スターバックスが自社ECサイトを閉鎖する理由
コーヒー業界最大手のスターバックスは10月1日に自社ECサイトを閉鎖する予定です。今後、自社のWebサイト「Starbucks.com」内のECサイトではなく、第三者のプラットフォームを通じて製品を販売していきます。
デジタルと結びつけた「店舗での顧客体験」が成長のカギ
インターネットリテイラー社発行「全米EC事業 トップ500社 2017年版」で462位にランクインしているスターバックスは、自社で運営していた消費者向けネット通販を終了し、今後は店舗やモバイルアプリにより注力していく方針です。この戦略転換に、社員の解雇を実施するかどうかは公表していません。
インターネットリテイラー社の試算では、スターバックスの2016年におけるネット通販売上高は約4億2000万ドル。2016年度の総売上高がは213億1600万ドルのスターバックスにとって、オンライン販売は微々たる規模です。
スターバックスの広報担当者は、自社ECサイトの閉鎖について次のように述べています。
デジタルとモバイルを利用する消費者を、店舗に結びつけていくことが私たちの最優先事項の1つです。
消費者は今後も、オンラインマーケットプレイスや他の小売事業者のサイトを通じて、スターバックスのコーヒーやマグカップなどを購入することができます。
スターバックスが運営するWebサイトのサブドメインで展開するECサイト(Store.Starbucks.com )のヘッダーには、「STORE.STARBUCKS.COMは10月1日になくなります」と記載されています。
現在、「STORE.STARBUCKS.COMは10月1日になくなります」に貼られたリンクをクリックすると商品購入ページに移動し、ページ内のフッター部分には太平洋標準時刻10月1日11時59分をもって注文受付を中止する旨が記載されています。
スターバックスは、モバイルとデジタル技術を店舗に統合しようと試みています。広報担当者によると、スターバックスの将来の鍵を握るのは、推進しているデジタル戦略「Digital Flywheel(デジタルフライホイール)」です。
「デジタルフライホイール」は、モバイルアプリと「Starbucks Rewards(スターバックスリワード)」(編注:モバイルアプリで商品の支払いをするたびに「1Star」のポイントを貯めることができるプログラム)と呼ばれるロイヤルティプログラムなどを融合したデジタル戦略です。
金融・投資関連の専門媒体Seeking Alphaによると、2017年7月の第3四半期(4~6月期)決算報告会でスターバックスCEOのケビン・ジョンソン氏は、アナリスト達に次のように語りました。
デジタルフライホイールは、世界中の消費者とのエンゲージメントを深め、収益と利益向上を推進する強力な資産です。デジタルフライホイールは第3四半期のビジネスに大きく貢献しました。
この戦略の最も重要なポイントの1つは、無料で提供している「スターバックスリワード」プログラムユーザーとの関係性向上です。第3四半期終了の7月2日時点で、スターバックスの売上高の36%を、「スターバックスリワード」メンバー1330万人による商品購入が占めていると発表されました。
店舗でのモバイルによる支払いも増加しています。商品を購入するユーザーは、スマートフォン上のスターバックスのモバイルアプリで料金を支払うことができます。モバイルデバイスを使って料金を支払う消費者は、米国内店舗での取引の30%を占めているそうです。
一方、スターバックスの「Mobile Order & Pay(モバイル・オーダー&ペイ)」(アプリ経由で注文と決済を事前に済ませておくことでレジ行列に並ぶことなく店頭で商品を受け取れるサービス)を通じて注文し、料金を支払う消費者は、米国内店舗すべての取引の9%にとどまっています。
スターバックスのグローバル戦略担当であるマシュー・ライアン氏は次のように言います。
モバイル注文は大きく増加しており、消費者のリピート利用回数も増えています。利便性が高いため、急いでいる人たちにぴったりなのです。
スターバックスのデジタルとモバイルの強化、店舗の融合戦略は、他のコーヒー店舗やレストランに触発されたのではなく、アマゾン(「全米EC事業 トップ500社 2017年版」第1位)やウォルマート(第3位)の影響です。
ジョンソンCEOは2017年7月、次のように語っています。
1つのテーマについて、小売業界の変革スピードが加速しています。それは、ストア内の体験をデジタルに結びつけるというテーマです。ウォルマートによるJet.comの買収、Pet.comとChewy.comの合併、7月に発表されたアマゾンによるホールフーズの買収。これらすべてが、店舗内での実体験、それを補完するデジタル体験の向上を追求していくという姿勢の表れです。
また、スターバックスのハワード・シュルツ会長は次のように話しています。
小売事業者が展開する実店舗はいま、店舗での経験を高めるための新しい試みを始める初期段階にいます。米国内での私たちの実績、利用客数、店舗の場所を考慮すると、スターバックスはおそらく最も良い立ち位置を押さえているのではないでしょうか。