小売事業者とEC企業の競争力を高める「デジタルトランスフォーメーション」とは?
米国のネット通販ビジネスでは、人工知能(AI)やAR(拡張現実)活用、オムニチャネル、音声ショッピングの台頭、ソーシャルコマースなどが日本よりも一歩も二歩も先行しています。日本の企業が最新技術を取り入れながら、ECのビジネスを最大化していくためにはどんなことが求められるのでしょうか。そのカギとなるキーワードが「デジタルトランスフォーメーション」です。
「デジタルトランスフォーメーション」とは?
近年、「デジタルトランスフォーメーション」というワードが頻繁に聞かれるようになりました。「デジタルトランスフォーメーション」(Digital Transformation)について、経済産業省がまとめた『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』では、次のように説明しています。
DXに関しては多くの論文や報告書等でも解説されているが、中でも、IT専門調査会社のIDC Japan株式会社は、DXを次のように定義している。
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること
そして、急速に進む昨今のデジタル化を踏まえ、こう提言しています。
あらゆる産業において、新たなデジタル技術を利用してこれまでにないビジネス・モデルを展開する新規参入者が登場し、ゲームチェンジが起きつつある。こうした中で、各企業は、競争力維持・強化のために、デジタルトランスフォーメーションをスピーディーに進めていくことが求められている。
端的にまとめると、「デジタルトランスフォーメーション」は「事業者が全社的にデジタル活用へさまざまなことをシフトすること」と言えるでしょう。
では、今後のネット通販ビジネスに「デジタルトランスフォーメーション」の考え方などをどう落とし込めばいいのでしょうか。その1つに、顧客が満足する買い物の“体験”創りがあげられます。
「スピーディーな配送」「買いやすいECサイト作り」「リアルもネットも変わらない買い物」――。顧客が満足するための買い物環境をネットとリアルで提供するために、全社的にデジタルを活用していくことが求められているのは、さまざまな著名人やメディアでも語られています。
その“体験”を創るために重要になるのが戦略固めと組織改革となります。「人、モノ、金」を事業部単位で動かしていくのではなく、全社的に考えることが重要になるのです。
米国のデジタル施策から学ぶこと
この連載では、米国の小売業向け大規模カンファレンス「Shoptalk」に参加して感じた“米国のデジタル施策の今”を、音声ショッピング、人工知能(AI)、AR(拡張現実)といった先進的なECの取り組みを取り上げました。
VR(仮想現実)、IoTなどECに活用されていく新しいテクノロジーの利活用の難易度はさらにあがり、導入・運用などにも専門性が求められていきます。そして、その活用は1部門にとどまることなく、全社的に広がっていきます。
信頼できるパートナーの発掘も新たな課題になっていくでしょう。人、お金、モノが全社的に関わってくるデジタル化の波に、「デジタルトランスフォーメーション」は避けては通れないキーワードとなってくるはずです。
ecbeingが参加したこの「Shoptalk」でもっとも印象的だったのでは、「デジタルトランスフォーメーション」への関与について、米国の百貨店メイシーズ(Macy's)、化粧品などの大手小売店Ulta Beauty Incの経営トップ(CEO)自らが、「デジタル戦略による顧客体験の向上」を強調していたことです。
あるトークセッションではこんなことも指摘されていました。
小売企業でECと実店舗の組織などが切り離されているのは“RED FLAG”(赤旗)である。
つまり、顧客を中心に物事を捉え、オンラインとオフラインを融合し、顧客の体験価値の創造と向上は企業がやるべき最低限のことであると説いていると言えます。
日本では昨今、OMO(Online Merger Offline)とも言われる、「オンラインとオフラインの融合」を表す概念が提唱され始めています。中国では「ニューリテール」「ボーダレスリテール」といった言葉がそれにあたります。
グローバルの流れでは、オンラインとオフライン関係なく、顧客体験を想像・向上するためにはどんなことが必要なのか、という観点が重要視されています。そのために「デジタルトランスフォーメーション」の視点が重要になるのです。
“RED FLAG”(赤旗)に陥らないためにも、「デジタルトランスフォーメーション」にまずは目を向けていきたいものです。