舗を閉鎖する計画と合わせて、ZARAは2022年までに全体の売り上げの25%をオンラインで生み出すことを目標としています。

ZARAの親会社であるInditexe社のCEOパブロ・イスラ氏は、声明の中で次のように述べています。

2022年までの最大の目標は、お客様がどこにいても、どんなデバイスを使っていても、どんな時間帯でも、スムーズなサービスが提供できる、完全に統合された店舗の実現を加速させることです。(Inditexe社のパブロ・イスラCEO)

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モバイルは消費者にリーチし理解するための方法を、従来の実店舗型の小売事業者に提供しています。また、最も個人的で普遍的なチャネルであるモバイルは、カスタマージャーニー、好み、閲覧に関する重要なデータを提供してくれます。モバイルの活用と、優れた店舗戦略と組み合わせることで、小売事業者は競争の激しい市場で成功し続けることができるのです。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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