Amazonと差別化するための優れたカスタマーエクスペリエンスは購入前から始まる
Amazon(アマゾン)全盛の今、小売事業者はカスタマージャーニーのすべてのポイントで、カスタマーエクスペリエンスの役割を考えています。そして自らこのように問うのです。「購入前、購入時、購入後、すべてのポイントで買い物をスムーズにするためには、最新技術をどうやって取り入れればいいのだろう?」
カスタマーエクスペリエンスという言葉は、eコマースにおいてバズワードになりましたが、eコマースのすべてを表しているようで、実は何も表していません。
「スムーズな」「シームレスな」「ジャーニー」という言葉を使えば、周りはみな頷くと同時に、目を白黒させるでしょう。どうして目を白黒させるのでしょうか? なぜなら、「カスタマーエクスペリエンス」は、マーケッターや経営陣が、具体的な話ができないときに持ち出す言葉だからです。
私は、「カスタマーエクスペリエンス」という言葉を葬り去ろうとしているわけではありません。むしろ、高く評価したいのです。
アマゾン以外のほとんどの小売事業者にとって、差別化の機会はカスタマーエクスペリエンスに集約されます。
小売業界のなかで、もっとも賢い事業者たちは、「カスタマーエクスペリエンス」の見方を変え、デジタルトランスフォーメーションの中心に新しい「カスタマーエクスペリエンス」の考え方を据えています。
データまみれのアマゾン全盛時代を生き抜くために戦っている小売事業者の間で、人工知能やマシーンラーニングがまるで神聖なもののように扱われるようになったのは、この新しい考え方が理由の1つです。
「すべては消費者のために」という言葉は、会議のスピーチやアナリストの話のなかでよく出てきます。しかし、どうやってそれを実現するのでしょう? 顧客を獲得して、顧客が買いたいと思っていない商品をメールでどんどんプロモーションすることでしょうか? もしくは、もっと他のことでしょうか?
そうです。もっと他のことなのです。
鍵になるeコマース8つのツール
新しいことが今まさに起ころうとしています。eコマースやデジタル経済を注視している人たちは、すでにそのことに気づいているのです。メアリー・ミーカー氏が毎年発行し、デジタルの未来がわかるとして信頼されているインターネットトレンドレポートで、今年はeコマースに関する内容がとても目立ちました。
294枚のスライドのうち、50枚がeコマースの内容に関するものでした。eコマースビジネス立ち上げのための戦略や、成功するためのカスタマーエクスペリエンスの詳細な情報を提供しています。
ミーカー氏はビジネスで必要な要素を8つのツールに分けました。
- 決済(店舗内)
- オンラインストア
- オンライン決済
- 不正防止
- 購入時の融資
- カスタマーサポート
- 顧客獲得
- 商品配送
ミーカー氏のレポートを見ると、顧客が商品を購入するときから、商品を届けるまで、そして商品が家に届いた後もずっと、淀みないカスタマーエクスペリエンスを提供することが重要だとわかります。
Shop.org(小売業界のカンファレンス)で昨年登壇した、ECプラットフォーム Skava社のデーブ・バローマン氏は、AIとマシーンラーニングは急速に進化しており、顧客の関心を惹き、買いそうな商品を見せる以上のことができるようになっていると話しました。
おすすめ商品の表示や検索の最適化以上の、より多くのことが可能になり、どのチャネルにおいても、マシーンラーニングが小売にインパクトを与えることでしょう(デーブ・バローマン氏)。
ミーカー氏がeコマースのカスタマーエクスペリエンスのなかに不正防止を入れたのは、興味深い点です。ミーカー氏は、カスタマーエクスペリエンスは、消費者が欲しい商品を見つけたり、購入したりするだけに留まらないと考えています。
業績の良い小売事業者は、消費者が欲しい商品をいつでも、どこからでも手に入れたいと考えていることを知っています。消費者はその時々で、便利で、早く、経済的な方を選んで、実店舗とオンラインの両方で買い物をしています。彼らにとって、オンラインで欲しい商品が簡単に見つかるのは当たり前のことなのです。
AIの役割
カスタマーエクスペリエンスには、さらなる役割があります。顧客を喜ばせると同時に、利益を生み出すための絶妙なバランスも必要です。
もちろん、小売事業者は不正取引から自らを守る必要がありますが、それは損失回避のためだけではありません。せっかく獲得した顧客を逃すことなく、すばらしいカスタマーエクスペリエンスを保つためにも、不正から身を守らなくてはいけないのです。翌日配送と競争できる小売事業者がどれくらいいるでしょう? 注文がすぐに反映されなかったり、不正の疑いがあったりしたために、問題のない注文が拒否されたら、顧客はアマゾンに移っていくことでしょう。
さらに、オンライン上のフォームで何ページも記入しなくても、顧客がすぐにローンを受けられるようにしなくてはいけません。そのために、リアルタイムで顧客の信用を査定するAIが検討されています。
もちろん、指定通りに商品を配送すると同時に、過剰な返品が起こらないように、簡単な返品プロセスを提供する必要があります。
これらをビジネスで実現するにはどうしたらいいのでしょう? スターバックスがモバイルアプリを使って、どのようにデジタル上で顧客と彼らのデータを獲得したかを考えてみてください。
eMarketer社のレポートによると、今年、2,340万人がAI搭載のスターバックスアプリ経由で商品を注文するそうです。2016年の時点でも、スターバックスの約4分の1のオーダーがアプリ経由でした。
アマゾンは、物流センターにAIを取り入れ、物流のリーダーになりました。シアトルの巨大企業アマゾンは今、商品の買い付けや価格交渉までAIに任せるようになっています。
購入後のサービス
高級スーツケースを販売するTumiは、拡売のためではなく、販売後により良いカスタマーエクスペリエンスを提供するために、AIによるパーソナライゼーションを始めました。たとえば、購入したものの、まだ受けとっていない商品に関して、どのように通知してほしいのか、顧客が選べる機能を追加しました。新機能のおかげで、カスタマーセンターへの電話が30%減少したそうです。
ウォルマートの子会社であるJet.comは、AIを利用して不正を管理し、注文チェックのスピードを劇的に早め、顧客の待ち時間を少なくすることに成功しました。
消費者の期待値が高くなっていること、競合からのプレッシャー、そして多くの場合アマゾンの脅威を理由に、小売事業者のデジタルトランスフォーメーションは始まっています。メアリー・ミーカー氏のレポートのなかで、アマゾンのeコマースのマーケットシェアは、2013年の20%から28%にまで拡大しています。
価格、品ぞろえ、物流でアマゾンと競争しようとしている小売事業者は、負け戦を戦っています。アマゾン以外のほとんどの小売事業者にとって、差別化の機会はカスタマーエクスペリエンスに集約されるのです。
実際、アマゾンやBtoCビジネスが全盛の今、小売事業者の存在意義はすばらしいカスタマーエクスペリエンスを提供すること以外ないのです。すばらしいカスタマーエクスペリエンスは、消費者があなたの商品を見つけた瞬間から始まります。
そして、それが一生続かないといけないのです。